【OWNDAYS 田中修治】行動しない20代は自意識過剰?「そんな奴には“好きなこと”なんて見つけられない」
30歳で巨額の債務超過に陥っていたメガネ製造販売チェーン『OWNDAYS | オンデーズ』を買い取り、10年足らずで再建に導いた、田中修治さん。2018年に書き下ろした自伝的小説『破天荒フェニックス』は、若手ビジネスパーソンから絶大な支持を集め、ベストセラーになった。
10代の頃から経営者として数々の修羅場を潜り抜けてきた田中さんに、「好きなことが見つからない」という20代の悩みをぶつけてみると、「自意識過剰すぎて行動できてないからだよ」と一蹴された。その言葉の真意とはーー。
自分の内側に「何か」なんてない。
20代にあるのは“しょぼい選択肢”だけ
「好きなことを仕事にしたい」っていう若手、すごく多いよね。僕はもう40歳を超えているので、そんな子たちを見てると「青春してんなー」って思っちゃいます。だって好きなことを仕事にするのは必ずしも良いことばかりじゃないし、仕事を「好き」か「嫌い」かの二元論で捉えていること自体が青いですから。
とはいえ、まだ経験の浅い若い世代が「好きなこと」に目を向けるのは自然なことでもある。誰しも好きでもないことにこれからの人生の大事な時間を割きたくないですし、思春期みたいなもので、20代はそういうことに悩む時期なんですよ。
でも問題は「好きなことで食っていきたい」のに「好きなことが見つからない」という人でしょう。僕もたまに相談されることがあるんですけど、そういう子たちの話を聞いていると「そんなんじゃ好きなことなんて見つからないよな」と思うことが多い。それは、考えているだけで具体的な行動に結びついていない人が多いからです。
そんな人には、まず「できるようになりたいこと」を見つけて「それができるようになるまで頑張ってみたら?」とアドバイスするようにしています。
いくら「好きなものがない」という人でも、一つや二つなら「できるようになりたいこと」はあるものです。「料理がうまくなりたい」とか「外国語が喋れるようになりたい」とか「小説が書けるようになりたい」でも構いません。何なら「異性にモテたい」だっていい。
そんな「できるようになりたいこと」を片っ端からリストアップして、やりたいことからやっていくだけで、状況は目に見えて変わっていきます。
料理がうまくなりたいとしたら、料理教室に通うなりして、まずは人に食べてもらって「おいしい」と言われるくらいまで料理の腕を上げる。そこまで辿り着けたら、今度はもっと本格的な料理に挑戦してみようとか、将来、自分の店が持てるように頑張ろうとか、挑戦する前とはずいぶん違った風景が見えてくるはずです。
一つできるようになったら、次の目標にいく。それもできたら、さらにもう一つ先の目標と増やしていけば、単に「できるようになりたいこと」に過ぎなかったことが「好きなこと」に変わっていくのは、自然の流れです。
それなのに「好きなことが見つけられない」って嘆いている人が多いのは、おそらく、まだできることがほとんどないのに、その中から無理やり「好きなこと」を探そうとしているからではないでしょうか。しょぼい選択肢しか持ってないのに、その中から選ばなきゃと思い込んでいたとしたら、悩んでしまうのも無理ありません。
20代の自分の内側に「何か」なんてないんだから、外の世界に目を向けなきゃいけないわけです。それなのに、「私がこういう行動したら、変だと思われるんじゃないか」とか「炎上したらどうしよう」とか、自意識過剰な理由をつけて行動しない人って多いんですよね。そんな風に二の足を踏んでるから、いつまでたっても動き出せないし、そんな状態で「自分の好きが見つからない」って言われてもなぁって感じですよ。
低い自己肯定感も自意識過剰も、どっちもろくなものじゃない
僕は子どもの頃から、興味を持ったことはすぐ手をつけるタイプだったので、これからやろうとしていることが好きかどうかなんて、考える暇はありませんでした。その代わり、絶対にしないと心に決めていたことはいくつかあります。
例えば、満員電車に乗ること、スーツを着ること。極力人に頭を下げず、単調じゃない仕事がいいと、14歳くらいの頃からずっと思っていました。今でもそれは変わりません。
そう決めてしまうと、普通の会社員は選択肢から外れますから、自分に合う仕事を一所懸命探さなければなりません。小学生の頃は世界で活躍するサッカー選手、中学生の頃はボクシングのチャンピオン、プロミュージシャンを目指したこともありました。もちろん社長業もその一つです。
でもサッカー選手を目指していたからって、特別に夢見がちな少年だったとは思っていません。世界中から精鋭が集まるプレミアムリーグにさえ、レギュラー選手は何百人もいるのですから、どんな職業でも努力さえすればなれる。そう思っていました。
もちろん「できっこない」「無理に決まっている」という人はたくさんいましたよ。でも、そういう人は、おそらく自分で自分の可能性に蓋をしてしまい、やる前から諦めてしまった人のはず。そんな外野のアドバイスなんて聞いても仕方ありませんし、勝手に言わせときゃいい。ですから僕は10代からずっと、自分の意思でいろいろなことに挑戦してきました。その中で自分の気性に一番合っていると思ったのが小売業の社長だったわけです。スーツを着なくてもいいし、熱心にいろんな会社を回って営業するわけでもないしね(笑)
大口を叩いて、実現できなかったら恥ずかしいと思う人もいるでしょうね。でも先ほども言った通り、そんなのは自意識過剰です。自分が思っているほど、周囲はあなたのことなんて見ていないし、さして興味もない。気にしているのは周りの人たちというより、自分の中に隠れている小さなプライドなんだと思います。
一つの取り組みが失敗しても人生は続きます。その経験を活かして再チャレンジしてもいいし、また別の道でやり直したっていい。もし想像通りの結果が出なくても、目標を達成するために努力したのであれば、その間、何もしなかった人より、はるかに進歩しているのは間違いない。だから、誰に恥じることなんて何もないはずでしょう。
どうせできないと思って挑戦しないのは自己肯定感が低いからであり、失敗を恐れて何もしないのは自意識過剰だからです。僕は、そんなのはどっちもろくなものじゃないと思ってこれまで生きてきました。
今の20代はチャンスの世代。「好きなこと」をアドバンテージに成り上がれ
今の20代は、これまで僕たちが前提としていた経済基盤や価値観が崩れ、新しい社会秩序が形づくられるまでの混沌とした時期に働き盛りを迎えます。
この未曾有の変化がもたらすのは、ネガティブな現象ばかりではありません。変化の境目にしか訪れない、ポジティブな社会の変化やチャンスがあるはず。今の20代は、事を成したいと思って努力すれば成り上がれる、チャンスの世代だと僕は思っています。だからこそ、今この瞬間に動き出すことが重要なんです。
今はまだ、世界第3位の経済大国の地位をかろうじて保っている日本も、この先10年、20年で、国の形や社会構造は大きく変わっていきます。少子高齢化で労働人口は減り続け、消滅する地方自治体が続出することはもはや既定路線。不足した労働力の多くをAIなどのテクノロジーや移民が担うようになれば、大半の日本人の働き方だって激変するのは間違いないでしょう。
そうして単調な仕事、キツい仕事が減っていけば、頭を使って、その人なりの工夫を重ねることが求められる仕事がますます増えていきます。そんな時代に力を発揮できるのは、眉間にしわを寄せてつらそうに働く人よりも、仕事も遊びと同じくらい楽しめる人。つまり遊ぶように働ける人だと思います。そんな時代に働き盛りを迎える今の20代にとって、「好きな仕事ができていること」が大きなアドバンテージになるでしょう。
改めて、今はまだ「好きなこと」がなくても、できるようになりたいと思えることさえあれば「好きになれるもの」を見つけることはできます。でも、悩んでいるだけでは状況は変わりません。
「好きなことがなくて……」なんて言ってないで、できるようになりたいことから手を付けて、どんどん楽しむ。うじうじしてる暇があるなら、今この瞬間から行動起こせよってことですよ。
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取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/吉永和久
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