イタンジ株式会社 執行役員 永嶋章弘さん(@eiei19)新卒でニフティ株式会社にエンジニアとして入社し、SNSマーケティングツールの開発を担当。創業期のイタンジ株式会社に転職し、さまざまな新規事業立ち上げに貢献。その後メルカリに転職し、メルカリNOW立ち上げなどに関わる。2018年、イタンジのGAグループ入りを機に執行役員として再入社、OHEYAGO事業、デザイン部門、マーケティング部門などを管掌
出戻り転職経験者に聞く「退職交渉でこじらせない」たった一つの秘策【永嶋章弘】
現職との退職交渉は、転職前に乗り越えなければならない壁の一つ。
退職の意志をいつ・誰に・どのように伝えるかを間違えてしまうと、しつこい引き止めにあってしまったり、交渉がもつれてしまったり、せっかく築いてきた円満な関係が転職間際に崩れかねない。
そこで紹介したいのが、現在、「テクノロジーで不動産取引をなめらかにする」をミッションに、さまざまな不動産テックサービスを展開するIT企業イタンジで執行役員を務める永嶋章弘さんの退職・転職事例だ。
永嶋さんは創業期のイタンジにエンジニア職で入社し、メルカリへの転職を経て、2018年に再びイタンジに入社。執行役員として、同社の経営に携わっている。
一度辞めた会社への再入社でポジションアップを実現した永嶋さんは、どのように退職交渉を進めたのだろうか。退職を引き止められた際の回避法とあわせて聞いた。
※この記事は『エンジニアtype』に掲載した記事を転載しています。元記事はこちら
「何でも屋」の自分に迷い転職。その後の再転職で選んだのは古巣だった
ーーまずは、永嶋さんが最初にイタンジへ入社した時のお話から聞かせてください。当時はどんな業務を担当していたのでしょうか?
当時のイタンジは創業期で、社員が僕含めて5人、現在の代表の野口に続き2人目、初のエンジニアの社員として入社しました。
会社は資金調達をしたばかりで、事業や組織をどんどん伸ばしていかなければいけないフェーズ。僕もエンジニアの業務範囲を大きく超えて、組織にとって必要なことはなんでもやりました。
でも、2年ほどたって仕事が落ち着いてきた頃、キャリアに迷いが生じてきたんです。
ーー迷いというと?
エンジニアとして入社したはずなのに、「何でも屋」になってしまっている自分に気が付きまして。
組織全体は良い方向に進んでいたのですが、自分の今後のキャリアを見据えた時に、このままでいいのかな、と考えたんです。
また、常に新しいことにチャレンジし続けたい性格でもあるので、別の場所で自分の力を試してみたい気持ちもありました。
そんな時に目にとまったのが、まだ社員数も100名ほどだった上場前のメルカリです。
ーーメルカリのどこに興味を持ったのですか?
会社として“勢い”を感じたからですね。当時メルカリの組織はそこまで大きくなかったけれど、IT・テック業界の著名人をどんどん採用していましたから。そんな刺激的な環境で、もっと自分のスキルを高めたいと思ったんです。
メルカリに入社してからは、PdMに近いプロデューサーというポジションでUS版『メルカリ』のヘルプ機能の立ち上げや、役員直下の新プロジェクトに参画しました。
エンジニアの経験を生かしながら多岐にわたる仕事に関わらせてもらい、「何でも屋」な自分に自信がついたのはこの頃です。
ーーチャレンジングな環境で充実したキャリアを築いていたんですね。そこからどうしてイタンジへ再入社を?
携わっていたプロジェクトもいったん落ち着き、僕自身ができることはやり切ったという達成感がありました。
その頃のメルカリは、引き続きすごい勢いで社員の採用を進めていて、おそらく僕が入社した頃の10倍以上の規模になっていて。僕自身は「スピード感と刺激のあるスタートアップでまた働きたい」という気持ちに傾いていたので、また転職を意識するようになりました。
ちょうどその時、イタンジの同僚と飲みに行く機会があって、そこで「戻ってこない?」と誘われたんです。思ってもみなかった、執行役員としてのオファーでした。
ーー一度退職した会社から声が掛かったことについて、どう思いましたか?
純粋にうれしかったですね。一度辞めたのにまた声を掛けてくれたということは、在職中の仕事ぶりや人柄が評価されていたということなのかな、と。
その時、イタンジはGA technologiesの子会社となり、会社として新しいフェーズに差し掛かっているタイミングだったので、自分にとっても新しい挑戦ができそうでワクワクして、迷わずオファーを受けました。
退職を引き止められたことがない、たった一つの理由
ーー再入社にあたって「執行役員」のポジションをオファーされるとは、永嶋さんが積み上げた実績と信頼があったからですね。
だとしたらうれしいですね。ただ、エンジニアとして在籍していた時の仕事ぶりだけではなく「辞め方」が良かったおかげでもあるかなと思っているんですよ。
ーー辞め方ですか。イタンジにとって永嶋さんは創業メンバーだったわけですよね? 退職交渉をした時には、引き止めにあいませんでしたか?
実は僕、退職交渉の際に引き止めにあったことがないんですよ。それは最初にイタンジを離れた時も、メルカリを辞めた時も同じです。
ーーそれはなぜでしょう?
誰の目から見ても、僕が選んだ転職先が「納得感のある選択」であることが明らかだったからだと思います。
「本人の目指すキャリアの方向性」にとってプラスになる、と納得感が持てれば、部下のためを考えている上司であればあるほど退職をむやみに止められないはずです。そういう意味では、部下思いの上司に僕が恵まれた面もあると思います。
また、僕がキャリア選択をする上で重要視しているのは、中長期的に見て、自分のスキルや職能をステップアップしていけるかどうか。
イタンジからメルカリへの転職ではプロジェクトマネジメントのスキルが身に付きましたし、イタンジに戻ることで執行役員というキャリアアップにつながりました。
どちらも僕のキャリアの軸にぴったり合うものだったので、みんな僕の選択を心から応援して、背中を押してくれたんだと思います。
ーー退職交渉で話がもつれないようにするためには、「なぜ転職するのか」「その転職が、自分のキャリアにとってどういう意味を持つのか」を明確にして伝えることが大事ということですね。
はい。反対に、明確なキャリアの軸を持たない転職……例えば「少し年収が上がるから」とか「有名な会社に行きたいから」とか、そういう何となくの理由での退職だったら、上司から「本当に今、転職すべきなのか?」という話をされた可能性が高いですね。
今は僕自身がマネジャーとして部下を見る立場でもあるので、「何となく転職したい」くらいの理由を伝えられたらきっと止めると思います。その人にとっていい転職にはならなそうですからね。
その上で、明確なキャリアプランを持ってイタンジを去ったメンバーが、またイタンジで頑張ろうと戻ってきてくれることもうれしく思います。
実際僕のように、一度イタンジを辞めた後に戻ってきて活躍している社員が五人ほどいるんですよ。
残される仲間への思いやりが、円満退職のコツ
ーー仮に退職を強く引き止められたとしたら、どうすれば企業に納得してもらえるでしょうか?
「ここまではプロジェクトを進めてから辞める」と会社側に提示できるような条件を持っておくと良いかもしれません。
あとは、在職中から意識しておきたいのが、自分が辞めても業務が回る体制をつくっておくこと。
エンジニアはチームで働く仕事なので「今プロジェクトから抜けられたら、同僚にシワ寄せがいく」と言われてしまったら、退職交渉をするときにも自分の希望を通しづらいですよね。開発業務が属人化しないよう、常日頃から整備しておくといいのかなと思います。
そうは言っても、実際のところは一人くらいメンバーが抜けても何とか回っていくのが組織というものです。
最終的には自分の人生やキャリアを優先して「納得感のある選択」をしてほしいですね。
ーー自分にとって「納得感のある選択」だったとしても、会社に引き止められてしまったら……?
その場合、会社として社員のキャリアよりも組織の業績や上司自身の評価を優先しているということですよね。
そういった会社との関係性を続けていく必要があるのか、冷静に考えてみた方がいいかもしれません。
感情論でいえば、貴重な社員を手放したくない上司側の気持ちも分かります。でも、それはあくまで会社側の事情ですから、そこまで気にしなくていいと思いますよ。
繰り返しになりますが、キャリアの選択肢を狭めず、正しく持つためにも、まずは自分のキャリアや人生にとって、何が一番大切かをしっかり考えてみることが大切です。それが“円満退職”、ひいてはより良いキャリアを築く第一歩だと思います。
取材・文/安心院 彩 編集/秋元 祐香里(編集部)
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