キャリア Vol.831

20代の頃はどんな仕事も引き受けていた塩谷舞が「仕事を断わる」ようになった理由

仕事のYES/NOボーダーラインを探れ!
働き方改革が進み、「効率よく働くこと」が推奨されるようになってきた。とはいえ、会社の中にはまだまだ「これって本当に必要?」と言いたくなるような仕事、慣習も残っているのでは?「無駄なことはしたくない」、それが20代の本音だけど、先輩たちはそうとも思っていないみたい……? 断っていい仕事、だめな仕事、どうやって見極めるべきなのか、さまざまな大人たちに聞いてみた
塩谷舞
オピニオンメディアmilieu編集長・文筆家 塩谷 舞さん
1988年大阪・千里生まれ。京都市立芸術大学卒業、大学時代にアートマガジン『SHAKE ART!』を創刊、展覧会のキュレーションやメディア運営を行う。12年にCINRA入社、15年から独立。現在は大阪とニューヨークの二拠点生活中
Twitter:@ciotan、Instagram:ciotan

「以前はどんな仕事も断らずに引き受けていて、1日17時間くらい働いていました」と話す文筆家の塩谷舞さん。

塩谷さんはもともと会社員としてWebディレクターやPRを経験後、独立。フリーランスになってからは、Webメディアのライター、企業の商品PRや広告企画、SNSマーケティングなどさまざまなプロジェクトに携わりつつ、インフルエンサーとしても露出の多い日々を過ごしていた。

しかし30代に突入した今は、「仕事を断る基準」を設けたことで「ヘルシーな生き方ができるようになった」という。

仕事を絶対に断わらない20代、仕事を断わることを良しとするようになった30代。どちらも経験してきた塩谷さんは、「今の20代」の断る/断わらない基準についてどう考えるのだろうか?

「頑張りすぎても迷惑がかかる」ことを知った

これは武勇伝でも何でもないのですが、20代の頃の私は1日17時間くらいパソコンを触る生活をしていました。20歳でフリーマガジンを立ち上げた時も、会社に入ってからも、独立してフリーランスになってからも、四六時中パソコンに張り付いたり、時間の隙間を埋めるように予定を詰め込んだり……。

その頃は「断る」なんて考えたことがありませんでした。任せられると気持ちが高揚したし、たとえそれが無駄な仕事に見えても、目の前のチャンスを断ったら相手をがっかりさせ、自分の可能性も潰してしまうような気がしていたんです。

例えば「お茶出し」であれば、会社の面接に来た人と少し喋って緊張をほぐしたり、直接喋れないような相手とでも少しだけ接点を持てたりしますよね。新入社員の私にとっては、それが自己紹介の機会に繋がったりもする。

それにお茶出しっておもしろくて、相手にとっては空気として扱われるときもあるし、丁寧に「ありがとうございます」と言ってくれる人もいる。そうすると、個性や状態が少し見えてきたり。任される仕事が何であっても、自分なりに意義や楽しみを見つけて取り組んでいたんです。

ところがそうした日々が続いて、どんどん忙しくなっていくと、ある時体が動かなくなりました。ベッドから起き上がることができなくなってしまい、病院で診断を受け、会社を休んでしばらく地元に帰ることに。

その時は、多忙なはずの男性上司がすべての仕事を引き継いでくれたんですね。感謝と同時に申し訳なさでいっぱいでした。

塩谷舞

その後、フリーランスになってからも、多忙な最中に体を壊してしまうことが何回かあって、入院することもありました。

講演会の仕事をキャンセルしたときは、ずっと準備してくださっていた方、楽しみにしてくださっていた方の期待に答えられなかったことが情けなくて、病院で泣いてしまったことも。

最近になってそれが、女性特有の病気である子宮内膜症由来の腹痛だった、と分かったのですが。体の方は何度も悲鳴をあげてくれていたのに、それを見て見ぬ振りしてやってきてしまった。だから、オーバーワークはもう辞めよう、と思いました。

「やりたい仕事」「できない仕事」を分けることに

特に広告やクリエーティブな業界は、オーバーワークできる人が強い。そして、そうした仕組みの中では、私は弱いんです。さらに周りを見回せば、才能はあっても、精神的に、肉体的にやられてしまう同世代が多いことにも気が付きました。体力面だけで分けると、女性には厳しい現場も多い。

だから根本的に、働き方の仕組みから変えていかなきゃいけないと思って、次第にやりたい仕事、できない仕事」を明確に世の中に伝えていくようになりました。ちょうどその頃アメリカに拠点を移すことになったので、物理的に受けられない仕事も出てきたし、ペーパーレス化なども必要性が増してきましたしね。

仕事をお受けする基準としては、自分が共感できることと、世の中を少しでもヘルシーに出来ることを大切にしています。社会や環境にも無理がなく、自分自身にも無理がない、「ほどよい量」といったところでしょうか。

自分が共感できないことを無理に引き受けてしまうと、互いに心身をすり減らしてしまいますし、1つの案件で心の中が曇っていると、心がたちまちネガティブな感情で満ちてしまいます

例えば、最近はペットボトル飲料のお仕事などはお断りしています。

ペットボトルは便利ですが、問題も山積みです。飲料メーカーさんには環境負荷の低いペットボトルやガラス瓶、紙パックなどに切り替えて欲しいですが、自分がそこに関わることは難しい。だから小さなアクションとして、代理店の方に「環境負荷が高い商品は宣伝できません」と伝えていますし、SNSでも発信しています。

「その理由で断るの?!」と驚かれることもありますが、「じゃあ、環境に配慮した方向に転換します」なんてこともあるかもしれない……という期待を込めて。

もう一つ、小さいことだと「紙の請求書はもう送りません」と宣言し、ペーパーレスで進められる仕事のみに絞っています。儀式的に使われていくだけの紙とかインク、もったいないなぁ、って……。

私のスタンスを伝えると、大企業でも意外と「では経理に掛け合うので、デジタルでOKです!」みたいに、理解してもらえるものなんだということも分かってきました。

「断る」ことは社会に対してのパフォーマンスという意味合いもある

私が「断る」ことで、企業に「そろそろうちの会社も環境について考えなきゃ」と気付いてもらえたり、ペーパーレスに移行するための良い前例になっていたりするかもしれません。

だから今の私にとって「断る」ことは、自分のやりたい仕事をしたり、キャパシティーを守るためだけでなく、社会に対してのパフォーマンスという意味合いの方が大きいんです。

もちろんこのパフォーマンスは、記事を読んでくれる方、SNSをフォローしてくれる方がいるからこそ、実践できること。自分がもし、インフルエンサーと呼ばれるような場所にいなかったとしたら、きっと別の方法で社会問題に対して取り組んでいただろうな、とも思います。

こうした「断る基準」のせいで大きな仕事を取り逃したり、自分の報酬が減ってしまったりもします。だけど私の場合、誰かを雇っているわけではないですし、自分一人であればちゃんと生きていくことができますから。

むしろ断る基準を設けたことによって、事務処理時間が圧倒的に少なくなったし、本音をフラットに伝えられる仕事相手だけが残った結果、仕事の費用対効果はかなり上がりました。でも何よりも嬉しいのは、最近は過労で倒れてないし、ずっとご機嫌でいられてるってことですね。

「断わる派・断わらない派」はお互いに信じている正義が違うだけ

私はかつて何でも断らず働いていたから、20代前半で仕事を断っている人を見ると「え、もったいない!そこにこそ伸びしろがあるのに!」と思ってしまうこともあるんですよね。

ただ、今は急激に働き方が変わっていて、31歳の私と22歳の人とでは、見てきた世界がうんと違うんだとも思うんです。

今は副業が解禁されるなど、自由な働き方が認められるようになりましたし、メルカリをはじめとした副業にぴったりのアプリやサービスも充実してきました。だから社内の仕事をほどほどに済ませて、やりがいのある副業に熱中する若手が増えることとは自然な流れですよね。

昔は「会社の中の立場=社会における自分のステータス」に直結しやすかったので、無駄だと思う仕事も断らずにやらなければならなかった。でも今は、インターネットや社会の中に本当にたくさんの居場所が生まれていて、無理に会社で昇進することだけが全てじゃないと思っている若者も多いのは当然です。

それってきっと、「放課後、クラス一丸になって文化祭の準備をしたいのに、予定があるからと帰る子がいる」みたいな、ちょっとさみしい状態でもあります。そういう子が何人かいると、「じゃあ俺も帰る」って、どんどん全体のモチベーションも下がりそうだし。

でも、帰る先には、その人なりの熱狂があるかもしれない。お互いに信じている正義が違うっていうだけだと思います。

自分の感性が喜ぶ「成長」がどこにあるのか

広告やマスメディア関係の人からは「ここ数年で、残業することが本当に許されなくなった。過労は防ぐべきだけど、やっぱり若いうちは数をこなす訓練が必要で、今はその機会が本当に減っている」という声も聞きます。確かに、そこで途絶えてしまう職能があり、それはとても惜しいものです。

ただ一方で、今の時代の成長とかスキル開発って、会社員になってから始まるものではありませんよね。

小学生の頃からプログラミングに熱中していたり、高校生ながらデザイナーとして働いていたり、動画編集に夢中になっていたり。そうした人たちは、大人にもまれながら、自分でググりながら、技術力をどんどん高めていってます。

私の場合は「技術力」とは言い難いですが、やっぱり小学生の時からやっているブログが、仕事の基盤になっていると思っています。「いつからネットで文章を書き始めたんですか?」と聞かれたら、「小学4年生から」と答える。

つまり、スタートラインがどんどん前倒ししているんですよね。新入社員1年目が社会人生活のスタート、という時代じゃない。

社会人になる前から、自分の好きなことを突き詰めて、稼ぐ力を磨き続けている人は、どんどん強くなると思います。

塩谷舞

とはいえ、早い段階から自分の好きなことや向いていることを見つけて、それに没頭して能力を伸ばしていけるかどうかは環境に左右される部分も大きいですよね。

私は29歳からニューヨークにも拠点を置いたのですが、それまでの留学経験はゼロ。海外旅行すらほとんど行ってませんでした。案の定、あまりにも英語が喋れないし、聞き取れないし、相手にされないしで、「子どもの頃から海外留学しておけば!」と何度も泣いてしまった。でも昔は、そんなことに気付ける視野の広さなんてなかった。完全に、スタートラインを見逃してました。

でも、人生で一番若いのは今です。スキル開発するなら今やったほうがいい。だから私もアメリカではプライドを更地にして、仕事の手を休めてでも英語を喋る機会をつくっています。

もし伸ばしたいスキルが会社では身に付かないんだったら、就業時間以外に自分のスキル開発をする時間をつくってみたっていい。社外で磨いたスキルが、巡り巡って社内に生かせたという人も多いです。

会社の決めた「成長」に自分をはめるだけじゃなくて、自分の感性が喜ぶ「成長」がどこにあるのか、自分自身を見つめて欲しい。そんな人が増えいくと、社会って豊かでおもしろくなるなぁ、って思います。

私は今の働き方が気に入っていますが、フリーランスは心細い、ストレスフルだ、と感じる人もいるかと思います。逆に私は、会社員はあまり向いていなかった。

いずれにしても、自分はどんな働き方をしていきたいのか、どんなことが向いていて、どこに楽しさを感るのか。それを知っていくって、自分と長く付き合っていく上で、とても大切ですよね。

ちなみに私は会社員の頃、最初の2年はWebディレクターとしいて働いていたのですが、これがなかなかハマらなかった。自分の嫌な部分ばっかり目について、情けないやら、腹立たしいやら……。そこで社長にかけあって3年目から広報にジョブチェンジしたところ、水を得た魚のように活力を取り戻しました。

そうしていろんな適性を肌で感じてきた上で、断わる/断わらないの基準がおぼろげに見えてくるのかもしれません。

どんな仕事でも常に「取り組む意味・意義」を考えて

「適地適作」という言葉が好きなんです。飽くなき向上心を持って、常に日本一、世界一の経済規模を走りながら追うのが向いている人もいる。同時に、規模は追わず、ゆっくり考えながら歩むことが向いている人もいる。

私は後者が適地みたいですし、そっちの農耕面積を広げていきたいんです。そんな話をしていると、知人には「短期大量消費社会と、長期適量消費社会だね」と言われました。

塩谷舞

今の社会には、本当は「長期適量消費社会」が適しているのに、「短期大量消費社会」の仕組みの中で働いている……という人が多い気もします。

そもそもその仕組み自体がハマらないのに、断らずに働いていたら、輝くような活躍をする前に心身共に疲弊してしまうでしょう。「そもそも、この仕組みっておかしくない?」って疑問に思いながら、その仕組の中で心の声を無視して働き続けるのは、相当苦しいはず。

もしモヤモヤするんだったら、「なぜ自分はこの仕事をしているのか」「この仕事はどう社会の役に立つのか」という意味と意義をしっかり考えてみて欲しい。考えて考えて考えて、もし根本的な仕組みに納得いかないなら転職するでも、働き方を変えるでも、自分の心地よい方を探してみていいかもしれません。

東京を出れば、「長期適量消費社会」を実践している人も多いです。甲斐かおりさんの『ほどよい量をつくる』という本に素敵な事例がたくさん取材されているので、気になる方はぜひ読んでみてください。とても勇気が湧く本です。

最後に、この記事のテーマでもある20代の方にお伝えすることがあるとすれば……「自分にとっての心地よさとは何なのか、諦めずに考え続けましょう」ということでしょうか。

一番悲しいのは「あの人が断ってるから断わる」とか「若手なんだから断わらずに雑用をするのは当然」みたいに思考停止してしまうこと。自分の価値観に蓋をして思考停止モードを続けてしまうと、それが知らないうちに自分自身を蝕んで、感性が鈍ってしまいます

その人らしい感性を育てている人と話すと、本当に楽しい。だから、そうした人にたくさん出会いたいし、出会える社会であって欲しいです。

取材・構成/石川香苗子 撮影/吉山泰義

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