「コロナ禍でも“続ける”ことで新たな道筋が見えてきた」21歳の開発者が挑む、AIカフェロボットでつくる飲食サービスの未来
需給予測AIを活用し、個人の好みに適した味のコーヒーを最短の待ち時間で提供するAIカフェロボット『root C(ルートシー)』のβ版をリリースした株式会社New Innovations。
手掛けるのは、21歳のCEO、自身もハードウエアエンジニアとして開発に携わる中尾渓人さんだ。
コロナ禍で飲食業界が未曾有のダメージを受けていた2020年3月、丸の内のオフィスビルで実証実験を行っていた同社。「今後の“飲食店のニュースタンダード”の一助になる」と意気込む若きCEOの挑戦に迫った。
無人店舗で「安い、早い、おいしい」を実現したい
当社の自社プロダクト『root C』は、「スマホアプリからコーヒーを注文して、無人店舗で受け取る」ことができるサービス。このシステムが実現することは「安い、早い、おいしい」コーヒーのテイクアウトです。
アプリによる事前受付サービスで「早い」提供を実現し、「安い」を叶えるためにロボットがオペレーションすることで人件費が削減でき、その分コーヒー豆の原価を高くすることができる。そして「おいしい」コーヒーを提供するために、顧客に商品を提案するレコメンドシステムを入れることで、この3つを実現しているのです。
僕はもともとハードウエアエンジニアで、小学生の頃からロボットの世界大会に日本代表として出場してきました。ロボットを作る中で、「単純な労働はロボットやAIで効率化して、人は“温かみが必要とされる仕事”に注力できるようにしたい」と思うようになって。
そこで考えついたのが『root C』の事業です。最終的には「ロボットが効率化できる部分」を『root C』が担当して、店員は接客などのサービスに注力できるようなプロダクトにしたいと考えていました。
そしてまずは、ロボット部分の開発と実験をしてみようということになったんです。
コロナ禍で高まった“非接触ニーズ”。『root C』が思わぬ形で脚光を浴びた
2019年4月から開発を実施し、実証実験の第一弾を同年8月に大阪の南海難波駅と同駅直結の商業オフィスビル・なんばスカイオで開始しました。
ただこのときは、タッチパネルでその場でコーヒーを選んで交通系ICなどで決済し購入する形式だったので、「たしかにコーヒーはおいしいけど、価格に見合った体験ではない」という声もあって。
お客さまからしてみると「美味しくても、自販機のようなコーヒー購入の体験に300円を払うのはちょっとな」という感じだったのだと思います。
そしてこの結果を受け、サービスの提供基盤を大幅にアップデートして、満を持して2020年3月に東京・丸の内エリアの新東京ビルへの設置が決まりました。
しかしこれが、ちょうど新型コロナウイルスの感染拡大時期と重なってしまって。世の中的には、飲食業界は未曾有の大打撃を受け、閉店する店も少なくありませんでした。
特に丸の内でコーヒーを買うようなビジネスパーソンが在宅勤務に切り替わった時期で、周りのお店も休業するところがほとんどという状態です。「このまま続けて大丈夫なのか?」という声ももちろんありました。
でもそもそも『root C』は無人店舗のため、人を介しての代金のやり取りや商品提供が発生しませんし、人件費も必要ありません。だから僕の判断は「このまま東京での実証実験を続ける」というものでした。
結果としては、新型コロナによってビル在館人口は通常時の3分の1ほどでしたが、それを割り戻すと目標の120%を達成。
事前にアプリでオーダーし、ロッカーからコーヒーを受け取るというオペレーションの変更をしたので、大阪のときよりも「味もおいしいし、価格に見合った体験ができる」との声が増えました。
そして何よりこのタイミングでも止めずに実験を続けたことで、当初予想していなかったことが起こりました。それは、既存のカフェチェーン店や飲食系の大手企業から「『root C』のシステムを販売してもらえないか?」と声が掛かったことです。
『root C』は、来店前から誰が来るか・何を購入するかが分かる、飲食店にとってとても合理的なシステム。さらに対人接客の必要がないので、コロナ禍でも問題なく稼働できると注目されたようでした。
経済や街の動きがストップしている中でも、関係者に協力してもらいながら「続ける」判断をしたことで、『root C』を本格展開していく道筋が見えてきたという感じですね。
情熱の中にも、俯瞰的な視点を持っていたい
今回のコロナ禍では、僕が「続ける」判断をしたことで、結果的に飛躍することができました。そこで自分の中で確かなものになったのは、「会社を経営し始めたら前進するしかないんだ」ということ。
長く経営を続けている方にとっては当たり前なのかもしれませんが、事業を持続させるって簡単なことではありません。それでも続けることが、一緒にやってくださる方々に対する責任の取り方だと、強く感じることができました。
そして今回の経験を踏まえて、価値観もアップデートできたように思います。
それは、仕事をする上で情熱を持っているだけでは足りなくて、“俯瞰視する自分”を持つことが大切だということ。
例えば、自分の周りに「今は動かない方がいいよ」という空気感があったとする。でも、ここで雰囲気に流されたり、逆に意地になって自分の感情を優先したりして判断するのではなく、いったん考えてみる。
「なぜ今、自分はこういう行動をしているんだろう?」
「誰かに誘導されていないだろうか?」
「この決断を下した後はどうなるのか?」
そうやって物事を一歩引いて考えるようにすれば、気持ちも自然にフラットになりますし、冷静な目を持つことができます。
周りに言われたことや、自分の気持ちだけを判断軸にするんじゃなくて、自分でしっかり考えて行動する。挑戦を続けるためには、そのバランスが大事なんじゃないかと、改めて学びました。
最初にもお話しましたが、本来このサービスの強みは、オンラインとオフライン、AIと人間の接客がうまく融合するところにあります。『root C』の無人カフェはその第一歩に過ぎません。
これからは『root C』の体験を他の商材に対しても転用していきたいですし、いずれはディズニーランドやUSJのような、心がワクワクする体験価値を提供するサービスも開発してみたいです。
今回の経験を生かしながら、より理想のかたちを目指すために前進を続けていきたいですね。そのために、自分を俯瞰視しつつも、サービスへの情熱も尊重してく……そんな仕事ができればいいなと思っています。
取材・文/キャベトンコ 企画・編集/大室倫子(編集部)
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