キャリア Vol.903

「マッチングしても会えない問題」を解決! 『タップル誕生』が挑んだ“オンラインデート”爆速開発の舞台裏

世の中の新常識を作る20代をクローズアップ!
New Standard Maker
ニューノーマル時代、「今までのやり方が通用しない」と肩を落とす人がいる一方で、「新しい扉を開くチャンス」とポジティブに立ち向かう20代もいる。なぜ彼ら/彼女らは“新時代の常識”を作る挑戦ができたのか? その姿に迫る!

飲み会の自粛や、他人との接触を避ける動きが続く中、「人と会ってコミュニケーションを取る」ことが求められる“恋愛市場”が変化しつつある。

そんな中、コロナ禍のわずか1カ月半で「会わずにオンラインでデート」ができる機能を実現したのが、サイバーエージェントが運営するマッチングアプリ『タップル誕生』だ。

タップル誕生

今回は、そんな「恋愛・婚活市場のニュースタンダード」をつくる現場を支えた27歳のプロダクトマネージャー・永友絢子さんを取材。 ビデオチャット機能開発の裏側や、大きな挑戦を成功に導いた行動について聞いた。

プロフィール画像
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『タップル誕生』プロダクトマネージャー 永友絢子さん2016年、株式会社サイバーエージェントに新卒入社。同年4月より株式会社マッチングエージェントに出向。マッチングアプリ『タップル誕生』のプランナーに従事し、ブラウザ版立ち上げを経験。その後も『タップル誕生』の新機能開発室や、プロモーション、CM制作などに携わった後、20年5月より同サービスのプロダクトマネージャーを担当する

「いつかはやりたいよね」なんて悠長なことは言ってられなかった

2016年にサイバーエージェント入社以来、『タップル誕生』に携わっています。入社からずっとプロダクトプランナーとして企画をメインに担当していて、「マッチングアプリのナンバー1」を目指して開発・運営を進めていました。

そして今回のコロナショックでは、私としても、会社としても大きな決断を迫られることとなりました。

3月の始め頃から、日本中に自粛ムードが漂う中で、ユーザーさんから「マッチングしたお相手に会えない」という不満の声が届くようになったんです。

時代に合わせて、直接会わなくても関係性を深められるように手を打たないと、ユーザーさんに価値を届けられないという課題が日に日に深刻化してきて……。

元々、経営陣や現場のチームメンバーからは「オンラインデートが主流になる未来はくるよね」という話は挙がっていたのですが、実装自体は5Gが浸透してからを想定していました。でも、この状況ではそんな悠長なことは言っていられません。

オンラインデートが当たり前になる文化をタップル誕生がつくる」ことを、今こそやるべきだと。すぐに会社としても投資する決断を固めました。

タップル誕生

自粛ムードが高まってきた3月末に、アプリ内でオンラインデートができる「ビデオチャット機能」を開発すると決め、着手したのは4月からです。

当時はまだ先がまったく読めない情勢ではありましたが、経営側では常に最悪の想定をしていました。

もし日本が諸外国のような状態になったら、ますます人と会うのは厳しくなる。政府がステイホームを推奨し、飲食店やテーマパークが休業に追い込まれる中で、会うことを助長する弊社のサービスも、いつ行政からのストップがかかるかも分かりません。

そんな想定がある中で、タップル誕生のユーザーさんたちは、この数カ月をどう乗り切ればいいんだろうと考えました。そこで、どちらにしろ会うことは億劫になるはずだから、会わずにお相手を知ることができる「オンラインデート」がベストだろうな、と。

もちろん「メッセージ内で仲良くなったらZoomに移行してくださいね」と言うこともできたのですが、それだと「知らない人とZoomでやりとりする」というハードルが生まれますから、『タップル誕生』内で完結するようなサービスにしたかったんです。

4~5月はチームメンバーがフル稼働し、通常は4カ月ほどかかるビデオチャット機能を1カ月半で実装することができました。

徹底した取捨選択で、スピードとコストを最適化

 
前例のない取り組み、しかも世の中の事態は刻一刻と悪くなっていくばかり。でも、新卒から一貫してこのサービスに関わっているからこそ、今が飛躍のチャンスだと思ってかなり気合が入っていましたね。

今回一番の壁だったのが「スピード」、次が「コスト」でした。まず許容できるコストを定めた上で、それに見合うカタチで、いかに早く開発できるかを考えて。

結果的に、ビデオ機能に精通したデザイナー、エンジニアをアサインしてベテラン陣で固めたチームを作り、その上で「どうしたら最速で出せるか」をメンバーで議論し、「アジャイル方式(※)」を採用。

※アジャイルとは、開発の仕様書などを書かずにまずは作ってみて、細かいPDCAを回しながら改善を進めていく開発手法です。

これまで何か新機能を作るときは、ガチガチに仕様書を書いて開発していたのですが、今回は今まで通りにやっていては無理だと分かっていたので、やりながら考えるスタイルを試みました。「とにかくやるしかない!」という感じでしたね(笑)

初期に開発する機能も最低限に絞りました。特に女性は「美肌フィルターを使って画面内の自分を盛りたい」などの願望があると思うんですが、最初はそういった付加的な機能は付けずに、ビデオ通話ができる基盤だけを作りました。

それらの細かい取捨選択が功を奏し、信じられないスピードで開発することができたんです。

個人的に一番大変だったのは、ビデオチャットを実装したときに、どんなことが起こり得るかのパターンを洗い出すこと。LINEを触りまくったり、親や友人に「ワン切りしてみて」と頼んで挙動を確認したり、手を動かしながらひたすら考えました。

タップル誕生

「このビデオチャット機能は、私がこれまで手掛けたどの機能よりも難易度が高かったと思います」(永友さん)

ローンチしてからは、本当に多くの反響をいただき嬉しい限りです。

ユーザーさんに取ったアンケートでは、ビデオチャットを繋げながら一緒にお酒を飲む、ゲームをする、ドラマや映画を観る、といったオンラインデートを楽しんでいる方が多いようです。オンラインで『あつまれどうぶつの森』をプレイするのも流行っていましたね(笑)

皆さんの反応を見て想定通りだったのは、テキストのコミュニケーションよりもオンラインデートの方が、お互いの距離が縮まっていると感じてもらえたことです。

テキストのやり取りだけだったら、直接会うことはなかっただろうけど、オンラインデートを通じてお付き合いに発展したという声も耳にしました。会う前にオンラインでデートをしてみることで、お相手への安心感が生まれやすくなるようです。

一方で想定外だったのは、気軽に電話やオンライン飲み会などをする習慣が世の中に広まったとはいえ、知らない人とビデオチャットするのは、いくら自粛環境下でおうち時間が増えていても、ハードルが高いということです。

いきなりビデオチャットする前に電話から始めようと促すとか、誘うタイミングをアシストするとか、アプリ側に何かしら工夫が必要だと感じました。それは、今後の課題ですね。

前提を疑わないと、ニュースタンダードはつくれない

今回の大きな挑戦を振り返って一番の学びだったのは、「前提を疑う」という姿勢を持つことでした。弊社の社長がよく言う言葉なのですが、誰もやったことがないことにチャレンジするには、これがもっとも大切な心構えだと思います。

特に私のように4年も同じサービスに関わっていると「この開発を1カ月半でやるなんて絶対無理でしょ!」なんて思ってしまいがち。さらにこのコロナ禍で、全員リモートで作業していましたから、「無理だ」と言える理由は十分にありました。

でも今回、どうにかしようと思えば、案外できるものだなって分かって。思い込みだけでやらない判断をするのは危険だなと学びました。

そして、もう一つ大事だと分かったのは、チームメンバー全員で課題に向き合うこと。経験のないことに挑むのだから、1人の視点や力では到底達成できませんでした。いかにチームメンバーが能力を発揮できる環境を作るか、が成功の分かれ目だったと思います。

私自身としては、このビデオチャット機能の開発がプロダクトマネージャーとしての初仕事になったわけですが、ありがたいことに周囲に優秀な先輩たちがいてくれたので、ひたすら皆さんのマネをしたことが、うまくいった要因かもしれません。

具体的にはメンバーのキャラクターや仕事の仕方をよく見て、一人一人に合わせて寄り添い方を変える努力をしました。

例えば、クリエイティビティーを発揮したいタイプの人には、あえて細かい指定を決めずに要件だけ伝えて、本人に仕様を考えてもらうようにするとか。これが大成功だったんです!

メンバーたちからも「最近、仕事のやり方を変えましたよね。すごくやりやすくなった」と声を掛けてもらえて、仕事もスムーズに進むようになったし、いいことしかなかったです。

自分のこれまでのやり方を一つ捨てたら、ちゃんと結果が付いてきた。それからは、抵抗なくすんなりと自分を変えることができるようになりました。これも「今までの自分」を疑うからできたことだと、周りに教えてもらえたように思います。

今後は、今回の学びを活かしながら、オンラインデートが当たり前の選択肢になる文化をつくり、「マッチングアプリのナンバー1」に向けて走り続けたいです。

タップル誕生

そして、誰もが恥ずかしさなく「タップル誕生を使っている」と言えるようなサービスにしていけたらなと。やっぱりマッチングアプリを使っているって、InstagramやTikTokなどとは違って、家族や友達に言うのに抵抗がある人がまだ多いと思うので。

個人的な目標としては、今回のオンラインデート機能の開発で学んだように、「常に変化し続けること」、そして「チーム力を生かしたプロダクト作り」の2点を強化していきたいですね。

ベストな答えを持っているのって、誰よりも現場で活躍しているメンバーだと今回改めて思いました。だから、メンバーが活躍しやすい環境をつくって、みんなのアイデアをヒットにつなげ、事業が伸びる状態にしていきたいです。

そのためには、繰り返しになるけれど前提を疑うことが大事。やっぱりそれが、変化する時代に勝っていくためには最重要なんだと思います。

取材・文/小林香織 企画・編集/大室倫子(編集部)


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