キャリア Vol.1071

【日本一予約の取れない熱波師・鮭山未菜美】「回り道でも前に進めば人生が動く」方向性に悩んだ「鮭ドル」が行動力でつかんだ天職

連載:「私の未来」の見つけ方
生き方も、働き方も、多様な選択肢が広がる時代。何でも自由に選べるってすてきだけど、自分らしい選択はどうすればできるもの? 働く女性たちが「私らしい未来」を見つけるまでのストーリーをお届けします
鮭山未菜美

鮭山未菜美(しゃけやま・みなみ)さん

京都府生まれ。原宿の竹下通りでスカウトされ上京。俳優、タレントとして活動する中で、ドラマ『サ道』(TX系)を見て「熱波師」という職業を知り、「私もやってみたい!」と思い「熱波師検定B」を取得。現在は、サウナ好きの間で「日本一予約の取れない熱波師」と言われ、人気と実力をそなえた熱波師として活躍中 ■X

「好きなことを仕事にしたい」と思う人は多いけれど、それを実現し、継続していける人はひと握りだ。

現在、全国に「追っ鮭(おっしゃけ)」と呼ばれるファンがいて、イベントは即満席。「日本一予約の取れない熱波師(アウフギーサー)」として活躍する鮭山未菜美さんもまた、好きなことを仕事にするために試行錯誤を繰り返していた。

もともとは女優を目指して上京し、鮭が好きなアイドルで「鮭ドル」、柔道が得意な「柔ドル」、サウナを愛する「サドル」としてタレント活動を続けるうちに、本当にやりたいことが分からなくなってしまった時期があったという。

方向性に迷う中で鮭山さんが「天職」を手繰り寄せることができた理由とは。

※この記事は姉妹媒体『Woman type』より転載しています

頑張れなくなったときに「これだ!」と思えた「熱波師」という仕事

鮭山未菜美

鮭が大好きな「鮭ドル」として活動していた頃の鮭山さん

アイドルから転身と言われるのですが、実は女優志望で上京してきたので、アイドル活動をしたことはないんです。

芸名をつけようとマネジャーさんに言われたときに、鮭が好きだったので「鮭山」にしたら結構インパクトがあったみたいで、いつの間にかバラエティー寄りのお仕事が増えていきました。

その中で、『有吉反省会』というバラエティー番組に出演したときに、有吉(弘行)さんが「鮭ドル」という通称をつけてくださって。もともと自分の好きなことを生かしながら活動したいという思いがあったので、「鮭ドル」「柔ドル」「サドル」といろいろとやりました。

ただ、鮭も柔道もサウナも大好きなんですけど、やっぱりバラエティー番組では面白いことを求められるんですよね。何度かお仕事をやらせていただくうちに、少しずつ「これが私の本当にやりたかったことだったっけ……」と思うことが多くなっていったんです。

そもそも女優さんになりたいと思ったのは、ドラマを見て感動して「明日も頑張れる」と思えた経験から。小さいころから、「人を元気にしたい、笑顔にしたい」という思いがずっと心の中にあったんです。

タレントとしての方向性に悩んでいる上にテレビだと相手の顔も見えないので、「本当に笑顔にできているのかな」という迷いが生まれてしまい、頑張れなくなってしまいました。

そんなときに、サウナを題材にしたドラマ『サ道』を見て熱波師(アウフギーサー)という職業を知りました。もともとサウナは大好きでしたし、体育会系で体を動かすのことも得意だったので、「これだ!」と。

鮭山未菜美

ただ、いざなろうと思っても、なり方が分からないんです。大体の方はサウナ施設にアルバイトや社員として所属して、仕事として熱波師をするのがほとんど。

私は当時、一応タレントとして活動していたので、施設に所属することは考えていませんでした。フリーの熱波師としていろいろな施設に行きたいと思っていたので、まずは熱波師検定を取ろうと。何も知識がないので、資格を取ればなれると思ったんです。

熱波師という職業があることを知ってからすぐに豊島園にある「庭の湯」に熱波を浴びに行き、その直後に「熱波師検定B」の予約をして受験しました。オンラインでも受験できたのですが、私は対面で教えてもらいたかったのと、すぐに資格を取りたかったので、山梨まで行っちゃいました。

熱波師検定を取得したと同時に「サウナ女子おしゃけ」としてYouTubeで動画配信を始めたので、「熱波師検定Bを取りました」という動画をアップしたら、今、毎週月曜日にアウフグース(※)をやらせていただいているサウナ&カプセルホテル北欧(以下、北欧)スタッフの方が見てくださっていて。

北欧が初めて開催したレディースデーに普通にお客さんとして行ったときに、「YouTube見てます。良かったらうちであおいでみませんか?」と声をかけてくださったんです。


北欧でアウフグースをするきっかけとなった動画がこちら!

『サ道』のロケ地の北欧が初めてレディースデーをするということで、ものすごい倍率だったんです。当たったことがそもそもラッキーですが、さらにYouTubeを見たスタッフさんが誘ってくださるなんて運が良すぎますよね。配信して良かったなと思いました。

あのときに北欧のレディースデーに当たっていなかったら、私は今、ここにいないかもしれません。『サ道』を見てすぐに行動して、検定を取っていたことも大きかったなと。運もあったとは思いますが、自分の行動力に助けられて熱波師になれました

(※)アウフグースとは?
ロウリュ(熱されたサウナストーンにアロマ水などをかけて蒸気を発生させること)によって立ち上った蒸気をタオルなどであおいで風を送るサービス。

「日本一予約の取れない熱波師」になれた理由は戦略と向上心

鮭山未菜美

北欧での熱波師デビューは、2020年6月29日です。北欧スタッフの方の知り合いの熱波師さんを呼んでいただいて、いろいろと教えてもらいました。

その中の1人が、師匠であり今は「鮭&鱸」の相方である鈴木陸です。先輩熱波師のみなさんも、北欧のお客さまも、みなさん温かく迎えてくださって感激しました。


北欧でのデビューの様子はこちら!

熱波師になって今年で4年目ですが、「日本一予約の取れない熱波師」とまで言っていただけるようになったのは、「鮭&鱸」で世界大会の決勝に日本代表として出場させてもらった頃から。

鮭山未菜美

2022年にオランダで開催されたアウフグース世界大会(AufgussWM)では、初参戦国から決勝進出するという史上初の快挙を成し遂げた

多くの人に自分の風を届けたいけれど、最初はまだまだ技術もあおげる場所もなかったので、タレント活動をしていたときのようにキャラクターを作ろうと思ったんです。

「アイドル熱波師」と言っていただいたので、始めてから3カ月はSNSで自撮りをアップしたり、アイドルチックな感じで自分をPRしたりしていました。

これまでの経験が生きていると感じることは本当に多いですね。人前に立つのが好きなので物おじせずにいられますし、人数が増えれば増えるほどモチベーションが上がってやる気が出るんです。

ありがたいことに、今は応援してくださる「追っ鮭(おっしゃけ)」のみなさんが全国にいらっしゃいます。

1カ月間で30カ所の施設でイベントをやったときにもすべて来てくださったり、オランダとドイツ、ノルウェーにまで応援にかけつけてくれたり。リピーターの方が多いので、同じことはできないんです。

ディズニー映画の『アラジン』の世界観を取り入れるなど、音楽や演出、あおぐときの振りなどに変化をもたせて、常に飽きさせないように考えています。

アウフグースに対する向上心、お客さまを楽しませたいという気持ちは誰にも負けないという自負があります。

しんどくてもつらい顔は見せたくない。アウフグースにかける強い思い

鮭山未菜美

女性の熱波師はまだまだ少ないです。私が始めた当時は、フリーでやっている女性は2人しかいませんでした。

女性が熱波師として活動していくのは、とてもむずかしいと日々感じています。そもそも、暑い中で全身でタオルを振るという過酷な環境ですし、女性には時期や年齢ごとにホルモンバランスの変化もあり、毎日の体調管理が本当に大変なんです。

お声がかかれば全国の施設に伺うので、1カ月のうちに、丸1日休みの日がないほどスケジュールが詰まってしまうこともあります。

もともと体育会系で体力だけには自信があるので、向いていたとは思います。それでも体力的には本当にしんどい。ただ、どんなにしんどくてもお客さまにつらい顔は絶対に見せたくないです。私のアウフグースを受けたいと、1カ月も前から予約をしてくださって来てくれているわけですから。

年齢とともに体力がなくなってきたなとか、風邪が長引くなとか感じているところはありますが、熱波師になってからまだ一度も休んだことはありません。アウフグース1本にかける思いは誰よりも強いと自信があります。

女性の熱波師を増やしたいので、今後は育成にも力を入れていこうと思っています。まだまだ男性専用の施設が多いのは、絶対的な数が少ないから。もっと女性のお客さまが増えるように盛り上げていきたいです。

自分らしい未来を見つけるために、夢や目標につながることは何でもやって来たかなとは思います。リオオリンピックを見て、自分と同じくらいの階級の女性が銅メダルをとったことに感激して、次の日から柔道の道場に行ってましたから(笑)。

回り道のように見えることでも、夢や目標につながっていると実感しています。アウフグースをやらせてもらえたきっかけもYouTubeですから。何も無駄なことはないんですよね。

人を元気に笑顔にできる熱波師としてサウナ界に恩返ししたい

鮭山未菜美

熱波師の仕事は目の前にお客さまがいて、フィードバックや感想がすぐにもらえる環境なので、元気に、笑顔になってもらっている実感とやりがいを感じながら、楽しく仕事をさせてもらっています。

北欧では毎週月曜日にアウフグースイベントをやっているのですが、「月曜日が大っ嫌いだったけど、アウフグースのおかげで毎週月曜日が楽しみになった」と言ってもらえたことがあって、本当にうれしかったです。

「嫌なことがあったけど元気をもらえた」と受けながら泣いてくださる方もいて、私の心の中にあった、「人を元気にしたい、笑顔にしたい」という思いがかなえられる仕事だと感じています。

4年間もやっていると、精神的にも体力的にもつらいときはもちろんあります。でも、サウナに行けばお客さまの笑顔が見られるから、私も元気になれちゃうんです。

私を受け入れてくれたサウナ界に恩返しができるように、サウナをもっともっと好きになってもらえるように頑張ります!

アウフグースは初心者にこそオススメ

サウナ室の蒸気や熱の管理を熱波師があおぎながらしているので、1人で入っているときよりも長時間入っていられるんです。

長く入ることでいつもより体が温まり、水風呂にも入りやすくなります。私も水風呂が苦手だったのですが、アウフグースを受けたあとに水風呂に入ったことで克服できました。

しっかり温まり、水風呂で冷やしたことでその後の外気浴も気持ちいいですし、ととのいやすくなると思います。

私は最初に「アウフグース初めての方はいますか」と必ず聞いていて、初心者の方がいる場合は急激に熱しすぎないように風を調節しながら、途中で「まだ大丈夫ですか?」と声をかけています。

本当に危険なときはこちらで判断して出てもらいますので、安心してアウフグースを受けていただきたいです。

鮭山未菜美

取材・文・編集/石本真樹(編集部) 撮影/赤松洋太


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