ryuchellに学ぶ、好きな仕事を長く続ける秘訣「遠回りを恐れない。割り切ることも大事だよね」
たとえ自分が望んで就いた職業でも、時には意に介さない業務や役割をやらざるを得ない場面はある。「これをやって何の役に立つんだろう」「なぜやらなきゃいけないんだろう」と不満を感じることもあるだろう。
ryuchellさんも、かつてはそんなモヤモヤを抱えていた一人。
※この記事は姉妹媒体『Woman type』より転載しています。
原宿の読者モデルからバラエティー番組で一躍人気者になった10代の頃の自分を、ryuchellさんはこう振り返る。
若くしてテレビにたくさん出て「夢をかなえてすごいね」ってよく人から言われたんですけど、僕の夢は「テレビに出ること」ではなくて、他にあったんですよ。
だから、みんななんで勝手に決めつけるんだろうって思ってました。
しかし、そんな経験を経たryuchellさんが今思うのは、「遠回りしたからブレない芯が見つかった。むしろ夢に近道して向かうことは自分の可能性を狭めるのかも」ということ。
それって一体どういうこと……? 詳しく話を聞いてみた。
テレビ出演も、真面目な話をするのも、最初は渋々だった
10代で上京した頃の僕の夢は、自分の古着屋さんを開くこと。バラエティー番組に出るようになったのは、「番組に出てみない?」と声を掛けられたことがきっかけでした。
最初は「え?」って感じで渋々だったけど、テレビ出演は基本的にぺこりんと一緒だったから、毎日がデート感覚。
「いつか子どもが生まれたら僕たちの姿を見せよう!」みたいな感じで、ただ楽しかったですね。自分で言うのもなんだけど、僕、バラエティーに向いているなって思ったし。
ただ、当時は本当に何も考えていなくて。バラエティー番組をほとんど見ずに育ったから、出演者の皆さんのこともよく知らないし、知らず知らずのうちに失礼なこともしちゃってた。
無知だからこその怖いものなし状態で、仕事を舐めてたなぁと思います。
そうやってテレビに出ているうちにryuchellを認識してくれる人が増えていって、僕のバックグラウンドに関する取材の依頼も増えてきました。
「あのハッピーさは生まれた時からなのか? どうやって身についたのか?」っていうことをよく聞かれて。
当時の僕は「今後も僕はバラエティーの道でやっていくのかな」と思い込んでいたので、真面目な話をするのはryuchellのイメージが崩れる気がして、最初は恥ずかしくて嫌だったんです。
だから、自分のバッググラウンドについて話をするようになった最初の理由は、「依頼が増えて、断りづらくなってきたから仕方なく」でした。
そこから徐々に今みたいにジェンダーのこととか多様性について話をする機会が増えて、子育てをするようになったことで話せる範囲も広がっていった感じ。
自分で考えて今のような方向性にシフトチェンジしたわけじゃないんです。
アルバムリリースのファンミーティングが転機に。あの日があるから、僕は頑張れる
僕は正直、長く働き続けていこうと思ったことがなくて。だから10代の時から、なんだかんだでファッションや芸能の仕事を10年くらい続けていることに、自分でもびっくりしています。
なぜ続いているのかというと、何が起きてもぶれない芯があることが大きいと思います。その芯は、「家族を幸せにする」ことと、「みんなが気持ちよく生きていけるきっかけづくりをしたい」ってこと。
セクシャリティーや年齢、出身、宗教。いろんなジャンルで、「〇〇だから」っていう圧を感じながら生きている人はたくさんいますよね。
自分の力で世の中を変えられるとは思ってないけれど、そういう人たちが「今のままでいいんだ」って思えるきっかけづくりはできる。僕はそう信じていて。
それが僕の一番やりたいことだってはっきり気付いたのは、アルバム『SUPER CANDY BOY』(2019年)のリリースイベントでした。
少数派の方たちから応援いただくことは、テレビに出る前、原宿で読者モデルとして活動していた時からあって。
そういう声をいただく度に「表に出た意味があったな」って心から思えていたんですけど……久々にファンの方と実際にイベント会場でお会いして、涙ながらにいろんなメッセージを、いろんな方からいただいた。
その時に、自分の芯が固まりましたね。「この人たちのために、一生仕事をしよう」って。
今僕が人前に出て仕事をしている一番の理由は、少数派として生きている方に「この人みたいに生きてもいいんだ」と思ってもらえるロールモデルになりたいから。
「男の子なのに、パパなのに、メイクしていいんだ」「タトゥー入れていても広告に出られるんだ」「もっと自分らしく生きていいのかも」って思えるきっかけになれたらいいなって思っています。
実は僕、自分の芯を見つけて、なんだかほっとしたんですよ。「ようやく頑張る理由を見つけた」って。それまでは、もう毎日に飽きていたんです。
でも、あの日のファンの皆さんとのシーンさえ心にあれば、僕はいつまでも頑張れる。苦手な早起きも、嫌いな冬のロケも、何だってできるような気持ちになれました。
遠回りをして見つけたドアから、いい道が続いていた
でも、遠回りをしたことで、本当の夢を見つけられました。いろいろな仕事をさせていただけたから、道の途中で「これは違う」「これはいいな」って答え合わせができたし、自分の「好き」にもたくさん気付けた。
そういう生き方が、僕には合っているんだなって思います。何かを目指して、一直線に向かおうとする方が、かえって可能性は狭まってしまうというか。
むしろその時々の「ありのままの自分」を表現していったことで、自分に合う仕事がついてきた感覚があるんです。
それって、やっぱり楽しんで仕事をしてきたからかなって思います。
僕は人前に出るお仕事をしているから、仕事を仕事と思わない方がうまくいくように感じていて。やっぱり、その時の気分や考えは見ている人に見抜かれちゃうんです。
だから僕は心からハッピーにならないといけない。ハッピーじゃない時も、ハッピーの思考を持ち合わせて、まずは楽しまなきゃっていう考えに至りました。
でも、「これは仕事だから」って割り切ることも大切だと思っていて。僕も「条件が良い仕事だから」と割り切っているお仕事もあるし、「条件がどんなに悪くても絶対やりたいお仕事」もある。
そうやって振り分けながら、「これをしている自分が好きだな」って思えるものを増やそうと意識しています。
そうすることで自分の素が出るようになって、見ている方に僕のことをよりいっそう分かっていただけて。新たな面を見抜いてくださった方から、新しいお仕事をいただくようにもなりました。
「あまり興味ないけど、このドア開けてみようかな」っていうところに、いい道がいっぱいあった。それが僕の人生って感じですね。
そう考えるようになって、最近では「自分らしさ」なんて、逆に必要ないって思うようにもなったんですよ。
実は僕、前は人から言われる「ryuchellらしい」と、自分が思う僕らしさが違ったときに、傷ついていたんです。
例えば誕生日にいただくプレゼントも、「僕が好きなのはこういうやつじゃないんだけど」って思うことがあって。
僕がどれだけ自分らしさを表現しても、全員に思った通り伝わるわけじゃない。自分のことが大好きだからこそ、「伝わらない」事実に傷ついてしまうことを繰り返してきました。
でも今は、いい意味で割り切っていて、「自分だけが分かっていればいいや」って思う。
すると、プレゼントをいただけることを素直にうれしいと思えるようになったし、遠回りする中で新たな「好き」にも気づけた。ちょっと自分の趣味とは違うものも「使ってみようかな」って気持ちになれたんです。
遠回りするためにも、サボれる逃げ場を探してみて
興味のないお仕事って、あまり気が向かなかったり、「嫌だな」って思ったりすることもありますよね。そんなときに僕が大切にしているのは、「無理しない」こと。
僕の本にも「諦める、割り切る、逃げる、戦わない、期待しない」って書いたけど、これは本当に大切にしています。
僕は結構感情に波があって、その時々で全然違うんです。今はハッピーだけど、独立に向けて事務所を立ち上げる準備をしたり、本の出版に向けて動いたり、忙しかった時はマジで病んでいて。
「まだ26歳かぁ。まだまだ働かなきゃいけないの、きついなぁ」って思っちゃうこともある。そういう時は、もう、全然頑張りません。無理に戦わなくていい。
決まった仕事はどうせやるしかないんだから、「現場に行っただけで偉い!」くらいに思っています。YouTubeも本当に適当に撮ってアップしちゃうしね。
でもね、そうやってサクッと作った動画の方が実は再生回数が伸びるんですよ。逆に「めっちゃ可愛く盛れたからみんなに見てほしいな」っていう動画ほど見てもらえない(笑)
だからこそ、ネガティブな部分もサボる自分も隠さず、表に出していこうって思っています。みんなも「サボれる逃げ場」をつくっておけるといいんじゃないかな。
お風呂ほんとめんどくさい pic.twitter.com/Sv57aWhh4M
— ryuchell (@RYUZi33WORLD929) March 3, 2021
必要なのは、「自分のこと、好き」って思える時間
自分を愛せている人、自分を守れている人って、趣味が絶対にあると思うんです。「これをしている自分が好き」「この人といる自分が好き」っていうのがちゃんとある。
逆に言うと、自分を愛せていない人って、嫌いな仕事をイヤイヤやっているとか、私生活でもなにかと我慢していることが多い気がする。
例えば、「一緒にいても楽しくないけど、とりあえずこの男と付き合っとく」みたいなことから、自己否定が始まっていくような気がします。
スポーツでも、お酒でも、おしゃべりでも、歌でも、何でもいいから、「これをやっている自分のことは好き」って思える時間をつくる。
もしくは「会社では本当の自分を見せられないけど、地元の友達にならさらけ出せる」みたいな居場所をつくる。
小さなことでも、そういう「逃げられる場所」があるだけで、自分のことをちょっとは好きになれる。「ズル休みしたらこれをやろう」って思えるものから、必ず芯は見つかると思います。
その芯は、かっこいいことじゃなくていいし、人に言えなくてもいい。シャーペンの芯くらい、弱くっても全然いい。
大切なのは、まずは何かしらの芯を持つこと。
僕はこれからやりたいことがいっぱいあるんですけど、それも全部、芯があるから見つかったことばかりなんですよ。
働く目的が明確に定まったから、そこから派生して次の夢がバンバン思い浮かぶし、やりたいことに向けて準備をするときも、芯があるからはかどる。
その中でも、まずは講演会をやりたくて。たくさんの方からリクエストをいただいたので、日本中行けるところは全部回って、直接お話をして、自分のパワーを共有したいです。
最近思うのは、自分のことだけを考えているうちは駄目なんだなっていうこと。
自分の芯を大事にしながら、他の人や世の中に貢献するっていう、外に向けてパワーを広げたときに人はたくさん成長するんだなって感じています。
ryuchell(りゅうちぇる)
タレント、株式会社比嘉企画代表取締役、本名・比嘉龍二。1995年9月29日生まれ。沖縄県出身。ヘアバンドと個性的なファッション、強烈なキャラクターで注目を集め、バラエティー番組などに多数出演。2016年12月、モデル・タレントのpeco(ぺこ)と結婚。2018年にはRYUCHELL名義で歌手デビューを果たしたほか、NHK『高校講座』では、『家庭総合』のMCに抜擢される。一児の父となった現在は、育児や多様性に関する発信が注目されている。2021年11月に、芸名をりゅうちぇるからryuchellに変更したことを発表している
Twitter:@RYUZi33WORLD929 Insutagram:ryuzi33world929 YouTube:RYUCHELL WORLD
取材・文・構成/天野夏海 撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER) 企画・編集/栗原千明(編集部)
書籍紹介
『こんな世の中で生きていくしかないなら』(朝日新聞出版)
諦める、割り切る、逃げる、戦わない。そして、期待しないこと。僕はこの5つの武器を身につけた――。「多様性」「自己肯定感」「自分らしさ」「愛」「子育て」など、いま思うことをつづる、ryuchell初の著書
人からよく「幸せそう」「ポジティブだね」って言われるけど、常にそういうわけじゃない。スーパーボールを1回下に強く叩きつけると大きく弾むように、一度いきおいよく落ちるからこそ上に行けることもあって。
だから「下に落ちている自分」も人に伝えないと、本当のポジティブにはなれないと思って、この本を書きました。
耳障りのいい言葉を使うのは簡単だけど、それだと心から立ち上がることはできない。上から目線でも強要でもなく、共有を意識した本です
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