キャリア Vol.898

25歳の筑波大発ベンチャー代表が挑む、オンラインフィットネスの新常識「未来を予測する確実な方法は、それを発明すること」

世の中の新常識を作る20代をクローズアップ!
New Standard Maker
ニューノーマル時代、「今までのやり方が通用しない」と肩を落とす人がいる一方で、「新しい扉を開くチャンス」とポジティブに立ち向かう20代もいる。なぜ彼ら/彼女らは“新時代の常識”を作る挑戦ができたのか? その姿に迫る!

世の中の「ニュースタンダード」をつくろうと奮闘する20代を紹介する本特集。1人目に登場するのは、ITとAIの力を駆使し一人一人に合ったトレーニング指導が受けられるサービスを開発する、株式会社Sportip代表の高久侑也さん(25歳)だ。

株式会社Sportip 代表 高久侑也さん

株式会社Sportip 代表 高久侑也さん

2018年に筑波大学体育専門学群卒業後、筑波大学発ベンチャーとして株式会社Sportipを創業。「一人に“ひとつ”のコーチを提供する」ことをミッションに、指導者向けオンライン指導アプリ『Sportip』の開発を行う

高久さんは筑波大学体育専門学群を卒業後、“筑波大学発ベンチャー”としてSportipを創業。AIを用いてユーザーの動きや姿勢を解析し、トレーナーの指導を効率化するiOSアプリ『Sportip Pro』などを展開している。

最近は自粛期間でニーズが高まった集合型のオンラインレッスンに対応するべく、プロダクト『Sportip Meet』を発表したばかり。このアプリを使えば自宅に居ながら、大人数向けのレッスンでも自分に合った指導を受けられるという。

今回のコロナショックで大きな打撃を受けたフィットネス業界を救うべく、すぐに「オンラインフィットネス」向けに舵を切ったという高久さん。「未来を予測するだけでは、新しいものはつくれない」と語る彼の挑戦に迫った。

流行りのオンラインレッスンは「一人一人の様子を見ながら指導する」ことが難しい

今回の外出自粛で、Zoomなどを通じてフィットネスやヨガなどの集合型オンラインレッスンが流行。受けた人たちからは「オンラインでも意外に楽しめた」という声が多く挙がっていました。

でも実は、トレーナー側からすると、「オンラインで一人一人の様子を見ながら指導する」ことはとても難しく、適切なコーチングができないことにもどかしさを感じている人も多いのです。

当社では以前からトレーナー向けアシスタントAI『Sportip』というサービスを提供しており、今年の6月に『Sportip Pro』へアップデートを行いました。

『Sportip Pro』は、トレーニング中の映像をスマホやタブレットで撮影することで、その効果をAIが瞬時に自動解析し、個人に合わせたトレーニングメニューを自動生成するアプリ。生徒が自宅でトレーニングしている様子をアプリが解析し、トレーナーが自動生成されたメニューをチェックしながら、オンラインで適切な指導を行うことができます。

今まではフィットネス効果を測定しようとすると、何かを体に装着しなければならないことがほとんどでした。一方で『Sportip Pro』はスマートフォンで撮影するだけで測定できるので、自宅で手軽に、もちろんトレーナーが直接体に触れることなく指導を行える点が革新的だと評価をいただいています。

株式会社Sportip 代表 高久侑也さん

スマホで撮影し画像を共有することで、オンラインでも効率的に指導を届けることのできる『Sportip Pro』。自粛期間中は、アプリケーションの無償提供も行っていた。

そしてコロナ禍を受けて集合型のオンラインレッスンが増えたため、新たなサービスも急ピッチで開発しました。それが『Sportip Meet』です。

これは従来から開発していた『Sportip Pro』の技術を使って、いつでもどこでも、誰とでもフィットネスを受けられる『オンライン上の総合型フィットネスジム』が作れないか、と思って僕が企画したもの。

オンラインレッスンを受けたことのある方なら分かると思いますが、人気トレーナーのレッスンは一度に100人が参加することも珍しくありません。そうなると、トレーナーが一人一人に目を配ることはほとんど不可能です。

「膝を前に出さないようにしましょう」のように一般的なアドバイスはできても、個人に合わせてどこをどう動かすべきかは伝えられません。

しかし『Sportip Meet』を使えば、トレーニング中にアプリが個人のデータを自動で取得、評価、記録するため、ユーザーはトレーナーの指導を受けずともどこを直せばより効果を得られるのかが分かります。

まだサービスはリリースしたばかりですが、従来のオンライン指導の課題を解消できるこのプロダクトは、きっとそうした業界の回復に貢献できると信じています。

野球をもう続けられない……高校時代の後悔が挑戦の源

なぜ僕がこのような挑戦をしているのか。そもそも僕がSportipを立ち上げたきっかけは、高校時代に遡ります。

幼い頃からずっと野球をしてきた僕の体には、先天的な歪みがありました。しかし周囲と同じ練習を続けてきた結果、ついに障害が発生してしまって。個人の特性に応じた指導を受けていれば回避できたにも関わらず、当時そうした環境がなかったんです。

野球を続けられないと分かったときは、人と同じ練習を続けてきたことをすごく後悔しました。あんなに大好きだったのに、しばらくはテレビで野球を見るのも嫌になったくらいです。

ただ、何か動いてないと落ち着かない性格もあり、筑波大学に進学してからは身体やテクノロジーについて必死に勉強しました。そして、自分の原体験から「個人に合わせた指導が受けられるサービスを作りたい」と思い、Sportipを創業したのです。

筑波大学はもともとスポーツの指導教育や研究が盛んなので、ありがたいことに同じような想いを持った仲間や、研究開発に協力してくれる方々がたくさん集まってくれました。優秀なエンジニアの採用にも成功したので、試行錯誤しながらも、すぐに良質なプロダクト作りが行えたことは本当に幸運だったなと感じています。

そして今回のオンラインレッスン対策も、Sportipを創業したときと同じように、「みんなと同じトレーニングをして、適切な指導がされない人を減らしたい」という気持ち、そしてSpotipのお客さまであるフィットネス業界を救いたいという想いから、すぐに開発に取り組みました。

もともとSportipは、オンライン指導というよりも、目の前にいるコーチと生徒を想定して作ったプロダクト。しかし今回のコロナ禍を受けて『Sportip Meet』では「いつでもどこでも」という要素を色濃くしました。

自粛ムードはいつ終わるかも分かりませんから、それなら数年は続くであろう「Withコロナ」を見越したサービス作りが必要だと考えました。開発メンバーとも話し合い、いまやるならオンライントレーニングとの連携が急務だろうとすぐに決まったんです。

なぜすぐに動けたかというと、もちろんサービスに掛ける想いもそうですが、僕自身が仕事を楽しんでいるから、だと思っています。

僕は創業時から開発以外の業務はほとんど自分でやっていて、創業してからは一日も休んだことがありません

個人に最適な動作指導を提供できるアプリケーションや、動作解析システムのアイデアを優秀なメンバーと共にチームで考えて、エンジニアに実装してもらう。その間のチェックにも全て目を通していますし、リリースしてからの広報や営業活動にも関わっています。

正直なところ、とても忙しいです(笑)。でも、自分が実現したいと強く思っていることをやっているから、夢中になって取り組んでしまうんですよね。それに、自分で全てを見ているからこそ、今回もスピーディーにリリースまで動けたのだと思っています。

だから今回のサービスリリースは、僕にとっては挑戦というよりも、「仕事が楽しいし、意義があるからやる」というごく自然な流れだったと思います。

「未来を予測する確実な方法は、それを発明すること」

コロナ禍によってトレーニングのオンライン化が進みましたが、オフラインの価値がゼロになることはないと思います。フィットネスなら機材を使わないとできないことがありますし、整体なら体を触らないとできないことがあるからです。

だからこそ僕はSportipを通じて、今後はオフラインとオンラインが融合した形で、「個人に合わせた指導がいつでもどこでも・誰でも受けられるサービス」を提供していきたい。フィットネスや整体、リハビリなど、幅広い領域で展開していく予定です。

株式会社Sportip 代表 高久侑也さん

現在オンラインで提供しているプログラム(近日提供予定を含む)

起業することのリスクだったり、新しいことを始めることが怖い人もいると思いますが、僕自身は祖父が起業家だったこともあり、あまり不安を感じることはありません。

祖父は新しいものを作ったり、何かを計画をするのが好きな人で、僕にも「将来は新しいものを発明して稼ぎなさい」とよく言っていましたから。

だから子どもの頃から新しいものを作ったり、リスクを背負って挑戦するのは、僕にとってすごく自然なことだったんです。

株式会社Sportip 代表 高久侑也さん

写真左が高久さん。2020年6月25日に為末大さん(写真中央左)が代表を務めるDeportare Partnersなどからの出資が発表された際の写真。

未来を予測する確実な方法は、それを発明すること」。これは、パーソナルコンピュータの父と言われるアラン・ケイの残した言葉で、僕の指針となっています。

何かを始めるときには、先々を予測して、上手く立ち回ろうと考えてしまいがちです。もちろんそうした行動もときには必要ですが、「世の中を変えるような仕事」には“予測”だけで取り組んでいくことは難しいのではないでしょうか。今回のコロナショックのように、予測できない外的要因なんていくらでも起こり得ますしね。

分からないことに不安がるよりも「自分自身で未来をつくっていくんだ」という意思を持つからこそ、新しいことを生み出すエネルギーが生まれてくるんだと思います。それに、そっちの方が絶対に楽しいですから。

いつでもどこでも自分に合った指導が受けられる。そんな未来は、自分で発明しないと実現しない。僕もそう思っているから、楽しみながら挑戦を続けていけるんだと思います。

取材・文/一本麻衣 企画・編集/大室倫子(編集部)


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