キャリア Vol.927

【WEIN溝口勇児】「会社とは、真の自由を手にするための場所」ニューノーマルの時代に問い直す“会社で働く意味”

FiNC Technologies 創業者で元CEOの溝口勇児さんが、2020年5月、プロサッカー選手で KSK Angel Fundの運営でも知られる本田圭佑さん、ネスレ日本前社長の高岡浩三さんとタッグを組み、国内スタートアップに投資する『WEIN挑戦者FUND』(以下、WEIN)を立ち上げた。

WEIN挑戦者FUND 代表パートナー/Co-Founder 溝口勇児さん

WEIN挑戦者FUND 代表パートナー/Co-Founder 溝口勇児さん

2012年、FiNC Technologiesを設立し、代表取締役社長 CEOに就任。総額150億円超の資金調達をした後、19年12月に代表取締役社長を退任。20年4月より国際NGOジャパンハート アドバイリーボードに就任。日経ビジネス「若手社長が選ぶベスト社長」など、各種アワードに選出されている

WEINでは今後、孤独や退屈、不安といった21世紀ならではの課題解決に挑む国内スタートアップなどに対して投資を行っていく。さらに、今年10月には、国内史上最大級のオンライン学生カンファレンス 「WEIN STUDENTS SUMMIT」の開催も予定されている。

学生を含む、若い世代の挑戦者たちの支援に力を注ぐ溝口さんのもとには、起業すべきか、会社に就職すべきか、自分がやるべきことは何なのか……キャリアの岐路に立つ20代から日々さまざまな相談が寄せられているという。

では、自身で会社を興し、会社という組織・チームで働いてきた溝口さんが考える、これからの時代に会社員として働く意味とは? 無数にある選択肢の中で、「会社で働く」ことをどのように考えるのか、溝口さんの持論を聞いた。

時間や場所に縛られない……
“小さな自由”はすぐ手に入り、すぐ飽きる

「なぜ働くのですか」「なぜ生きるのですか」「なぜ挑戦しなければならないのですか」――。そんな本質的で純粋な問い掛けを、20代の若手から受け取ることがあります。必死に意味を見出さなければ前に進めない若者が増えた理由は、選択肢が広がったからだと思います。

終身雇用が前提でキャリアのレールが限られていた昔と比べ、今は会社員として就職する以外にも学生起業や若くしてフリーランスとして活躍するといった選択肢が無限にある。誰もが進み方に迷う時代なのかもしれません。その選択肢の一つとなるのが「会社に就職する」という道で、その意味を問いながら悩んでいる人が多いのだと思います。

では、会社で働く意味とは? 僕なりにその答えを導き出してみました。

WEIN挑戦者FUND 代表パートナー/Co-Founder 溝口勇児さん

まず、そもそも「なぜ働くのか」を考えてみると、それは「なぜ生きるのか」あるいは「どう生きたいのか」とほぼイコールです。なぜなら、人が起きて活動する時間のうち、その大半を働く時間が占めるから。だったらその時間をできるだけ幸せに近づけたいですよね。誰もが、人生の最後に後悔しないための今を選びたいはずです。

では、その実現のために何を獲得すべきなのか。僕は“自由”だと思います。

“自由”というと、皆さんは何を想起するでしょうか。食べたいものを食べる自由、行きたい所に行く自由、休みたい時に休む自由。それも確かに大事ですが、少しの工夫と努力で比較的手に入りやすい“小さな自由”です。しかも、短期的には満足できても、すぐに飽きてしまう。

WEIN挑戦者FUND 代表パートナー/Co-Founder 溝口勇児さん

もっと根本的な価値観を表明できるような“大きな自由”――例えば、守りたい人を守れるとか、なくしたい不条理をなくせるとか、そんな状態をつくれることが、幸せで悔いのない人生につながるのではないかと僕は思います。

信頼を勝ち取った先に、“大きな自由”がある

では、その自由を手に入れるために必要なものとは何か。それは“信頼”です。信頼がある人には、お金も仲間も集まってくる。結果、大きな成果を出しやすくなります。

この信頼を得る近道になるのが、「好きなことを追求する」という行動。好きなことであれば努力をして得意になり、人の役に立てる確率が上がるからです。人生の早い段階で好きなことを見極められた人は、その追求によって起業をしたり、独り立ちしたりして信頼を集めていきます。会社に就職しない自営業的な働き方をする人の割合は、日本でもこれから増えていくでしょう。

そんな世の中であえて「会社勤め」を選ぶ価値とは?それは、信頼を積み上げやすい場所にいられることだと思います。信頼の先には自由がある。つまり、会社とは「真の自由を手に入れるための場所」なんです。

WEIN挑戦者FUND 代表パートナー/Co-Founder 溝口勇児さん

会社勤めというと、「縛られる」とか「窮屈」のイメージを持たれがちなので、意外に感じる人も多いでしょう。でも、リモートワークが急速に広がる今、会社員であっても、働く場所や空間のフレキシビリティーは高まっています。“小さな自由”なら、すぐにでも手に入る時代になりました。

また、会社とは組織であり、チーム。「早く行きたいなら一人で、遠くまで行きたいならみんなで」とよく言われますが、その通りだと感じます。会社という組織が積み上げてきた信頼を借りれば、一人では決してたどり着けない遠くまで行くことができる。これは大きなメリットです。

信頼を得る人は、「逃げ出さない、投げ出さない、諦めない」

自由を得るには信頼を磨くこと、と先ほど話しました。信頼を養うには、「能力」と「人間性」の両面を磨く必要がありますが、会社はまさにその二つを磨ける最適な鍛錬場でもあります。

多様な価値観や考え方を持つ仲間に囲まれ、成長のチャンスをもらえる場に身を置くことは、その近道になる。友達同士のつながりだけでは出会えなかった人と一緒に働くきっかけが、会社には豊富に転がっています。

若いうちにはまだ実績も少なく、すぐに信頼は集まらないかもしれません。僕が20代の皆さんに贈りたいのは「逃げ出さない、投げ出さない、諦めない」ということです。少し古風ですし、誤解を与える表現かも知れませんが、こうした心掛けだけで信頼は早く積み上げることはできます。

WEIN挑戦者FUND 代表パートナー/Co-Founder 溝口勇児さん

上司の立場からすると、すぐに逃げ出しそうだったり、投げ出しそうだったり、諦めてしまいそうな部下に重要な仕事はアサインできませんよね。まず目の前の仕事に一生懸命に取り組む姿勢を見せてくれる人でないと、代替可能な仕事しか渡しづらいんですよね。すると、いつまで経っても能力が上がらない。

反対に、「逃げない、投げ出さない、諦めない」という姿勢が伝わってくる人には、より多くのチャンスが巡ってきます。たとえ、能力が足りなかったとしても、本気で頑張ろうとする人には周りも心をうたれてサポートしてくれます。

何より、本人の「何としてでもやり切ろう」という気持ちが、能力を最大限引き伸ばしていきますし、やり切った頃には仲間も増えている。結果として、経験も増える。挑戦のプロセス自体に大きな価値があるのです。

アスリートがパフォーマンスを高めるために取り組むトレーニングも、“今の自分”を超える負荷をかけて挑戦をすることで、自分が拡張していく。成長とは拡張であり、拡張のきっかけになるのは挑戦なのです。

挑戦者には、追い風が吹いている

僕が今年、「WEIN挑戦者FUND」を立ち上げたのも、挑戦こそが人生の幸福度を最大化すると信じるからです。また、自分自身が大きな挑戦をしなくても、挑戦しようとする他の誰かを応援することで満たされていく。そんなプラスの循環を生んで、個人も社会も成長できる未来をつくりたいと思っています。

WEIN挑戦者FUND 代表パートナー/Co-Founder 溝口勇児さん

そして今、僕たちの目の前に広がっているのは、「誰もが挑戦できる時代」です。新型コロナウイルスという脅威は、多くの人に不安や悲しみをもたらしました。留学、就職や転職……やろうと思っていたことが予定通りいかなくなったりして、絶望した人たちもいたかもしれません。

しかしながら、失ったものばかりではないはずです。ビジネスのあらゆるシーンにオンラインが浸透してきたことで、空間と時間の壁を軽々と超えたコミュニケーションがどんどん生まれています。

先日、僕たちが開催した学生向けのオンラインイベントには、日本の各地だけでなく、ドイツやシンガポールなど地球上のさまざまな場所からの参加がありました。ブラジルにいる(WEIN挑戦者FUND 代表パートナー/Co-Founderの)本田圭佑が、地方在住の学生に直接エールを送る。そんなことがいとも簡単にできる時代がやってきました。

東京とそれ以外の地域の間にあった機会格差は崩壊しようとしている。これまで地理的な条件や家庭の経済状況を理由に“持たざる者”に甘んじていた人たちが、一斉にスタートラインに立てる時代へ。何かを成し遂げようとする人にとっては、追い風が吹いている。その風を感じて進んでいこうよと、僕は言い続けたいと思います。

取材・文/宮本 恵理子 撮影/竹井俊晴 


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