キャリア Vol.694

50の事業を立ち上げた連続起業家が教える、“新規事業を成功に導く”若手の特権「おじさんにはできないことをしよう」

今、テクノロジーの進化や市場の変化に後押しされ、各業界で新規事業を立ち上げる動きが高まっている。それに伴い、入社して数年の若手社員でも、社内の新規事業を任されるチャンスが増えてきた。

しかしビジネス経験が乏しい20代は、多くの場合チームの中で一番の下っ端。ともするとただの雑用係にもなりかねない。若手が新規事業を成功に導くメンバーとして活躍するためには、どうすればいいのだろうか。

そこで、企業内起業17回、独立起業19回、週末起業14回に携わった経験を持つ、新規事業立ち上げのプロ・守屋実さんに、20代が新規事業チームで活躍しプロジェクトを成功に導くために、意識すべきポイントを聞いた。

守屋

株式会社守屋実事務所 守屋 実さん

1969年生まれ。明治学院大学在学中に学生起業を経験。92年、ミスミ(現ミスミグループ本社)に入社し、新規事業開発に従事する。2002年ミスミ創業オーナーの田口弘氏とともに新規事業の専門会社エムアウトを創業。複数の新規事業立ち上げや事業売却を経験する。10年、守屋実事務所を設立。現在は投資と事業経営の両面から企業の新規事業創出をサポートしている

そもそも新規事業は、“地味で厳しいこと”の繰り返し

守屋さんは、大学在学中から現在に至るまで、合わせて50の事業を立ち上げた新規事業開発のプロフェッショナル。そんなプロの目に、「新規事業の立ち上げチームで活躍するぞ」と張り切る20代の姿はどのように映るのだろうか。

「誰もが経験できる仕事ではないですし、新規事業開発のポジションに憧れ、やる気に溢れる20代は多いのかもしれません。会社の資産や看板、信用をフル活用できるので、個人で起業するよりはるかにローリスクで新しいことにチャレンジできるメリットもありますしね。でも新規事業プロジェクトの大半は、実際は地味で厳しいことの連続なんですよ」

その理由の最たるものは、一般的な新規事業開発プロジェクトに、真の意味での「新規事業立ち上げのプロ」が携わっていないことだと守屋さんは言う。

「『新規事業の立ち上げに詳しい人』って、実はほとんどいないんです。なぜなら、新規事業の立ち上げに成功した人は、そのままその事業の責任者を継続するように言われてしまう。逆に立ち上げに失敗すれば、二度と新規事業プロジェクトにアサインされることがなくなってしまうことが多いからです。だから企業内には、いわゆる『事業開発部』のような専門部署にさえ、立ち上げ経験豊富な人材がいないことも珍くはないんですよ」

その上、どれほど有望なプランであっても、経営陣から「本業を痛める」という異論が出れば計画を突き返されたり、会社都合で一度決めた方針が撤回されたりするのは当たり前。中には、新規事業を開発する目的も方針も定まらぬまま、とりあえず頭数だけ集められ「今期中に成果を出せ」と発破をかけられるケースも少なくないという。

「そもそも、どれだけ環境が整っていたとしても、新規事業の立ち上げが成功する確率はそれほど高くはありません。現代社会は物と情報が溢れているので、今の消費者の第一選択肢は『いりません』なんです。だからこそ、立ち上げ経験が乏しい上に、上司や経営陣の顔色を伺いながらつくる新規事業が、消費者に受け入れられなかったというケースはかなり横行しています。そうした環境の中で、若手メンバーが情熱を絶やさず良い経験だけを吸収するのは『至難の業』といっても過言ではありません」

「スマホでググる」「他人を検索エンジン扱い」
“サクッと” 調べて上手くいくほど甘くない

守屋

こうした厳しい環境の中で、新規事業にアサインされた若手が活躍するためには、どうすればいいのだろうか。

「新規事業の立ち上げ経験が乏しいのは、上司であれ、若手であれ変わりません。なので本来であれば年齢や性別、社歴はさほど関係ないのですが、年功序列で男性優位な会社の場合、若手ができることは非常に限られているでしょう。その中でできることがあるとすれば、社外に目を向けることです。社内にいるだけでは入ってこない情報を取りにいくのは、どんな若手でもできるはずですから」

マーケットの動向や見込み客の嗜好を知るためにも、また、自社内に限らず新規事業の立ち上げ経験者の中からメンターとなる人を見つけるためにも、社外に目を向けることは重要だ。

「今の時代は、スマホで検索すればいくらでも情報が手に入ります。でもその大半は二次情報以降の、精度が低い情報。そうした情報をいくら集めてもビジネスの役には立ちません。最低限、一次情報を持っている人に話を聞きにいくくらいは、足を動かしましょう」

とはいえ、見ず知らずの若者が突然訪れて「教えてください」と請うたところで、冷たくあしらわれるか、その場で思いついた感想や適当な褒め言葉でお茶を濁されるのがオチなのでは?

「真面目に仕事に取り組んでいる若者に相談されたら、どんなに偉い人でも話くらいは聞いてくれるはずです。忙しくて時間が取れなかったとしても、他の人を紹介してくれるくらいはするでしょう。ただし、新規事業を興したいという言葉とは裏腹に、努力の跡が見えない人には、誰しも時間を割きたくないもの。担当するプロジェクトの課題について真剣に考え、選択肢を絞り込んで簡潔に質問する、くらいの準備は必要です」

分からないことは何でもググって、“サクッと”解決しようという思考に陥っている人は、こうした場面でも、手ぶらで訪れがちだと守屋さんは指摘する。

「もし僕のところに、自分なりの見解を持たずに『このプロジェクトを成功させるにはどうすればいいか』と若手が相談に来たら、『まず自分できちんと考え尽くしてから、出直してください』と諭すでしょうね。自分の頭を使わずに、他人を検索エンジン代わりにして出した答えを事業化して、成功するほど新規事業は甘くありませんし、答えを出すのは私ではなく当事者である『あなた』だからです。本当にそんな人がいるのかと思われるかもしれませんが、実際にこういうタイプの人は最近増えている印象ですね」

何でもすぐに、他人や検索エンジンに頼ってしまう若手が多いことに、守屋さんは苦言を呈した。

「これは僕自身が失敗を重ねてしまったことから学んだ教訓なのですが、自分の手足を汚さず、汗を流さずしてビジネスの成功は掴めません。仮に他人の成功体験を忠実になぞったとしても、置かれている環境が違えば、まったく異なる結果が出てしまうというのが新規事業の難しさです。もしメディアを通じて伝えられる煌びやかな成功だけに目を奪われてる人がいるなら、やりがいと同じくらい大変なことも多いものだと注意したいですね」

「失敗」と「弟子入り」は若者の特権。おじさんにはできないことをしよう

守屋

厳しいことも多い新規事業開発だが、やる気がある人はぜひ「若手ならではの強み」を発揮して活躍してほしいと守屋さんは言う。

「結局、答えはすごくシンプルなんですよ。常に走りながら考えること。量稽古をすること。この2つをやりきる、ただそれだけ。簡単だと思われるかもしれませんが、意外にできない人の方が多いんです」

「走りながら考える」とは、失敗を恐れずに行動し続けるということ。失敗を恐れて動き出せないよりも、結果的に多くの学びを得られる。

「考えることはもちろん大事です。でも考え過ぎは害悪でしかありません。教科書をいくら読んでも自転車に乗ることなんてできないように、まずは自分から働きかけて動き出さなければ何ごとも始まらない。不格好でもいい、失敗してもいいので、他人を巻き込みつつ走り出すべきでしょう。おじさんになると失敗が怖くて、身動きが取りづらくなってしまうものですから、不格好でも走り続けられるというのは若者の特権なんですよ」

「量稽古をする」というのは言葉通り、数をこなして経験値を上げるということ。そのためには新規事業の立ち上げ経験が豊富な人に弟子入り志願するのがベストだと守屋さんはいう。

「メンターの今までの経験を聞き、どんなタイミングでどんな決断を下したのかを教えてもらうだけでも、大きな学びが得られます。無謀でもいいから『弟子入りさせてください』と言って、その道のプロに気にかけてもらえるのは、やる気のある20代だからこそ。それを生かさない手はありませんよね。今ならSNSも発達していますし、講演会やイベントなどに登壇する機会を捉えれば直接会うチャンスだってたくさんあるはずです」

地道で泥臭い作業と試行錯誤を繰り返すことによってしか、新規事業の立ち上げを成功させることはできない。そう守屋さんは話すが、一方でうまくいったときの喜びはとてつもなく大きいのだと微笑んだ。

「非常に難しいことにチャレンジするわけですから、相応の厳しさは覚悟すべきです。でもその大変さから逃げず、やり続ける意思があるのなら、きっとこの仕事が好きになるはず。新規事業の立ち上げは厳しい反面、大きな魅力がある仕事なのは間違いありません。そこに所属するメンバーや関係者全員が、事業の成功を本気で願って奮起しているような、エキサイティングな環境ってなかなかないでしょう? そんな環境で成功を掴めたときの喜びは、想像以上に大きいものです。

そして繰り返しになりますが、成功には年齢・性別・社歴は関係ない。若手だって、チームの要として活躍することができるんです。やる気と覚悟があるならぜひ、その楽しさや喜びを味わってほしいと思いますね」

取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/大室倫子(編集部)

Information

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