コーヒーチェーンのSVが生保業界に転職して感じた、家庭が仕事に与える影響力
不安すら感じなかった独身時代。新人研修で打ち砕かれた自信
現在は富国生命東京支社東京第二営業所の営業所長として活躍する松田泰宏氏だが、前職はコーヒーショップで働いていた。店長からエリアマネージャー、フランチャイズ店舗のスーパーバイザーと順調にキャリアアップを重ねてきた松田氏が、転職を考えるようになったのは、“キャリアの頭打ち”を感じたからだった。
「会社の規模から考えても、これより上のポストも収入も望めそうにありませんでした。それに飲食業は反射神経が問われる仕事。年を取って店舗に立ったとき、若い頃のように動けなくなるのは寂しいなって思いました。年齢を重ねても活躍し続けられる仕事がしたいなと思ったんです」
生保業界に対する知識は全くなかった。富国生命に応募したのは、多くの営業職員を束ねる営業所長という仕事に興味を持ったから。松田氏は同社に、前職で培ったマネジメント経験を生かせる場所を求めていた。
「知識がなくとも転職への不安はそう大きくありませんでした。初めて不安を感じたのは、入社後半年のタイミングで行われた2カ月間の新規営業研修。それまでは、自分の営業力に対し、漠然と『何となくできているかな』と思っていました。しかし、そこで自分よりもずっと高い能力を持つ同期と触れ、自分と周りとの実力差を実感したんです」
「研修では割り当てられたエリアのお客さまを一軒一軒訪問営業しました。だけど、いつまで経っても契約はゼロ。最終週、ようやく1件の契約を頂くことができたんです。実際に営業をやって分かったのは、まず大事なのは質ではなくて量だということ。最初から質を求めても上手くなんてできない。とにかく量をこなすことで質が磨かれていく。苦しくても動き続けていれば、良いお客さまとの出会いがあるんだってことを学びましたね」
カレンダー通りの休日で家族との時間が充実
入社7年目の松田氏。一緒に働く営業職員は全員女性だ。キャリア40年に及ぶ大ベテランから若手まで、年齢も経験値もさまざまな営業職員を率いている。今でこそ職員とはにこやかに冗談を交わし合うが、営業所長職に就いて間もない頃は対立も少なくなかったという。
「私自身、子育てしながら働いている女性職員の大変さを全く分かっていなかったり、営業所長がどのようにして職員をサポートしていけばいいのかもまるで分かっていなくて、ベテランの職員から“あなたとは一緒に戦っている気がしない”と言われたこともありました」
結べない信頼関係。営業所長としての自信がないあまり、朝礼でのスピーチも腰が引けるほどだった。営業所の計画も未達が続く。このままじゃいけない。松田氏は、自ら当事者意識を持って、一人ひとりの職員と向き合うようになった。
本来であればあまり営業現場に足を運ばない「営業所長」という立場でありながら、一緒に営業成績を達成するため、商談同行はもちろん、時には見込み客の獲得からサポートした。街へ出て、ベビーカーを押している母親たちに声をかける。営業所長自らがそんな泥臭い営業活動をすることで、百戦錬磨の営業職員たちからも「戦友」と認められるようになった。
そんな松田氏の心の支えとなった「結婚」。32歳で結婚し、昨年12月には、一児の父となった。結婚できた理由のひとつとして生活リズムが変わったことが大きい、と松田氏は振り返る。
「前職では、土日は仕事。お盆や年末年始も休みは取れませんでした。そういうこともあって、当時は結婚なんて全く考えられなくて、転職してやっと生活や将来に目を向けられるようになりました。今はカレンダー通りに休みが取れるので、家庭を持つ身としては何かとやりやすいですね」
お宮参りにお食い初め。一度きりの記念の行事に、父親としてきちんと参加する。今や我が子の成長が、松田氏にとっての大きな楽しみのひとつとなっている。
「家庭を持つことで、仕事への責任感も増しましたね。子育てをしながら働いている女性職員の立場や状況について、今までも頭では分かっているつもりでしたが、より実感として理解できるようになった。これはマネジメントをする上でとても大きな強みになったと思います。それに、実は妻を紹介してくれたのは、営業所の女性職員。そういう意味では、転職したおかげで結婚もできたんです(笑)」
照れ臭そうに頬をかく松田氏。その笑顔から日々の充実感がうかがえる。
「今の目標は、この東京第二営業所をもっと盛り上げて、結束力のあるチームにすること。営業の仕事は、どうしてもモチベーションに左右されがち。だから、一人ひとりのハートに火をつけられる所長になりたい」
30歳での転職は、新たな人生への種まきとなった。あれから7年。37歳となり、家族という守るべきものもできた松田氏は今、仕事という果実を大きく実らせるべく奔走している。
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取材・文/横川良明 撮影/柴田ひろあき
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