キャリア Vol.871

上司がいない組織は20代にとって本当に天国なのか――「ティール組織」に見る‟自由に働く”ヒント

20's type2周年特集
世の中全体が「働き方」を見直さざるを得ない状況だ。そこで「今後の自分はどう働くか」を改めて考えるべく、話題の働き方の実態を調査。“withコロナ”の新時代に備えて、自分が納得できる働き方を選び取る準備を始めよう

リモートワークや時差出勤を取り入れる会社が増えてきた。上司と顔を合わす機会がぐっと減り、ちょっとした解放感を感じながら働いている20代も多いのでは?

そこで気になるのが、「ティール組織」だ。昨年書籍『ティール組織 ― マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』がベストセラーとなり話題になった。

ティール組織とは、「上司がマイクロマネジメントをしなくても、メンバー一人一人が独自に工夫しながら意思決定し、進化を続ける組織」のこと。

こう聞くと、階級が存在しないフラットな組織で、みんなが自由に働いているイメージが浮かぶ。「上司がいないなんて最高なのでは……」なんて思うけれど、実態はどうなんだろうか?

そこで、ティール組織研究の第一人者である嘉村賢州さんに「ティール組織は若手にとって、本当に最高なのか」を聞いてみたら、「もっと自由に働きたい」と考える20代へのヒントが見えてきた。

※取材はオンラインで実施しました

ティール組織 嘉村

場づくりの専門集団NPO法人場とつながりラボhome's vi代表理事
東京工業大学リーダーシップ教育院特任准教授
嘉村賢州さん


人が集う時に生まれる対立・しがらみを化学反応に変えるための知恵を研究・実践。研究領域は紛争解決の技術、心理学、脳科学、先住民の教えなど多岐にわたり、国内外問わず研究を続けている。2015年に1年間、仕事を休み世界を旅したことがきっかけで新しい組織論の概念「ティール組織」と出会う。その後、日本で組織や社会の進化をテーマに実践型の学びのコミュニティー「ORG LAB」を設立、現在に至る。書籍『ティール組織 ― マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』(英治出版)の解説者

人が機械みたいに管理されるっておかしくない?

書籍『ティール組織』の解説者である嘉村さんによると、ティール組織が注目されるようになった背景には、「人間を一つのものさしで測り、機械のように管理するのが本当に正しいのか」という疑問があるのだという。

同じ年齢の子どもたちが一斉に入学して、1年ずつ進級して卒業するのが正しい教育と言えるのか。企業で目標管理制度を導入し、均一の指標で社員を評価するのが正解なのか。

最近では、そうやって人を画一的に管理するのではなく、もっと個の力を活かせる方法を、という動きが生まれている。

「要は『機械のように指示を受けずとも、一人一人が仕事に意義を持っており、全員が目指すところが組織の目的に一致する。さらにその集合体として社会の役割を高度に果たしている』チームがティール組織です。これまでの組織が『機械』だとしたら、ティール組織は『生命体』のようなもの。それぞれに個性があり、独自に進化していく組織なのです」

そのためチームの規模も、形態も、運営の仕方も、会社によってさまざまだ。

「『この体制こそがティール組織だ』という明確な定義はありませんが、ティール組織には共通の特徴があります。それが、次の3点です」

ティール組織3つの特徴

1.セルフマネジメント(自主経営)
階層構造がなく、一人一人が自己決定できる状態であること。「自分を律して自己管理できる」という意味ではなく、「自分で決められる」ことがポイント。

2.ホールネス(全体性)
メンバーが安心して能力を発揮できる状態。「メンバー自身の働く意義とチームの目的が一致していれば、それぞれの最大能力が発揮できる」という考えからきている。

3.エボリューショナリーパーパス(存在目的)
常に一人一人が「何のためにこの組織が存在するのか」「何のために自分自身は働いているのか」を問いかけ続けている状態。チームの長期ビジョンやミッションステートメントのような定められた目的ではなく、個人の意志により目的は進化する。

『なぜこの組織で自分が働くのか』を理解している個人が集まり結成されているので、チーム全員が同じ方向を向いている。そのため一人一人の裁量で仕事を進めても異論が起こらず、指示系統がなくても個人が能力を存分に発揮することができる。これが、ティール組織の特徴なのです」

ティール組織は「文句を言われたくない」から選ぶものではない

ティール組織の概念が広がっていったら、「若手でも自由に意思決定ができる」チームも増える。「上司に監視されてグチグチ言われるのって嫌だな……」と、上司を疎ましく感じている20代にとっては天国のような環境にも思えるが、嘉村さんは「もう一段深いところまで考えてみてほしい」と話す。

「ティール組織はそもそも、一人一人が自分の仕事に人生の意義を見出している状態をベースにしています。つまり、上司がいないから自由にできて最高、なのではなく『意義を持って働けるって最高』の状態になっている必要があるのです」

そういう状態になれた時に初めて「若手でも自由に意思決定ができる」が実現するというわけだ。

ティール組織 嘉村

「例えば会社からは1週間しか認められていない休暇を、仕事に必要な勉強のために留学したいから1カ月に延長できないかと考えたとします。従来型の組織では、人事部に問い合わせたり、経営者に許可をもらったりしなければなりません。でもティール組織では、会社を通さずにメンバーへと提案します」

それがチームのため、個人の仕事の意義に関わることであれば、否定することなく受け入れてもらえる。別途上司の許可を取ったり、部門の壁を気にする必要はない。

ただし、これは裏を返せば「判断するのは人事部の仕事でしょ」と他人任せにはできないということでもある。

「何のためにこの組織があり、何が自分に求められているのかを常に考え続け、その上でやりたいことがあれば自ら動く。好き勝手にふるまっていいということではないですし、自分の意思決定には責任が伴います。『楽をしたい』とか『誰にも文句を言われたくない』という動機でティール組織的なチームにジョインしても、上手くはいかないでしょうね」

日本では「ティール組織=階層がない、細かい規則がない」など誤解されていることも多く、「純粋なティール組織はほとんどない」と嘉村さんは続けた。

「例えば、上下関係のないフラットな組織と言っているけど、実は『マネジャーのポジションがないだけで、カリスマ社長1人が圧倒的な権限を持っている』企業もありますし、自由に意思決定できても、『個人事業主の集合体のような、目的が一致していない組織』もティール組織とは言いがたいんです」

まずは“ティール組織的な働き方”から始めてみよう

ティール組織 嘉村

日本ではまだ誤解されていることも多いというティール組織だが、「個人が働く意義」を仕事に求める‟ティール組織的な働き方”は、今後急速に進んでいくだろうと嘉村さんはいう。

「ここ数年、『個の力』の重要性は至るところで叫ばれてきました。コロナショックにより、より一層この動きは加速していくでしょう。日本ではいままさに過渡期で、近い将来ティール組織はますます注目されるはずです。その時がきた際に、『自分の仕事に意義を見出せているか』はとても重要になってきます」

そうは言っても、「自分の仕事に意義を見出せている」と答えられる人がどれだけいるだろうか。もしや自分はスタート地点にも立てていないのでは……と不安になるが、「最初から100%の気持ちでなくてもいい」と嘉村さん。

「最初から100%意義を持って働くのは難しいし、経験の浅い20代ならなおさらだと思います。仕事をしながら『この仕事は何のためにやるのか』『自分にとって何になるのか』を考え続けることで、少しずつ自分にとっての仕事の意義が見えてくると思いますよ」

また、ティール組織提唱者のフレデリック・ラルーは、意義ある仕事を見つけるために「常に2つの選択肢を持つこと」を勧めているという。

「Aの生き方を大切にするために、Bという選択肢も持っておく。『いざとなればBを選んでも幸せに生きていける』と思えれば、いまあるAの仕事に妥協する必要もなく、会社にも堂々と言いたいことが言えるようになる。そうすることで徐々に『自分が意義を感じられる仕事』を模索できるのです」

日本ではまだ「完全なティール組織」にジョインするのは難しい。しかし自分の仕事に意義を持ちながら個の力を身に付けていければ、ティール組織のような主体的で自由な働き方に近づくことはできるはず。

「上司がいないって自由で最高だなぁ……」を叶えるための第一歩として、まずは‟ティール組織的な働き方”を目指してみてはどうだろうか。

取材・文/瀬戸友子 企画・編集/大室倫子(編集部)


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