「メールは一言」「会議は5分」バイドゥが明かす中国人の“超合理的”な働き方
今や世界を牽引する経済大国になった中国。昨今は「バイドゥ」「アリババ」「レノボ」など、中国系企業の台頭が目覚しい。今後ますます日本進出を果たす企業が増えていけば、“中国人と働く”機会も同じく増加していくだろう。
しかし、中国人と日本人とでは、仕事の進め方においてさまざまな差がありそうだ。中国の最大手検索サービスを提供する百度(Baidu)の日本法人バイドゥ株式会社の髙橋大介さんは、同社入社時である10年前にさまざまなカルチャーショックを受けたという。それは一体どんなものだったのだろうか。
どの国に行っても「仕事でやることは同じ」
そんな考えは甘かった
大手広告代理店のメディアプランナーとして活躍した後、2008年に“中国版Google”とも呼ばれるバイドゥに入社した髙橋さん。入社当時のことを、次のように振り返る。
「当時のバイドゥへの入社は、今で言うといきなりアフリカのWeb系企業に入るようなイメージに近いです。わずか10年前の話ですが、それくらい当時の中国系企業は未知な部分が多かった」
親や同僚にも、「なぜ今、中国の会社に行くのか」と理解してもらえなかったという。しかし、世界的規模のネット広告に大きな可能性を感じていた髙橋さんは、思い切って未知の世界へと飛び込んだ。
しかし、中国語も話せない、中国のビジネスカルチャーも全く知らない。入社直後はさまざまな壁にぶつかった。
「『コミット』や『アライアンス』など、日本的なビジネス英語は全く通じませんでした。中国系企業だろうと『仕事でやることは同じ』『どうにかなる』と考えていた自分は甘かったですね」
バイドゥで10年働いて分かった「中国人の働き方」
バイドゥに来てから10年が経った今、髙橋さんは数々の中国人と仕事を共にしてきている。
特に日本人の働き方との違いを感じたのはどんなポイントだったのだろうか。
1.大規模な仕事が1週間前に終わってなくても問題なし!?
日本ではスケジュール管理や段取りを重んじ、きっちりと着実に仕事を進めることが良しとされる。しかし、髙橋さんが感じたその時の中国人スタッフの印象は、「楽観的なスロースターター」が多いということ。
「あくまでも私の主観ですが、何かプロジェクトをスタートさせるとき、彼らはあまり綿密に計画を立てない傾向があります。プロジェクト進行中には適当なことも多い(笑)。ただ、それなのに後半から一気にペースを上げて序盤の遅れを取り戻すんです。帳尻を合わせる力、ラストの追い上げがとにかくすごい」
最近特に驚いた、「スロースターター」の象徴的なエピソードがあると続ける。
「先日、中国にて百度主催で1000人規模のカンファレンスが開催されたんです。このぐらいの規模のカンファレンスだと、日本なら半年くらい前から準備してるじゃないですか。なのに百度では、カンファレンス一週間前なのにアジェンダが決まってなかったり、告知も全然していなかったり(笑)。それでも当日はほぼ満員になって、カンファレンスは大成功! ハラハラさせられましたが、この追い上げ力・集中力にはいつも驚かされています。結果が大事なんですよ」
2.会議は5分で終了! 余計な話はしない
「雑談をして場をほぐす」「意見を出し合う」「予定していた時間は目一杯使う」。日本企業で行われるミーティングでは、こういった暗黙の了解がある。しかし、中国人はいたって合理的。会議を、あくまで「意思決定」の場と捉えているため余計な話はしない。
「会議の目的さえ果たしてしまえば、5分で場を切り上げることも多いですよ。日本だと、5分で会議が終わったりすると、何となく申し訳なくて、たわいもない話をしたりしてだらだら残ったりしますよね。それも日本らしいし良い面もあるんですけど、中国人は超合理的に仕事を進めたがるので、差を感じるところだと思います」
3.メールは「好(OK)」の一言だけ
合理的な中国式スタイルは、ビジネスマナーにも表れている。日本では一見「失礼」とみなされることでも、スピードや効率を重視する中国では必要ない。
「中国人とのメールのやり取りはいたって簡潔です。上司やお客さま宛てでも、『OK』の一言で返信するとか。日本だと、メールの冒頭に『お世話になっております』と書くのは、ビジネスマナーとして当たり前ですよね。でも、そういうのはいらなくて、本当に用件だけ伝わればいいという感じ。それは社内外問わずです。ちなみに中国語で、『OK』は、『好(ハオ)』という字を書くんですが、最初の頃は『好』だけくるメールにちょっとドキドキしていました、余談ですけどね(笑)」
最初は、一行だけで返信することに「味気ないな」と感じ、長いメールを書いていたという髙橋さん。今では「一言での返信にも慣れた」と言う。
さらに、中国系企業では、上司がボイスメッセージで仕事の指示出しをしたり、e-mailではなくメッセンジャーアプリでのやり取りをしたりするのもよくあることだと教えてくれた。ここにも効率重視の姿勢が表れている。
4.“気の利いた乾杯”が言えないと、“寂しいヤツ”の烙印をおされる
「中国では酒の席にこそ、ビジネスチャンスが広がっている」と髙橋さん。彼らの酒席マナーの厳しさには驚かされたという。中国のお酒の席で特に重要なのが、乾杯の時に「気の利いた挨拶」を言うこと。この一言次第で、「その場、ひいてはビジネスにおいての自身の評価まで決まってくると言っても過言ではない」というのだ。
「日本では『乾杯の挨拶はさておき、早く飲もうよ』という雰囲気がありますよね。でも中国では『あなたたちの企業と今回、パートナーシップを結べて、すごく嬉しく思います。あなたに乾杯しましょう』みたいなことを、必ず言わなきゃいけない。しかもその『乾杯』は最初の1回だけではなく、短いときは5分に1度くらいのスパンで要求されるんです。照れくさいくらい“クサい言葉”を何度も言うのは、日本ではまずないことなので、最初はすごく戸惑いました。さらに『乾杯!』だけ、『今日はありがとう!』だけで終わらせると、寂しい人、つまらない人、という評価に繋がってしまいます。飲み会は今後のコミュニケーションを決める勝負の場でもあるんです」
「乾杯が終わって一安心」かと思いきや、それだけでは終わらない。あくまで「フォーマル」なのが中国流の飲み会だと髙橋さんは笑う。
「中国人が集まる飲み会では、酔い潰れることはありません。というのも中国の飲み会では“最後まで楽しむ”ことが大事にされるんです。だから騒いだり、だらだらしたり、途中で帰る人も少ない。しかも向こうのお酒はアルコール度数が高く、40~50度はあるものばかりです。それでも中国では基本的に『つぶれたらNG』。飲むペースを自分でうまく調整しながら、何度も乾杯を言い合う。それが中国ビジネスマンに求められるスキルです」
「仮装するように働こう」中国系企業で仕事をする面白さ
中国語は話せない。中国のカルチャーもよく知らない。そんな中で中国系企業でのキャリアをスタートさせた髙橋さんは「苦労も多かった」と過去を振り返るが、今では「楽しさ」の方が多いと話す。
「この10年で大変なこともたくさんありましたけど、それを乗り越えると苦しさよりも楽しさの方が上回っているんですよ。慣れてくると、『違う人格に仮装できる』みたいな面白さが出てきます。日本の仲間といる僕と、中国人と働く僕って、やっぱり違いますし。そんな違いを楽しむことで、知らなかった自分に出会えるし、人生を2倍楽しめるのではないでしょうか」
今後、日本の職場に中国人が増えていくことを、不安視する人もいるかもしれない。環境の変化を恐れる人に、髙橋さんは次のような助言をくれた。
「新しい環境に身を置くのがこわいと感じる人に僕が言いたいのは、『バスに乗れ』ということ。百度会長のロビン・リーが『人生とは混み合ったバス』という例えをよく使うんです。満員のバスは最初、すごく混雑して苦しいかもしれないけど、揺られて、身を任せているとそのうち席が空いて座れるかもしれない。隣の人と気が合って楽しく話せるかもしれない。そのために、まずはバスに飛び込んでみることが大事だということです」
取材・文/青野祐治 撮影/大室倫子(編集部)
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