【曽山哲人】新制度に批判殺到で即廃止したことも!? サイバーエージェント人事制度の成功/失敗例
教育改革実践家の藤原和博さんが、経営のプロフェッショナルをゲストに迎え、「働く力」について考えるtypeの動画コンテンツ「10年後、君に仕事はあるのか?」。
今回のテーマは「変化の時代の人事戦略」。20代の転職市場でも特に人気の高い企業・株式会社サイバーエージェントで人事統括を勤める曽山哲人さんをゲストに迎えた。
記事前半の本記事では、人事の立場から同社の成長をけん引した曽山さんに、過去実際に行ったサイバーエージェントの人事制度の成功/失敗例を教えてもらった。
入社して20年。
サイバーエージェントは売上1000倍、従業員数500倍の企業に
曽山さんは1998年に新卒で伊勢丹に入社したんですよね。ここを1年で辞めたのはなぜ?
98年当時、まだ世の中に普及していなかったeコマース、ネット通販の新プロジェクトを手伝わさせてもらったことがきっかけです。そこでネット業界の面白さを感じました。
それでネット系企業のサイバーエージェントに転職したんですね。当時20人しかいない、売上も4億円くらいの会社だったと聞いています。それが今や売上4000億円、社員数も1万人と。
そうです。当時に比べたら売上1000倍、従業員数500倍くらい!
すっごい成長ですね。サイバーエージェントっていろんなネットに関わる事業をしているわけですが、何をやってる会社って言えばいいんでしょう……?
表現が難しいんですよね。子会社も100社くらいありますし。その中ではインターネット広告とゲームと、ブログなどのメディア事業が大きいです。あとはAbemaTVというインターネットテレビを作ったり。「インターネットサービスをたくさんやってます」っていう感じなんですよ(笑)
満を持してリリースした新制度が大失敗!
それでもチャレンジを続けるワケ
サイバーエージェントの急成長を支えた要因の一つに、ユニークな人事制度の多さが挙げられるかと思います。急成長を続ける中での人事制度って、いろんな試行錯誤があったと思いますがいかがですか?
大失敗もたくさんありましたよ! 例えば「コンピテンシー」という概念を評価制度に組み込んだ時の話。コンピテンシーとは「行動能力」と呼ばれるものです。サイバーエージェントのコンピテンシー、つまり「イケてるサイバー社員の行動能力」はコレだ、という項目を決めました。ロジカルシンキングができるかとか、前向きかどうかといった項目を10個くらい精査して、評価制度に組み込みました。
なるほど。管理職は、この10項目を用いて部下に点数をつけなさいと。
まさにそうです。そしたら社内に広報した瞬間に、上司側と部下側の両方から僕のところに大量のメールが届きました。まず上司側は、「これスゲー使いにくいです、点数なんて付けられない」って。部下側からは、「上司に4点とかって言われたんですけど、なんで僕が4点なんですか」って僕のところに問い合わせがくるんですよ。
ロジカルシンキングの項目が、なんで自分はこの点なのかって、全部曽山さんのところに来ちゃったんだ。
そうです。だからもう、リリースしたその日には「あ、これミスったな……」と思いました。これ以上運用するのは無理だなと思ったので、翌週には全社メールで「すみません、コンピテンシーなかったことにしてください」って送ったんです。
制度の改定が早い!
その代わり「このコンピテンシーの項目は僕なりにかなり考えたものなので、面談する時の材料として使ってください」と言いました。止めたことに関して全社からクレームがくるかと思いきや、皆から賞賛のメールがきたんですよ。曽山さん、よく止めてくれたと。「あんな面倒な制度を続けさせられてたら、キレるとこでした」って(笑)。この経験のおかげで「失敗してもすぐに止めて、次にいくようにすればなんとかなるんだな」と思えるようになりましたね。
旧態然とした企業だったら、稟議などがややこしくて、止めるのにも1~3年は掛けますよね。それを1週間でスパンと止める。この早さが経営には大事だと思います。
そうですね。僕ら役員の中でも、「大量に試してうまくいったものだけを残す」という方針があるんですよ。
要するに、試さないよりはやってみた方がいいと?
そうです。まずは大量に試してみて、その中で当たり外れを探っていく。外れは容赦なく止めていいし、上手くいったことはどんどん力を入れていこうと。
そうなんだ。非常に面白いですね。
順調だった『CA8制度』を廃止した理由
あと弊社の事例としては、『CA8』という役員の交代制度が挙げられます。CA8とは、役員が8人上限で、必ず2年ごと2人が入れ替わるというもの。この制度で、20代の取締役が3人くらい生まれたんですよ。彼らが2年でも経営経験積めば、役員を抜けたとしてもその経験を使って新規事業ができるということで「退任することは降格じゃない」って定義をして。その制度があったので、僕も6年間役員をやって、その後現場の最前線で改めて人事をやりました。
大企業なのに、すごい柔らかい組織ですよね。この前、藤田さん(藤田晋・サイバーエージェント代表)と話をした時に、「このCA8制度は、なかなか難しい」と言っていました。運用が固定化されちゃうんでしょうか?
そうなんです。結局2人入れ替えても、残った6人が成果を上げれば上げるほど替えにくいんですよね。なので若くて新しく入った人が、すぐに抜けていくことも多くて。
半分ぐらいサボってくれてたら、その人たちを入れ替えちゃえばいいだけなんですけどね(笑)
10年前はサイバーエージェントの役員もよくサボっていたらしいんですよ(笑)。だけどこの制度を10年くらいやってみて、今では役員も全員死ぬほど働いてるよねって。そこでこのCA8は「10年間やってみて役割を終えた」ということで廃止することになりました。
そういうのがあってもいいですよね。
そうなんです。うまくいってるものだからこそ止める、という判断はすごく良かったなと思いますね。
「あした会議」で取締役員のモチベーションを引き上げた
他に、人事制度で成功した例はありますか?
「あした会議」という制度ですね。いわゆる新規事業プランコンテストです。でもただの新規事業コンテストではなくて、取締役が新規事業を提案して、その審査結果が1位からビリまで全社に晒されるというもの。言うなれば「役員の新規事業バトル」ですね。
役員会でドラフト会議をやって1チームにつき4人、サイバーエージェントグループの中から誰でもメンバーを呼んでいいんです。その中で1つだけルールがあって、自分の担当分野は提案してはいけない。例えば私だったら人事関係の事業はNGです。普段裁量権を持つ分野ではなく、他部署の課題や機会を見つけて提案するというルールで運用していました。
なるほど。
役員とその選抜メンバーが新しい事業を提案して、社長の藤田が審査するんです。実際、この制度がすごく良くって。2006年から年に1回やっているんですけど、「あしたの会議」によって新しい会社が30社生まれました。その売上は少なくとも1000億円、営業利益も100億円以上あります。
アイデアコンテストをやる会社はいっぱいあるけど、結局“ガス抜き”みたいなものが多いんですよね。でもCA8のような仕組みなら、それが役員の評価にも繋がるから皆真剣にやりますもんね。
そうそう。1位からビリまでポスターで貼り出されますからね。僕も1回優勝したことがあるんですけど、ビリも2回経験しました。審査結果が出たら、社員の反応がびっくりするぐらい違うんですよ(笑)。役員にも、メンバーにとっても良い緊張感がある施策で、大成功しています。
後半の記事では、人事のベテラン・曽山さんが「採用面接で転職者に聞きたいこと」を教えてもらった。次回もお楽しみに!
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