「適職は、一目惚れのようには見つからない」メルカリ人事・石黒卓弥が提案する”好きかも”集めのススメ
昨年リリースから5周年を迎えた、大人気フリマアプリ『メルカリ』。月間利用者数約1300万人、年間流通総額5000億円を超えるメルカリの躍進を、人事の立場から支えているのが、石黒卓弥さんだ。
人事という仕事柄、就活・転職や将来のキャリアに悩む20代と接する機会が多いという石黒さん。「好きを仕事にする」ことや、のめり込めるほど好きだと思える対象が見つからず、焦っている20代をどう見ているのだろうか。
「好きなことで生きていく」のは、怖いことでもある
仕事って、何らかの価値を世の中に提供して対価を得るということですよね。そう考えると、あえて嫌いなことをするよりも、好きなことに取り組んだほうがパフォーマンスが出やすいでしょうし、いい結果は当然いい評価に直結するはず。なので、好きなことを仕事にするのはとても素晴らしいことだと思います。
……って、自分でもびっくりするくらい当たり前なことを言ってしまいました(笑)
でも改めて考えてみると、何かを「本気で好きになる」のってものすごくパワーがいることだし、それで生きていこうと思ったらそれなりに覚悟もいる。言葉の美しさと裏腹にとても難しいことのように思えます。
「好き」を仕事にしている人たちといえば、有名スポーツ選手やアーティスト、最近だとYouTuberなんかが思い浮かびます。彼らの活躍を見ると「一つのことに熱中できてスゴいな、素敵だな」と、率直に思いますよね。
でも、そうした人と自分とを重ね合わせたとき、心のどこかで「怖さ」や「不安」を感じる人もいるんじゃないかと思うんです。他人事なら素晴らしいと思えるのに、自分に置き換えると恐怖を覚えるというというのは、少し奇妙な感じがしますが、僕にはちょっとその気持ちが分かります。
それは何か一つを選ぶということは、無数にある別の選択肢を「捨ててしまうこと」でもあるから。盲目的にのめり込んでしまった結果、何か大切なものをなくしてしまうかもしれないという不安や恐怖があるからではないでしょうか。
「何かを好きになって全力で取り組みたいけれど、何が好きなのかがよく分からない」という人の潜在意識には、もしかしたら、こうした心理が隠れているのかもしれません。そう考えると、「好きなことで生きていこう」という言葉に戸惑ったり、悩んだりする人がいるのは、むしろ自然なことだと思います。
本当の自分を知るヒントは、両親や親友の何気ない言葉にある
自分の好きなことや得意なことが分からない場合は、焦って「自分にはこれ」というものを探そうとせず、もっと柔軟に、広いジャンルで考えてもいいんだと思います。例えば、「自分はミーハーだから、流行しているサービスに携わる仕事がしたい」くらいでもいい。
それすらもよく分からない時は、気恥ずかしいかもしれないですが、家族や親友に「自分ってどんな人だと思う?」「私は小さい頃、どんな子どもだった?」と聞いてみてください。僕が人事としてよくオススメしている、本当の自分を知るための方法です。「就活で自己分析するためにやったよ」という人も多いでしょうが、今回はそんな肩肘張った感じじゃなくて構いません。
なぜそんなことをしてほしいのかといえば、普段なら聞き流してしまうような何気ない言葉、些細な一言の中に、悩んでいる今だからこそ心に響くフレーズや、忘れかけていた自分の一面を見つめ直すいいきっかけが潜んでいることがあるからです。
僕自身も両親の何気ない一言で、本当の自分に気付かされた経験があって。大したことではないんですが、あるとき両親に「あなたは小さな頃から、人を喜ばせることが好きだった」といわれたんです。
両親によると僕は小さい頃、運動会の徒競走で走りながら、トラックの外にいる両親に手を振って走る子どもだった、と。普通の子ならリレーで1位になりたい、友だちを追い抜きたい、って全力疾走するはずなのに、僕は両親の前で手を振りながら、彼らに喜んでもらおうとしていたそうです(笑)
そんな幼い日の出来事を聞かされたとき、ふと、なぜ自分が生活に密着したコンシューマーサービスに惹かれるのか分かった気がしました。「身近な人たちが喜ぶ姿が見たい。それが大勢ならもっといい」。それが僕の「好きなこと」だったんです。
だから前職のNTTドコモでも、今のメルカリでも、サービスを使っている人の姿を見たり、喜びの声を聞いたりしたときが一番嬉しいですし、モチベーションに繋がっていることに気付きました。僕自身は何の気なしにやっていたことですが、だからこそ楽しく仕事ができていたんでしょうね。
人間って、意外と自分のことが分からないもの。もし今、悩んでいる人ならなおさら自分が見えなくなっています。そういうときは、身近な人に頼ってみるのも一つの手ですよ。思いのほか些細なことがきっかけで、本当の自分は見えてくるものなんです。
「仕事選び」は好きな人を探す過程と同じ?一目惚れなんて滅多にない
僕は「自分の適職を探すこと」は好きな人を探す過程と同じだと思っています。世の中には、初恋の相手や一目惚れの相手と結婚し、最後まで添い遂げる人がいますよね。映画やテレビなどではよく見かけますが、現実世界でこうした経験をできる人は非常に限られています。どのタイミングで誰と出会うかは運の要素が大きいですし、そもそも初対面で「好き」だと確信が持てること自体レアなことですから無理もありません。
で、ほとんどの人はどうするかというと、例えば「服のセンスが近いかも」、「会話のリズムが似ているかも」、「映画や音楽の趣味があうかも」と、いくつもの「かも」という手掛かりを集め、距離を縮めたり関係性を深めたりしながら、何らかの結論を出します。
相手が人であれ仕事であれ、一目惚れのように、最初から確信が持てる出会いに遭遇することは、そうそうあることではありません。社会経験が乏しい20代ならなおさらです。
身も蓋もない話ですが、これから選ぼうとしている対象が本当に好きかどうかなんて、経験してみるまで分からないもの。好きかもと思って選んだのに、やりがいが見いだせなかったり不得意な業務だったりすることもあるでしょう。
でも人事としての僕の経験上、話を聞いてちょっとでも興味が持てる部分があると思ったら、まずやってみた方がその後のキャリアの可能性がグンと広がると思います。想定していなかった状況を受け入れることで希少性が高いスキルが身に付くかもしれませんし、食わず嫌いばかりしているよりも、はるかに「好きかも」しれないことに巡り会うチャンスは増えますからね。
Go Boldというバリューがメルカリにはありますが、自分の将来を完璧にコントロールするなんて誰にもできない以上、失敗を恐れて縮こまっていても仕方ありません。まずは「好きかも」にたくさん触れて、少しずつ自分が「好き」といえるものを集めていく。試してみて「やっぱり好きじゃなかった」と思うなら異動や転職を考えればいいだけです。
そうやって愚直に打席に立ち続けていけば、いつかきっとチャンスが巡ってきたり、自分が本当に好きなものに出会えたりしますから。20代は焦らずじっくりと「好きかも」に向き合い、自分のキャリアを模索していけばいいんだと思います。
>>特集【20代で“好きなこと”って必要ですか?】一覧はこちら
>>自分の「好き」を見つけるために「キャリアの棚卸し」してみよう!
取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/野村雄治
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