【これって職場いじめ?】先輩からのイジリ・後輩からの陰口……労働問題が得意な弁護士に聞いてみた
「お前の服ダサすぎじゃない?」と先輩にイジられたり、
「あの人って仕事ができないよな」と後輩に陰口を叩かれたり。
「これって“職場いじめ”なんじゃないの……?」とストレスを感じながらも、デリケートな問題であるがゆえに、「こんな程度のことで、上司や外部の人に相談していいのか?」と悩み、仕方なく耐えている人は少なくないのでは。
そこで今回はベリーベスト法律事務所の弁護士・松井剛さんに、法律上でいじめとして認められるボーダーラインについて、具体的な事例を交えて解説してもらった。
いきなり「法に訴える」とは言わないまでも、「これは職場いじめだと、堂々と主張していいんだ」と考える参考にしてほしい。
法律的に「いじめ」という概念は存在しない
法律的な観点で「職場いじめ」とはどういうものなのか。まずはじめに、その定義を教えてもらった。
「そもそも法律では『職場いじめとは〇〇です』と定義しているものはありません。しかしそれに近いものとしては、数年前から話題に上がっている『パワハラ(パワーハラスメント)』があります。パワハラは、同じ職場で働く人に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に行われる行為。優越的な関係を背景に、業務上必要かつ相当な範囲を超えて、身体的もしくは精神的な苦痛を与える、または職場環境を悪化させる行為と定義されています※」(松井さん)
ただ、これだけを「職場いじめ」と捉えると、優位性が特にない関係のときに嫌がらせを受けた、というケースが外れてしまう可能性がある。例えば自分とは上下関係もない後輩から日常的に悪口を言われたり、殴られたりしても、2人の関係に優位性がなければ、パワハラには当たらない。
「パワハラとは言えなくても一般用語としての『いじめ』に当たることが明らかな場合は、民法709条の不法行為に該当する可能性があります。違法に他人の権利や利益を侵害する行為があった場合に、損害を賠償すべきことを定める規定です」(松井さん)
もちろん、全てケースバイケースであるという前提条件はあるものの、他者に対して不当に権利や利益を侵害する行為だと認められれば、損害賠償を請求することができるのだという。
では、具体的にはどんなケースであれば、法律的に「いじめ」と認められるのだろうか? 弊誌に寄せられた「これって、職場いじめ……?」と感じた瞬間について、アドバイスをもらった。
※注)「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」による定義。一方、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)30条の2」では、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」をパワハラと定義している。
1.服装がダサいとイジられる
職場の先輩に、服装がダサいと皆の前でイジられます。毎回笑われるのが嫌なので、自分の好みではないけれど無難な洋服を新調しました。
回答:「いじめ」と言える可能性あり
具体的な事実によるものの、公然と行われれば侮辱罪(刑法231条)に該当する可能性や不法行為に該当する可能性があります。
しかしアパレル業界など「服装のセンスが必要で、ダサいと業務に支障が出る」仕事であれば、相手が業務上の注意として言っている場合もある。そのあたりは見極めが必要だ。
例えば“鼻毛が出ているよ”、“フケが気になる”など言われて傷付くことがあったとしても、それは仕事上のマイナスを改善させるためのアドバイスであることもあります。
ちなみにこの場合は「侮辱されて傷付いたこと」に焦点を当てているだけであって、「ダサいと言われたくないから新しい服を買った」ことによる費用の請求などは難しいそうだ。
2.自分だけ雑談に参加させてもらえない
職場の先輩に、自分だけ雑談を振ってもらえません。業務に支障はないものの、周りの人とは仕事に関係のない雑談で盛り上がっているので、寂しいです。
回答:「いじめ」とは言いがたい
隔離・仲間外し・無視などの人間関係からの切り離しは、パワハラの一類型と考えられてはいます。しかしこのケースは先輩から業務には関係のない話を振ってもらえないだけ、と見受けられます。先輩には、後輩に対して雑談を振る業務上の義務はありません。業務上の義務がないことをしなかったとしても、パワハラや不法行為に該当するとは言えないでしょう。
確かに、先輩は後輩に対して平等に雑談を振らなくてはいけない、という業務上の義務はない。他人に対してある程度好き嫌いがあること自体は、自然なことである。しかし、それが「パワハラと言える程度に具体的な行為として現れてしまうと問題」になると松井さん。
他の人に『あいつを無視しようぜ』などと誘い、積極的に仲間外れにしたら、パワハラに当たる可能性があります。ただ、もし相手の知らないところで悪口を言っただけであれば、悪口を言われた人が心にダメージを受けることはなく、損害が発生したとは言い難いです。悪口を言うこと自体は問題ですが、損害賠償の対象にはならないでしょう。
3.先輩が必要最低限の仕事しか教えてくれない
先輩が、自分にだけ必要以上の仕事を教えてくれません。他の人には手取り足取り教えているのに、私には「そんなこと自分で調べてよ」と言ってきます。業務に支障があるのですが、これはいじめでしょうか?
回答:「いじめ」とは言いがたい
このケースの場合、先輩には『必要以上の仕事』を教える義務はありません。その点から見ると、いじめとは言いがたいでしょう。
先輩に丁寧に教えてもらった同僚の方が、どんどん力を付けていって、自分と差が開いてしまうこともあるだろう。しかしそれはあくまで自分の力で何とかしなくてはいけない問題である。
ただし先輩が他の人に『あの人に教えてはダメ』と言って積極的に業務を妨害しようとしたり、周りを巻き込んで悪口を言ったりすれば、【2】と同様、パワハラにあたる可能性があります。
一方で、会社がそのような事実を知った時には、いじめの有無に関わらず何らかの対処が必要な場合もあるという。会社には労働者が働きやすい環境を整える義務があるためだ。
4.後輩が自分の指示を無視してくる
後輩に「上司に見せる前に必ず私のチェックを通してね」と言っているにも関わらず、確認フローを無視されてしまいます。どうやら後輩は私のことを信用していないようで……。
回答:「いじめ」とは言いがたい
この場合は、後輩が『私』に仕事をチェックをしてもらう雇用契約上の義務があると言えるのかによります。義務があるとまでは言えないのであれば、パワハラや不法行為にあたるとはいえません。
パワハラの定義にある「優越的な関係」について考えてみると、このケースでは一般的には後輩より『私』の方が優越的な関係であるため、『私』が何か威圧的なことをしたらパワハラになる可能性があるが、その逆は優越的な関係を背景に不利益をもたらしているとは言えない。
ただし後輩と『私』の関係が指揮命令系統にあるとすれば、後輩の行為は業務命令違反です。『私』へのパワハラにあたるかどうかはともかく、後輩は会社や上司から指導を受けることになるでしょう。
5.後輩に「あの人は仕事ができない」と陰口を言われた
後輩が自分のことをバカにしていて、他の人に陰で「あの人は仕事ができない」と言いふらしているようです。明らかにバカにされた態度を取られることもあり苦痛を感じています。
回答:「いじめ」と言える可能性あり
『仕事ができない』と言いふらしているということで、悪口を言うことが公然と行われれば侮辱罪(刑法231条)や名誉棄損罪(刑法230条)に該当する可能性があります。
一方で、自分が知らないところで悪口を言われているケースであれば、いじめとまでは言えない可能性もある。
他の人に『あいつを無視しようぜ』などと誘い、積極的に仲間外れにするなど明らかに損害を被ることがあれば、パワハラや不法行為にあたる可能性があります。ただ、もし自分の知らないところで悪口を言っているだけであれば、悪口を言われた人が心にダメージを受けることはなく、損害が発生したとは言い難いです。悪口を言うこと自体は倫理的に問題ですが、損害賠償の対象にはならないでしょう。
会社は従業員を守る義務がある! 「仕事がしにくい」と思ったら声を上げて
職場いじめが認定されるかはケースバイケースであるものの、それでも以前より格段に声を上げやすい環境になっていると松井さんは話す。
「いわゆるパワハラ防止法において、事業主が労働者からの相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備、雇用管理上必要な措置を講じなければならないとされました。また、相談をした労働者に対する不利益取扱いも禁止されています。これに違反すれば厚生労働省から改善を求められ、応じなければ企業名が公表される場合も。つまり会社は『労働者から相談を受けたら対策をする義務がある』ということです。
だから少しでも『嫌だな』『働きづらいな』と悩むことがあるなら、恐れずに会社に相談した方がいい。社会でもいじめに対する意識は変化しているので、今までだったら泣き寝入りするしかなかったケースでも、働きやすい職場環境に変えられるチャンスになるかもしれません。今回私は法律に絡めてアドバイスさせていただきましたが、法律的にはいじめとは言えないことでも、ご自身が嫌だと感じるならぜひ声を上げてほしいです」(松井さん)
最後に松井さんは、20’sに向けて「いじめる側になっていないか」という点にも目を向けてほしいと警報を鳴らした。
「最近は、20代で部下のマネジメントを任される人が、学生時代のサークルのような感覚で部下を仲間外れにしたりセクハラ的なことしてしまうケースも見受けられます。気付かないうちにご自身が加害者になっていないか、ということにもしっかり目を向けてもらいたいですね」(松井さん)
取材・文/キャベトンコ 撮影/大室倫子(編集部)
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