「仕事で成果を出したいなら、休む勇気を持ちなさい」NY在住の僧侶が日本の20代に送る助言
深夜まで働き、寝るのは会社。土日もとことん仕事をして……。そんな武勇伝を、ビジネス界隈の“スゴイ人”ほど持っているもの。ここまで仕事漬けではないにしても、寝る間も惜しんでエネルギッシュに動き続けていることを良しとする人は少なくない。そんな中で、もはや休むことに罪悪感を持ってしまっている人もいるのではないだろうか。
そんな20’sへ、禅僧の松原正樹さんは「休む勇気を持って」とメッセージを送る。グーグル本社で禅や茶道の講義をするなど、マインドフルネス界から注目を集める松原さんに、「上手な心の休め方」を聞いた。
今の20代は“頑張り方が下手”な人が多い。休息は生産性を高めるためにある
大前提として、「仕事を頑張ることは素晴らしいこと」と松原さん。ただ、問題はそのやり方にあると指摘する。
「今の20代の人の中には、頑張り方が下手な人が多いように見えます。人間の感情はどんどん湧き出て、私たちはそれに惑わされてしまう。『本当は何を感じているのか』を落ち着いて感じ取る機会をつくることが大切です」
立ち止まって考える暇もなく動き続けていては、いずれオーバーヒートしてしまう。車を動かし続けていてはいずれオーバーヒートを起こしてしまうのと原理は同じだ。頑張っている人ほど立ち止まる時間を取ることが苦手なものだが、「休息は生産性を高めるためにある」と松原さんは自身の体験を振り返る。
「僕自身、博士論文を書いている時に8時間机に向かった結果、“In this chapter, I will explore….”の6文字しか書けなかったことがありました。8時間で6文字ですよ(笑)? それで思い切って、朝6時から10時まで、スマホを切って書くことだけに集中し、それ以降はどんなに書きたいと思っても書かないというやり方に変えたんです。そうしたら、書けるんですよ。仕事から離れる時間は一見ムダに思えるかもしれないけれど、それは必ず生産性とクリエイティビティ(創造性)を高めることにつながります」
休息といっても、なにも数時間の休みを取ろうという話ではない。松原さんが推奨するのは、1日数分、頭の中を整理する時間を取ること。そのために有効なのがマインドフルネスだ。
「ただボーッとすることとマインドフルネスは、リラックスするという点では同じです。大きな違いは、マインドフルネスは自分との会話を楽しみ、自分を知る時間であるということ。『自分は何がしたいんだろう』『何を感じているんだろう』と、心を鎮めて、自分を見つめ直す。そうしているうちに、今まで気づかなかったことに、フッと気付いたり、新たな気づきが出てくるものです」
マインドフルネスというと特別なもののように感じてしまうが、「自分の声が聴こえることがマインドフルネス」と考えれば敷居はグッとさがる。
「帰りの電車で心を鎮めて呼吸を整え、周りの音に耳を傾けてみたり、1日を振り返ったりしながら、新たな気づきを得ることもマインドフルネスです。大切なのは継続ですから、むしろ日常生活の中でできなければいけないと思います。住職である私が言うことではないですが、『心を落ち着けるためにお寺に行って座禅を組まなければ』みたいな考え方はやめた方がいいです(笑)」
忙しい日々の合間に、どのようにマインドフルネスを行えばいいのか。実際に行う際のポイントを紹介しよう。
●呼吸を整えて感情をコントロールするイメージを
「マインドフルネスで最も大切なのは、呼吸です。鼻から息を吸い、ゆっくりと時間をかけて鼻から吐く。呼吸を整えて感情をコントロールするイメージを持ってください。人と話す前に10秒間だけ深呼吸をしてみるだけでも、随分心が落ちつくと思いますよ」
●継続的に行うことで“心の筋トレ”ができる
「継続的にできるのが理想的です。定期的に筋トレをするから筋肉が鍛えられるのと同じで、継続的な“心の筋トレ”で心が鍛えられ、感情のコントロールができるようになります。なんだかモヤモヤしてしまったり、イライラしたり、あまり仕事に集中できなかったりと、自分の調子が悪いときは最低限、心を落ち着ける時間を持っていただきたいですね。大切なのは感情のコントロールは可能であるということ」
●時間帯よりも「継続」に目を向ける
「一番いいのは、朝と夜。禅宗の修行道場では朝日が出る時と日が沈む時に心を静かにすると、体の気がうまく流れると教わります。1日の予定を立てたり、振り返ったり、心が落ち着くタイミングでもあります。ただ正直、働いている方々にとっては、一番忙しい時間帯ですよね。何より大切なのは継続なので、忙しくてできないくらいだったら、時間は気にせず、できる時にやる方が効果的です」
●ランチ後に遠回りしながらでもOK
「ランチを食べた後に遠回りをして帰るのもいいと思います。呼吸を整えながら寄り道をして、自分が何を発見できるのか、視野を広げるイメージを持つといいですね。体を動かすといろいろな発想が出てくるものです。スティーブ・ジョブズもミーティングはいつも散歩をしながらやっていたそうですよ」
メンテナンスの意味は「維持」。心は変わるから、整える時間がいる
こうした自分の心と向き合う時間を持つことは、自分の将来やキャリアの悩みを解消することにも通じる。「なんてことのない景色を眺めていて、ふと答えが見つかることもある」と松原さん。
「以前、自分の今後について悩んでいた時、イラン人の友達に『雨が少ないカリフォルニアに緑が多いのは、朝に気温が下がって露ができるからだ』って言われたことがあって。目の前の松の木を見ていたら、風が吹いて露が落ちたんです。その時に、私の人生も一緒かもしれないなぁと思ったんですよ。なるようにしかならないから、方向性だけを決めて力を注いで行けば自然と良い方向に進めるんじゃないかって思えたんです」
出来事だけを見れば、ただ松の木から露が落ちたというだけのこと。「なるようにしかならない」というのも、よく聞くフレーズだ。でも、その時の悩みと目の前の出来事がうまく結びついたからこそ、ただの風景を自分なりに消化し、自分自身で答えを見つけることができる。自分の感情も状況もその時々で変わるからこそ、自分と向き合うことが必要なのだ。
「メンテナンス(maintenance)は点検という意味だと思っている人が多いですが、本当の意味は“維持”です。心も考え方も変わりますから、立ち止まって確認しなければ維持できません。そのために心を整えなければいけないし、その時間を取らずにずっと動き続けていたら駄目になってしまいます。維持するために休みを取るのです。タイムイズマネーの時代に休んでいられないと思ってしまいがちですが、若手の皆さんには、ぜひ“休む勇気”を持っていただきたいですね。休みのない成長はあり得ませんから」
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取材・文・構成/天野夏海
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