キャリア Vol.786

話題の駐車場予約アプリ『akippa』金谷元気に見る“営業万能説”営業以外「何もできない」のにTechベンチャーの社長に!

新卒で営業職に配属されて数年、「営業しかできない」ことに焦りや不安を感じる20代もいるだろう。しかし、全国の空き駐車場予約アプリ『akippa』を運営する金谷元気さん(34歳)は「いや、20代のうちに営業力を極めることも、人生の可能性を広げるんですよ」と優しく教えてくれた。

実際に今、新しいシェアリングエコノミービジネスとして注目を集めるakippaの急成長には、金谷さんが20代で培った営業力が存分に生かされているという。「20代は営業力を極めることで、可能性を広げられる」、その言葉の真意を探るべく、金谷さんの「営業に助けられた人生」について聞いてみた。

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akippa株式会社 代表取締役社長 CEO 金谷元気さん
1984年生まれ。“世界一のサッカー選手”になるべくJリーガーを目指し、関西リーグなどで プレー。ザスパクサツ群馬の練習生として活動するもプロ契約はならず引退。その後、2年に亘って上場企業で営業を経験し、2009年2月に24歳でakippaの前身となる企業を創業した

「200円の電車代が払えない」から始まった営業人生

小学生の頃、マンガ『キャプテン翼』の36巻を読んで「世界一のサッカー選手を目指す」と決意した金谷さんは、22歳までJリーガーを目指していた。引退するまでは「サッカーしかできませんでした」と笑う金谷さんだが、実際に当時はアルバイトさえ満足に続けられず、苦労した経験がある。

「ファーストフード、ファミレス、魚屋さん、アイス屋さんなど、飲食店を中心にとにかくいろんなバイトをやったんですけど、僕は全く仕事ができなかったんです。あまりにも使えない奴だから、シフトに入れてもらえなくなって辞める、というのがいつものパターン。もうバイトが嫌で、僕は一生会社で働けないなって思っていました

そんな金谷さんの運命が変わったのは、20歳の頃。当時付き合っていた彼女とのデートの帰り道だった。金谷さんが財布を開けると、200円しかない。一方彼女は、財布を持ってきてすらいなかった。電車代は一人270円。彼女に「歩いて帰ろう?」と懇願するも「嫌だ!」と一蹴されてしまった金谷さんは、頭を抱えた。

「ちょうど雨が降ってきたので、近くにあった100円均一で、傘を2本買ってきました。その後、持っていた紙に1本300円と書いて、2人組のサラリーマンに売ったんです」

安く仕入れたものを高く売る。これぞ商売の基本だが、この状況でそんなことを思いつく人はなかなかいないだろう。この時から、金谷さんの人生の歯車は勢いよく回り始める。

「それからは『物を安く仕入れて高く売れば利益が残る』ということに味をしめて、いろんな物を売りました。1本39円でジュースを仕入れて花火大会で150円で売ったりして。商売というものが、面白くて仕方なかったですね。初めてサッカー以外のことに興味を持った出来事でした」

日々さまざまなモノを売り歩きながら、サイバーエージェントの藤田晋さんや堀江貴文さんの書籍などを読み漁るように。次第に「自分も起業して、本格的に商売をやってみたい」という気持ちが大きく膨らんでいった。

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そんな気持ちと向き合うため、22歳の時サッカー人生最後のチャレンジに打って出る。当時J2リーグのザスパクサツ群馬の練習生だった金谷さんは、プロ契約を目指してテストを受けたのだ。22歳といえば、同級生は大学を卒業するタイミング。これがラストチャンスだと決め、最後のテストに臨んだ。しかし、結果はあえなく不合格で、サッカー選手を引退することに。金谷さんは「今思うとサッカーより起業への熱が高まっていることを、薄々感じていたのかもしれません」と当時を振り返った。

営業会社を立ち上げるも、銀行残高1万円の窮地に

「まずは社会のことを知ろう」と考えた金谷さんは、社員数1000人ほどの通信系上場企業に入社し、営業職として社会人人生をスタート。「自分で商売をやっていた経験もありましたし、営業が向いていたんだと思います」とやんわり笑った。

「当時は、携帯電話や回線の契約を取る営業をしていました。今までのアルバイトと違って、目標数字が達成できるなら、いかようにもやり方を考えられるのが営業の面白いところです。だからこそ用意されたスクリプトを読み上げるだけの営業だとつまらないなって思っていて。例えば『1件売れたらそのやり方を4倍速でやってみよう』とか、『目標数字は1週間でさっさと達成しちゃって、あとは自分が決めた数字を追おう』といった“自分ルール”をつくって、営業を楽しんでいました。とにかく爆速で売り上げを伸ばす方法を試行錯誤した2年間でしたね」

その後「マネジャーに昇格したら会社を辞めて起業する」と決めていた金谷さんは、社内最速レベルの2年でマネジャーとなり会社を辞めて、自分で新会社を立ち上げた。前職での経験を生かし、携帯電話、OA機器、ウォーターサーバー、通信サービスなどを販売する営業会社だ。

「最初は家に電話回線を引いて、一人でテレアポするところから始めました。しばらくして、飲み会で知り合った24~25歳のギャル2人をバイトで雇いました(笑)。彼女たちはシングルマザーで、一生懸命働いてくれて、とてもありがたかったです。1年後には社員4人、バイト5人の計9人の会社になっていました」

テレアポして、とにかく契約数を取っていく。一般的には「つらい」と思われがちな仕事だが、ガッツのあるメンバーのおかげで業績は右肩上がりに。しかしある時、金谷さんは重大なことに気付いた。

“契約数を上げてナンボ”な労働集約型のビジネスなので、社員が休んだり、連休の多い月は契約件数が下がるんですよね。このままではいけないと危機感を覚えました」

そこで成果報酬型の求人サイトを新たに立ち上げることに。ところがここでも壁にぶち当たる。後から利益が得られるビジネスモデルゆえに、短期的な売上が得られなかったのだ。結局、資金は底を尽き、当時30人の社員を抱えて、銀行の残高が1万円という状況に。役員には数カ月も給料が支払えないという絶体絶命のピンチに陥った。

営業力さえあれば、どんなピンチも乗り越えられる

社員数30人で、口座が残り1万円。そんな会社設立以来のピンチを救ったのは、金谷さんの営業力だった。

「資金難になると、銀行は資金を融資してくれませんでした。途方に暮れて本屋で『資金繰りに困った時に読む』みたいな本を手に取ったら、『資金はベンチャーキャピタルから調達する』という項目があって。その後すぐに『ベンチャーキャピタル 日本』でWeb検索して、片っ端から電話をかけていきました。その結果、ベンチャーキャピタル最大手のJAFCOが6500万円融資してくれることになり、難を逃れたんです」

まさに新規開拓営業で培った「大量の顧客接点を生み出す手法」が生きたわけだが、どんな相手にもひるむことなく顧客接点を創り出していける勇気と推進力は、その後何度も金谷さんを助けてくれたという。

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求人サイトへの挑戦で資金難になった失敗を生かし、融資を得てからは「日本の困りごとを解決する企業になろう」と企業理念を制定。社員と会議を重ね、空いている駐車場をシェアするアプリ『akippa』のサービスを構想した。

「事業を思い付いたはいいけど、当時はシェアリングエコノミーって言葉も知らなかったし、もちろんWebアプリを作った経験もありません。僕が出来るのは営業だけだったので、コワーキングスペースに行って作業中のエンジニアに次々と声を掛けて、プロダクトを作ってもらえるよう頼み込んだんです」

『akippa』は空き駐車場を貸してくれるオーナーと、駐車場を利用したいユーザーをつなぐサービス。協力してくれるオーナーを探すため、金谷さんは自ら自転車に乗って営業を行い、契約駐車場をどんどん増やしていったという。

「この時学んだのは、営業力さえあれば、自分より優秀なプロフェッショナルたちが力を貸してくれるようになるということ。もともと僕はバイトすらできないような人間ですから、営業して誰かに助けてもらうしかありません。自分一人でできないことをできるようになろうと苦労するより、よほど近道だなと思いました」

では、そんな金谷さんにとって「営業力」とは何なのだろう。

「僕は、営業力は人間力そのものだと思っているんです。営業で大事なことは、人間的な器を大きくすること。視野を広げ、視座を高め、謙虚であり続けること。すると人間力が上がって、周りから応援される人になる。次第に自分より優秀な人たちが集まってくれる。それが営業という仕事の真髄だと思うんです。そうすると、自分に企画力やマーケティング力がなくても、新しいビジネスにチャレンジできるようになるんですよ」

これは金谷さんのように経営者でなくても、企業で働く人にとっても同じはず。新しいサービスを立ち上げたければ、自分で企画ができなくても企画ができる人を巻き込めば形にできる。マーケティングに強くなりたければ、その部署の人とプロジェクトを興せばいい。自分の人間力を上げることで、動いてくれる人の輪はどんどん大きくなるだろう。

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これから金谷さんはakippaで「困りごと解決企業として世界一」を目指して爆進していくつもりだ。

「まずは現在150万人の『akippa』ユーザーを、3年後には1000万人まで増やすことを目指しながら、僕たちが世の中にどう貢献できるのかを考えていきたいですね。20年後、日本の3割が高齢者となり、車を運転できなくなるでしょう。過疎地では乗合バスもなければ、スーパーや街の中心部への移動手段すらなくなります。すなわち人が人と会うことが困難な世の中になる。その時『akippa』で利用している土地を、自動運転電気自動車の充電スポットや、乗合バスの停留所として活用したいと思っていて。すでにakippaのユーザーレビューにもありますが、『akippaのおかげで孫の運動会に行けました』なんて言われたら最高ですよね」

サッカーで世界一になることを夢見た少年は、今はビジネスで世界一を目指し、多くの人の困りごとを解決したいと願う器の大きな人間になった。営業スキルがあるということは、すなわち“何でも叶えられる”可能性に満ちているということ。金谷さんの人生が、それを証明している。

取材・文/石川 香苗子 撮影/大室倫子(編集部)

Information

金谷さんが登壇するイベント『SHARE SUMMIT2019』が、
2019年11月11日、虎ノ門ヒルズにて開催されます!

SHARE SUMMIT2019 公式ホームページ:https://sharesummit2019.com/


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