キャリア Vol.931

サイバー藤田晋が20代に向けて語る“不幸なキャリア”歩まないための会社選びの視点

2020年5月、東京株式市場でサイバーエージェントの時価総額が終値ベースで電通グループを初めて逆転。新型コロナウイルスの影響で経営不振に陥る広告代理店が増える中、同社の株価は上昇を見せた。

サイバーエージェントの創業者、同社代表取締役社長の藤田晋さんに自身の経営観を聞くと、「会社とは、何かを成す手段ではなく、僕にとっては目的そのもの」だと答えた。

その真意とは何か。コロナ時代、就職先や転職先を探す若手への助言と合わせて聞いた。

※本記事は11月1日発売の『type就活』内のインタビューを掲載しています。

株式会社サイバーエージェント 代表取締役社長 藤田 晋氏

株式会社サイバーエージェント 代表取締役社長 藤田 晋氏

1973年福井県生まれ。 青山学院大学卒業後、サイバーエージェントを98年に創業。2000年当時、史上最年少社長として東証マザーズ上場を果たす。著書に『渋谷ではたらく社長の告白』『起業家』(ともに幻冬舎文庫)など

会社の規模拡大には潔くこだわりたい

世の中には会社を「何かを実現するための手段」と捉えている人たちが多くいます。「サービスをつくり出すために会社が必要」とか、「社会を変えるために会社が必要」というように。

サイバーエージェントの場合は、「21世紀を代表する会社を創る」こと自体がビジョン。つまり会社とは、目的そのものなんですね。

そう考えるようになったきっかけは、僕の学生時代にさかのぼります。『ビジョナリーカンパニー』という本で「会社とは時を超えて素晴らしいものであり続ける、みんなでつくる芸術作品のようなもの」という言葉に出会い、非常に感銘を受けました。

また、バイト先のベンチャー企業の専務からは「すごい会社に入ったやつが偉いんじゃない、すごい会社をつくったやつが偉いんだ」と言われていて。自分で会社をつくり上げたいという思いが徐々に強くなっていきました。

「21世紀を代表する会社を創る」というビジョンが言語化されたのは会社を立ち上げた後ですが、創業時から目指すものがブレたことは一度もないですね。

では、一体どんな会社をつくっていくのか。僕は潔く規模を大きくすることにこだわりたい。

異なる価値観の人が存在することは承知していますが、「会社は小さいままでも素晴らしい」というのは、正直ちょっと言い訳に聞こえる

僕はゼロから会社をつくり、会社の売り上げ規模を5億、1000億と増やす中で、やれることが変わってくるのを体験してきました。スケールメリットは今の時代においても大きく働きます。

世界に目を向けると、例えばグーグルは社員のためにものすごい福利厚生施設を造っているし、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツは巨額の寄付をしている。それらは全て規模が成せる技です。

こうした世界的企業に比べると当社はまだ非常に小さい存在ですが、規模的な面でも「21世紀を代表する会社」を目指していきたいと思っています。

そして、会社の競争力をつくるのは採用です。新しい人が入ってくることによって、社内が活性化される。われわれは「良い人材を全力を尽くして採用し、育成することで会社を伸ばす」方針で組織を運営しているので、採用は当社にとって「大事」どころではない、「原動力」なんです。

そんな社員の存在は、一言で言うと「チームの仲間」ですね。サイバーエージェントに関して言えば、個人主義の専門家集団という感じではありません。自分の仕事だけではなく会社全体の取り組みに協力するし、自分の仕事を限定しない社風なのです。あとは、ドライではないですが、かといってものすごくウェットな関係というわけでもない。

例えば、「社員は家族です」なんて言うつもりはさらさらありません、それはちょっと重たい気がします(笑)

僕は、そんな「チームの仲間」たちに長く働いてもらえるように、社内の活性化にはこだわってきました。しかし今回のコロナ禍で分かったのは、「必ずしも毎日会社に来て会わなければいけないわけでもない」ということ。

そこで緊急事態宣言が解けてから、当社ではリモートワークを週1で導入したんです。しかしあまりに今までと変わらなかったので、途中から週2に増やしました。感染者増により現在は毎日にしましたが、それでもやっぱり、大きく変わることはありませんでした。

逆に「今まで何で会社に来ていたんだろう?」と考えてしまうほど(笑)。ただ、「オフィスはもういらない」というわけではないと思っています。こういう状況になると極端な論調が目立つようになりますが、僕は「会社に来る意味」はあるんじゃないかとも思う。今は正しい着地点を探っている最中です。

コロナ不況の時代
選ぶべきは「力が付く会社」

株式会社サイバーエージェント 代表取締役社長 藤田 晋氏

誰しも一社目から受ける影響は相当大きなものになりますから就活は慎重に進めるべきです。例えば、モラルの低い稼ぎ方をしていたり、社員の扱いがひどい会社に入ってしまったりすると、その悪い振る舞いが自分にも染み付いてしまいます。

ただ、就活生など20代の若い人たちが問題のない会社かどうかを見極めるのは難しいかもしれませんが、キャリアの序盤で変な癖がつかないよう、ちゃんとした倫理観を持っている経営者がいる会社を選ばなくてはなりません。

その上で意識するべきは、「自分の人生を自分で決められる会社に入る」こと。僕が社会に出た年は山一證券が倒産した年でもありました。そのニュースを見て、「大きな会社でも信用できるわけではない。自分でスキルを磨き、食っていける力を身に付け、どんなかたちでも仕事ができる人にならなければいけない」と強く思いましたね。

実際、僕はベンチャー企業で早くから力を付けられる環境にいましたが、就職してから本人の意向とは異なる転勤をさせられ、また若いうちは大した仕事も任されず、自分とどんどん差が開いてしまった友人がいました。その時に思ったんです。「こんなに不幸なことはない」と。

学生時代は横一線だったのに、選ぶ会社一つでその後の人生が大きく左右されてしまうわけですから。

若い人の中には「休みが取りやすい」「安定している」といった観点から会社を選ぶ人もいるようですが、そんなことを考えても仕方がない。将来自分のキャリアを自分で選択できるように、強く生きていくための力が養われる会社を選ぶべきです。成長産業に関わる仕事ができる会社やベンチャー企業など、事業に伸び代があって若手が活躍できる会社がいいと思います。

ただ気を付けたいのは、そうした伸び盛りの会社は、まだ規模が小さいケースが多いということです。当社の場合は、それなりのスケールに拡大しつつも小さなグループ会社がたくさんあるので、キャリアの選択肢は多いですし、活躍の場は十分にあります。

しかし、いくら成長産業でも、スケールの小さな仕事しか経験できないままでは、将来的に小さくまとまってしまう危険性がる。その反対で、大きな会社に入ったけれども事業が伸びていないと、なかなか成長機会を得られないこともあります。すると、大企業にいるはずなのに、小さな箱に閉じ込められたような感覚に陥ってしまうでしょう。企業規模により、それぞれのメリットとデメリットがあるものです。

まずは現実を直視すること
「素直さ」が人を成長させる

株式会社サイバーエージェント 代表取締役社長 藤田 晋氏

この時代に就活や転職活動をする20代の皆さんは大変だと思います。景気が悪くて就職には不利。それでも現実を直視して、ポジティブな要素を探すしかありません。

一つ言えるのは、往々にしてキツい時代を生き抜いた人の方が、後で伸びるということ。「バブル世代」という言葉がありますが、景気が良いときは、採用や仕事の基準が緩くなるので、その後の成長に支障が出ます。しかし景気が悪くなると、「それでも何とかしよう!」と頑張った結果、筋肉質になる人が多い。だから皆さんは頑張りさえすれば、後に「黄金世代」と呼ばれる存在になれる可能性があります。

そして入社後もビジネスパーソンとして伸び続けるために、若い人たちに大切にしてほしいのは「素直さ」です。当社の場合、機会を与えたり、つくり出したりすることによって若手を成長させようとしていますが、どんなに環境を整えても、素直にチャレンジしてもらわなければ、せっかく成長機会があっても全く意味がありません。

例えば新会社の設立を「頼むぞ!」と任せたなら、「はい!」と応えて何とかしようとする。それが素直ということです。ひねくれていると、「この市場に対してこんな規模でできるわけないじゃないですか」などと言って、言い訳ばかりで結局何もやらない。

これでは伸びる前に終わってしまいます。今は変化の激しい時代ですから、柔軟性を持つためにも素直さは大切です。頭でっかちは、何の役にも立ちません。

でも、自分の若い頃はどうだったかな……。麻雀が強かったので、だまされにくかったという意味では、あまり素直ではなかったかもしれないですね(笑)

就職のときは、いろいろな人がアドバイスしてきますから、どれが正しいかなんて結局のところは判断がつかないと思います。この特集でも、僕と全く正反対のことを言う方もいるでしょう。元も子もありませんが、最後は自分の直感に頼るしかありません。自分で選んだという感覚さえあれば、失敗したって後悔は減る。自分を信じて、この逆境を乗り越えてください。

もし自分が今就活生だったら、どうするでしょうね。少なくとも、狭き門になった大企業を受けようとは思わない。採用人数を減らしているということは、その会社の属している業界の景気が悪いということですから。こんな状況でも調子が良くなっている会社を探すか、それが本当に少ないなら、自分で会社をつくることをやっぱり考え始めるかもしれませんね。

取材・文/一本麻衣 撮影/竹井俊晴


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