新卒3年目の責任者が目指す、新しいオンライン結婚式のかたち「“その場しのぎのWeb化”じゃ意味がない」【CRAZY】
外出自粛が余儀なくされた2020年の春、結婚式の開催を控えるカップルが続出した。それに対応するため、最近では挙式の様子をWEB上で披露する「オンライン結婚式」のサービスが各社から次々にリリースされている。
しかしその中で「リアルをWebに置き換えるだけではない、新しい価値を提供したい」と、独自のオンライン結婚式を開発している企業がある。8年間で過去1400組以上の完全オーダーメイドウェディングをプロデュースしてきた株式会社CRAZYだ。
同社は結婚式に投資する時間やお金を減らしながらも、記憶に残るお祝いの機会を提供するオンライン結婚式サービス『Congrats』を5月20日にリリースした。
新郎新婦にとって本当に必要なものは何かを、改めて見つめ直した上で開発したというこのサービス。手掛けたのは『Congrats』の事業推進責任者である元木啓貴さん(25歳)を中心としたメンバーだ。
新卒入社3年目だという若きリーダーは、どのように「結婚式のニュースタンダード」を生み出そうとしているのか?
「一時的なサービスで終わらせたくない」結婚式の本質から議論を重ねた
リアルで人に会えなくなってきた今年の2月頃から、「オンラインで結婚式ができないか?」という議論は社内で起こっていました。そして世間でも、続々とオンライン結婚式を提案する企業が増えてきて。
ただ当時経営企画を担当していた僕や周りのメンバーとしては、その波に乗ることが果たして本当に正しいのか、ずっと考えていたんです。
今、挙式ができなくなった方々は、代替案としてのオンライン結婚式には反対される方がほとんどです。やっぱりできることなら対面で会いたいと思うのが自然ですし、今後コロナ禍の状況が明けて、「イベントが自由にできるようになったら改めて式を挙げたい」と考えると思います。
そう考えるとオンライン結婚式は、「できることならリアルがよかったけれど、しょうがないからオンラインで」という、その場しのぎ的のサービスになってしまう懸念があったのです。
だからこそコロナが落ち着いたとしても提供できる、今までにない「新しい結婚式」として、オンラインサービスを打ち出せないかと考えました。これは主に経営層を中心に考えつつ、僕たちメンバー同士でも議論を重ねました。
前例がないことに挑戦するわけですから、社内では「そもそも結婚することの価値は何なのか?」といった話から、「結婚式の歴史ってどうなっている?」など、結婚に関する本質的な部分まで遡って話し合ったんです。
結婚式を挙げていないカップルに選択肢を
みんなで話し合って最終的に辿りついたのが、「結婚式を挙げていないカップル」に向けての訴求です。現在日本では年間60万組が結婚していますが、結婚式を挙げているカップルは30万組に留まります。
もちろん弊社としては結婚式を挙げる30万組を、まず幸せしていくのが一番大事なこと。
しかしこれまで多くのカップルのお手伝いをさせてもらってきた中で、やはり結婚式は人の幸せをつくったり、その人たちの人生を豊かにしたりするものだと感じていて。挙式をしていない30万組の人たちにも、何かしらの形で節目をお祝いしてほしいという思いがありました。
だからこそCRAZYなら、新しいサービスをこういったお客さまに向けたものにできるのでは?と考えたんです。
この素案は経営陣を含めて話し合われ、実働のタイミングで、私は事業推進責任者に任命されました。そこからより深くこのテーマを考えるようになりました。
結婚式を挙げない方の中には、「式の段取りを決めるのが大変そう」、「すごくお金がかかる」から諦めてしまう人が多いと思うんです。
でもそれってつまり、コストをぐっと下げられたら、結婚式という人生の節目をお祝いする人が増えるのではないだろうか? そう考え、新サービスではまずコストを下げることに注力しました。
ただし、それだけでは安いサービスとの単なる価格競争になってしまいます。まず価格を下げた上で、CRAZYだからこそできることを考え、サービスを固めていきました。
まずは安く・簡単に準備が進められるように、打ち合わせなど準備プロセスのすべてをオンラインでできるように。そしてゲストからのお祝い金を集める決済ツール「結婚式専用チケットサイト」をオープンしました。
そこにCRAZYの強みである「完全オーダーメイド」サービスで培ってきたコンテンツ力を生かして、お客さまの要望をオンラインでも最大限叶えられるようにしたのです。
こういった過程を経て、「ただのWeb化」とは少し違ったサービスとして、オンライン結婚式『Congrats』が生まれました。
僕自身も、これまでたくさんのカップルを見て「人生の節目をお祝いする」ことに対して大きな使命感を持っていましたし、その“幸せの分母”を増やすことができるサービスに関われることはとても嬉しかったですね。
新しい価値観の浸透には時間がかかる
当社はオーダーメイドのウェディングが強みですから、「お客さまがやりたいと思えるオンライン結婚式の形を実現できるシステム」を開発することが使命。
そのためコンセプトを十分に固めてからは比較的すぐにリリースを出せて、5月20日に発表した後には、ありがたいことに初日からたくさんのお問い合わせをいただけました。
問い合わせは「新型コロナウイルスの影響で結婚式を挙げられなかったから申し込みたい」という方ももちろんいらっしゃったのですが、「今まで挙式はできなかったけれど、いつかやりたいと考えていました」という方が多かったです。つまり予想通り「式を挙げていなかった30万組」の層の方々に届けることができました。
6月中旬時点で、実際にオンライン挙式をされたのは2組です。一組はお子さまがいらっしゃって、これまで結婚式を挙げるのが難しかった方。
この方はゲスト1人1人に感謝を伝えたいという想いがあり、グループごとに20分間、各グループの皆さまとお話する時間を設けました。ご祝儀代わりに3000円から10000円までの選べるチケット制を設け、Zoomで各地から参加してもらったのです。
そして2組目は、大阪で活動していた芸人の方。ブレイクして上京したタイミングと重なり、結婚式ができなかったというカップルでした。
ゲストには芸能関係者もたくさんいらっしゃったので、一般向けにもチケットを購入できるようにして、芸人さんたちの余興が見られるような仕組みに。これも皆さん、大変楽しんでいただけました。
新郎新婦、そして参加したゲストの皆さんの感想を伺うと、もちろん少しは戸惑いがあったようです。しかしオンラインであっても、多少の違和感を凌駕するほどの感動があったとの声をいただくことができました。
環境が変わっても、仕事は「やるか・やらないか」の二択しかない
結婚式は人生の中でも非常に大きなパワーを持つイベントです。改めて、その節目に新しい価値を届ける『Congrats』というサービスを提供できるのは、とてもワクワクすることですし、社会的意義も大きいのではないかと感じています。
しかしこれは新しい挑戦でもあります。それゆえ、お客さまからすると「結婚式をただオンライン化しているだけでは?」「普通に対面の結婚式の方がいいじゃない?」と思うところもあり、まだまだ戸惑う部分もあると思います。この新しい価値観が浸透していくには、少し時間がかかることを覚悟していますね。
新規事業を始めるにあたっては、さまざまな壁がありますし、はっきり言えば想定外のことばかりでした。お客さまとの打合せも全てオンラインで実施していましたし、自分たちも家からのリモート業務。これまでとは全く異なる環境で進めるのは、簡単なことではありません。
でも今回やってみて感じたのは、環境が変わったとしても、結局仕事って「やるか・やらないか」だけだということです。
そして慣れない環境で不安もある中でくじけずに前に進む原動力は、月並みな表現になってしまいますが、「お客さまのため」という想いです。
もちろんビジネスにおける戦略性やクリエイティビティーなど、すべて大事な要素ではあると思います。でも「今は届けられていない、本当は幸せにできるかもしれないお客さまを幸せにしていきたい」という強い想いが、最終的には決め手になります。
そういう気持ち的なところが「やるか・やらないか」を迫られた時に踏ん張れる力になってくるのだと思いますから。おそらく僕が「新規事業を始めて儲けたい」と考えていたら、頑張り切れなかったでしょう。
今回の取り組みは、結婚式という人生の中で大きな節目の選択肢を増やしていくサービスでしたが、これからは、人生のいろんな節目におけるお祝いごとをデザインするようなサービスもつくってみたいと思うようにもなりました。
もちろん今回は、私一人ではできなかった挑戦ではありますが、「幸せをつくりたい」という強い気持ちがあれば、そこには経験年数も関係ないと思います。私もまだ社会人3年目ではありますが、これからも自分とCRAZYの理念に従って、お客さまの幸せな瞬間を作り続けていきたいですね。
取材・文/キャベトンコ 企画・編集/大室倫子(編集部)
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