若手VC二人はどう見る? コロナ禍で激変した「会社」の存在意義
コロナショックが、依然として世界経済や企業業績に甚大な影響を及ぼしている。この大転換期に、経営者たちは何を思っているのだろうか? そして、20代は「会社」という存在をどう捉えればいいのだろうか?
そこで、ベンチャーキャピタルで独立した若き経営者・廣澤太紀さんと、スタートアップの経営を支える23歳のVC・江原ニーナさんの二人に「会社とは何か?」という質問をぶつけてみた。
二人から返ってきたのは「才能を生かすシステム」「未来をつくる人の集まり」という回答。その理由とは?
コロナショックで激変した、各社の風向き
――お二人はベンチャーキャピタリストという仕事柄、これまでさまざまな会社を見てきたと思います。今回のコロナショックは、企業にどんな影響をもたらしたと感じますか?
廣澤 コロナ禍が逆風になった会社もあれば、追い風になった会社もありますね。逆風を受けたのは、主にインバウンド業界。「もう何もできることがない」という状況に陥っている会社があるのも事実です。
その一方で、コロナ禍によって「未来が早送りでやってきた」会社もあります。例えば僕の投資先で、個人の好みに合ったコーヒーを非接触で提供する「AIカフェロボット」を開発したスタートアップには、カフェチェーン店や飲食系の大手企業から一気に問い合わせが来ました。そのような先への導入は2〜3年後を想定していたので、驚きましたね。
江原 追い風を受けたサービスは他にもありますよね。例えば、スマホゲームをしながら高音質用のボイスチャットができる常時接続アプリ『パラレル』。今回の一斉休校をきっかけに学生層に広がり、将来的には次の『LINE』になるのではと噂されています。
江原 ただ、私の投資先の中には、逆風を直に受けた人たちがいます。そうした会社は、アンコントロールな出来事が起きたときにパッと切り替え、「今できることをしよう」と新しい可能性を探る力を付けたように見えました。
廣澤 同時に、企業がこれまで展開してきた事業にどれだけ熱中していたかが問われるタイミングでもあったと思います。今後の方向性を検討した結果、ピボットする判断に至ったのであれば、それはもちろん尊重します。ただ、逆風を受けながらも事業を続ける覚悟のある人が洗い出されたようにも感じていますね。
VCとして働き始めて感じた「会社」の正体
――お二人の「会社」のイメージは、実際に社会に出て働き始めてから変わりましたか?
廣澤 学生の頃は、会社は「就職するところ」だと思っていました。生活費をもらうために雇用してもらうところ、というか。
江原 分かります。合同説明会に行くと、その会社に雇用されること自体を目的にしている学生も多いと感じていました。でも、いま私が見ているスタートアップには実現したい未来があって、そこから逆算して会社をつくっている。ゴールは働くことではなく、その先にあるもの。かつての「会社」のイメージとは正反対だったんです。
そして、その未来の実現は一人ではできないので、会社には同じような熱意や思いを持った人が集まっています。学生の頃は、会社に対して何となく無機質な印象を抱いていたのですが、全然そんなことはない。ものすごく熱い人たちの集まりでした。
廣澤 僕は、会社は「才能を生かすシステムの一つ」だと思っています。学生起業家や社会人を辞めて起業した方、事業会社の社員、オーナー社長などいろいろな方とお会いする中で、才能を発揮できる場所は人それぞれだと気付きました。例えば、大手企業で活躍できなかったからといって、その人に才能がないわけではありません。独立して成功する人もいれば、転職して成果を出す人もいます。
昔、糸井重里さんがインタビューで「法人という人格には個性がある」と話していたのが印象に残っていて。人と人に相性があるように、会社と人にも相性がある。だから、その人の才能を生かせる人格や個性を持った会社が必ずあると思うんです。
江原 会社に人格、確かにあると思います。スタートアップを見ていると、会社って生き物みたいだなと感じるんです。最初は2~3人で始めた会社に、人がどんどん増えていって、創業者に求められる資質も変わってくる。集まる人も集まるお金も変化する様子を見ていると、会社って生きているし、個性が宿っていると感じますね。
――お二人は主にスタートアップに投資をされていますが、会社規模によって「会社とは何か」は変わってくると思いますか?
廣澤 会社と言ってもいろいろな種類がありますから、規模に限らず本当にそれぞれだと思います。ただ、スタートアップは、世の中から見るとかなり特殊な集団ですよね。そもそも、会社の目的が多種多様ですし。プロフェッショナルファームのような会社もあれば、好きな服を売る個人経営の会社もある。起業しても必ずしもグロースを目指す必要はないですしね。
江原 いまは大企業信仰のカウンターカルチャーとして、スタートアップがもてはやされている感はありますよね。でもものすごく成功確率の低い世界ですし、全ての人にとってベストというわけでは当然ないと思います。
「何事もフットワーク軽く」「憧れに対して素直に動く」二人が自分に合った会社に出会えたワケ
――では、若手時代のキャリアって、どんな基準で選べばいいと思いますか?
廣澤 もし企業就職を選ぶなら流行り廃りに左右されず、自分の才能を生かせる会社を柔軟に探すのがいいと思います。多くの人がコロナ禍で考える時間を持てたのをきっかけに、「どこでどんなふうに働くか」は、今後ますます多様性を帯びてくるはず。キャリアの画一性はなくなってくると思います。ところで江原さんは、自分が就活をしたときは、どんなことを感じていましたか?
江原 一応フェルミ推定の本を読むなどして就職試験の準備はしたのですが、面接では一貫性のある志望理由を並べられなくて……。会社に入るために自分をフィットさせるのには、どうしても違和感があったんです。それで、途中で離脱してしまいました(笑)
廣澤 でもその結果、今満足できる仕事に出会えたんですよね。
江原 はい!まだまだ勉強しないといけないことだらけですが、自分にはこの仕事が合っていると感じます。私が最初に投資を実行した会社って、まだアイデアしかない、エンジニアもいないような会社だったんです。そこからアプリをリリースしたり、小さな額でも売上を立てたりした時は、ものすごくうれしかった。仕事を通じて、私の一番満たしたい欲が満たされる。そんな感覚がありました。
――お二人は、なぜ自分に合った会社に出会えたと思いますか?
江原 就活で感じた違和感を放置しなかったこと。あとは、フットワークが軽かったのがよかったのかなと思います。私も大学一年生の頃は「就職するならGoogleがかっこいいな」なんて思うミーハーだったんですけど(笑)。たまたまあるイベントに参加したら、スタートアップで働いている友達がたくさんできて。インターンやイベントに参加する中で自然と興味が湧きました。
廣澤 僕も「就活」に対する違和感はありました。大企業のインターンにいくつか参加していたのですが、「何か違う」と感じていて。そんな中で、ベンチャーキャピタルEast Ventures代表の松山太河さんのインタビュー記事を読んで、純粋にかっこいいなと思った記憶だけはずっと残っています。
あと、僕は偶然太河さんに拾ってもらい一緒に働く機会を得ましたが、そういうチャンスを掴むためにも、憧れは大事にした方がいいんじゃないかなと思います。その上で、江原さんのようにフットワーク軽く行動するのが重要なのかなと。
江原 就活中も感じたことですが、多くの人が一貫性のある人生なんて送っていないと思うんです。私はもともとVCの存在すら知りませんでしたし(笑)。好き嫌いせずにいろいろなことに関わってみると、結果的に自分に合う仕事や会社を見つけられるのかもしれませんね。
廣澤 就職のあり方って、今後はどんどん多様になっていくはずです。まずは自分の憧れに対して素直になる。そして固定観念にとらわれずに行動を起こすことで、幸運な出会いを引き寄せられるのではないかと思います。
取材・文/一本麻衣 撮影/赤松洋太
本記事も掲載中!雑誌『type就活』
「なぜ働くのか」という本質的な問いを考えた上での就職を提案する就職情報誌『type就活』。就活生だけではなく、若手ビジネスパーソンにも学びの多い一冊です。
<豪華メンバーによるインタビュー多数掲載!>
・「会社」って、一体何だ? (柳井正/藤田晋/溝口勇児/ハヤカワ五味/大久保伸隆/龍崎翔子 他)
・新卒で会社に就職する意味 (田端信太郎 他)
・会社にとっての「新卒」とは (曽和利光 他)
・「個の力」って何ですか? (澤円/シオリーヌ)
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