20代が知っておきたい男性育休の真実「社会進出しているのは女性だけ、男性は会社に進出しているだけ」
男性新入社員の約8割が「子どもが生まれたときには、育休を取得したい」と考えているという。しかし、父親の育休取得率はこの10年間で2%から6%に上がっただけで、2020年の政府目標13%には遠く及んでいない。
実のところ、日本の父親の育休制度は、実は世界で最も恵まれた制度なのに、だ。
では、20’s typeの読者が父親になるときに「育休を取りたい男性が、100%育休取得できる世の中」を目指すためには、いま何が必要なのだろうか? 2020年2月6日にNPO法人ファザーリングジャパンが開催した「FJ緊急フォーラム」より、男性育休の現状を紹介しよう。
産後の妻の死因の一位は「自殺」という悲しい実態
男性育休が日本で広まらないのは、「男性の仕事が忙しくて時間がない」「そもそも男性が育児をする風土がない」ことが主な原因だと叫ばれている。
しかし、本当に深刻な原因は「危機感のなさ」にあるのではないかと、株式会社ワーク・ライフバランスの小室淑恵さんは主張した。
「男性育休というと『男が育児するなんて』という否定的な意見はもちろん、『休めていいなあ』のように軽いトーンでを話す人が多いです。でも、子どもが産まれるって「妻の命がかかっていること」だと分かっているのでしょうか? 男性育休とは決して、チャラけた話なんかじゃないはずです」(小室さん)
国立成育医療研究センターの調査によると、産後の妻の死因の一位は「自殺」だ。これは女性の孤独な育児と睡眠不足による「産後うつ」が要因であると言われており、その数はこの2年間で100人以上にのぼる。
産後うつあるいはそれに近しい状態に苦しむ母親を支えるべく、男性の育休取得の促進が急務となっているのだ。
「産後うつは産後2週間~1カ月の間に最も起こりやすいといわれています。その原因は出産によるホルモンバランスの崩れと、睡眠不足によるものが大きい。
でも母親たちは、日中は仕事に行っている男性に『夜中の授乳を手伝って』とは言えないわけです。だから単純に『子どもが産まれたら、夜早く帰ってくればいい』わけではありません。せめて1カ月でもいいから、パートナーのために休んであげてほしいのです」(小室さん)
小室さんは「このまま政府が無策ならば、企業が男性育休を本格化させるのは5~6年後になってしまうだろう」という。しかし今この瞬間も、苦しんでいる母親は日本中にいるはず。
さらに5~6年後では出産年齢の女性の数は激減していて少子化は解決できない。 今すぐに男性育休を、国を挙げて推進すべきだと、その必要性を訴えた。
小泉進次郎の「育休取得」はセクシーじゃない?
2020年1月に現役大臣である小泉進次郎さんが育休取得を宣言したことで、日本の「男性育休」は3度目の転換点を迎えていると、ファザーリングジャパン代表理事の安藤哲也さんはいう。
「2010年には育休法が『パパも子育てに参加できるように』という内容に改正されましたが、当時は『週末だけのイクメン』を推進するに過ぎなかった。2016年には宮崎謙介さんが男性国会議員で初めての育休取得を発表したことで、潮目が変わるような気配がありました。でも結局、彼は別の問題で週刊誌にスクープされてしまって、育休の話題がかき消されてしまった……。
そして今回は、小泉進次郎さんが現役大臣として初めて男性育休を取った。これが日本の“パパ育児の推進”にとって3度目の転換点になります。今回の小泉大臣の決断で、社会の空気は一気に変わっていくと期待しています」(安藤さん)
衆議院議員の寺田学さんも、小泉大臣の決断を称えた。
「僕も今回の小泉大臣の決断には大賛成で、産後2週間という長さも非常にいいバランスだなと思います。でも一方で、永田町(国会議員)の雰囲気がめちゃくちゃ冷めているのも感じていて。特に政策に強く関与しているベテラン議員たちは、『育児でわざわざ休まなくたっていいのに』という感じ。小泉さんの育休に関して特に議論はしないというのが、永田町の空気なのでやるせないですね」(寺田さん)
文京区長の成澤廣修さんもまた、小泉大臣の決断について言及した。成澤さんは、地方自治体の首長で初めて育休を取った議員として知られている。
「小泉さんのことが話題になっていますけど、私から言わせると全然セクシーじゃない。男性って理由がないと育休がとれないの? 理論武装しないと育休取っちゃいけないの? って。理由がなくても男性が育休をとれる世の中になるよう、ハードルを下げていきたいなと改めて思いました。今回の‟小泉育休”をきっかけに変えていきたいですね」(成澤さん)
社会進出もしていない男性が“社会人”なんておかしい
「男性育休制度の整備は企業の生存戦略にも通じる」とサイボウズの青野慶久さんは主張した。
「うちはもともと‟ブラック企業”でしたけど、離職率を下げるための経営戦略として働き方改革に取り組みました。男性育休もその一環ですが、取り組み始めてから離職率が下がり、株価も顧客満足度も売上も上がっています。このように経営戦略の一つとして男性育休に取り組む企業はこれからも増えてくるでしょうね」(青野さん)
青野さん自身も育休を取り、第三子が産まれたときは16時退社の時短勤務にもしたそう。その際に、男性が育休を取ることの重要性を改めて感じたという。
「育休を通して気付いたのは『社会進出しているのは女性だけ、男性は会社に進出しているだけ』ということ。これまでは、会社も保育園も地域の活動も、産育休を取った女性が参加するのが一般的でした。女性の方がよっぽどいろんな社会に触れている。私なんてただ会社に行ってるだけだったんだな、と反省しましたね」(青野さん)
そのときに青野さんは、これからは男女関係なく積極的に社会とつながっていくべきだと強く感じたそう。
「社会に出ずして何が‟社会人”なんでしょうね。これからは男性育休が特別なことではなくなり、男性がもっと社会に進出する世の中にしたいと思っています。育休で男性がチヤホヤしてもらえる雰囲気も早くなくしたいですね」(青野さん)
将来育休を取りたい20代男子がいま心掛けておくべきことは?
そしてイベントは、現在育休中の小泉進次郎さんからのコメントで締めくくられた。
私が育休を発表した時、「80%が育休を取りたいと思っているのに、6%の人しか取れていない」のは、制度以上に空気が問題だと言いましたが、早速、野党にも男性議員の育休が波及し、自民党内のある議員からも私に育休をとる予定だと伝えてくるなど、空気は変わりつつあります。
これからもその変化が社会全体の前向きな変化につながるように、皆さんと共に取り組んでいきたいと思います。
今回の“小泉育休”で世の中の空気はきっと良い方向に変わっていくのだろう。そして最後に「いつか自分に子どもが産まれたら、男性育休を取りたい」と考える20’s type読者に向けて、ファザーリングジャパン理事の安藤さんからメッセージをもらった。
「あと5〜6年、遅くとも10年後には、日本でも男性が『父親になったら当たり前に育休が取れる社会』になっていることでしょう。でも育休は取ることが目的ではなく、『取って何をするか』が大事。家族の幸せを感じることができる『笑ってるパパ』が増えることを期待しています」(安藤さん)
取材・文/大室 倫子(編集部)
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