“部屋にVRアートを飾る未来”に選ばれる作品をつくりたい。VRアーティスト・せきぐちあいみが目指すもの
仮想空間の中で、さも現実かのような体験ができるVR。そんなVRを使って、3Dで絵を描くVRアーティストとして活動をしているのが、せきぐちあいみさんだ。百聞は一見にしかず。まずはこちらの動画を見てほしい。
ヘッドセットをつけたせきぐちさんが舞うようにコントローラーを振れば、何もない空間に線が引かれ、瞬く間に立体の龍が描かれていく。今回はそんなVRアートを生業にするVRアーティストの仕事について紹介しよう。
VRアーティストの仕事内容
VR空間に3Dで絵を描くアーティスト。アート制作やVR作品を映像で流すなどの展示、ライブペイントのパフォーマンスを主に行う。VRアートやVRに関する特別講師やVR関連のプロモーションを行う博報堂プロダクツのアドバイザーも務める。
VRアーティストの収入
月10万~150万円
「収入源は主に出演料と制作費。まだまだ不安定ですし、新しい機材の購入や勉強のためにどんどん使っているので手元にはあまり残りません(笑)」(せきぐちさん)
「魔法みたい!」立体を描く感覚がとにかく楽しかった
せきぐちさんがVRアートに出会ったのは2016年。当時はYouTuberとして活動しながら、プラスチックを溶かして立体を描ける3Dペンを使ったアーティスト活動をしていた。立体を描く面白さを感じていた中で、たまたま知り合いの企業でVRアートの体験をしたことが、VRアーティストとして活動する転機となった。
「なにこれ!魔法みたい!」って感動しました。360度全ての空間を利用して壮大な世界が作れるVRに大きな魅力を感じたんです。
もともと好奇心旺盛でガジェット好き。一気にVRアートにのめり込んだ。
「3Dで絵を描く」感覚が新しいものだから最初は不思議な感じがするし、平面に描くのとは違うから難しいって言う人もいるんですけど、私はあまり違和感がなくて。何より立体を描く感覚がとにかく楽しくて、毎日のようにVRで絵を描いていました。
作品をつくる工程をSNSやYouTubeでシェアするうちに、徐々に仕事の依頼がくるように。現在は動画配信だけでなく、ライブペイントにも力を入れている。3〜5分の曲に合わせてVR空間に作品を作り上げるライブパフォーマンスでは、せきぐちさんの視界をモニターに映すことで、VR空間で行われていることを大勢の人に共有できる。
VRが目新しいものである今の段階だからこそ、ライブペイントを重視して活動をしています。より多くの人にVRを体感してもらう近道ですし、使うツールや描き方、未来感を演出できるコスチュームなど、ワクワクするような見栄えを計算しながら、短時間で新しい驚きの体験を伝えられるように心掛けています。
どんな仕事でも「人が喜ぶポイント」を意識すれば良い循環は生まれる
VRアートと出会って間もなくVRアーティストとしての活動が軌道に乗ったせきぐちさん。「私がすごいっていうよりはVRそのものの力が大きい」と謙虚だが、これまでに額縁に飾られた絵の中に入れたり、海の中に潜れたり、VR空間ならではの仕掛けが楽しい作品を生み出してきた。
「人が楽しんでくれるのが好き」だというせきぐちさんにとって、VR空間に描かれた作品の中に入っていける体験型のVRアートはまさに打ってつけ。活動の原動力は「VRアートの楽しさをみんなに伝えたい」という想いだ。
「すごい!」「本当に絵の中に入れる!」ってシンプルに驚いて、楽しんでくれるのがすごくうれしくて。私のVRアート作品を通じて、今までに味わったことない新しい世界を知ってもらえるんですよね。その人の人生に新しい感覚や体験をプレゼントできるだなんて、すごいこと。幸せだなぁと思うし、生きがいを感じます。
VRアーティストとしての活動は日本国内に留まらず、これまでにアメリカ、タイ、マレーシア、シンガポール、ドイツでライブペイントを行なった。他にもイタリアやロシア、スペイン、パキスタンなど、世界中から依頼が来ているという。
私は英語が話せないんですけど、ライブペイントには言葉を超えた面白みがあるんだなって自信になりました。特に営業活動をしたわけではないのにお声掛けいただけて、VRアートへの関心の高さを感じますね。
VRが一般化していない現状では、デジタルデータの作品を販売するのは難しい。そんな中で彼女がVRアーティストとして生活できているのは、パフォーマンスと組み合わせたライブペイントを行なっていることが大きい。その際に心掛けているのが「人が喜ぶポイントを作る」ことだ。
大好きなVRアートをどう見せるのかを考えたときに、「楽しんでもらう」ことを考えました。そのためにお客さんへの見せ方やVRの分かりやすい説明の仕方を研究して、多くの人に告知ができるようにSNSに力を入れました。自分が楽しくて、お客さんが喜んでくれて、クライアントは自社のPRができるような「三方良し」の状態をつくれれば、どんな仕事であっても良い循環が生まれるような気がしています。
VR普及の動きを加速させ、VRアートの分野を切り拓きたい
新しいジャンルゆえに「VRアートとはどういうものなのか」を理解をしてもらう難しさはあるものの、「VRは確実に世界中に浸透して日常的なものになる」とせきぐちさん。ライブペイントを行う際の荷物はゲーミングPCにセンサー、コントローラー、衣装など、総重量は約20キロにもなるが、VRの普及とともに機材の小型化・軽量化も進んでいくと予測する。
VRが爆発的に普及したら、生活を華やかにしてくれる存在として、いろんな展開があると思います。例えば軽いメガネ型のデバイスを皆が使うようになれば、インテリアや部屋に飾るアートもVRになっていく。そういう意味で、“超未来”に関しての不安は全くありません。
今時点の仕事は順調で、VRが普及した未来への不安もない。ただ、その間の“少し先”はまだあまりイメージできていないという。
個人としてアーティストのお仕事ができるようになったことは本当にうれしいですけど、単発の仕事をこなしていくだけではなく、掛け算でVRアートを広めていくような働き方をすべきだろうと思っています。そのためにも、今後はチームを作って大きなプロジェクトにしていく必要があるのかなと考えているところです。
まだまだ物珍しいVRだが、VRを使ったエンターテインメント施設ができたり、『Nintendo Switch』でVR空間に絵が描けるゲームが発売されたりと、徐々に身近なものになりつつある。「遠くない未来、3Dで絵を描くのは普通のことになる」とせきぐちさん。その速度を加速させることが、彼女の今後の目標の一つだ。
私はVRをいちユーザーとして使って仕事をしている最初のモデルですけど、パソコンやスマホが当たり前のように使われているように、今後はVRで仕事をする人も増えていくと思います。VRを開発してくれた人のおかげで私はVRを使って表現ができているわけだから、難しいものと捉えられがちな新しいテクノロジーの面白さを広めていく役割を果たしたいですね。
そうして「三方」だけでなく、五方、七方にも良い影響を与えられる人になりたいと続ける。
VR業界にとってプラスになるように動きたいし、関わったスタッフさんにも楽しんでほしい。そんなことを目指していけば、仕事は勝手に大きくなっていくんじゃないかなと思っています。
そしてアーティストとしては、「深みのある作品をつくりたい」と最後に語った。
人の手や天然素材で作られたものって、デジタルからは感じられない情緒や空気感、温度感……なんというか、深みがあると思うんです。私も人の心に、VRアートっていう物珍しさだけではない影響を与えられる作品を作れるようになりたいと思っています。
VRは私がいなくても発展していくだろうけど、VRアートの分野に関しては私が切り拓いていきたい。VR アートが一般化した未来に、「やっぱりせきぐちあいみの作品がいい」って言っていただけるものをつくっていきたいですね。
取材・文・編集・撮影/天野 夏海(写真は一部先方より提供)
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