【バレーボール石川祐希】「もっと強くなりたい」イタリア・ミラノで磨かれた技術とメンタルのバランス感覚
現在、バレーボールの世界最高峰リーグ、イタリア・セリエAのパワーバレー・ミラノで活躍しているプロバレーボール・石川祐希選手。
18歳で日本代表入りを果たすと、以降、エースとして活躍。2019年のワールドカップでは28年ぶりにチームを4位入賞に導くなど、その存在感は際立っている。
イタリア・セリエAで6シーズン目となる今季は、日本人初のセリエA通算100試合出場を果たし、通算1000得点を達成するなど、世界のトップレベルで確実にキャリアを積み重ねている。
世界に挑むトップアスリートの「勝利の哲学」とは何だろうか。 勝ち続ける自分でいるための秘訣を聞いた。
目指すゴールは明確。世界のトッププレーヤーになりたい
バレーボール世界最高峰リーグでチャレンジを続ける彼のベースにあるのは、「勝ちたい」「トップチームでプレーしたい」というシンプルな思いだ。
その究極のかたちが、世界最高峰リーグでも常にトップに君臨するチームでプレーし、さらにはそのチームで勝ち続けること。
その目標を実現するために、2018年、日本バレーボール界では異例の大学卒業と同時にプロ転向を宣言した。
以降、直前のシーズンの結果や自分のフィーリングを元に総合的に判断し、次のシーズンはどのチームなら自身の最大限の実力を発揮でき、成長を見込めるのかを見極め、プレーするチームを選択してきた。
個人的には“自由な環境”の方がパフォーマンスをより発揮できると思いますが、厳しい環境に置いた方が成長はできると思います。
どちらの環境であれ、自分の目指すゴールが明確でないと、その環境に流されてしまう。僕の場合は、「世界のトッププレーヤーになる」ことがゴール。そして、今自分がそのゴールまでの道のりのどこにいるかを分かっていないと、正しい選択はできません。
これまで大学時代を含めれば6シーズンをイタリアでプレーして、自分の強みだったり、世界のトップ選手と比べて長けている部分や、足りていない部分を見つけられました。
ゴールまでの道のりは、まだ5合目くらい。今はトップクラブからパフォーマンスを評価してもらいたいという気持ちが強いので、自由度の高い環境を選びますね。
ただ、もしかして1年後や2年後は成長するために、あえて厳しい環境に身を置くという選択をしているかもしれません。
勝つことで得られる自信がいかに大きなものか。勝利を追求する中で身に付くスキルやメンタルの成長もイタリアで実感している。
日本で企業に就職してプレーする、もしくは企業に就職して籍を残したまま「レンタル移籍」として海外でプレーする選択肢はあったかもしれない。
でも、プロになったことが一つ、大きな転機になったと思います。チームの結果はもちろん、自分のパフォーマンスや結果によって評価され、判断されるわけですから。
当時は、イタリアで世界のトップレベルを知り、そこにたどり着きたい。あえて厳しい環境に身を置くことで、自分を成長させたいという思いが強かったですし、プロという選択肢を選ぶことで、覚悟が芽生えました。
「強豪チームに勝つこと」に大きな意味がある
初めてイタリアでプレーした大学1年の冬。石川選手はリーグとは別途開催されるカップ戦、コッパ・イタリアで、当時所属していたモデナでチームメイトがMVPを獲得する姿に、「いずれは自分も」と思いを馳せた。
しかし、イタリアに行くまでは、大学卒業後は企業に入ってバレーボールを続けると考えていたという。プロとしてプレーする選択肢は微塵もなかったとか。
海外に飛び出したからこそ、活躍しなければ次がないプロの世界でプレーするからこそ、気付いたことも多く、世界のトップと触れ合うことで、「勝ち」への貪欲さにも磨きがかかった。
そして、掲げるビジョンも自然と高くなっていったという。
自分のプレーが発揮できなければ来季の契約を結んでもらえないわけですし、オファーも来ないシビアな世界。
そういったプレッシャーを感じながらプレーしていることもまた、一選手としての強さにつながっていると感じています。
自分よりも優れた選手がたくさんいる世界で、潰されない……、生き残っていくためには自分を強く持たなければいけない。
現在所属するミラノは昨季リーグ5位で、今季は4位以上を目指していた(レギュラーシーズンは8位で終了)。現在はプレーオフを戦っている。
ペルージャやモデナといったセリエA上位常連チームを倒すことが大きなモチベーションとなっている。
今季は、昨季より少しレベルの高いチームに移籍して、レギュラーシーズンは決して満足いく成績ではなかったですけど、強豪チームに勝利した試合もありました。
今いるミラノは、勝ち続けられるチームだと思っていますし、強豪チームに勝って、さらに上に行きたいという思いはますます増していますね。
強豪を倒してさらに上へ。それは使命感と、同時にワクワクした気持ちでもある。
僕のようなチャレンジャーが勝ち続けるための一つのステップとして、強豪チームに勝利することは大きな意味があります。
なぜなら、たまたまで勝てる相手ではないので、しっかりとした準備と試合でのパフォーマンスの両方ができていないと勝てない。その両方がうまくいく経験というのは、その試合だけではなく、必ず次のステップにつながると思います。
また、勝つことで自分自身が成長していることを実感することもできる。強豪チームに勝利することで、間違いなくメンタルも鍛えられます。
昨季であれば、競った場面で出ていたミスや、相手に獲られるサービスエースも少なくなった。課題としていたディフェンス面、とくにサーブレシーブに関しては、重点的な強化の成果もあり、チームから大きく評価されている。
日々の積み重ねの成果だと思います。
例えば、プロ1年目のシエナ時代はシーズンを通して26試合中3勝しかできなかった。強いメンタルで臨めていた試合もあれば、少し落ちていた時期もあった。
今はプレーもそうですが、メンタル面の成長もパフォーマンスにつながっています。今季は過去に比べて安定していいプレーを発揮できていて、チームの勝利に貢献できているという感覚も得られていますね。
勝利を追求する中で、今は何よりも、「バレーボールを楽しめている」と笑顔を見せる。
本気で勝負するために、必死で語学を習得
年々着実にステップアップしている石川選手も、すべてが順風満帆だったというわけではない。今では流暢なイタリア語を話しているが、最初は言葉の壁にぶつかった。
大学1年の時に初めてイタリアに行ったときは、イタリア語はまったくできず苦労しました。
バレーボールはチーム競技なので、チームメイトとのコミュニケーションは必須。チームメイトとコミュニケーションがうまくできなければ、信頼を勝ち取れないですし、そもそもボールがまわってこない。
現地のルールやシステムが分からないことがあだとなって試合で起用されないこともあって、悔しい思いをしました。
イタリアは、日本以上に自分の思いや考えを言葉にして伝え合う文化です。
単純に言葉が分からないからストレスということではなくて、自分の目標を達成するためのツールとして、イタリア語の習得は絶対に必要だと感じました。
言葉が分からなければ、チームメイトが何を要求しているか理解できない。当然、自分がこうしたいという意志も伝えられない。プレー同様に、海外で本気で勝負するために必死に語学の習得を試みた。
また、世界最高峰リーグでプレーする選手たちは、スパイク、ブロック、サーブ、どれをとっても上を行く。
強烈な個性をぶつけ合う世界トップレベルの環境の下でいかに自身を鍛えられるか――。高さやスピードに優れた海外選手と日々対峙することで、技術やメンタルに磨きをかけてきた。
今では、彼のプレーの出来が試合の勝敗を左右するといっても過言ではないほど、攻守両面で不可欠な存在となっている。その責任の重さをいつも自覚していると石川選手は明かす。
また、重要なポジションを担う中で、「思い通りにいかない」と感じる時期も数々経験してきた。
プロ1年目のシーズンも全然勝てていない時期がありましたが、今季もレギュラーシーズンで6連敗した時は辛かったというか、少し悩みましたね。
怪我や病気でメンバーが揃わなかったり、フォーメーションが変わったり、今までに経験したことがないことも多く、チームを安定させることができませんでした。
状況をどう打開すべきか。そこで石川選手がフォーカスしたのが「個」だった。
チームとしてどう戦うかを考えるのはもちろん大事なことなんですが、まず個としてプレーを最大限発揮できなければチームとしても戦えない。
自分のプレーの問題点を分析した上で改善をし、納得するまでボールを触ったり、練習しましたね。
いいイメージを持つことは常に大事にしていますが、思い通りにいかないような時期は特にそれを大切にしています。
自分がいいと思うまで、試合でできるイメージがつくまで練習して、いつも以上に自信をつけて、試合に臨むようにしていました。
壁にぶつかったときや悩んだときは、一時的に競技から離れてみるという方法もある。
しかし、石川選手の場合は、怪我で体が動かせない以外は、バレーボールととことん向き合う。自信を持てるまで練習をし、次に進む。これまでもそうやって、小さな壁を乗り越えてきた。
「世界最高峰のリーグでプレーしたい」ブレない信念
現在、新型コロナウイルス感染症の影響で社会が一変し、スポーツ界もその影響を受けている。
セリエAも昨年は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で3月にリーグ戦が打ち切られ、今季もコロナ禍でシーズンが開幕した。
パンデミックの震源地ともなったイタリアで生活し続けることへの不安を感じながらも、それでも石川選手がイタリアでのプレーを選んだのは、世界とどう戦うか常に考えをめぐらせてきたからこそ。
昨シーズンが途中で中止になって、今シーズンのクラブを決める時には、確かにこれまでとは違った考えというか、考えなくてはいけない要素はありました。
毎日何万人もの人が感染して多くの命が失われていく状況を現地で見る中で、今はスポーツをしている場合じゃないと感じましたし、来シーズンできるのかという不安もありました。
でも、やっぱり「世界のトッププレーヤーになりたい」という夢は変わりませんでしたし、それに挑戦できる可能性が少しでもあるなら、イタリアでプレーしたい。
まずはその可能性にかけたいと思いました。
世界最高峰のリーグでプレーしたい、強くなりたい、自分の夢を叶えたいという信念は、どんな状況におかれても決してブレない。
今季は、どうにか無観客という形で最後までシーズンができ、今はプレーオフを戦っています。
連勝や記録など、良い形でシーズンをスタートできたのですが、そこから負けが続いてしまいました。
そして、まさか自分が新型コロナウイルスに感染することも想像していませんでした。
それでも、今季変わらずにイタリアを選んだことはまったく後悔していませんし、技術、メンタル共に自分の成長を実感できています。
コロナ禍においてもそうでない時も、自分で決めた選択において、たとえそれが予定とは違う結果になったとしても、すべての経験は、必ず次の挑戦の武器になると信じています。
石川祐希さん
1995年12月11日、愛知県岡崎市生まれ。小学4年生からバレーボールを始める。星城高校在学中、史上初の2年連続3冠(インターハイ、国体、春高バレー)を達成。その活躍は「日本バレー史上最高の逸材」と評され、2014年、大学1年生時、当時史上最年少で日本代表に選出される。同年、イタリア・セリエAの強豪クラブ「モデナ・バレー」と契約。大学在籍中にイタリアで3シーズンをプレーし、卒業後も日本企業には所属せず、単身イタリアへ渡りプロ選手としてキャリアを積む。日本代表としては、15年のワールドカップで大ブレーク。名実ともにエースとしてチームを牽引。昨年度のワールドカップバレーでは、日本を28年ぶりの4位に導いた。コロナ禍で迎えた今シーズンは、イタリア・セリエA「パワーバレー・ミラノ」に所属し、3試合でMVPを獲得するなど、リーグ唯一のアジア人選手として活躍中 インスタグラム:yuki_ishikawa_official
取材・文/モリエミサキ 写真提供/ご本人所属事務所
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