自己肯定感は低くていい。作詞作曲家・岡嶋かな多が「自分に自信がない」からできたこと
ここ数年で、「自己肯定感」というキーワードを目にする機会が増えた。
でも、本当に自己肯定感は高くなければいけないのだろうか。むしろ、「みんなで自己肯定感を高めよう」という空気に疲弊感を覚えている人も実は多いかもしれない。
オリコン1位120回以上を記録しているヒットメーカー、作詞作曲家の岡嶋かな多さんは、この現状に「ちょっと違和感がある」と話す。
「私自身も、昔から自己肯定感が低くて、自分に自信が持てなかった。でも、そういう自分だからできたこともあると思う。全員が全員、自己肯定感を高くしなければなんて思わなくてもいいんじゃないでしょうか」
岡嶋さんがそう話す理由とは、一体何なのだろうか。
※この記事は姉妹媒体『Woman type』より転載しています。
「自己肯定感を上げなきゃ」だけだと窮屈すぎる
最近は特に、社会全体で「自己肯定感を高めよう」という空気を感じますね。
私からすると、それはちょっとどうなんだろうというか。もちろん、自己肯定感が高いにこしたことはないと思うんですけど……。
足の速くない人が急に「明日からプロの陸上選手になれ」と言われても困ってしまうように、無理して自己肯定感を上げる方がいいのかというと、そうでもない気がします。
ちょっと前までは、「好きを仕事にしよう」っていうメッセージも世の中にあふれていましたよね。あの時も、同じような違和感がありました。
もちろん好きなことを仕事にしたい人はすればいいと思うんですけど、仕事よりも趣味に没頭したり家庭を大事にしたり、そういう人生も私はすてきだと思う。
だから、みんながみんな「好きを仕事に」しなくちゃいけないわけじゃない。
人の生き方って、そんなに画一的なものではないはずだから、自己肯定感に関しても「上げなきゃいけない」なんて思わなくていいんじゃないでしょうか。
それってかえって窮屈ですよね。自己肯定感が低いなら低いなりの生き方があるはずですから。
「私なんか……」で逃したチャンスもあるかもしれない
私が今いる音楽の世界は、自己肯定感の高い人がいっぱいいるイメージかもしれません。でも、私自身は全然逆。
小さい頃からずっと自分に自信がなくて、10代の頃は「自分なんて消えてしまえばいいのに」と思ったこともよくありました。
そのせいで、仕事を始めてからも困ったこともあります。
とにかく人に声を掛けるのが苦手なので、相談がなかなか出来ないんです。私なんかが声をかけて相手の時間を奪ったら迷惑なんじゃないか……とか思ってしまうので。
基本的に、あまり自分に価値を感じられない人間なんです。だから、自分を売り込むのも、交渉ごとも得意ではなくて。
業界の力があるかたに自分を知ってもらうチャンスがあっても、勇気が出ないままタイミングを逃してしまったこともあるとか。
それを見た周りから「信じられない」と驚かれたことも少なくありません(笑)
もっと自己肯定感が高かったら、いろいろなチャンスをつかめたのかなとか、ジャンプアップできていたのかなと思うこともなくはないです。
自己肯定感が低いままでも、幸せになれる
ただ、自己肯定感が低いからこそできることもあると思っていて。私の場合は、仕事への向き合い方。
自分に自信がないからこそ、仕事の依頼をいただくたびに今でもすごくうれしくなるし、一生懸命やろうという気持ちになる。満点が100点だとしたら、どうやったら120点、150点を出せるか考えるタイプなんです。
そして、そのための準備は怠らない。この性格は、自己肯定感が低いからこそなのかなと思います。あとは、自分が今いる場所に対して感謝ができること。
「私なんかでいいんですか?」という不安が今でも消えない分、この場所にいさせてもらえることがどれだけありがたいことなのかを忘れないし、チャンスをくれた人や支えてくれている人たちへの感謝を形にして返さなきゃという気持ちが、私が頑張るモチベーションの一つになっている。
自分のことを大きく見せるのが苦手な性格が不利に働く場合もあるけれど、自分が今持っている幸せを自覚できるという意味では、いいことなんじゃないかとも思っています。
だから、結局、自己肯定感もとらえようなんですよね。低かったら必ずしもマイナスかというとそうじゃない。
低いままでも自分らしく幸せに生きていく道はあるよ、ということを悩んでいる人に言ってあげたいですね。
仕事で認めてもらえたことが、自分の自信につながった
それに、年齢を重ねていくと、良くも悪くも自分の自己肯定感の低さとうまく付き合っていく方法が見つかる気がするんです。
私にそれを気付かせてくれたのは、家族でした。結婚して、子どもができて、ずっとぐらついていた足元が少し安定したというか、自分のベースキャンプができました。
もちろん、私にとってはそれが家族だっただけで、その相手は人によってさまざまだと思います。友人かもしれないし、仕事相手かもしれないし、もっと別のコミュニティーかもしれない。
それこそ、自分の書いた詞や曲を聴いて「救われた」と言ってくれたたくさんのリスナーの皆さんたちの存在も、大きな支えになりました。
自分で自分のことをなかなか認めてあげられないからこそ、仕事を通じて誰かが認めてくれることが力になったんです。
でも、それが癖になってしまって仕事を頑張りすぎてしまうのも考えもの。キャパシティー以上に頑張り続けると人は燃え尽きてしまうから、まずは自分をないがしろにしないであげてね、と伝えたい。
健康に働いて、いいものをつくって、それで人から認めてもらって自分の自信につなげていく。それは、健全なサイクルがないと続きませんからね。
自分のことを本当に大事にできるのは、やっぱり自分だけ。自己肯定感が低くても、今を楽しむことを忘れずにいてほしいなと思います。
書籍紹介
『夢の叶え方はひとつじゃない』(PHP研究所)
BTS、NiziUなど人気アーティストへ多数楽曲を提供し、中卒からオリコン1位120回超えの作詞作曲家になった岡嶋かな多氏が、中高生に「あなたらしく夢を叶える」ヒントを伝授する一冊
>>書籍詳細
取材・文/横川良明 撮影/小黒冴夏
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