「e-Sportsはスポーツ?」そんな疑問をひっくり返したい。野良連合・プロゲーマーの野望
近年話題のe-Sports。世界の競技人口は1億人以上といわれ、海外の大会では賞金総額10億円を超える大会もある。日本ではそれほどメジャーな印象はないが、アメリカや韓国などのe-Sports先進国ではゲームはスポーツとして認められていて、アジア版オリンピックとも言われるアジア競技大会では、2022年からe-Sportsが正式種目に認定された。
今後日本でも注目されていくであろうe-Sports。2016年に発足したプロゲームチーム「野良連合」に所属する2人のプロゲーマー、PAPILIAさんとReyCyilさんに仕事の実態を聞いた。
e-Sports プロゲーマーの仕事内容
e-Sportsの大会に出場して賞金や報酬を得る、職業としてのゲーマー。e-Sportsとは、電子機器を用いて行う娯楽、競技、スポーツ全般を指し、コンピューターゲーム、ビデオゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉える際の名称。
e-Sports プロゲーマーの収入
年収:1000万円以上(大会の戦績によって大きく変動)
所属チームによりさまざまだが、野良連合では一般的な新卒初任給程度の月給+大会出場時の賞金が主な収入。毎月の給与はスポンサーフィーから支払われる。賞金は基本的に2割を野良連合の運営費に回し、残りの8割をチームメンバーで分配。その他ゲーム実況のギャラやイベントの登壇費も収入源となる。
レーダーの照準を合わせる基礎練習は、毎日何時間も行う
2人がプロゲーマーとしてのキャリアを歩み始めたのは、2017年のこと。当時は野良連合ではなく、一足先にプロゲーマーとしてのキャリアをスタートしていたReyCyilさんが率いるチームの一員として、PAPILIAさんも世界大会に出場した。
僕は当時大学4年生で、IT企業に内定も決まっていました。でも大会に出てみたら、プロとして活動しているチームに勝てたんですよ。『これなら世界一になれるな』って思ったし、自分が活躍できる場所はやっぱりゲーム。それでプロとして活動することを決めて、野良連合に加入しました。
俺も同時期に野良連合に移籍しました。それ以前は別のチームにいて、まともに生活できなかったんですよ。でも野良連合は月給制で、ゲーミングハウス(プロゲーマーのためのシェアハウス)もあって、環境的にも恵まれている。
やっぱり選手としては金銭面がちゃんと整ってるチームに行きたいじゃないですか。そうやって強い選手が集まっているからこそ、世界大会にコンスタントに出場できていることも魅力的でした。
2人はテロリストへの突入作戦を題材にした『Rainbow Six Siege(通称R6S)』というタイトルの選手。自分視点のシューティングゲームを指す「FPS(ファーストパーソン・シューティング)」というジャンルで、e-Sportsの中で最も人気がある花形競技だ。
大会は5人1組の団体戦。オンライン上でリーグ戦を行い、その後リアルな会場で行われるアジア大会、世界大会と進んでいく。約3カ月に渡るリーグ戦が年間2回あり、オフラインの大会への出場は年間8回前後。オフシーズンは1カ月弱と短いため、ほぼ毎週リーグ戦の試合がある。
リーグ戦がある日以外のスケジュールは、21時から深夜1時までチーム練習を行い、その他の時間は個人練習です。
シューティングゲームでは、狙ったところに的確にレーダーの照準を合わせることが重要。その精度を高めるための『エイム練習』と言われる基礎練習は、それぞれが日常的に何時間も行っています。チームプレイではあるものの、個人技の差も試合には大きく影響するんです。
21時からのチーム練習では、戦術や布陣を確認したり新しく作ったりするために練習試合をやります。野球でいうところのオープン戦のようなイメージですね。
また、選手の他にコーチ1名、対戦相手のデータを収集するアナリストが6名いて、大会前には選手たちとコーチでデータをもとに戦術を立てます。
e-Sportsが最も普及しているアメリカでは、コーチやアナリスト以外に調理スタッフや栄養管理士、メンタリスト、スポーツトレーナーが加わり、試合に向けてコンディションを整えるためのケアまで行われているという。
大会出場前の不測の事態として一番多いのは、体調不良です。反射神経でゲームをやっていると思われることも多いんですけど、実は将棋やチェスに近くて、めちゃくちゃ頭を使うんですよ。だから体調が悪いと頭が回らなくなってしまう。
また、マウスとキーボードを操作するので、突き指や骨折などで手が動かせなくなるような怪我は致命傷です。
e-Sports後進国の日本。課題は「収入」と「セカンドキャリア」
2人が特に印象に残っているのは、今年の2月にカナダのモントリオールで行われた『R6S』のプロリーグ大会「Six Invitational 2019」。サッカーワールドカップのように、16チームが4つに分かれてグループリーグを戦い、勝ち上がった8チームがファイナルステージに出場できる。
俺たちは今回、日本チーム初のファイナルステージ出場を果たしました。ファイナルステージが決まった時は最高の気分で。圧倒的なやりがいや喜びがありました。
約6000人の観客を動員した同大会で、野良連合は3位入賞。賞金額は約2000万円にものぼる。だが、2人にとってお金はあくまでもおまけに過ぎない。モチベーションは「勝つこと」と、実にシンプルだ。
ゲーマーは負けず嫌いなんですよ。何のゲームであっても負けるのが嫌いだし、その分勝った時はめちゃくちゃうれしい。そうやって好きなことをしていて、結果的にお金がついてきているっていう感じですね。
Eスポーツが最も普及しているアメリカでは、プロゲーマーの平均年収は1億5000万円とプロサッカー選手よりも高い。アジアを見渡しても、韓国・中国・タイ・シンガポールでe-Sportsは盛り上がりを見せている。片や日本はゲーム大国ではあるものの、e-Sportsはまだまだ後進国だ。
現状、日本のプロチームの中で、ゲームだけで食べていけてるのは多分うちだけです。選手がきちんと収入を得られるようにe-Sports全体として潤ってほしい。
スポンサー企業を増やすためにも、e-Sportsに注目を集められるように、俺らがしっかり成績を残さなきゃなって思っています。
収入をきちんと得られれば、下の世代も挑戦しやすくなりますし、良い選手が増えて世界で活躍できれば、日本がe-Sportsの強豪国になれる。競技人口が増えれば認知も広まりますし、良い循環を生み出したいですね。
収入面の他、引退後のキャリアにも課題はある。e-Sportsの選手寿命は25歳。他のスポーツ同様、動体視力や反射神経のピークを過ぎれば、選手としては引退を迎えることとなる。
ただ、歴史の浅いe-Sportsは、まだセカンドキャリアのモデルケースが少ない。世界ではコーチとして若い選手を育成するのが一般的だが、日本ではまだそういったキャリアパスが整っていないのが現状だ。
僕らがe-Sportsの第一世代で、セカンドキャリアを切り開いていく立場。野良連合からは過去に3名の元プロゲーマーが大手ゲーム会社に転職していますが、こうやって引退後の道もちゃんとあることを示して、下の世代を安心させたいです。まだふんわりとしたイメージですけど、僕は大会の解説なんかができたらいいなと思っています。
結果を出して、e-Sportsは競技だということを証明したい
パイオニアとして新たに道を切り開いていく立場ゆえの不安や苦労はある。2人とも「プロゲーマーになったのは賭けだった」と振り返る。それでもその選択に後悔がないのは、根底に「好き」があることが大きい。
内定を蹴ってプロゲーマーになるなんて人には勧められない(笑)。でも、自分の好きなことを仕事にできているのは、やっぱりうれしいです。
仮に30歳くらいで一般企業に就職したくなったとしても、僕は自分がやってきたことを自信を持って伝えられると思えたから、20代のうちに挑戦しようと思いました。まだ24歳の若造ですけど、思い切ってやりたいことをやるのは大切だって実感しています。
俺は全く別のタイプで、元々ずっとゲームしかしてないニートでした。ただ勝ちたいがために人を集めて大会に出て、勝ってプロになって、この21年間好きなことしかしていない。
選手生命が終わった後にちゃんと生きていけるのか、正直不安がないわけじゃないけど、好きだからやっていけてるっていうのが大きいですね。
世界の流れを見れば「今後日本でもe-Sportsがメジャーになっていくのは間違いない」と2人。だが現状は「ゲーム=遊び」というイメージがまだまだ根強く、「e-Sportsは果たしてスポーツなのか?」という世間の声もある。
「スポーツ=運動」だと思っている人は多いですけど、辞書で意味を調べると「スポーツ=競技すること」なんですよ。e-Sportsはたまたま電子機器を使って戦うというだけで、まさに対戦相手がいる競技なんです。
2人は「ぜひ一度大会を見てほしい」と口を揃える。
オフラインの会場は、本当にスポーツって感じなんです。チーム一丸となって日本の国旗を背負って、勝った瞬間に会場が沸く。ファンの人に応援してもらえると、『誰かを熱くさせられるようなプレイができたんだ』って思えます。
大会を見てもらえれば、まぎれもなくスポーツだって分かってもらえると思います。それでもただのゲームだと思われてしまうなら、それはもう仕方ないというか。俺らは結果を出して、e-Sportsは競技だということを証明するだけです。
去年、もうすぐ50歳になる両親が初めて大会に応援にきてくれたんですけど、僕らが優勝した瞬間、両親は感動して泣いていて。その時に多分、プロゲーマーという仕事のことを本当の意味で理解してくれたんだと思います。
現状、FPSのジャンルで活躍できている日本人は僕らだけ。日本人がこれだけe-Sportsで戦えるってことを見せていきたいし、一般の人にもe-Sportsがスポーツであることを伝えていきたい。大会の配信、たまにでいいので見てくれたらうれしいですね。
企画・取材・文:天野 夏海
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