スキルアップ Vol.678

「記憶力」日本一が教える、他人の“顔と名前”の覚え方「訓練すれば1分間で30人覚えられます」

出会いや新しいチャンスに巡り会うことが多い春。仕事でも、何かと覚えることが増える時期でもある。しかし、メモを取って、ITツールを駆使してもなかなか物事が覚えられず、肩を落とす人も多いのでは?

そこで今回から2回にわたって、記憶力を競う「メモリースポーツ」の日本チャンピオン経験者であり、「記憶術」 に関する書籍を執筆している21歳の平田直也さんに、記憶力向上のコツを教えてもらおう。平田さんいわく、「記憶術」とは、誰でも簡単に習得できるテクニックなのだという。前半の本記事では、名刺交換をした人の「顔と名前を覚えるコツ」を聞いた。

平田直也さん

平田直也さん

1997年東京生まれ。現在商学部に通う大学3年生。大学入学の直前の春休みに、記憶力を競うメモリースポーツ(記憶力競技)の世界に足を踏み入れ、トレーニング開始からわずか2年で日本一に。以来、国内外で開催される競技会の上位入賞者に度々名を連ねるようになる。現在は、メモリースポーツの現役世界ランカーであり、選手を育成する塾「Brain Sports Academy」で講師も務める。2019年2月『世界最強記憶術 場所法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を上梓した

記憶術の魅力は「鍛えれば誰でもできるようになる」こと

平田さんは、ランダムに並んだ数字を5分間で200桁以上覚えたり、1分間で30人以上の顔と名前を覚えることができる記憶の達人。さぞや物覚えが良いスマートな少年時代を過ごしていたのかと思いきや、「暗記能力は人並みで、テストも気合いと根性で乗り切るタイプ」だったという。

ではなぜ、平田さんはトレーニング開始からたった2年で、記憶力を競う「メモリースポーツ」の日本チャンピオンになれたのか。それは「記憶術という、誰でも訓練すれば上達する『メソッド』があるから」と平田さんは断言する。

「世界にはごく稀に、一度見たもの、聞いたことを忘れないという人がいます。よく誤解されるのですが、メモリースポーツで使われる記憶術はそうした先天的な能力とは全くの別物。ここでいう記憶術とは、生まれながらに備わった力というより、トレーニングの質や量で差がつくものなんです」

記憶術は、正しいフォームをしっかり覚えてトレーニングすれば、トップアスリートでなくても筋力アップが図れる「筋トレ」に似ているという。それなら、一般人でも日々の“筋トレ”によってビジネスシーンで活用することができるはずだ。

「もちろん上達のスピードは人それぞれですし、到達できるレベルも違います。でも、要領をつかんで1カ月も練習すれば、誰でもランダムな数字を10分間眺めて80桁くらいを覚えることくらいはできるようになる。それが記憶術なんです」

なぜ「顔と名前」は覚えづらいのか?
記憶力チャンピオンが教える、すぐに活用できる記憶術

ビジネスシーンで最も「自分に記憶力があればいいのに……!」と思うのは、出会った人の顔と名前を覚えるときではないだろうか。それなりに時間をかけ、親しく話したはずなのに、しばらく時間が経ってから再会するとどうしても名前が思い出せないということはよくある。「顔は覚えているのに……」、「話した内容は思い出せるんだけど……」というアレだ。ではそもそもなぜ、人の顔・名前は覚えにくいのだろうか。

「人の風貌や話した内容と、名前との間には、何の関連性もないからです。脳には、意味があるものは覚えやすく、そうでないものは覚えにくいという性質があるんですよ」

つまり、仮に1年前に会った相手が「田中さん」だったとして、その田中さんには「目が大きくて髪が長い」「学生時代に面白いエピソードがある」といった特徴があるとする。しかしこれらの情報と「田中」という名前の間には、何ら関係性がない。だから人の顔と名前は覚えにくいのだと平田さんはいう。

平田直也さん

「この時に使えるメソッドとして、覚えたい数字やキーワードをまとめてストーリー仕立てで覚える『ストーリー法』というものがあります。今回はこのストーリー法をベースに、誰でも簡単に顔と名前を覚えるコツをお教えします」

ストーリー法を学ぶ上で、大前提として大事なのは「記憶容量には限界があるという先入観を取り払う」」ことだそう。

「効率よく記憶するために、なるべく記憶する量を減らそうと思いがちですが、むしろ逆効果です。記憶の糸をたぐり寄せる手掛かりは、多い方が思い出しやすくなるんですよ。記憶容量に限界はありません。ですから覚える量を減らそうと思わず、むしろたくさんの情報を入れるように心掛けるといいですね」

その上で、次に挙げる4つのポイントに気を付けると、名刺交換した相手のことを覚えやすくなるそうだ。

【ポイント1】同じ名字の知り合いや有名人を思い浮かべる

「もし名刺交換した相手と同じ名字の知り合いや有名人がいたら、その人のことを思い浮かべ、似ているところや違うところを思い浮かべてください。例えば、名刺交換の相手が武田さんなら、まずは『武将の武田信玄と同じ名字。どっしりした感じは似ているかも』と思うだけでも構いません」

武田さんか……。武将の武田信玄と同じ名字だな。どっしりした感じは似てるかも?

【ポイント2】こじつけで構わないので、印象をストーリーに転換する

「もし可能であれば、『◯◯に似ている』で留めずに、『どっしりしているから着物が似合いそう』→『着物が似合うといえば武士』→『武士の親分は武将』→『武将といえば武田信玄』→『武田さん!』と、連想を広げたほうが、より一層強い記憶にすることができます。もちろんストーリーはこじつけでもOK。その場で思いつかなければ、帰ってから考えても構いません」

どっしりしているから着物が似合いそう。着物といえば武士、武将。武将といえば武田信玄。……どっしりしている武田さん!

【ポイント3】初めて出会う名字なら、由来を尋ねてみる

「名刺交換した相手が、初めて目にする名字だったら、その由来を聞いてみるのもいいですね。『なんとお読みするのですか?』『どちらのご出身ですか?』などと切り出せば『◯◯と読みます』『◯◯県にしかない名字で』など、ちょっとしたエピソードを聞かせてもらえるかもしれません。その時に聞いたエピソードは、もちろん思い出す際のフックになりますし、ストーリーを考えるきっかけにもなります」

『喜屋武』で『キャン』さんって読むんですね。珍しいお名前ですが、ご出身はどちらなんですか?

【ポイント4】商談中、帰りの電車の中で記憶を復習する

「4つ目のポイントが一番重要で、『記憶をきちんと復習すること』です。一番簡単なのは名刺交換の後、打ち合わせや会議などで発言する際に『◯◯さんはどう思われますか?』、『先ほど◯◯さんが仰っていたように』と、機会を捉えて名前を口に出すこと。それだけでも記憶の復習になり、覚えがよくなります。その後も『髪の毛が長くて、目が大きい、●●社の◯◯さんが、こんなことを話していた』と、頭の中で唱えるようにしてください。会議中だけではなく、帰りの電車の中で思い出すだけでも、記憶は定着していきますよ」

さっきの商談にいたA社の田中さんは、色が白くて“秋田美人”のようなイメージ。何事にも一生懸命そうなタイプの人。必要な書類は後ほど送るって話していたな。『秋田んぼの一生懸命A社届ける作物を作ってる』と覚えよう

記憶術は、人間関係の構築にも役立つ

平田直也さん

たった一度しか会ったことがない人に、自分の名前を正確に覚えてもらえていたら、それだけでも相手に好印象を抱くものだ。平田さんは「記憶力を高めることは、良好な人間関係やコミュニケーションの潤滑油にもなる」と話す。

「これはテクニックといえるか分かりませんが、『相手に興味を持つこと』も、相手を覚える上で大事なポイントです。こちらから相手に興味を持って接すれば、自然と会話も弾むようになるでしょうし、短期間で互いの理解も深まります。そうして接していれば、記憶する上で必要な情報量も増えますし、関係も良好になりやすいはず。記憶術はただ単に記憶力を高めるだけでなく、日常生活にも応用できる能力なんです」

後半では、さまざまな要素が絡んで難易度が高い、「商品やサービスのスペック」を覚えるための記憶術を紹介します。お楽しみに!

取材・文/武田敏則(グレタケ) 企画・撮影/大室倫子(編集部)

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