キャリア Vol.739

トランスジェンダー遠藤まめたが“人と違うこと”が怖い20代に贈る言葉「勇気を出して声を上げれば、必ずどこかに仲間は見つかる」

仕事の中でも「自分らしさ」が大事だとは言うけれど、つい気になってしまう周囲からの視線。皆と同じようにできているか、「何か違う」と思われていないか。気になりだすとつい、自分に自信が持てなくなってしまう。

今回、そんな“自分に自信が持てない”20’sにアドバイスをくれたのは、トランスジェンダー当事者として、「皆と違う」ことに生きづらさを感じながら生きてきたという遠藤まめたさん。20歳を目前に「それぞれベクトルは違えど、“皆と違うこと”に苦しんでいるのは自分だけじゃないんだ」と気付いたことをきっかけに、社会の偏見や無理解と戦い始めた。

LGBTの子どもや若者の支援活動に取り組む傍ら、現在では、オンライン署名サイト『Change.org』で社会課題に対して声を上げる人たちのサポートに力を尽くしている。自ら声を上げることで、仲間と出会い、力を得て、世の中を変える挑戦を続けるまめたさんが、「人と違うこと」に怖さを感じ、悩んでいる20代に贈る言葉とは。

遠藤まめたさん

Change.org Japan キャンペーン・サポーター 遠藤まめたさん

1987年、埼玉県生まれ。トランスジェンダー当事者としての自らの体験をきっかけに、LGBTの子ども・若者支援に関わる。LGBTユースのための場所『にじーず』代表。2018年、Change.orgに入社。著書に『先生と親のためのLGBTガイド もしあなたがカミングアウトされたなら』(合同出版)、『オレは絶対にワタシじゃない』(はるか書房)ほか

「オレ、このまま大人になっても男にはならないんだ」

まめたさんは女性として生まれ、女性として育てられた。でも、物心ついた頃から「自分は男の子」だと思っていて、”女の子らしい”とされるものが苦手だった。

「記憶を辿ると、3歳の七五三の時、着物を着るのが嫌で嫌で、大泣きしていました。家族の中ではしばらくの間、それがほのぼのエピソードとして語り継がれていましたけど。他にも、小学校の作文で『ぼく』という一人称が使えないことにも違和感を感じていて。結局、どうしても『わたし』とは書けなくて、提出できなかったんです」

それでも、子供の頃はまだ無邪気なものだった。「ちょっと変わった子」ではあったが、皆から「まめた」と呼ばれ、男子の友達も多かった。サッカーが得意で、男友達に戦力として頼りにされることも嬉しかったそう。

「当時は『今は女子に分類されているけど、学年が上がれば男子になれるんじゃないか』と本気で思っていたんです。友達にも『世の中には男と女と男女(おとこおんな)がいて、まめたは男女だ』と言われいて、一人で『なるほど』と納得したりして。むしろ、それを聞いた先生が『そんなこと言うんじゃないの。遠藤さんはちゃんとした女の子なんだから』なんて言い出して、その方がよほど屈辱でしたね」

遠藤まめたさん

違和感が拭いきれなくなってきたのは、中学に入ってからだった。まず、制服のスカートが嫌でたまらない。最初は「皆も嫌々はいているのだから、自分も我慢しなくては」と思っていたが、どうも皆はそうではないらしい。おしゃれをし始めたクラスメートを横目に、自分は永遠に女子に分類されたままなのだと悟った。どうしよう。このままでは生きていけない。

「当時はSNSなどの情報が全然なかったので、インターネットで自分が感じていた違和感について調べることにしたんです。そこで初めて、性別のあり方には個人差があることを知りました。トランスジェンダーという言葉を知ったのもその時。そうか、私もそうだったんだと、ようやく合点がいきました」

誰にでもその人なりの事情がある
困っているのは自分だけじゃなかった

インターネットを通じ、世の中には自分と同じようなことに悩んでいる人がたくさんいることも知ることができた。そしてそれは、まめたさんに勇気を与えてくれたという。

「当事者の日記や掲示板を読むと、誰かが自分のことを書いているのではないかと思うほどでした。でもその中には、生物学的には『女子』に分類されているのに、学ランを着て堂々と学校に通っている人もいる。誰かにできるのなら、自分にだってできるはずだ。そう思いました」

そして思い切って、友達にカミングアウトしてみることにしたまめたさん。高校2年の修学旅行の時、最も信頼している仲間たちに「自分はトランスジェンダーである」と打ち明けた。するとそれほど驚かれることなく、拍子抜けするほどすんなりと受け入れてもらえたという。

「むしろ、正直に自分の思いをさらけ出したら、その後に友達の方からも『実はうち、親がリストラされてさ』っていう言葉がでてきたりして、人に言えなかった悩みを打ち明けてくるようになりました。その時、気付いたんです。なんだ、『自分だけが特別辛い』わけじゃないんだと。皆がそれぞれ事情を抱えていて、全員がマイノリティーなんだなって分かったんです」

情報収集の手段もある。本音を打ち明けられる仲間もいる。そうとなれば、もう黙っている選択肢はない。「誰もが何かしらのマイノリティー。辛いのは自分だけじゃない」。

遠藤まめたさん

過去の自分のように一人で生きづらさを抱え、悩んでいる人に、このメッセージを伝えていきたいと思うようになった。

高校を卒業したまめたさんは、LGBT支援の活動を開始。大学卒業後も働きながら、現在までLGBTの子どもや若者の支援を続けている。

勇気を持って声を上げよう
必ずあなたの味方はいる

これまでの活動を通じて実感しているのは、一人一人が声を上げることの大切さだ。

「何か困りごとを抱えていて、それが自分だけの問題だと思うと、口をつぐんでしまうかもしれない。でも、必ずどこかに、同じようなことで悩んでいる人がいるはずです。それを皆で解決していくためにも、声を上げて、仲間を見つけてほしい。今は個人でも発信できるツールがいろいろありますから」

そのことを確信した出来事がある。2016年にオンライン署名サイト『Change.org』で、学習指導要領の改訂を求めた時のことだ。問い掛けたのは、学習指導要領にに「思春期になると、誰もが遅かれ早かれ異性に惹かれる」という趣旨の一文が掲載されており、それが保険・体育の教科書にも反映されてことについて。

異性に興味を持たない人もいるので、「誰もが遅かれ早かれ異性に惹かれる」のは事実に反する。この記述を変更するよう、インターネットで署名を募ったのだ。

この運動により2万人近くの署名を集めたが、結果は「誰もが遅かれ早かれ」の文が削除されただけで、「異性に惹かれる」は残ったままだった。全面削除には至らなかったが、その動きを見た教科書会社が、多様な性についての記述を盛り込むようになった。そしてそのことがニュースとなり、多くの人の関心を呼んだのだ。

「いろんな人が今まで口にできなかった『これっておかしくない?』ということが繋がった瞬間でした。一人一人が声を上げたことが、どんどん大きくなり、ちゃんと『社会問題化』されたんです。これはすごいことだと思いました」

遠藤まめたさん

まめたさんは数年前に原因不明の難病を患い、屋外での仕事ができなくなった。その後、LGBTに限らず社会の中で声をあげにくいと感じている人たちの力になりたいと、2018年にオンライン署名サイトを運営する『Change.org』に転職。現在は薬で体調をコントロールしながら、世の中の生きづらさを解消していくためのさまざまなキャンペーンを支援している。

最近では、一大ムーブメントとなった『#KuToo』のキャンペーンをサポートした。『#KuToo』は、セクハラや性的暴行を告発する『#MeToo』運動にならい、「靴(くつ)」と「苦痛(くつう)」を掛け合わせた用語。職場で女性にハイヒールやパンプスを強制するのを禁止しようというものだ。一人の女性のツイートに多くの共感が集まり、国内のみならず、海外でも話題になった。

「10年以上にわたってLGBTの問題に取り組んで来て、世の中のいろいろな問題はつながっていると思うようになりました。個人の問題と思っていたことが、実は日本という国が直面している社会問題だったりする。自分がおかしいと思っていることはオープンに発信して、皆でその問題を考えていかないと、もう日本が立ちゆかなくなっていくのではないかとさえ感じます」

自分が生きやすい社会は、皆にとっても生きやすい社会かもしれない。だから恐れずに声を上げて仲間と出会おう。たった一人の声をきっかけに、同じ想いを持つ人が繋がって、「人とは違うこと」の怖さはなくなるはずだ。

Information

遠藤まめたさん

遠藤まめたさん著書!『オレは絶対にワタシじゃない』

オレは男のはずなのに、なぜか女の体。
おまけに女子校で、セーラー服姿の毎日。
苦しすぎて、もう限界――。

そんな悩めるトランス男子の軌跡と冒険の記録。
一人ひとりが生きやすい社会の実現を熱く呼びかける渾身のメッセージ。

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取材・文/瀬戸友子 撮影/大室倫子(編集部)


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