キャリア Vol.698

「天職は探してはいけない」自己理解のプロが教える“好きなことが分からない”20代への処方箋

20’s type1周年記念特集
好きなことで生きていこう。最近よく聞くフレーズだけれど、「そんなこと言われたって、仕事にできるほど好きなものなんてないよ……」と焦る20代は多いのでは? そこで、20’s type1周年を記念して、各界の識者に聞いてみた。「20代で“好きなこと”って必要ですか?」

好きなことを仕事にしよう」。そんなアドバイスは世の中に溢れているが、そもそも自分は何が好きで、何が得意なのか分からない人も多い。そんな「自分のことが分からない」と悩める人たちに向けて、「自己理解」のための指南をするのが、株式会社Meeeの代表「やぎぺー」こと八木仁平さんだ。

やぎぺーさんは日々、「自分の心の底にある“好き”や、“やりたい”を引き出すためのワーク」の提供や、自己理解メディア『自分コンパス』を通じた発信活動を行い、就活生や転職希望の社会人を中心に人気を博している。

自分自身を知り、強みを活かす」ことのスペシャリストであるやぎぺーさんは、20代にとっての「好きなこと」の必要性をどうとらえているのだろうか。

やぎぺー

八木仁平(やぎぺー)さん

1993年生まれ。大学時代から人気ブロガーとして活躍。「自分は何をしたいのか」という問いに試行錯誤するうちに、自己理解の必要性を痛感。さまざまな人の自己理解を助ける会社、株式会社Meeeを2017年に設立。現在は「自己理解」の専門家としてコンサルティング・講演・メディア発信など活躍の場を広げている。
◆公式ブログ
◆自己理解メディア『自分コンパス』
◆Twitter:@yagijimpei

今は“満たされている”人が増えた、豊かな時代

昔とは違って今は、「好きなことを仕事にできる」良い時代だと思います。実際にそんな生き方を実現できている人もいっぱいいて、当たり前のように世間に受け入れられるようになった。

僕が通っていた早稲田大学でも、ここ2~3年は卒業してすぐ独立する人も珍しくなくなってきました。僕も就職せずに独立の道を選んでいますしね。会社に雇われないことが必ずしも「好きなことで生きていく」ことだとは思いませんが、会社でやりたいことが実現できなければ、独立してもやっていけるだけのリソースが世の中に溢れているということ。選択肢が増えたのは素晴らしいことだと思うんですよね。

少し前までは、「周囲に認められたい」という承認欲求が強い人が多かったはずです。人から羨ましがられる仕事がしたい、と。一方で「好きなことで生きていきたい」というのは自己実現の欲求。承認欲求は「誰かに認められていないと満たされないと感じるもの」ですが、その欲求が満たされている人は、次に自分自身のために生きていく「自己実現の欲求」に向かって進んでいく。

つまり「自己実現を求め、好きなことで生きていきたいと思う」人が増えた今は、それだけ“満たされている”人が多い豊かな時代になったということなんだと思います。

「好き」だけでは「天職」とはいえない。考えるべきは“組み合わせ”

ただ、自己理解のサポートをする中で、「好きなことで生きていく」というワードに踊らされて、苦しんでいる人にもよく会うようになりました。そもそもの好きなことがよく分からないとか、好きなことはあってもどう仕事にしたらいいのか分からないという人は多いです。

好きなことで生きていく、つまり「天職」をどう見つけるのかですが、僕はそれは探すというより自分でつくるものだと思っています

恋愛だって、最初から「この人が運命の人」って決められているわけじゃないでしょう。自分のこれまでの経験や人脈があって、好きになれそうな人に出会って、試行錯誤しながら本物のパートナーになっていくじゃないですか。天職ってそれと同じだと思います。神様から与えられた「あなたはこれ」という仕事はそもそも存在しない。

僕自身も、今は「自己理解」を仕事にしていますが、それ以前はブロガーとして記事をたくさん書いたり、趣味のボードゲーム関係の仕事をしたり、試行錯誤してきました。いろんなことに手を出して、「自分の天職はなんだろう」とずっと悩んでいたんです。そのときに「自分自身のことを知る」ために心理学などを学んだことがきっかけで、「自分の好きなこと・得意なことを分析して発見する」という自己理解の分野に目覚めました。

やぎぺー

ただ、好きなことが見つかったとしても、それだけで「天職」だとは言えません。なぜなら「好きなことで生きていく」というのは、自分の“好きなこと”と“得意なこと”の組み合わせだからです。

例えば、「映画が好きだから、映画会社に入ってADの仕事に就いた」人がいたとします。映画という分野は“好きなこと”だけれど、ADという仕事が“得意ではなかった”としたら、あまり幸せな状態ではなさそうですよね。でも、もし彼の得意なことが編集だったとしたら、「映画業界で編集の仕事をする」のが一番幸せで、それこそが天職といえるんだと思います。

僕の例でいうと、自己理解の仕事を始めてからすぐは、一対一のコーチングをメインにしていました。だけどコーチングは自分に向いてない気がするし、「もっとたくさんの人に影響を与えたいな」と思ったので、セミナーをやることに。でもセミナーで毎回同じことを伝えるのは飽きてしまうな……と思い始めて、今ではそれをオンラインで配信するようになったんです。

トライ&エラーを繰り返した結果、僕はこの「オンラインで発信する形」が得意だと気付きました。好きな「自己理解」を、オンラインという得意な形で実践する。まさに「好きなことで生きていく」ことが実践できているんじゃないかなと思ってます。

20代は「好きを見つける期間」。
自分を知るにはまず、“変化慣れ”を意識してみよう

やぎぺー

天職とは「好き」と「得意」の組み合わせだと言いましたが、それを組み合わせるには「好きなことを見つける→それをどうやって自分の得意なことで実現するのかを決める」という順序があります。つまり、何をするにもまず自分の「好き」が何なのかを理解しなければなりません。

そこでまず自分の“好き”を知るために、僕がオススメしているのは、まず日常で「変化慣れ」をしておこうということです。僕も油断したらすぐに安定した、発見のない生活をしてしまうんですよ。だから毎日、小さなことに変化をつけて、その感覚に慣れるように意識しています。

例えば、コンビニのおにぎりを選ぶときに、いつも買っているツナマヨはやめて、食べたことのない味を買ってみるとか(笑)。そういう小さな変化でいいんです。自分の脳みそを変化に慣らしておく。それすら変えられない人が、新しいことを始めて試行錯誤してみるなんて、大きな変化を受け入れることは難しいでしょうから。

そして変化を受け入れられる体制をつくったあとは、自分が「ビビっとくるもの」を見つけるきっかけづくりをしてみるといいと思います。僕のおすすめは、家の近くにある大型書店や図書館に行って、どの本に自分がビビッとくるのかを見つけること。仕事関連のノウハウ本とか、「これは今後に役に立つ」と思って“頭でワクワクする本”ではなくて、「何かよく分からないけれど楽しそう」という“心が揺れる本”を探してみてください。ビビッときた棚から3~4冊手に取って読んでみて、本当に興味があるのか確かめてみると、自分の好きなことが見つかる可能性が非常に高くなります。

無理をしなくても、こうやって日々の生活の中で徐々に行動を起こしていくことで、自分にとっての「好きなこと」が分かってくるはずです。とはいえ、「好き」という感情は、見つけるのがすごく難しいもの。人生を通していろんな経験を積んだり、自分自身ととことん向き合わないと見つけられないものです。

だから僕は、20代は無理して好きなことを見つけなくてもいいとも思っています。好きなことを見つけなきゃと焦るよりも、もう割り切って「好きなことを見つけるための期間」として捉えていい。人生は長いですから、20代でじっくり自分に向き合い「好き」を明らかにして、それをどうやって自分の得意なことで仕事にするかは、そのあとに考えるくらいで良いんだと思います。

>>特集【20代で“好きなこと”って必要ですか?】一覧はこちら

>>自分の「好き」を見つけるために「キャリアの棚卸し」してみよう!

取材・文/安藤記子 編集・撮影/大室倫子

やぎぺーさんが運営する動画自己理解プログラム『ジコリカイ』

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