社会貢献事業に転職って、ぶっちゃけどうだった? 中の人3名に聞いてみた【フローレンス・GoodMorning・TABLE FOR TWO】
SDGsという言葉が当たり前に使われるようになったり、個人がSNSなどを使って新型コロナウイルス対策を呼びかけたりと、「社会全体のために一人一人が貢献する」という意識が高まっている。
その流れを受けて、若い世代を中心に社会貢献事業に関わりたいと考える人も増えつつあるようだ。だが一方で、「NPOとかって給与が低いんでしょ?」「理想はあるけど、仕事にすると大変そう」といったイメージを持つ人も多い。
そこで現在、社会貢献事業のど真ん中で活躍する3名の座談会を実施。「実際のところはどうなの?」という読者の疑問に答えるべく、“社会貢献事業への転職”について、率直に語ってもらった!
「泣けるほど感動できるサービスに出会えました」
――まずは皆さんが現在携わっている仕事について教えてください。
張:私が働いているTABLE FOR TWO(TFT)は、「一食食べて、一食届ける」をコンセプトに、先進国の私たちがヘルシーな食事をとることで開発途上国の子どもたちに学校給食をプレゼントできるプログラムを提供しています。
私は事業開発担当として企業にコラボ事業を新規提案したり、TFTの活動を知ってもらうための営業活動をするのが主な仕事ですが、10名ほどの小さな組織なので、他にも手が足りない業務があれば何でもやります。担当があるようでないという感じでしょうか。
先山:私が所属するGoodMorningは、社会課題を解決するプロジェクトに特化したクラウドファンディング事業を行なっています。もともとは国内最大のクラウドファンディングであるCAMPFIREの一事業でしたが、2019年4月に分社化しました。お二人と違うところは、GoodMorningは会社であるということですね。
できたばかりの組織なので私たちもメンバーは少なく、現在メインで活動しているのは5人。私は昨年10月にマーケティング担当として入社しましたが、基本的には張さんと同じで「何でもやる係」です(笑)
二河:私は前職がシステムエンジニアだったので、入社後はシステムやソフトウエアの導入・運用管理などを中心にやっていましたが、現在は人材の採用・育成を担当しています。
もちろんフローレンスも設立当初は数名の小さな組織で、最初は訪問型の病児保育事業からスタートしましたが、現在は待機児童問題や障害児保育問題など、さまざまな社会課題の解決に取り組んでいて事業内容も広がっています。
組織の規模で言えば、雇用スタッフだけで約650人、事務局でも100人以上が働いているので、NPOとしてはかなり大きい方ですね。
――3人とも前職は一般企業にお勤めでした。なぜ社会貢献事業を手掛ける今の職場に転職したのですか?
張:私は大学時代から社会貢献事業に関心があり、当時も社会起業家を支援する団体をお手伝いしていました。その時、社会課題解決を本業にしている人たちを間近でたくさん見て、「こういう生き方もあるのだ」と知ったことがその後のキャリアの選択に大きく影響しています。
とはいえ、すぐに社会貢献の仕事をしようと思ったわけではなく、一度きちんとビジネスを勉強したいと考えたんです。なので大学卒業後は総合商社に就職し、石油化学分野のトレーディングを担当しました。
――26歳の時に転職したとのことですが、なぜそのタイミングで?
張:20代後半になった頃、「30歳の区切りまでに自分の軸を確立したい」と思うようになったんです。では何を自分の軸にしたいかと考えると、やはり自分は社会に貢献できる仕事がしたい。そこでキャリアの方向を変えようと決めました。
それでいろいろな団体を調べるうちに、TFTが「自分のためになることが、誰かのためになる」という“無理のない社会貢献”を理念に掲げていることや、私が興味のある食の分野からアプローチする活動を展開していると知って、「ここに来ればきっと成長できるし、楽しいに違いない」と思った。それが決め手でしたね。
――なるほど。先山さんはいかがですか?
先山:直接のきっかけは、CAMPFIREで働いていた前職時代の先輩に声を掛けてもらったことです。私の前職はECサイトのコンサルタントでしたが、自分自身が事業者サイドに入り、制約がない中でどこまでできるか試してみたいと思って転職を考え始めました。
だから正直なことを言うと、最初は社会貢献の仕事を探していたわけではなかったんです。でもそんな時に先輩からGoodMorningのことを聞き、単純に「いいサービスだな」と思った。
――社会貢献、というよりも「いいサービスを提供したい」という軸で選んだと。
先山:はい。弊社が提供するのは、「社会をこんなふうに変えたい」という熱い想いを持った人たちのためのプラットフォームです。だったら、このプラットフォームを自分の力で成長させることができれば、立ち上がるプロジェクトやそれを支援する人たちの数も増やせるかもしれない。そうなったら楽しいし、やりがいもあるだろう。そう考えて転職を決めました。
――二河さんはいかがですか?
二河:私はもともとフローレンスの保育サービスの利用会員だったんですよ。第一子を授かったことが分かったとき、パートナーから「出産後もキャリアを積みたいので、フローレンスを利用したい」と言われまして。私はそれまでフローレンスをまったく知らなかったのですが、子どもが生まれて実際に利用してみると、「こんなにも人の心に訴えかけるこのサービスはなんだ!」と衝撃を受けました。
私が子どもを迎えに行くと、そのたびに保育スタッフが「今日のお子さんはこんな様子でした」という詳しい報告をA4用紙にびっしり書いてくれるんです。私が預けていた10時間半もの間、こんなに真剣に我が子と向き合ってくれたのかと。実を言うと、感動して保育スタッフの前で泣いてしまったこともあります(笑)
――泣けるほど感動できる事業、というのはなかなか出会えないですよね。
二河:はい。私は当時インフラ系のシステムエンジニアとして働いていて、サーバーやネットワークなど目に見えないものを作っていました。だから自分の仕事がどれだけ社会の役に立っているかが実感できずにいた。
それに対し、こんなふうに人の心に直接訴えかけるサービスにあるのだと気付いたとき、どうせなら自分が培ってきたスキルや経験をこの事業を支えることに生かしたいと思うようになりました。私のようにユーザーからスタッフになった人も多いんですよ。
株式会社とNPOに、違いはほとんどなかった
――張さんは大手企業からの転職ですが、メンバーの少ないTFTに飛び込むには勇気がいったのでは?
張:いえ、実はそれほど不安もありませんでした。周りからは「本当に大丈夫?」と心配されましたが、やはり私が学生時代に社会起業家を間近に見ていたことが大きかったんでしょうね。実際にそれで生活している人たちを知っていましたから。
――先山さんはいかがでしたか?
先山:不安はありましたよ。でもそれは転職先が社会貢献事業だからではなく、転職する人ならどの業界でも感じることばかりでした。「自分はちゃんと活躍できるのか」とか「職場に馴染めるのか」とか。ありきたりですが、そういった不安は当然ありました。
ただ私の場合、前職の会社が副業OKだったので、入社前からGoodMorningの仕事に携わる機会をもらえたのがラッキーでした。本業が終わった後、週1くらいでオフィスに来て、メンバーと一緒にミーティングに参加したり、コンサルの仕事でもやっているサイト分析を手伝ったり。それで会社の雰囲気や業務内容を掴めて、不安も自然と解消しました。
――二河さんは、一般企業からNPOに転職することに不安はありませんでしたか?
二河:私は初めての転職で、ちょうどその頃パートナーが2人目を妊娠していました。家族4人で東京に住みながら本当に生活していけるのか。それは私にとっても一番の不安要素でした。
ただ収入面での不安は、働き方や生活スタイルを工夫すれば何とかなると発想を切り替えました。私はもともと副業をしていたので、その幅を広げれば、たとえ本業の収入が減ったとしても生活していけるだろうと。そして実際に、入社から6年経った今もちゃんと生活できています。
――副業ではどんなことをされているんでしょうか?
二河:副業では、ITコンサルタントやセミナーの主催、ランニング・ウォーキング・スラックラインやマウンテンバイクのインストラクターなどをしています。自分が好きなことをやっていたら段々と副業が増えていったという感じですね。自分が楽しいと思えることを、時間的にも体力的にも無理のない範囲でやることにしています。
――かなりたくさんの副業をされているんですね……! 無理しないとはいえ、本業と両立は大変そうです。
二河:副業の経験が本業につながることもあるので、両立は意外と大変ではなくって。たとえば、フローレンスは東京マラソンを通じて行われるチャリティー事業の寄付先団体に昨年度から指定されていますが、ランニングのインストラクターをしている私の経験を活かして、チャリティランナーの皆さんに走り方のコツをお伝えしながら一緒に長距離を走るイベントを開催しました。
――転職してみて入社前のイメージとギャップを感じることはありませんでしたか?
張:働き方や仕事内容は民間企業と何も変わりません。ただ、ある程度想像はしていたものの、それを超える驚きだったのは「こんなことも私がやっていいんだ!」ということ。大きな組織なら代表や役員が出て行くプレゼンや大企業の社長との交渉も、私がTFTの代表として一人で対応する。
こうした機会は大きな学びになるし、常に当事者意識や緊張感を持ってやらなくてはいけないので、ものすごく成長できる環境だと感じています。
先山:今の話、すごく共感できます。私も最初に話した通り、何でもやらせてもらっているので。これは社会貢献事業だからというより、GoodMorningが分社化したばかりで人数が少ないことも大きく影響しているとは思います。
二河:私は今採用担当なので、面接に来た人から「株式会社とNPOの違いって何ですか?」と決まって聞かれるのですが、いつもこう答えています。「何ら変わりはありません。ただし、もっとビジョナリーですよ」と。
つまり働き方や業務内容の違いはないが、組織の理念に共感した上で、自分たちが掲げたミッションに取り組んで行く仕事だと理解してもらえばいいんじゃないでしょうか。
会社の「待遇」は、給与だけじゃない
――仕事のやりがい、という面ではいかがですか?
二河:こうしてフローレンスの活動について語る場を頂くたびに、「自分がいいと思うものを素直に人に話せることが、こんなに気持ちいいとは!」と感じます。それに社会貢献というキーワードがあると知り合いや仲間がつくりやすくて、前職の頃に比べると異業種交流が果てしなく広がっています(笑)
だから仕事の場はもちろん、それ以外でもいろいろなチャンスに恵まれるのが社会貢献事業に携わる一つのメリットかなと。処遇面で株式会社とNPOの差を気にする人も多いのですが、給与だけが処遇ではなく、こうしたチャンスをたくさんもらえることも含まれると思うんですよね。
――社会貢献事業に携わることで、外から見ていると分からないやりがいやメリットを得られることもあるのですね。
張:私もさまざまな分野の人たちと関われることがメリットだと感じています。前職の商社では組織が縦割りで、自分が担当する石油化学分野の人たちとしか付き合いがありませんでした。でも今は自分のアイデア次第で、あらゆる業界・業種の会社と、どんな人とでも仕事をつくれる。これは意外に社会貢献事業ならではの特権だなと思いますね。
私たちの立場だと利権や競合が絡んでこないので、どの相手ともフラットに話せるのも強みです。例えば民間企業同士の取引だと、クライアントと競合関係にある会社とはお付き合いできないといった暗黙のルールがありますが、私たちは誰とでも対話できる。こんなにつながりの輪を広げやすいんだなというのは一つの発見でした。
先山:私の場合はもともと社会貢献事業を志していたわけではないからこそ、今は仕事を通じて「こんなことを考えている人がいるのか」「こんな課題があるのか」という気付きを日々得られることが大きな学びになっています。そして自分も「この課題もどうにかしたい」「この人たちの力になりたい」という思いが強くなっている。これは社会課題解決を仕事にしているからこそ得られるやりがいだろうと思います。
張:最終受益者とつながっているという圧倒的な当事者意識を持てることもやりがいですよね。TFTの場合なら、最終受益者は開発途上国の子どもたちであり、自分の仕事がこの子たちの人生に関わっているのだという実感をいつも感じられる。それが自分にとって大きなモチベーションになります。
先山:そうですね。クラウドファンディングもサービスの受け手の人たちの顔が見えるので、「この人たちと一緒に頑張っているのだ」と思えるのはすごくモチベーションになる。プロジェクトの目標が達成されたときは、心から嬉しいと思えます。
二河:同感です。私が担当してきたシステムや人材採用の仕事は一般の会社にもありますが、自分が目の前の仕事をすることで、間接的ではあっても誰を助けているのかが見えやすい。それは前職で目に見えないサーバーやインフラを作っていた頃には得られなかった醍醐味です。「自分がやったことはここにつながっていたんだ」とそこにいる全員が思えるのが今の仕事のいいところだし、やり遂げた時の達成感は前職の比ではないほど大きいです。
――ありがとうございます! ここまでは3人の“転職のリアル”について語ってもらいましたが、記事後半では「社会貢献事業に興味がある」読者に対してアドバイスをもらえたらと思います。
取材・文/塚田有香 撮影/赤松洋太
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