キャリア Vol.835

スタートアップ転職に向いている人の共通点とは? 急成長中の3社CEOが証言【Smart HR/カケハシ/Holmes】

株式会社カケハシ 代表取締役CEO 中尾 豊さん

昨今、世の中にイノベーションを起こすようなスタートアップ企業が次々生まれ、そこで活躍する人たちも脚光を浴びるようになってきた。

それに伴い、スタートアップにチャレンジしたいと考える20代も増加。しかしスタートアップには、世間から注目を浴びる‟キラキラ”した側面だけではなく、大企業にはない苦労もあるはずだ。

スタートアップで働くとはどういうことなのか、そしてそこで活躍できる人とはどんな人物なのか。

その実態を探るべく、2020年2月8日(土)虎ノ門ヒルズにて開催された『Startup Aquarium(主催:Coral Capital)』にて、急成長スタートアップ3社の経営者が登壇したトークセッション「スタートアップで働く魅力と罠 ~先鋭起業家3名が語る」の一部を紹介したい。

登壇者はSmart HR宮田昇始さん、カケハシ中尾豊さん、Holmes笹原健太さん。モデレーターはCoral CapitaのJames Rineyさんが務めた。

スタートアップでは‟自己成長できない人”は取り残されてしまう

――スタートアップを経営していると「Hard Things(つらく困難なこと)」がたくさんあると思います。契約マネジメントシステム『Holmes』を手掛ける笠原さんはいかがですか?

笹原:最も困難なことは、経営者である自分自身が成長しないといけないということです。会社が成長していくにつれ、組織も合わせてどんどん変化していきます。自身がそのままの器でいては立ち行かなくなるため、その度に自分が成長し、次元を変えていかないといけません。それは経営者だけではく、社員も同じだと思います。

――カケハシの中尾さんは、いかがですか?

中尾:事業的な面だと、ユーザーにムーブメントを起こすことは難しかったですね。私たちは調剤薬局向けクラウド電子薬歴『Musubi』を展開していて、サービス利用者は薬剤師の方たち。これまでの方法で既に成り立っているのに新しいサービスなんて……と、難色を示されることはありました。

――業界のイノベーターならではの困難ですね。事業以外の面でいうと?

中尾:他は組織面ですね。扱っているのがマニアックな領域で、専門知識が必要になるので、どうしても売れる人やサービスが属人化してしまうんです。この問題は、組織が大きくなるなかで、権限を分けていくことで対応しました。つい半年前までバタバタしてたんですよ。

――なるほど、かなりのスピード感ですね。SmartHRの宮田さんはどうですか?

株式会社SmartHR 代表取締役CEO 宮田昇始さん

株式会社SmartHR 代表取締役CEO 宮田昇始さん

IT企業でWebディレクターとして活躍後、2013年に自社サービスの運営と受託開発を行う株式会社KUFU(現SmartHR)を設立。15年11月にクラウド労務ソフト『SmartHR』の提供を開始した。Twitter:@miyasho88

宮田:SmartHRでも「クラウド人事労務ソフト」という、これまで世の中になかった新しいものを作っていますから、肝を冷やすような経験はいくつもありましたよ。例えば、前に販売中の自社サービスが「もしかしたら法律的に問題があるかもしれない」という話になったんです。

複数の弁護士へヒアリングし、結果としてサービスをストップしてすぐに是正することができました。バタバタはしていたんですけど、こうやってきちんと対処し、サービスと真剣に向き合うことにはやりがいも感じられます。

――他に、皆さんが思うスタートアップの楽しさや難しさって、どんなところでしょうか?

株式会社カケハシ 代表取締役CEO 中尾 豊さん

株式会社カケハシ 代表取締役CEO 中尾 豊さん

武田薬品工業株式会社入社後、MRとして活動。日本の医療の質の高さを感じると共に、患者さんへのサービスインフラの不備や医療従事者との情報格差の現状に気づく。「医療をつなぎ、医療を照らす」をビジョンに掲げ、2015年に株式会社カケハシを創業

中尾:楽しいのは、業界の先駆者になれることです。会社の出世レベルではなく、業界レベルでトップランナーになれる。難しさは、あえて挙げるなら人によって給料が一時的に下がる点ですかね。これは大企業への転職でもあり得ますが……。

宮田:いきなり会社の方針が変更されたり、M&Aされたりというリスクは大企業よりもありますよね。とはいえそれも含めて、自分の人生にとってかなりエキサイティングな環境だと思います。

――SmartHRはこの4年でメンバーが3名から200名まで増え、事業も急成長していますが、その視点から見るといかがでしょう?

宮田:自己成長していかないと、会社の成長に追いつけない点は難しいなと思います。会社の成長に応じて、自身の解くべき課題も変わっていきますから。でも、どんどん難問を解くことが好きな人にとっては最高の環境だと思います。

――創業者にも当てはまりますが、これからスタートアップにジョインしたいと考える人にとっても、0から1、1から10、10から100……といったフェーズごとに向き不向きがあります。だから、事業のフェーズを見ながらジョインするタイミングを考えた方が、気持ちよく働けそうですね。

株式会社Holmes 代表取締役CEO 笹原健太さん

株式会社Holmes 代表取締役CEO 笹原健太さん

2008年、慶應義塾大学法科大学院在学中に旧司法試験合格。13年に弁護士法人PRESIDENT設立。17年に株式会社リグシー(現株式会社Holmes)を設立し、契約マネジメントシステム『Holmes』を提供。Twitter:@kenta_holmes

笹原:そうですね。スタートアップは流れが早い分、メンバーに求める役割の変化も早いです。だからプレイヤーからマネジメントラインにチャレンジするといったこともしやすいですし、そういう変化を楽しめるといいですよね。

スタートアップに向いているのは「ふわっとした環境」を楽しめる人

Coral Capital 創業パートナーCEO James Rineyさん

Coral Capital 創業パートナーCEO James Rineyさん

シードステージ企業へ40社以上に投資し、総額約120億円を運用。2014年からは、DeNAで東南アジアとシリコンバレーを中心にグローバル投資に従事。15年より500 Startups Japan 代表兼マネージングパートナーを務める。Twitter:@james_riney

――次に「スタートアップに向いている人と向いていない人」を探っていきたいと思います。フェーズによって求める人物像は変わると思いますが、起業当初のメンバーと最近ジョインした人の傾向について教えてください。

宮田:最初は荒くれ者が多かったです(笑)。それに対して、今はエリートが増えてきた印象です。他のスタートアップだとCFOに相当する人がジョインしてくれるなど。いろいろなタイプの人が入ってきてくれていますから、そういった環境に興味が持てる人は、急成長フェーズのスタートアップに向いていると思います。

笹原:最初は採用に時間をかけられないので、ジュニア層が多かったです。今は組織や仕組みをつくる人が増えています。とはいえ当社はまだ成長段階なので、「ふわっとした環境で自分から手を動かせる人」が向いていると思いますね。

中尾:うちも初期は「何でもやってみないと分からないから、まずはやってみよう!」という人が多かったです。初期と現在の差分を見ると、今活躍しているのは「謙虚な人」。自分が一流であっても、おごることなく徹底的に周囲にヒアリングしている方が活躍しています。

Coral Capital 創業パートナーCEO James Rineyさん

中尾:逆に前職の成功体験に頼っている人は難しいのかなと……。失敗体験を元に、ダメだった時のアクションや、どういう風にしたら勝ち筋があるかを考えられる人はスタートアップ向きだと思います。

笹原:たしかにそれはスタートアップあるあるだと思います。

――逆に言うと、枠組みがない「ふわっとした環境」に対応できない人は向いていない?

中尾:それはあると思います。特に当社の事業は「税金で賄われている領域」に切り込むようなサービスなので「ルールがあるから頑張れる系」の人は大変かもしれません。前例となるルールがない中で、事業として成り立たせていくために、どうやってやり遂げようかを考える必要がありますから。

宮田:僕もそうだと思います。特にうちではメンバーに命令したり、やり方に口を出したりすることはしないようにしているので、「自分で努力してやっていけない人」は難しい。「自分で頑張ってやらないと、と考えられる人」が活躍できると思います。

――なるほど。3人のお話を聞いていると、「ルールがなくても自分から動ける」ことはスタートアップに共通して求められるスキルのようですね。本日はありがとうございました!

文/スギモトアイ 撮影/川松敬規(編集部)


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