キャリア Vol.775

【武井壮・三宅陽一郎・立石アルファ裕一・暦本純一】AI活用の未来「自分をプログラミングして弱みを克服する日は近い」

ビジネスパーソンにとっても身近な存在になってきたAI技術。一昔前までは「AIが人間の仕事を奪う」なんて説もささやかれていたが、最近では「AIを理解し、いかにうまく使うか」という点に世の中の関心が集まるようになった。

そこで今回は、20’sが「今後どうやってAIを使うのか」を考えるためのヒントとして、最新テクノロジーを研究・実装する4人が予想する「AI活用の未来」を紹介したい。

2019年9月29日(日)六本木ヒルズにて開催された『イノフェス』で、武井壮さん、パラ卓球 日本代表・立石アルファ裕一さん、ゲーム開発者・三宅陽一郎さん、東京大学院教授・暦本純一さんが登壇したセッション「人間拡張とAIが創る未来社会 ~人類はどこまで進化できるのか~」の一部をお届けしよう。

武井壮さん

武井壮さん

通称「百獣の王」。陸上競技・十種競技元日本チャンピオン。Twitter:@sosotakei

武井壮

今回はさまざまな分野からお集まりいただきましたが、共通しているのは、“人間の能力をテクノロジーで拡張しようとしている人たち”という点です。まずは皆さんの活動、研究についてお話を聞かせてください。

立石アルファ裕一

私は2020年に開催されるパラリンピックを目指して卓球のナショナルチームで活動中です。足に装備を身に着けてプレイしているのですが、いかに競技力をあげ、身体能力をどのように拡張していくか、日々考えながら練習しています。

武井壮

立石アルファ裕一さん

2017年アジア選手権3位 国際クラス別パラ卓球選手権優勝。先天性二分脊椎症による両下肢機能障がい。普段はかかとのみに体重を預けて歩いているが、卓球の練習や試合では前傾の姿勢を保ってプレーできるように、両足に装具を着けてプレーをしている

三宅陽一郎

私は主にゲームにおいて、仮想空間の人造人間をつくるような、「仮想的な生物の脳をつくる」仕事をしています。例えば、プレイヤーが強ければ敵を増やしたり、弱ければレベルを落としたりと、仮想空間全体を把握しながら適したキャラクターを投下する。さらに、それぞれのキャラクターの人工知能をつくり、ゲームの世界に放り込んで、キャラクター自身で意思決定をしてもらいます。

暦本純一

私は情報工学で“人間拡張”について研究しています。人間拡張とは、テクノロジーを使って身体や視覚を拡張しようということ。例えば「喋らなくても声が出る装置」のように、口の中の超音波を利用して、口の動きだけで意志が伝えられるものが挙げられます。このように人間の機能を拡張していくことで、近いうちに人の体験をも共有できる未来がくるのではないかと考えています。

世界を創造する“神様”、メタAIが現実世界をも変える

武井

「ゲームAI」に興味がある人は多そうですね。ゲームAIって、二つの側面があると言われていますよね? 一つはゲーム内に存在する登場人物が何を考え、どのように動いていくかという「キャラクターのAI化」。もう一つはゲームの世界全体を支配し、監視する“メタAI”と呼ばれるもの。三宅さんの研究範囲だと思いますが、いかがですか?

三宅陽一郎さん

三宅陽一郎さん

ゲーム開発者。デジタルゲームにおける人工知能が専門。著作「ゲーム情報学概論」「人工知能のための哲学塾」「絵でわかる人工知能」。Twitter:@miyayou

三宅

武井さんが仰ったように、今デジタルゲームではキャラクターがAIによって勝手に動くだけではなく、“メタAI”が神様のような立場でゲーム全体を制御しているんです。メタAIとは簡単に言うと、ゲームデザイナーの知能のこと。そのゲームの世界を創造する“神様”です。

武井

ゲーム内の“メタAI”が進化していくと、われわれの世界にも影響がありますか?

三宅

はい。最近では、現実世界の中にゲームの世界をつくろうという動きがあります。例えばゲームのメタAI技術を使って、街全体を監視するとか。ただ、“神様”であるメタAI自身は監視するだけで何もできないので、人が集まりすぎて危険だと思ったら街にドローンを派遣したり、より詳しく状況を知りたいときはロボットを動かしたり、事件が起こったときには人間に伝えたりしながら、街全体の調和を取っていく。そういったビジョンがあります。

武井

SF映画みたいですね。 映画のように「AIが人間を超えてしまう危機」は実際に起こるのでしょうか。

三宅

「危機」とまでは、一概には言えないですね。AIのアルゴリズムは人間のデータを集めてをつくるので、AIが人間の行動を予測するようにはなるかもしれませんが。人間の心理や精神状態をAIがいかに理解するかで、提供するサービスの質も変わってくるはずです。

武井

今はわれわれがAIに対して指示を出す段階ですよね。今後、AIが自主的に動き出す時代はくるのでしょうか。

三宅

くるでしょう。世の中の全てを人間だけでは把握しきれないので、そういった意味でも“神様視点”から常に監視できるメタAIが必要だと思います。

AIによって人間はどこまで“進化”できるのか。専門家たちの未来予想

武井

人間はAIやテクノロジーによってどこまで進化できるのでしょうか。皆さんの未来予想をお聞かせください。

立石

私はパラスポーツ選手として質の高い練習・技術を求めているので、それに対応するためにAIを活用していきたいと考えています。そうすることで、卓球の能力も拡張していくんだろうな、と。ただ、どういった場面で何を選択していくのかはしっかり見極める必要があると思います。

武井

見極める必要、というと?

立石

例えば、私自身、装具を使ったことで卓球の能力は拡張しましたが、日常生活に戻ったとき……つまり、装具を身に着けていないときに以前よりうまく歩けなくなってしまったんです。便利なものに頼るというのは、メリットがある一方で、別のところに落とし穴がある。だからこそ取捨選択をしながら最新技術を活用していくことが必要なのではないでしょうか。

武井

確かに。装具は卓球をするときだけ身に着けるものですが、そのうち常に外さなくていいもの、当たり前に身に着けるものに変わっていく時代がくるかもしれないですよね。三宅さんはいかがですか。

三宅

私は、AIによって世界平和が実現できるのではないかと思います。これまでの技術とAIの違うところは、人と人の間に入れるかどうか。例えば、直接会うと喧嘩ばかりしてしまう関係性でも、AIが入ることで仲良く話せるかもしれない。

武井

なるほど。

三宅

AIが人間と人間の関係性を変えることは、社会を、世界を変えることです。だからひょっとしたら世界平和も実現するかもしれないなと。AIと共生することで、これまでにない、人間でもAIでもない新しい次元が広がると思うので、これからはAIをいかに使いこなすかがポイントだと思います。

武井

僕自身もスポーツをやってきてうまくいかない時期があったのですが、おしゃべりを始めてタレントになったらスポーツの方にも良い影響がありました。だからもしそういう「おしゃべり」とか「人間関係の構築」みたいなものを人工知能の力を通して手に入れられたらいいですよね。喧嘩や争いは、言い方一つで変わってしまいますし、国際関係にもプラスになるかもしれない。世界平和、ぜひ実現していただきたいです。暦本さんはいかがですか?

暦本 純一さん

暦本 純一さん

博士(理学)。東京大学大学院情報学環 教授。マルチタッチ発明者。Twitter:@rkmt

暦本

私はおそらく、近未来は自分自身をもプログラムできるようになると思います。人間拡張の研究を進めていると、そもそも技術は“自分と違うもの”ではなく、“自分をより強化するもの”だと感じていて。今、プログラミングの授業で画面に何かを付け足したり補足したりしていますが、それを人間に活用すれば、足りない能力はプログラミングのように補ったりパーツを決めたりできるかもしれない。生まれ持った限界ではなく、拡張し、より強固にすることで、ものづくりの限界も超えられるかもしれない、と思います。

武井

人間が努力して手に入れられるものと、AIが掛け合わせてつくるものでは、成長の加速度も変わってきそうですね。僕もそんな素敵な未来を見られるよう、なるべく長生きして、体を健康に保ちたいと思います……!

取材・文/高城つかさ


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