キャリア Vol.821

調整仕事って役立つの?GO三浦崇宏に相談したらキッパリ喝を入れられた「20代は調整仕事をナメたら終わるよ」

ダウンタウン浜田雅功さんが優しい言葉を投げかける出前館のCMや、朝日新聞朝刊に全30段で掲載された『新聞広告の日プロジェクト 朝日新聞社×左ききのエレン Powered by JINS』、三陽商会のオーダースーツブランド『STORY & THE STUDY』の新規事業立ち上げなど、既存の広告・PRの枠にとらわれない話題のプロジェクトを数々実現してきたThe Breakthrough Company GO。

同社の代表取締役兼PR/CreativeDirectorを務めるのが、三浦崇宏さんだ。気鋭のクリエーターとして注目されると同時に、働く人の悩みをズバッと解決する清々しい発言が、若手ビジネスパーソンからも支持されている。

初の著書『言語化力(言葉にできれば人生は変わる)』(SBクリエイティブ)も発売前から予約でAmazonのビジネス書ランキングで1位になるほどの人気ぶりだ。

三浦崇宏

The Breakthrough Company
株式会社GO
代表取締役 PR/CreativeDirector
三浦崇宏さん

博報堂を経て2017年に独立。「社会の変化と挑戦」にコミットすることをテーマに、The Breakthrough Company GOを設立。日本PR大賞・カンヌライオンズクリエイティビティフェスティバルなどを受賞。最近はCAMPFIREの企業ブランディングや、山陽商会のオーダースーツブランド『STORY & THE STUDY』、社会解決型新聞広告『朝日新聞×GO「ブランドニュース」』、採用直結型のクリエイター育成プログラム『次世代クリエイティブ講座』の立ち上げも担当。初の著書、『言語化力 -言葉にできれば人生は変わる-』が2020年1月22日 発売(SBクリエイティブ)

そんな三浦さんの下記のツイートが昨年、SNS上で話題になった。

社内会議のセッティングに、取引先との打ち合わせ……、20代のビジネスパーソンが“調整仕事”を先輩や上司から任されるケースは多いだろう。

中には、「会議に参加するメンバー全員の要望を聞いてスケジュール調整をして、資料を整えていたら、あっという間に1日が終わってしまった」なんてこともあるかもしれない。

そんな時にふと頭を過ぎるのが、「調整仕事って、何の役にたつの?」という疑問。

もっと確かなスキルが身に付く仕事をした方がいいのではないか。
このまま調整仕事ばっかりしていていいのか……。

そんな焦りを感じたことがある20代もいるはずだが、三浦さんはそんな20代に対して「調整仕事をなめるな」ときっぱり喝を入れた。その理由とは……? 20’s type編集部は、三浦さんのもとに話を聞きに行った。

全員に「YES」と言わせる“鮮やかな妥協点”を探れ

このツイートは、昨年『Tokyo Work Design Week』という「これからの働き方」を考えるイベントに登壇した時に、会場にいた20代の広告営業マンから受けた相談に対する答えだったんだよね。

三浦崇宏

俺に質問をくれた彼は、広告会社に入ってクリエーターになりたかったのに営業に配属されてしまったらしくて。それで、「調整仕事ばっかりやらされている。何もスキルが身に付かないし、成長している気がしない」って言ってたわけ。

それを聞いて、何言ってんだよ!って思ってさ。

調整って、仕事の根幹にあるすごい大事なものだから、それが分かっていない時点ですごくもったいないなって感じたんだよね。

結局、調整仕事の本質って、プロジェクトに関わる全員の利害をマネジメントすること。スケジュール調整一つとってもそうで、会議や商談に参加する人たち全員のニーズを汲んで、最も適した日をセッティングするわけでしょ?

あらゆる人にとっての「最適解を見つける」って、ビジネスの基本じゃないですか。

仕事ってデザインとかプレゼンとか企画書制作みたいな分かりやすい名前のつく仕事だけじゃなくて、調整仕事の一言にまとめられてしまう無数のタスクやアクションがあって、それこそ実はものすごく大事なわけよ。

例えば連絡一つでも電話・メール・LINE・スラックのどれを使うか。いつのタイミングで連絡するか。口調はフランクなのがいいか、硬い方がいいのか、挨拶するか結論からぶつけるか。無数の条件から相手の気持ちと自分の状況の間でベストな答えを見つけて意思決定する。

一つ一つの名前もない小さな作業に無数の判断軸があることを理解して意思決定しないといけない。そして、そのことを自覚してやるだけで、自分だけじゃない、チームや会社の仕事の成果が圧倒的に変わってくる。

広告づくりの仕事も、複数の利害関係者の「最適解」を見つけるための作業が死ぬほど発生します。

例えば、クライアントは出来上がったポスタービジュアルを見て「もっとロゴを大きくしたい」って言うし、クリエーターは「そんなのダサいから嫌です」って言う。ところが、その広告を見る消費者は、「別にロゴが大きかろうが小さかろうが、全然気にならない」って言う。

じゃあ、そんなときにどうするか。

全員にとっての最適解を提案して、皆を納得させるしかないんだよね。言い換えると、「鮮やかな妥協点を探れ」ってこと。

妥協って聞くと何だか負けたようなニュアンスが漂うけど、全くそんなことはなくて。

こんな鮮やかな着地点、見たことないです」って言われるようなクリエーティブな最適解を見つけ出せる奴こそ、本当に仕事ができる奴だと思う。

華やかな仕事の裏には、数えきれないほどの調整仕事が“必ず”ある

俺も今は「調整仕事が大事だ」って言い切ってるけど、その本質にちゃんと気付くことができたのは、20代の頃に博報堂で数年働いた後だったと思う。

三浦崇宏

鮮明に記憶に残っているのは、五反田にあるフレンチレストラン『ヌキテパ』さんにご協力いただいて実現した「土のフルコース」っていうPRプロジェクトを手掛けた時。

これは東日本大震災の原発事故による風評被害の後に、安全性の高い土を販売していたプロトリーフというバイオベンチャー企業から「土が売れなくなってしまった」という相談を受けたことがきっかけで始まったプロジェクト。

その企業の土はあらゆる検査をクリアしていて、研究機関の方からすれば「この土は食べても大丈夫なくらい安全です」っていうお墨付きももらっていたんですよ。でも、何となく汚染のイメージが先行してしまって、その土を買う人が激減していた。

そこで俺が考えたのは、「この土を美味しく食べられないか」っていうこと。食べられるほど安全なら、それを証明しちゃおうと思って。そこからはもう、細かく地道な「調整」の積み重ねです。

新しい食材を面白く、美味しく使ってくれるような都内のレストランをリストアップして片っ端から電話してアポを取って。

「土の料理を飲食店で出せば信頼回復につながるの?」って不安がるクライアントを説得しつつ、メディア向けにこの取り組みの新しさや意義を説明して取材に来てもらって……。

結果的にこの「土のフルコース」はメディアですごく話題になって、クライアントの課題解決にもつながった。ヌキテパさんにも予約が殺到した。ついでに俺も、このPRプロジェクトでカンヌライオンズや日本PR大賞をいただけた。

結果だけ見れば満点だけど、実現までにたくさんの小さな、鮮やかな妥協の積み重ねがあったわけだよ。

クリエーティブな仕事の裏には、必ず調整仕事の積み重ねがある。それなくして話題のプロジェクトも華やかな仕事もない。そういうことを体で学べた経験でした。

「プロセスまで楽しく」なんて甘えじゃない?

今の俺を見ていて、「派手なことばっかりやって、楽しそうだな」って思ってる20代はいっぱいいると思うんだよね。

でも、これだけは言っておきたい。今の俺がやっている仕事も、千個、一万個……数えきれないほどの調整仕事の上に成り立っているっていうことを。

三浦崇宏

世の中にはビジネス芸人って言われるような、目立って情報発信をしているビジネスパーソンが結構いる。その人たちに対して、華やかだし、楽しそうでいいなぁって思うかもしれない。

だけど、目立ってる奴は、この記事を読んで嫉妬している人たちよりもずっとはるかに苦しんでいるっていうことは頭に入れておいてほしい。

誰もラクして楽しい仕事はできないものだっていうことをね。もっというとラクと楽しいはイコールではないからね。本当に楽しい瞬間はラクの反対側にあることが多い。

だけど、来年こんな風に自由に、思いっきり仕事をしているのは、もしかすると君かもしれない。

今の時代、ちょっと有名になるのなんて一瞬だからさ。「答え合わせはまだ先」ってよく言うんだけど、答えが出るまで頑張り続けるしかないと思うんだよね。

この間のイベントで会った20代の営業マンみたいに、「調整仕事がつらい」って言う奴はいっぱいると思うけど、そもそも、そういう仕事がつまんないのは当たり前じゃないですか?

調整って、仕事のプロセスの一つだからさ。いろいろな立場の人の言い分を全部聞いて、皆が納得する着地点を模索するんだから、思い通りにならないことは多いし、つらくて当然。

でも、プロセスが楽しい仕事なんて、この世にどれだけあるんだろうね。

何のために目の前のことを頑張るのかって、その先にあるゴールで輝かしい景色が見たいからじゃない?

マラソンとか、登山とか、何でもいいけど途中の道はすげーつらいじゃん。でも、走り切ったり、登り切ったりした後の感動が味わいたいがゆえに、そのつらいことに挑戦するわけでしょ?

仕事も全く同じだよ。「プロセスまで含めて全部楽しいものにしたい」なんていうのは、ただの甘えじゃないですか?

「口説き文句」は相手によって使い分けよ

三浦崇宏

じゃあ、つらい中でも調整仕事をどうしたらうまく進められるのか。俺の経験から言えるのは、次の二つを大事にすること。

【1】自分が描いているビジョン、目的を関係者に共有すること

例えば、君が何かのプロジェクトを実現したいとして、そのためにあらゆる立場の人に協力を依頼したいのであれば、なぜそのプロジェクトの実施が今必要なのか、プロジェクトが実現するとどんな良い影響があるのか、しっかり言語化して、目的を皆に分かってもらうことが大事。

会議や商談のセッティングでもそう。なぜやるのか、その会議や商談を経て次にどこに進みたいのか、目的を明確に言葉で定義しておくだけで、参加者のモチベーションもスタンスも劇的に変わるはず。

【2】 相手が何を大切にして働いているのか想像すること

次に大事なのは、自分が協力してほしい人にとって「一番大事なことは何か」を想像して依頼をかけること。

例えば、身近な上司に褒められたいとか、今の会社で出世したいとか、そういうことを大事だと思っている人が相手なら、自分のプロジェクトに関わってもらうとそれが実現される可能性が高いってことを示せばいい。

逆にそういうことはどうでもよくて、「社会のためになることがやりたい」と思っている人が相手なら、自分のプロジェクトがいかに社会貢献につながるかを説明して口説くべき。

そうやって、相手の価値観に合わせて提案するってことが調整をスムーズに進めるカギです。

仕事っていうのは一人じゃできないもの。複数の人が関わって進めていく以上は、必ず「調整」が必要になってくるんだよね。これは、営業職に限った話ではなく、エンジニアでも、クリエーターでも、どんな人でもそうだと思う。

だから、調整仕事を「無駄だ」なんて言うなよ。ビジネスパーソンとして必須かつ重要なスキルであることは間違いないし、君にとって“最強の武器”になるはずだからさ。

取材・文/石川香苗子 撮影/川松敬規 企画・編集/栗原千明(編集部)


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■書籍紹介
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