キャリア Vol.919

コロナ禍で急拡大したオンライン診療の舞台裏。元看護師・26歳のカスタマーサクセスが語る「パイオニアとしての使命感」

世の中の新常識を作る20代をクローズアップ!
New Standard Maker
ニューノーマル時代、「今までのやり方が通用しない」と肩を落とす人がいる一方で、「新しい扉を開くチャンス」とポジティブに立ち向かう20代もいる。なぜ彼ら/彼女らは“新時代の常識”を作る挑戦ができたのか? その姿に迫る!

コロナ禍での時限的な規制緩和を受け、「オンライン診療」の認知が一気に拡大したニュースが報じられている。

この急拡大を支えた一人が、2016年から同業界のパイオニアとしてオンライン診療サービスを提供する株式会社メドレーで、カスタマーサクセスを務める栂瀬ゆりえさん(26歳)だ。

栂瀬さんの前職は看護師。ある出来事をきっかけに病院を退職し、メドレーにジョインすることを決意した。まだオンライン診療がほとんど認知されていなかった2018年のことだ。

栂瀬さんはなぜメドレーで「前例のないチャレンジ」をする決意をしたのか?

そしてコロナ禍で多くの人が混乱に陥る中、26歳という若さでチームリーダーとして冷静な対応ができた理由とは?

患者さん中心の医療を実現して、一人でも健康で長生きできる人を増やしたい」と語る栂瀬さんに、その原動力を聞いた。

株式会社メドレー カスタマーサクセスチーム 栂瀬(とがせ)ゆりえさん

株式会社メドレー カスタマーサクセスチーム 栂瀬(とがせ)ゆりえさん

1994年島根県生まれ。東京大学医学部健康総合科学科で公衆衛生や看護学を学び、卒業後は東大病院で看護師として就職。2018年より株式会社メドレーに入社、カスタマーサクセスのチームリーダーを担当

“医療から離脱してしまう患者さん”に、病院の外からアプローチしたい

看護師だった私が、なぜオンライン診療の普及に挑戦することになったのか。そのきっかけは、前職の病院での出来事に遡ります。

病院から退院する患者さんの中には、退院後も経過観察や、治療の継続をしなければならない方がいます。ところが一度病院を出てしまうと、通院の負担から途中で通院を辞めてしまう人は意外に多くて。

実際に、定期的な検査を受けてこなかったために、重大な病気の発見が遅れてしまった患者さんもいました。その事実を告げられた瞬間、大きなショックを受けていた患者さんのことは、今も忘れることができません……。

本来であればそうした患者さんには、病院からも通院を促すべきなのかもしれません。しかし病院には、今すぐにでも処置が必要な、最もリスクの高い患者さんが集まっています。その対応に追われる日々の中、すでに退院した患者さんのためにリソースを割くことは、現実的ではありませんでした。

でも、このままではいけない――。医療に携わる者として、そう思わずにはいられませんでした。

だけど病院の中からはなかなかアプローチができません。もどかしさを感じていたときにたまたまインターネットで知ったのが、オンライン診療の存在でした。

株式会社メドレー カスタマーサクセスチーム 栂瀬(とがせ)ゆりえさん

オンラインで診察を受けられるようになれば、通院の負担が減り、患者さんは圧倒的に医療にアクセスしやすくなります。そうすれば、治療を継続できる方が増えるはずです。

私が悩んでいた2018年当時、オンライン診療はまだ全くといっていいほど普及していませんでした。でも、だからこそ実現したい。つらい思いをする患者さんを一人でも減らしたい。メドレーに転職したのは、そうした思いからです。

看護師から事業会社へのジョブチェンジでしたので、最初は戸惑うことも多かったです。中途入社ながら、ビジネスメールの書き方や名刺交換の仕方すら知らない状態でした(笑)

でも、チームメンバーにサポートしてもらうこともありながら、医療現場にいた経験を活かし、痒いところに手が届くような実運用に寄り添った提案やサポートを行うことが出来たと思っています。

そして入社から2年3カ月が経ち、今はカスタマーサクセスのチームリーダーを務めています。

オンライン診療だけでなく、電子カルテや予約の機能を含めたクラウド診療支援システム『CLINICS』を医療機関様に適切に導入、活用してもらうための施策を考え、チームメンバーに実行してもらうのが私の役割です。

株式会社メドレー カスタマーサクセスチーム 栂瀬(とがせ)ゆりえさん

そんな私が今、メドレーで成し遂げたいと思っていること。それは、「患者さんが医療を使いこなせる未来」を実現することです。

今ほとんどの人は、先生に言われた治療方針を疑うことなく、受け入れざるを得ないのが現状ですが、患者さんが医療や医療情報にもっと簡単にアクセスできるようになれば、治療の選択肢が増えて、健康で長生きできる人が増えるはずです。

メドレーでは『CLINICSオンライン診療』と組み合わせて使うことのできる『オンライン服薬指導システム』の提供も、今年9月に開始する予定。これらを活用すれば予約から診察、薬の受け取りまでを一気通貫でオンライン上で完結することができるようになります。

これらに加えて、全国の専門医とつながる『CLINICS オンラインセカンドオピニオン』の展開などを通して、患者さん中心の医療を実現したい。そんなニュースタンダードをきっと実現できると信じています。

コロナ禍で突然やってきた「10年先の未来」

株式会社メドレー カスタマーサクセスチーム 栂瀬(とがせ)ゆりえさん

コロナ禍によって、思いがけずオンライン診療の認知が一気に広まりました。実は今の特例的な規制緩和状況は、私たちが描いていた「10年先の未来」のような状態になっているんです。

日本でオンライン診療がスタートしたのは1997年。実は20年以上も前なんですが、オンライン診療と名の付く保険点数として認められたのは2018年、それも厳しい条件が付されるなど、医療機関にとって導入のハードルは高く、普及はなかなか進みませんでした。

それがコロナ禍によって規制が時限的に緩和され、厳しい条件はなく医師の裁量でオンライン診療が実施できるようになりました。さらには、これも同様に時限的ではありますが、初診でのオンライン診療も認められるようになったのです。

思い描いていた10年先の未来がいきなり目の前にやってきて、オンライン診療の普及が一気に進みそうだと感じると同時に、すぐに気を引き締め直しました。規制というものは、急激に緩和されると不適切な使用事例が増えてしまいやすいからです。

「医療機関や患者の皆さんが不利益を被ることのないようにしなければならない」。その一番最初の段階を担うのが、カスタマーサクセスチームの役目です。その一心で、とにかく丁寧な説明に徹しました。

お伝えしているのはサービスの使用方法だけではありません。規制緩和の条件や注意点、ガイドラインと照らし合わせて医療機関の運用は適切か否かなど、個別のアドバイスも行っています。

こうしたきめ細かい対応ができたのは、2016年のサービス開始時からコツコツと蓄積してきたノウハウがあったからです。今までの努力がまさに生かされた瞬間でした。

そして先日、当社の提供するオンライン診療サービスの診察回数が、累計10万回を突破しました。

株式会社メドレー カスタマーサクセスチーム 栂瀬(とがせ)ゆりえさん

医療機関からは、「連絡が途絶えがちだった患者さんがちゃんと治療を受けてくれるようになって嬉しい」とお声をいただいています。中にはオンライン診療のよい利用例を逆にご提案くださる先生もいて、良い関係を構築できていることが本当に嬉しいです。

しかし振り返ってみると、この数か月間は本当に忙しかったです(笑)。正直、私たちのキャパシティーを超えるほどの問い合わせをいただいていましたから。

それでもなぜ、やるべきことを冷静に考え、対応することができたのか。それは、日本でいち早くオンライン診療を始めた「パイオニアとしての使命感」があったからだと思います。

今後、オンライン診療は「外来」「入院」「在宅医療」と並ぶ第4の選択肢として当たり前になると考えられています。ですから、医療機関と患者さんが適切につながることができる場を提供しなければなりませんし、それはインフラとして安定したものでなければいけません。

そういった思いがあったから、緊急時においても何一つブレることはありませんでした。

前例のないチャレンジを支える「凡事徹底」と「感謝」

オンライン診療の普及という「前例のないチャレンジ」に取り組む上で、私が大切にしていることが二つあります。

一つは、地道にコツコツ取り組むこと

カスタマーサクセスでは、導入してくださる医療機関が適切に活用できるように、オンライン診療を組み込んだ院内オペレーションを一緒に考えたり、医療機関が患者さんに案内するときのトークスクリプトを作成したりしています。

これらは個別で対応するものなので、時間も手間もかかります。でも、目標って一気に達成できるものではないと思うんです。

ホームランを狙うのではなく、適切に使用してくださる医療機関様を地道に増やしていくこと。つまりヒットをコツコツ積み重ねていくことが大切だと思いますし、その一つ一つの取り組みに対してこだわり抜くことを意識しています。

当社の行動規範の一つに「凡事徹底」という言葉があり、「誰にでもできる凡事を非凡な水準に極めよう」という意味なのですが、私自身これにとても共感していて。こだわりを積み重ねたその先にこそ、大きな成果が得られると考えています。

株式会社メドレー カスタマーサクセスチーム 栂瀬(とがせ)ゆりえさん

そして大切にしていることのもう一つは、私たちと一緒に「前例のないチャレンジ」をしてくださる医療機関様を大切にして、常に感謝すること。

そもそも医療現場は人の命を預かる場所なので、リスク要因をできるだけ回避するために、今までと同じやり方を続けたいと思うのは当然のことです。

それなのに、オンライン診療という新しい取り組みに挑戦してくださっている。これは非常に大きな決断です。そんな医療機関様に敬意を払い、目指す世界を一緒に作り上げる仲間として協力し合うことを大切にしています。

この2点を大事にしながら、会社のミッションを実現していくために、リーダーとしてチームの最大値を常に上げていく。それが、今の私がやりたいことですね。

看護師からメドレーに転職したとき、これからは病棟で一人一人の患者さんに対応するのではなく、より多くの人に影響を与えられるようになりたいと思いました。その思いは今も変わりません。

一人の力は小さなものです。でもチームの力があれば、社会に大きな影響を与えられます

「前例のないチャレンジ」は、社内、そして医療機関様の協力があるからこそ実現できる。その感謝の気持ちを忘れずに、大きな目標に立ち向かっていきたいです。

取材・文/一本麻衣 企画・編集/大室倫子(編集部)


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