途上国支援に情熱燃やす元GS証券のアパレル起業家・銅冶勇人の「とりあえずやってみる精神」でチャンスをつかむ生き方
積み上げられた黄色い箱の上に、異国風の一際目を引くデザインの小物が並んでいた。
ここは渋谷の商業施設『MIYASHITA PARK』内にある、『CLOUDY(クラウディ)』というアパレルブランドの店舗。
売上の一部はアフリカの途上国で暮らす人々の教育や雇用支援に活用されている。これまでに2654名の子どもたちに教育の場を、600名の障害者と女性に雇用の機会を創出してきた。
『CLOUDY』を立ち上げたのは、元ゴールドマン・サックス証券の銅冶勇人さんだ。
アフリカ支援について考えるようになったきっかけは、大学時代の卒業旅行。ケニアのスラム街で貧しくも力強く生きる人々の姿を目の当たりにし、「この人たちのために何かをしたい」という思いから在職中にNPO法人を設立。現地に学校を立ち上げた。
2015年にゴールドマン・サックス証券を退職した後は、『CLOUDY』の運営を行う株式会社DOYAを設立し、現在はNPO法人との両輪でアフリカの人々を継続的に支援する循環型ビジネスに挑戦している。
そんな銅冶さんは「自分の興味や可能性を決めないまま走り続けてきた」と、自身のキャリアを振り返る。途上国支援に情熱を燃やす、銅冶さんの“自分軸”とは。
生活費は「毎日100円」。貧しくも力強く生きる人々を助けたい
自分は『CLOUDY』というアパレルブランドの運営を通じて、アフリカで暮らす人々に「”機会と選択肢が”ある未来を」をミッションに活動をしています。
アフリカの現地工場で作った商品を日本で売り、その売上の一部をNPO法人の活動原資に回すことで、現地の学校建設や給食提供、性教育、ワクチン接種、農業などの幅広い分野の支援を行ってきました。
現地のスラム街は、毎日190円以下で暮らさざるを得ないような低所得の家族がたくさんいます。特に女性は、せっかく学校を卒業しても希望の職業を得ることが大変難しいのが現状です。
自分たちはそうした厳しい環境を変えていくと同時に、この事業を通じて、新しいNPOのあり方を提案していきたいと考えています。
NPO法人が運営するビジネスは、一般的に十分な利益を生み出せず持続可能性が低くなりがちです。しかし自分は『CLOUDY』の運営法人とNPOをうまく連携させることにより、支援金頼みではない、サステナブルなビジネスの形を作りたいと思っています。
『CLOUDY』は設立から8年目を迎えました。まだ全く満足している状況ではありませんが、僕らが運営しているガーナの工場では、現在600名の雇用を実現しています。現地の人々が新しい人生を切り開いていくための道筋は、少しずつ作られつつあると感じています。
自分はコロナ禍でもガーナに足を運んでいたのですが、その時に感じたのは「俺たちダセーなー!」ということでした。
ガーナの人々はコロナ禍により仕事が減り、8割近い人々が日雇いでの生活を強いられるようになりましたが、「コロナだからしょうがない」といったマイナスな言葉を口にしている人は、一人もいませんでした。
どんな状況でも力強く生き抜こうとしている。その姿を見て、日々情報に踊らされて右往左往している自分たちは本当に情けないなと思いましたね。
こういう仕事をしていると、自分たちが相手に何かを「してあげている」という感覚になりがちなのですが、実際、僕らは現地の人々から非常に多くのものをもらっています。コロナ禍を経て、その想いはさらに強まりました。
「とりあえず」受けた選考で形作られた、揺るぎない「自分軸」
これまでのキャリアを振り返ると、いわゆる“自分軸”は、就職活動の時期に作られた部分が大きかったと感じています。
大学時代を通じて年上の人と話す機会を積極的に持つようにしていましたが、結局自分に何が向いているのかはよく分からなかったので、就職活動では自分の興味や可能性を決めないまま走り続けました。
最初に受けたのは、テレビ局のアナウンサー試験でした。人を笑わせるのが好きだったので、バラエティー番組の制作をしたいと思ったんです。ところがアナウンサー試験の方が日程が先だったので、「とりあえずテレビだし」という単純な理由で受けてみることにしました。
残念ながら最終選考で落ちてしまったのですが、アナウンサー試験という特殊な選考を経験したことによって、自分自身の就職活動の軸が形成されました。それは、「自分らしさが何より大事」ということ。
きれいにまとまっている人生より、自分がいいと思うことを選んで生きていけばいいじゃないか、と思うようになったんです。
その後、別のテレビ局の選考を受けて、希望通り制作の仕事で内定をもらいました。「これで就活は一旦終わりだな」と思っていたのですが、最後にもう一社だけ受けたのが、ゴールドマン・サックス証券でした。
大学の友達が「ゴールドマン・サックス証券というすげー会社がある」と騒いでいるのを聞いて、気になってしまったんです。それで、その世界を知るきっかけにもなるしと思って、とりあえず受けてみることにしました。
そこで自分は大きな衝撃を受けました。この会社には誰一人として結果や成果から目をそらす人がいない。志の面で「全員が同じ方向を向いている組織」に出会ったのは初めてだったからです。
当時は正直、金融に興味なんてありませんでしたし、証券会社が何をしているのかも全く知りませんでした。
それでも、そこで働く人たちの姿に魅了されて「この会社に入りたい!」と強く思い、最終的にはゴールドマン・サックス証券を選びました。「このメンバーと一緒に働けば、やることがなんであれ、ものすごいことができそうだ」と思ったんです。
証券会社で学んだ「人の力を借りる」スキル
もともと興味のあったテレビ局ではなく、全く関心のなかった金融の仕事を選んだことについて、不思議に思う人もいるかもしれませんね。
確かにテレビ局の仕事はやりたかったのですが、「好きなことならいつでもできる。それよりも、興味がないことに対してここまでやりたいと思える気持ちを優先してみたい」と思ったんです。
その選択は決して間違っていなかったと思います。ゴールドマン・サックス証券に入っていなければ、今の自分は間違いなく存在していなかったでしょう。
前職では、自分が今取り組んでいるアフリカ支援には欠かせないスキルを学びました。社会や組織を構造的に見る力や、時代の流れを先取りして経営判断をする力。
それに加えて「どうすれば人に動いてもらえるようになるか」という貴重な学びを得られたのは大きかったです。
新卒入社した頃を思い返すと、自分は周りに比べて全然英語ができませんでしたし、パソコンの扱いにも慣れていませんでした。きっとみんな「こいつやばいな」と思っていたでしょうね(笑)
それでも、常日頃から人にアクションをしたり、地道にリレーションを作ったりしているうちに、周囲の態度が「こいつのために動いてやろう」と変わってきました。自分の仕事に対して協力的になってくれる人が増えたのは、ものすごくうれしかったです。
世の中には、自分が何時間もかかることを、たった数分でできてしまうような人たちがたくさんいます。その人たちの力を借りるには、いかに自分が「力を貸してやろう」と思える存在になれるかが大切。その気づきは、今の仕事に非常に役立っています。
「やってもやらなくてもいい」は、やる。そうすればチャンスが訪れる
ゴールドマン・サックス証券で働きながらNPO法人を立ち上げ、『CLOUDY』を立ち上げた20代を振り返ると、自分の原動力は「人とどう差をつけていくか」というマインドにあったように思います。
社会人になりたての頃は「たまにはパーっと遊びたいなぁ」という気持ちはどこかに抱えつつも、休みの日や昼休みのちょっとした時間を使って、NPO法人立ち上げの準備を進めていました。
人と同じことをやっていても仕方ありません。自分なりのやり方で、他の人にはできないことをする。どんな仕事でも、その努力をどれだけできるかが全てを決めるのではないでしょうか。
最後に、僕が子どもの頃から大切にしてきた銅冶家の家訓をご紹介しましょう。それは、「『やってもやらなくてもいい』は、やる」です。
世の中には「やってもやらなくてもいいや」って思うことって、死ぬほどあふれていると思うんです。でも「やらない」という選択をすることによって、多くの人がチャンスを逃していると思う。
例えば僕の場合は、就活でアナウンサー試験なんて受ける必要はなかったわけです。本当は制作に行きたかったんだから。
でもとりあえず受けてみたおかげで、その後の自分の就職活動の軸を作ることができたし、ゴールドマン・サックス証券という運命の会社を選ぶこともできた。
自分の興味や可能性を決めない状態で進んできたからこそ、最良の決断ができたのだと思います。
経験したことが後で何につながるのか、どんな風に自分の糧になるのか。それはやってみなければわかりません。
大切なのは、人生のいろいろなタイミングで「とりあえずやってみる」選択をし続けること。自分の可能性を切り開いていけるのは、そういう人なのだと思います。
取材・文/一本麻衣 撮影/赤松洋太 編集/大室倫子(編集部)
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