スキルアップ Vol.815

「障害者のため」は「自分のため」になる? 職場の障害者への接し方の悩みをプロに相談してみた

2020年はついに東京オリンピック・パラリンピックが開催される。昨年から徐々にメディアで選手たちの話題を目にすることも増えてきた。

そこで、今回は「障害者との接し方」について考えてみたい。

障害者雇用が推進され、従業員数45.5人以上の企業は一定割合以上の障害者を雇用することが義務付けられている。「職場に障害者がいる」ことは今後増えていくだろうし、すでに一緒に働いている人もいるはず。

ただ、「どう接していいか」が分からずに、戸惑ってしまうこともありそうだ。

障害のこと、聞いてもいい?
ミスをどう指摘したらいい?
自分の気遣いが逆に相手を傷付けてしまうかも……。

そんな「障害者への接し方の悩み」について、働く障害者と職場の双方を支援している東京障害者職業センターの次長・小嶋文浩さんと、主任障害者職業カウンセラー・古野素子さんに相談してみた。

「この障害の人にはこう配慮すればOK」なんてものはない

編集部

今日は「障害のある方との接し方」をお伺いしたいと思います。その前に、そもそも企業で働いている障害者は、どのような障害を持っている人たちなのでしょうか?

小嶋さん

数で見ると、身体障害の方が多いですね。

<a href='https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000201963.pdf' target='_blank' rel='nofollow noopener noreferrer'>障害者雇用のご案内(厚生労働省)</a>

出典:障害者雇用のご案内(厚生労働省)

小嶋さん

ただし、身体障害、精神障害、知的障害と三つに大別されているものの、それぞれの具体的な障害の種類は多岐にわたります。例えば最近関連書籍が多く出ている発達障害は精神障害の一つですが、発達障害のタイプは自閉症、アスペルガー症候群、注意欠如・多動性障害(ADHD)などさまざまです。

編集部

とはいえ、「働ける程度の障害」というのは共通点としてあるのでしょうか?

古野さん

それも一概には言えないですね。障害者手帳の等級(※)で線引きできるようなものでもありません。
(※障害の程度を表すもの)

小嶋さん

身体障害の中の肢体不自由を例にすると、最重度の1級に該当するのは車椅子の方です。ただ、パラリンピックに車椅子の競技があるように、スポーツで活躍している人もいる。
つまりエレベーターや車椅子用トイレといったハード面が整っていれば、車椅子に乗っていても健常者と同じように能力が発揮できるわけです。そういう意味で、障害の等級は業務上の困難とは必ずしも一致しません。

編集部

「障害者」とまとめてしまいがちですけど、本当にいろいろな人がいるんですね。ということは、大前提として「こういう人にはこう接しましょう」というものはないのでしょうか?

小嶋さん

そうですね。非常に個別性が高いので、必要な配慮も人によりさまざまです。「この障害の人にはこう配慮すれば大丈夫」というステレオタイプで考えるのではなく、対話をしながら確認し、対応をしていただくのが理想ですね。

古野さん

私たちも一般論として「この障害の方はこういう特徴がある」といった知識は持ってはいますが、あくまでも参考にする程度。決めつけられるものではないので、一人一人と話をする中で教えてもらうようにしています。

悩み1.「障害のこと、聞いてもいい?」

編集部

本人との対話が大切であることは分かりました。ただ、その対話の仕方が分からないんですよね。これも人によるとは思うんですけど、本人に障害のことを聞いてもいいものなのでしょうか?

小嶋さん

「障害のことをどの程度開示して働くか」は人によって考えが違います。この点については会社側が障害および必要な配慮を入社の時点で確認し、同僚の皆さんに理解してもらえるような伝え方をすべきだと思います。

編集部

ということは、本人に直接確認をするよりは、人事や上司に相談する方が現実的でしょうか?

小嶋さん

初めの取っ掛かりとしてはそう思います。信頼関係が築かれていないうちに、いきなりセンシティブな話題を直接聞かれたら驚いてしまうでしょうし、警戒するでしょう。

古野さん

ただ、そもそも障害のことを聞きたい理由は、「一緒に働くためにどうしたらいいか知りたい」「相手を困らせたくない」といった気持ちからくるものだと思います。それであれば、障害にとらわれなくてもいい気がしますね。

編集部

どういうことでしょう?

古野さん

障害のこと(障害名や診断名)を聞いても、「で、どうしたらいいの?」となってしまうと思うんです。だったら、「今やっている仕事で難しいことはある?」「何か困っていることはある?」という聞き方をした方が具体的な行動につながりますよね。

職場の障害者への接し方
編集部

たしかに……!

小嶋さん

このとき、聞き方には注意した方がいいですね。例えば、「大丈夫?」「分かった?」という聞き方だと相手は困りごとを話しにくいもの。障害の有無に関係なく、「大丈夫じゃない」「分かってない」とは言いにくいですよね。

古野さん

「『不安なことがあったら声を掛けてね』という一言があると質問がしやすい」という障害者の声はよく聞きます。
妊娠中の方やぎっくり腰になってしまった方など、いろいろな事情を抱えた人と一緒に働くときって、「手伝った方がいい仕事ありますか?」と聞きますよね。障害者もそういう人たちの中の一人だと考えていただければと思います。

悩み2.「ミスをどう指摘したらいい?」

編集部

アシスタント系の部門に障害者が配属されることは多いと思いますが、依頼した仕事にミスがあった場合、どう指摘したらいいでしょうか?

古野さん

「できていないことを指摘する」と思うと気が引けますけど、「最適な伝え方を考えるために、何が問題だったかを聞く」と思えば、ハードルはグッと下がると思います。
「相手がどういう依頼だと受け取ったのか」を確認するつもりで聞けば、「じゃあ次はこう伝えた方がよさそうだ」というのが分かりますし、今後のより良い依頼の仕方も見えてきますよ。

編集部

たしかに「自分の説明の仕方を見直す」というスタンスであれば、随分と気持ちがラクになる気がします。

小嶋さん

知的障害の方の場合、抽象的な説明では理解しにくいこともあります。「ちゃんとやってね」ではなく、手順を一緒に確認するなど、具体的な説明をするのもポイントですね。一気に全部説明するのではなく、一個ずつ確認するとスムーズです。

悩み3.「自分の気遣いが逆に相手を傷付けてしまうかも……」

編集部

気にしすぎだとは思うのですが、「丁寧すぎると逆に傷付けてしまうかも」と考えてしまうこともあります。説明が過剰になってしまった結果、障害者の方が「バカにされてる」と感じてしまうのでは? と心配になってしまうというか……。

古野さん

「私(説明する側)が不安なので、私のためにこうやって説明したい」という考え方をするといいと思います。例えばホワイトボードに書きながら説明をしているときに、「メモは自分で取れます」とおっしゃる方がいた場合、「私がどう話したか忘れやすいので」と、“私のための確認”であることを伝えられれば、嫌な感じはしませんよね。

職場の障害者への接し方
編集部

関連する悩みで、「困っていそうだな」と思っても、その気遣いが逆に相手を傷付けてしまうかも……と気にするあまり、結局何もできないこともあります。電車で高齢者に席を譲る時に「年寄り扱いするな」と怒られたらどうしようと考えてしまうのと近い感覚なのですが……。

小嶋さん

自分の手が空いているときに「何かやりましょうか?」って忙しそうな人に聞くのと同じ感覚でいいと思いますよ。その結果、手伝いを要請するかどうかは本人が決めることですから。
ただ、過干渉になってしまうのは問題ですし、そのラインは人によるので、ここは聞いてみなければ分からないですね。

古野さん

もしも「手伝いはいらない」と言われたら、「おせっかいな時は今みたいに教えてくださいね」と私だったら伝えます。そうやって「教えてもらった方がありがたい」というメッセージを伝えれば、今後同じようなことがあっても「前に教えてねって伝えたからこう言ってくれてるんだ」と思えますよね。

編集部

なるほど……。

古野さん

結局は「関わってみなければ分からない」んです。初めて関わる人から「どういう関わられ方がいいですか?」と聞かれても答えられないですよね。だから適切なやり方は一緒に仕事をする中で探っていくしかありません。

小嶋さん

むしろ遠慮してお客さん扱いしてしまうことで、相手を傷付けている可能性もあります。「自分が会社に貢献する一人だと認められていない」という理由で辞めてしまう人も少なくないんです。

古野さん

職場でも「役に立っていると感じられることがうれしい」とお話になる方はたくさんいます。それが働きがい、さらには生きがいになることは知っていただきたいですね。

編集部

以前、姉妹媒体で取材した日本理化学工業の会長さんがまさに今みたいなお話をしていました。

小嶋さん

障害のある方もあくまでも「同僚」ですからね。与えられるばかりの一方通行だと、心の負担になってしまうこともあります。giveだけじゃなく、「忙しい時は手伝ってね」というtakeも意識していただければと思います。

障害者への接し方を考えることで「多様なタイプの後輩」とも働きやすくなる

職場の障害者への接し方
編集部

お話を聞いていて思ったのですが、もしかして障害者との接し方のポイントって、新人の後輩に接するときとそんなに変わらないのでしょうか?

小嶋さん

そう思います。もちろん障害の種類に応じた配慮は必要ですけど、コミュニケーションを取る上での基本は同じです。
障害者と接した経験が少ないから「知らない世界の人」と思って戸惑いを感じてしまうのだと思いますが、難しく考えず、普通の気遣いで大丈夫。20代の皆さんには、障害のある方にとっての「相談しやすい同僚」になっていただけるとありがたいです。

古野さん

障害のある方とのコミュニケーションを考えることは、後輩との接し方を見直すことにもつながります。伝える力や目配り、気配りをする力は絶対にアップしますから、さまざまなタイプの後輩とも働きやすくなると思いますよ。

編集部

「どんな人とでもコミュニケーションが取れる力」が身に付く、と。

古野さん

特に20代の方は「職場の困りごとに共感できる身近な存在」だと思います。自分が先輩や上司に言われて困ったことはやらないというのは、あらゆる人との接し方を考える上での基本ですよね。
例えば、「やりやすいようにやったらいいよ」って言われたけど、どうしていいか分からなくて困った経験ってありませんか? やりやすいようにやったら「これじゃダメ」って言われたり(笑)

編集部

あります(笑)

古野さん

そうやって自分が戸惑ったことに対して「あなたも困ってない?」と聞いていただけるとありがたいです。困った経験がある人は、やり方を考え、工夫しているもの。そういうプロセスを振り返って障害者に伝えることは、自分の成長のきっかけにもなると思います。 「障害者のために」ではなく「自分のために」と思って相談に乗ってもらえるといいのではないでしょうか。

企画・取材・執筆/天野夏海 撮影:川松敬規(編集部)


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