【田端信太郎】“いい辞め方”を分かってない20代は、最終的に大損する「転職するなら坂本龍馬を目指せ」
転職することが当たり前の時代となった今、それだけ20代が会社を「辞める」機会も増えている。しかし辞める前に「次の職場」のことで頭がいっぱいになっていると足元をすくわれることも。
「立つ鳥跡を濁さず」ということわざもあるけれど、会社を辞めるときには何に気を付けたらいいのだろうか?
リクルート、ライブドア、LINE、ZOZOと、名だたる会社を退職してきた田端信太郎さんに、会社の「いい辞め方」について聞いた。
会社を「辞める理由」よりも「いる理由」を考えよう
僕は2019年末に、執行役員を務めていたZOZOを退職しました。そのときも会社を「辞める理由」をずいぶん聞かれたけれど、それは単純に会社に「いる理由」がなくなったからです。
僕がZOZOに入ったのは、ちょうどプライベートブランド事業を立ち上げるタイミング。LINEでは広告を受注する立場でしたが、今度は広告を発注する立場から広告宣伝やPRを手掛けたいと考えたのが転職の理由でした。
また経営者である前澤友作さんという生身の人間を媒介に、いかにZOZOをブランディングしていくかということも大きなテーマでしたね。
ところが、残念ながらプライベートブランド事業がうまくいかず、戦略の方向性が変わってしまった。直接僕に声をかけてくれた前澤さんも退任することになり、僕が会社にいる理由がなくなったんです。
会社に入ることは、株を買うことに似ています。会社に自分の時間を投資するわけですから、会社を選ぶのは何かしらの目的があるはず。
僕は株を買うときに、その理由を紙に書いておくのですが、会社に入るときも同じです。入社時に書いた「何のためにこの会社に入ったのか」は節目ごとに見直して、自分がここでやりたいこと・やるべきことができているのか、判断の基準にするべきだと思っています。
そもそも理由があって会社に入るのですから、それがなくなったらゼロベースで進退を考えるのは当然のこと。これにはいろいろな考えがあるでしょうが、僕からすると「辞める理由」がないから同じ会社にい続けるというのは、貴重な人生の時間がもったいないと感じてしまうのです。
そもそも「会社」って誰のこと言ってんの?
僕にとって会社は、自分のやりたいことをやるための“手段”でしかありません。
よく「会社に裏切られた」とか「会社のためを思って」といった言い方を聞きますが、そのたびに「会社って誰のこと?」って思っちゃうんですよね。そんなこと言って、会社と握手したり会社に殴られたりでもしたの?って。
会社とは何か実態があるわけではなく、単なる概念に過ぎません。僕も自分で会社を作ったときに、「ただの書類の束じゃん」とうんざりしたくらい。
だから「会社が何かをしてくれる」と思って、辞める前後のことを考えるのは愚かだと思うんです。
例えば健康を害しそうなときは、躊躇なく会社を辞めるべきですよね?
病気になっても会社は看病などしてくれない。もし死んでしまったとしても、せいぜいお金が支払われるかどうか。言い換えれば会社ができることはその程度なので、人の生命や健康に関わることなど、お金で片が付かないことを会社に期待しても仕方ないのです。
そんな‟ただの概念”である会社に忠誠を尽くしたところで、会社はあなたの夢を叶えるために存在しているわけではない。儲けるために社員を利用しているのですから、社員側も自分の人生をハッピーにするために、会社をうまく利用すればいいというのが僕の考えです。
「この会社はダメだ」妄想レベルで判断しても、何の解決にもならない
とはいえ、最近は「この会社ではやりたいことができない」とすぐに見切りをつける若手も多い。それにはちょっと疑問が残りますよね。
繰り返しになりますが、会社はあくまでも「概念」。待ち続けていれば会社があなたのやりたいことを用意してくれるわけではない。自分が叶えたいことのために正しい努力をしたのかは、辞める前後に改めて考えてみてほしいとは思います。
実際に僕も中途採用の面接をするときには、「やりたいことを実現するためにどういう努力をしたのか」という話をよく聞きます。
ところが具体的な行動レベルに落としてみると、「目標管理の面談で課長に話した」くらいであきらめている人も少なくないです。僕からしてみると「マジか!?」って感じ。
課長がダメなら部長、部長がダメなら本部長、本部長がダメなら社長にまで直訴すればいいのに、そこまでの行動は起こしていない。だからダメだったんじゃないの?と思わずにはいられません。
実際に行動して、現実からのフィードバックをもとに判断しないと、どこに移っても同じです。行動も起こさずに「この会社はダメだ」と妄想レベルで勝手に判断して辞めたところで、何の解決にもなりません。
やりたいことができないなら「この仕事をやらせてください」、給料が低いのが不満なら「給料を上げてください」と、堂々と交渉すればいいんですよ。会社なんてただの概念なのに、何を恐れることがあるんだ?って思っちゃいます。
別に最後は辞めても構わないのであれば、失うものは何もないでしょ。それなら、辞める前に建設的なコミュニケーションを図った方がずっと有益だと思いますね。
“前職出禁”は長期的に見て大損。
辞めるときは坂本龍馬スタイルを目指そう
では、そうした行動を取った上で、それでも会社を辞めると決めたとき。これは僕の個人的な美学ですが、気を付けるべきことは3つあります。
それは、元いた会社の「悪口を言わない」「客を取らない」「部下や後輩を引き抜かない」。こういうことをやってしまうと、それまでに築いた人間関係にひびが入るからです。いずれにしても、元いた会社にけんかを売るような辞め方はしない方がいい。
今よりも大きな会社、給料の良い会社に転職が決まった途端に、今の会社を見下すような態度を取る奴ってたまに見かけますけど、まったく滑稽ですよね。
次にいく会社だって、どうなるかわからない。むしろ転職できたのは、今いる会社で培った経験や、上司・先輩の指導のおかげかもしれないわけでしょう。
ヤクザの破門状かのごとく、会社を辞めるたびに「あいつは何だ!」「二度と付き合うな」とのお達しが流れて出入禁止になってしまうと、どんどん世間が狭くなってしまいます。これは長い目で見ると明らかに損。なんなら大損ですよ。
20代の若いうちならまったく異なる世界への転職もあるでしょうが、この先キャリアを積んでいくほど、これまでの実績を踏まえた転職が増えるはずです。
辞めるならせめて脱藩浪士の坂本龍馬くらいを目指して、最低限「お訪ね者」は免れたいもの。
全員が全員とは言わないまでも、元いた会社の人には、「うちから脱走はしたけど、まぁあいつにはあいつなりの正義があったんだろう」と思ってもらいたいですよね。そうなれば、今後も人間関係を続けていくことができますから。
「いい辞め方」を分かってない奴は、この先生き残れない
僕はよくリファレンスチェックを頼まれることがあります。リファレンスチェックとは、転職先の企業が、その人の仕事ぶりや人となりを、昔の上司などに確認すること。「田端さんの部下だったあの人って、どういう人ですか?」と評判を聞いてくるわけです。
こうした傾向は、今後もどんどん広がっていくはず。そういうサービスはすでに生まれていますし、今でも人事担当者が求職者のSNSをチェックするくらいのことはしているでしょう。
つまり、履歴書と面接だけで採用される時代はもう終わるということです。
「会社が嫌ならばっくれて、次を探せばいい」みたいに考えて前職を軽視するなら、短期バイトのようにリファレンスチェックをしない範囲で職場を転々とするしかない。でもこれからもキャリアを積み重ねたいなら、今働いている自分の評判が筒抜けになっていることを知るべきです。
転職が決まると、今いる職場でモチベーションが保ちにくくなる感覚は分からなくもありません。でもプロ野球選手は、阪神にいようが、巨人にいようが、プロフェッショナルとして恥ずかしくないプレーを追求するでしょう。
自分がビジネスのプロなんだという意識を持てば、会社を離れるからこそ、いい加減な仕事はできないはずです。
「会社を辞める」とは、ただ「ある概念との契約関係を終了する」ということ。生身の人間と人間との関係を断ち切られるわけではないのです。だから結局、「いい辞め方」とは「仕事で関わった人たちとの人間関係が良好に続くこと」なのでしょう。
それが分かっていない人は、これからの社会でビジネスのプロとして生き残ってはいけない。それくらい「いい辞め方」を意識するのって大事なことだと思いますよ。
取材・文/瀬戸友子 撮影/赤松洋太
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田端さんの新著「これからの会社員の教科書 社内外のあらゆる人から今すぐ評価されるプロの仕事マインド71」
「リクルート→livedoor→LINE→ZOZO。日本的な大企業から外資系、ベンチャー企業を渡り歩く中でわかった、どんな文化の会社であっても必ず評価される共通項。それは結局、新人時代に教わった仕事の基本でした」
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