キャリア Vol.723

【ZEALS清水正大】“日本ぶち上げ計画”を企てる27歳の本気度「商材もアイデアもないのに飛び込み営業しまくりました」

叶えたい夢や、チャレンジしてみたい仕事はあるけど、なかなか自信は持てないし、タイミングだって分からない。そこで、20代のトップランナーたちが、どうやって“始めの一歩”を踏み出したのかを聞いてみた。今の活躍に到るまで、どんな不安や葛藤があったのか、そして踏み出した先には何があるのか−−。同年代の言葉に耳を傾けてみよう

日本をぶち上げる」。この雲を掴むような信念を胸に、上京してから4年。紆余曲折を経てリリースしたチャットボット型の広告サービス『fanp(ファンプ)』が大ヒットし、注目を集めている若手起業家がいる。ZEALS(ジールス)代表の清水正大さんだ。

驚くべきは、清水さんは学生時代に、事業計画も商材も持たぬまま起業したという点だ。「初めは誰からも応援されていませんでした」と当時を振り返るが、なぜ彼は「日本をぶち上げる」という信念だけで、起業家としての道をスタートさせたのだろうか。

株式会社ZEALS 代表取締役CEO 清水正大さん

株式会社ZEALS 代表取締役CEO 清水正大さん

1992年、岡山県倉敷市生まれ。工業高校を卒業後、水島コンビナート内の工場で航空機のサポートリング開発に携わる。東日本大震災を契機に「日本をぶち上げる」という志を掲げ、翌年、明治大学政治経済学部に入学。2014年4月、事業計画も商材も持たぬままZEALS創業。飛び込み営業で獲得したさまざまな受託案件を糧に、コミュニケーションロボットの会話エンジンの開発に着手。16年5月、チャットボット型の広告サービス『fanp(ファンプ)』をリリース。利用ユーザー数40万人を超える人気サービスに育てた

東日本大震災で奮起。「日本をぶち上げる」ために故郷を捨て上京

――清水さんが起業したのは21歳で上京されてからですよね。その前はどのような生活をされていたんでしょうか?

地元の倉敷にある水島コンビナート内の工場で、航空機の大型部品を作る仕事をしていました。重工業が地場産業という土地柄なので、少なくとも僕の周囲には「製造業以外で働きたい」とか「転職してキャリアアップしよう」なんて発想を持つ人はいなかったんです。だから僕も高校を出た後は何の疑問も持たずメーカーに就職しました。

――そんな清水さんの意識が変わったのは?

入社1年目がもうすぐ終わろうというタイミングで、東日本大震災が起きたんです。自分も向こうで生まれていたら、被災して死んでいたかもしれない。そう思ったら、別にやりたくてやってるわけでもない仕事にしがみついている自分が、急に恥ずかしくなったんです。その時は週末の休みだけが生きがい、みたいな生活がずっと続いていたので。それで、残りの人生を賭けて取り組むべきものを探そうと思いました。

――その時は何をやろうと思われていたんですか?

具体的なイメージは何も。あったのは、「日本をぶち上げる」という漠然としたビジョンだけでした。国全体に元気がなくなった今、必要なのはとにかく「ぶち上げる」ことだなって思って。だからこそ、イメージを具体化するために大学に行かなきゃと思って、そこから貯金と猛勉強を始めました。大学で仲間を募って総理大臣にでもなれば「日本をぶち上げられるはずだ」と思ったんです。

――夢がデカい……! 周囲の反応はいかがでしたか?

親には「会社を辞めるとは何ごとだ!」とかなりキツく叱られましたし、友達からは「アイツ大丈夫か? おかしくなったんじゃないか?」って。ずいぶん怪訝な目で見られました。

――その状況だと、心が折れそうになることもあったのでは?

それはなかったですね。だって残りの人生を賭けて取り組むものを見つけるために起こした行動ですから。猛勉強がたたって2回も入院しちゃいましたが、それでも諦めようとは思いませんでした。でも面白いことに、大学に合格したら周囲の反応もちょっとずつ変わっていったんですよ。

ZEALS

勉強しすぎて入院した当時の清水さん……。

――どんなふうに変わったんでしょう?

「おかしくなったと思ってたけど、どうやら違うらしいな」とか「お前、本気なんだな。応援しちゃるわ」とか。物事に本気で取り組めば、自分の気持ちが伝わるし、応援してもらえるんだと気付けた瞬間でした。

――そこから、大学に入ってみていかがでしたか?

「日本をぶち上げたい」って言ったら同期にはドン引きされるし、どうやら「政治に世の中を変える力」はないなっていうことにも気が付いて。大学にはすぐに行かなくなりました。

ZEALS

え、総理大臣になる夢は……!?

――せっかく入院までして受験したのに!?

大学に入りたいと思っていたわけじゃなくて、あくまで「日本をぶち上げる」ことが目的でしたからね。起業に関心が向いたのはリブセンスの村上太一さんやサイバーエージェントの藤田晋さんの本を読んだことがきっかけです。ビジネスには世の中を変える力があると感じたので、自分も会社を興すことにしました。

――その一歩を踏み出す時に、不安や迷いはなかったんでしょうか?

別に失うものもなかったので不安もなかったですし、繰り返しになりますがそもそも僕は「日本をぶち上げる」ために上京したんで。その頃には地元の家族や仲間も僕の活動を応援してくれるようになっていたので、むしろこのまま何もしないって選択肢はありませんでした

オリジナルの商材を持たず、闇雲に飛び込み営業をしまくった理由

――何をするか決めずに起業されたと聞きましたが、実際はどうだったんでしょうか?

そう、全くの白紙状態で仲間3人と会社を立ち上げました。まずやったのは飛び込み営業です。理由は藤田さんの本に「若い頃、1日100件飛び込み営業をした」と書いてあったから。それで溜池山王から渋谷までのビルというビルに飛び込みまくって、会う人ごとに「日本をぶち上げたいので、何か仕事をください!」と言い続けました。売り込むべき商材もなかったですし、他にすることもなかったですからね。

――ずいぶん効率が悪い気がするんですが……。

そうですね。同世代のベンチャー経営者からはずいぶん馬鹿にされましたよ。飛び込んだ先で罵声を浴びせられたり、警備員を呼ばれたりするのは日常茶飯事でしたから、途中で辞めていった仲間もいました。

――普通は嫌になると思います……。

でも、近道だけはすべきじゃないと思ったんですよ。ネットで情報をサッと読んで、さも自分で体験したかのような気になっている人って多いじゃないですか。でも僕らは同世代の起業家たちと違って、スマートでもないし格好良いプレゼンもできません。だからこそ、近道せず、尊敬している経営者がやったことを素直にやってみようと思ったんです。物事に本気で取り組んでいれば、必ず応援してくれる人がいるはずだって信じていましたし。

――泥臭いことをあえてやってみて、どうでしたか?

このままじゃ、いつまでたっても日本はぶち上がらんな」と思いましたね(笑)

ZEALS

そりゃそうだ……

――なぜそこから、今のZEALSのかたちにいきついたのでしょう?

真剣に頭を使うようになったのは、たまたま飛び込んだ先で紹介してもらった、ウィルグループの大原茂社長との出会いがきっかけでした。大原さんから「君らの志は本物だと思うから当面の資金は出す。その代わり本当にやるべきことを考えろ」と言われて、社会と自分たちのビジネスの関係を具体的に考え始めたんです。そこで出した結論が、コミュニケーションロボットを作ることでした。

――なぜコミュニケーションロボットを?

日本をぶち上げるためには、チャレンジする人を増やしていかなければなりません。そこで現状に不満があるのに、何をすればいいか分からず苦しんでいる人を励ますようなロボット。言うなれば「のび太君の世話を焼くドラえもんのようなロボット」を作ったら、チャレンジする人を増やせるんじゃないかと考えました。僕が起業というチャレンジができたのも、地元の仲間たちの応援があったからこそだと思っていましたしね。

――それが現在のチャットボット事業につながっているわけですね?

そうですね。チャットボットはソフトウェアなので物理的には存在しませんが、会話を軸にしているという意味では、コミュニケーションロボットと同じです。今はチャットボット広告『fanp』を軸にしていますが、いつかはまたロボットを作りたいと思っています。

少子高齢化に悩む日本のサービス業から、次の産業革命を起こしたい

――起業というチャレンジをする前と後では、ご自身の中で何が変わったと思いますか?

倉敷で働いていた頃は「日本をぶち上げる」ことに具体的なイメージはありませんでしたが、起業してようやく進むべき方向性がビジネスとして定まりました。今はチャットボットを入り口に日本発の産業革命を興すことが目標です。

――具体的な目標を持てるようになったのはなぜ?

「日本をぶち上げる」と言い続けて8年の間に、厳しい言葉にさらされてきたからでしょうね。僕が「日本をぶち上げる」と言うと、周囲から「何がしたいのか分からない」、「どうやって実現するつもり?」、「そんなことできるわけないだろう」と、常にツッコまれ続けてきました。だからこそ、そのことを誰よりも深く考えるようにもなって、具体的に産業革命を興せるイメージが湧いたんです。

――「日本発の産業革命」について、具体的に教えてください。

産業革命の本質を一言で表すと、それまで人間がやっていた作業を機械に置き換えるということ。日本はこれから本格的な少子高齢化社会を迎え、街には自動運転車や無人店舗が目に見えて増えていきます。そんな時代になったとしても「コミュニケーション」という概念はなくならないはず。だから僕らはチャットボットで磨いたコミュニケーション技術をリアルな世界にも適用したいと考えています。

ZEALS

――改めて、起業という一歩を踏み出してみて、最も学びになったことは何だと思いますか?

物事を複雑に考え過ぎてもよくない。全ての“コト”は自分の情熱に従順であるべきだということです。

ほとんどの人は何かコトを興そうとする時、なるべくたくさんの情報を集め、集めきってから行動しようと考えると思います。失敗したくないでしょうし、最短ルートで達成感を味わいたですからね。

――皆失敗も怖いし、不安や悩みも付きものですよね……。

でも実際にやってみて分かったんですが、事前に情報をいくら集めても悩みや不安が消えることはありませんし、成功に近道ってないんですよ。それなら初めに自分が本当にやりたいことを決めて、その選択が正しかったと思えるくらい努力しないといけないなって。

そうやって情熱を持って取り組めば、最初は反対していた人の中から味方になってくれる人も現れます。だから近道をいこう、スマートにやろうなんて考えず、まずは何を成し遂げたいのかを決める。そこからは愚直にただただやり続けるだけ。挑戦を成功に導くためには、シンプルにそれしかないだろう、というのが僕の答えです。

取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/大室倫子(編集部)


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