キャリア Vol.728

「おいしいのに売れない」地方の銘菓をヒットさせるには? “ビュッフェキャリア”正能茉優が出した答え

教育改革実践家の藤原和博さんが、経営のプロフェッショナルをゲストに迎え、「働く力」について考えるtypeの動画コンテンツ「10年後、君に仕事はあるのか?」。

今回のゲストは“かわいいを入り口に地方を元気にしていく会社”ハピキラFACTORY代表取締役であり、ソニーの社員も兼業している正能茉優さん。

現在は、先ほどの2つの仕事に加えて慶應義塾大学大学院特任助教も務めているという正能さん。3つの活動を掛け持ちしている彼女は、自らの仕事スタイルを“ビュッフェキャリア”と表現する。

ビュッフェキャリアは、単純に仕事を増やす「副業」や「兼業」とは違った新しい選択だというが、一体どのような働き方なのだろうか? 正能さんのキャリアヒストリーを元に紐解いていく。

※この記事は「typeオリジナル キャリア動画」を一部編集の上、テキスト化したものです。

株式会社ハピキラFACTORY 代表取締役 正能茉優さん

株式会社ハピキラFACTORY 代表取締役 正能茉優さん

1991年生まれ。小学校6年生から高校卒業までの7年間、読売新聞こども記者として活動。2010年慶應義塾大学総合政策学部に入学、慶應義塾大学在学中の12年に「小布施若会議」を創設。13年、ハピキラFACTORYを創業。卒業後は同社の代表を務めると共に、広告代理店でプランナーとしても働く。16年ソニー株式会社に転職、18年には慶應義塾大学大学院特任助教に就任

好きなことを好きなバランスで好きなだけやる
“ビュッフェキャリア”とは?

藤原

正能さんは、いくつもの会社や仕事を掛け持ちしてすごくアクティブに活動されていますよね。

正能

そうですね。今までは「○○社の正能さん」というのが一般的だったと思いますが、私は「正能茉優」という概念が先にあって、その下にいくつかの組織や働き方があったらいいなと思っていて。

藤原

組織じゃなくて、個人に価値を感じてもらうということ?

正能

はい。ただ、単純に兼業をして忙しく働くというよりは、“好きなことを好きなバランスで好きなだけやる”という自由な働き方をしたいなと。私はこれを「ビュッフェキャリア」と呼んでいるんです。

藤原

「スパゲティもあるけどちょっと蕎麦も食べたいな」っていう感覚ですね。すごく面白いコンセプト。

正能

それで、今は学生時代に立ち上げたハピキラFACTORYの社長をやりつつ、ソニーでも働いていて、慶應義塾大学大学院の特任助教もやらせていただいています。

藤原

僕、“3つのキャリアを掛け算することで100万人に1人の希少性のある人材になろう”という概念の啓蒙をしているんですけど、まさにこういったことだよね。

正能

ありがとうございます。

「作る・広める・売る」3つセットで考えることが
ヒット商品を生む条件

藤原

以前は品川女学院で「プロデューサー講座」という授業を行っていたということですが、この時はどういったことを教えていたんですか?

正能

「商品の売り方」ですね。高校生くらいの女の子って、「商品を企画したい」とか「かわいいものを作りたい」という人が多いんですけど、そういうプロデュースの仕事で大事なのは“いかに売れるものを作っていくか”なんですよね。だから、「作ること、広めること、売ることの3つをセットにして考えよう」ということを複数回の授業を通じて教えていました。

藤原

なるほど。企画だけじゃなくて、それを形にしていく試行錯誤、広報や営業をして、「どこでいくらで売るのか」という計画まで立てようということですか。

正能

はい。というのも、私が大学3年生で起業した時に、まさにこの問題に直面したんです。

藤原

それはどのような?

正能

起業当時、長野県小布施町の特産物である「栗菓子」をバレンタイン菓子としてプロデュースして販売したんです。その時、渋谷のパルコでは1990個くらい売れたのに、長野県の駅前の東急百貨店では5個くらいしか売れなかったんですよ。

藤原

そんなに差が付いたの!?

正能

私もすごくびっくりして。それで「かわいいものって、ただ作るだけじゃなくて、売る場所が大事なんだ」ということに気付いたんです。私が企業理念に掲げていた「かわいいものを売って地方を元気にする」を実現させたいなら、ちゃんと「広める」ことと「売ること」までセットでやっていかないといけないなと思いました。

藤原

それって結局、商品を何と掛け算するかという話だよね。栗菓子の場合は、地元の駅前のデパートと掛け算してもダメだったけど、渋谷のパルコと掛け合わせたら成功したと。

正能

そうですね。

藤原

あとね、正能さんのハピキラFACTORYで扱っている商品の中で、『双子のさくらんぼセット』というのがすごくかわいいなと思ったんですよ。ハートみたいで。

正能

よくご存知ですね(笑)。さくらんぼって一つの枝に対して一粒というのが普通なんですが、人間の双子が生まれるのと同じ原理で一つの枝に対して二粒できちゃうことがあるんですよ。でもそれだと売り物にならず廃棄になってしまうので、農家の方から双子の実だけを集めて、日本郵便さんで売らせてもらったんです。

藤原

じゃあ、実際購入したのは若い人よりもお年寄りの方が多いのかな?

正能

はい。このプロジェクトは日本郵便さんの『ゆうパック』を使っていただくことも目的の一つだったので、若い子が自分で買って食べると言うよりも、郵便局を利用するお年寄り世代が、私たち世代の娘や孫に送ることを想定していました。
これを第一弾として「若者リクエスト」というシリーズを立ち上げて、“私たち世代が欲しい品物ってこういう商品なんだよ!”ということを広める活動もしたんです。

藤原

なるほどね。世代間のコミュニケーションツールにもなりそうですよね。ハートのさくらんぼに「恋してっか?」なんてメッセージを添えたりして。どう?

正能

(笑)

“起業の日”はある時、自然に訪れた

藤原

話は戻りますけど、そもそもどうしてハピキラFACTORYの起業に至ったんですか?

正能

先ほどの栗菓子の話に繋がるんですけど、栗菓子ってすごく美味しくて、お友達にお土産として渡してあげたいなってずっと思っていたんです。でもパッケージが全然可愛くなくて、友達にあげるのはちょっとはばかられる感じだったんですよね。それで、せっかくおいしいのにこの良さが伝わらないのはもったいないなって。

藤原

うんうん、それで?

正能

とりあえず、かわいい箱を作って中身だけ入れ替えて友達に売ってみよう! って思ったんですよ。それが大学3年生のバレンタインの時のことでした。でも、当時は「ロット」という概念を知らなくて。

藤原

「最低でも○個からしか作れません」っていうやつだよね。

正能

はい。箱屋さんには「100個作ってください」ってお願いしたんですけど、「この箱の形状は複雑だから、2000個からしか作れないです」と言われてしまったんですよ。しかも、既にこの活動は週刊誌で取り上げられていて、サンプルの箱を使って撮影した写真が掲載されていたので、後からデザイン変更ができなかったんです。

藤原

なるほどね。引くにも引けない状況だ。

正能

さすがに自分の友達だけでは2000個も売り切れないから、それなら若者の集まる場所、渋谷で売ろう! と思って。当時パルコに知り合いがいたので、「売りたい」とお願いしに行ったら「いいよ」とは言ってくれたんです。でも、法人じゃないと契約できないと言われてしまって。それで法人化することにしたんですよ。

藤原

自然な流れで起業に至ったんだね。すごく良い話。もっとこういう風に、女性がどんどん起業していったら日本が盛り上がりそうだよね。


学生時代に起業し、その後も次々と商品をプロデュースしてきた正能さん。大学卒業後は大手企業にも所属し、今の“ビュッフェキャリア”スタイルを確立することになったという。そんな彼女が気付いた“理想の生き方”とは……?
後半記事では、正能さんが考える「これからの時代の働き方」について紹介していきます。

本記事の動画はこちら

企画・撮影協力/(株)ビジネス・ブレークスルー


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