キャリア Vol.1072

【元鈴木さん】起業のきっかけはネットでの大暴れ!コルセット&巨大ポケット付きアパレルブランド誕生の背景にある“割り切り力”

連載:「私の未来」の見つけ方
生き方も、働き方も、多様な選択肢が広がる時代。何でも自由に選べるってすてきだけど、自分らしい選択はどうすればできるもの? 働く女性たちが「私らしい未来」を見つけるまでのストーリーをお届けします

スカートの巨大ポケットから酒瓶を出し、コミカルな動きでコルセットをアピール。

フォロワー13万人を超えるSNSアカウントで、日々明るく楽しく暴れ回っているのが元鈴木さんだ。

コルセットとアパレルブランドを手掛ける社長として活躍する彼女は、「会社を作ったのは行き当たりばったり」と笑って話す。

20代前半、一時期はホームレス状態にもなったという元鈴木さんは、一体どうやって今にたどり着いたのだろう。

※この記事は姉妹媒体『Woman type』より転載しています

元鈴木さん

元鈴木さん/株式会社Alyo 代表取締役社長
大橋茉莉花さん

1988年生まれ。獨協大学外国語学部を卒業後、アルバイトなどしながら日銭を稼ぐ日々をへて、26歳でイベントコンパニオンに転身。ウェブの美容ライターとして書いたコルセットに関する記事をきっかけに29歳の時にAlyoを設立。ECサイト『Pinup Closet』でコルセットブランド『Enchanted Corset』、アパレルブランド『CINEMATIQ」などを運営 XInstagram

自分で稼いで、温かいペットボトルのお茶が買えた時の感動

私は約7年前に起業して以来、コルセットとアパレルの事業をやってきました。

会社の大きなテーマは「女性の自立支援」です。ただ利益を上げるのではなく、事業を通じて女性の自立を応援したい。

だからうちの商品は、全て一人で着脱できるようになっているんですよ。

使用人にコルセットのひもを引っ張ってもらったり、ワンピースの背中のボタンを誰かに締めてもらったりしないと着られないものは作りません。

そうやって「一人でできることを少しでも増やせば、人生をちょっとずつでも変えられるんだよ」っていうメッセージを女性たちに伝えたいんです。

というのも、私は26歳くらいまで、自立とはほど遠い生活を送っていて。

大学卒業後はグラビアをやりながら、アルバイトでどうにか日銭を稼ぐ日々。ネットカフェで寝泊まりするホームレスの時期もありました。

最初のターニングポイントとなったのは、今の夫との同棲です。それまでは流されるままなんとなく生きていたけど、「これじゃ駄目だ、自分でまともに稼ぐぞ!」って決めて。

「この辺りで芸能を諦めないと人生巻き返せないわ!」とも思っていたので、グラビアはやめてイベントコンパニオンになりました。

初めて月に20万円ちょっと稼げるようになった時は、もう、すっごいうれしかったですよ。

「500mlサイズの半分くらいの量なのに同じ値段じゃない!」と思って買えなかった温かいペットボトルのお茶も買えるようになって。

周りの人たちと同じラインに立てた気がして自信が付いたし、何より楽になったんです。自分の足で立てるようになったことで、いろいろな選択肢が持てるようになったと思います。

元鈴木さん

無職になってネットで大暴れしてみたら……

……と、いい感じの話をしましたが、「硬い床にハイヒールでずっと立ってらんないわ!」と急に思い立って、私は勢いでイベントコンパニオンをスパッと辞めます(笑)

次のことは何も考えてなかったから、取りあえずインターネットで暴れ回ってみました。

当時、私には失うものがなかったんですよ。夫とは結婚していて、SNSで好き放題やったくらいで愛想をつかされることはないと思えたし、なんせ無職だったし。

「それなら暴れよう。私、暴れたことないじゃん!」って大暴れしていたら、なぜか美容ライターのお仕事をいただいて。

そこで書いたコルセットの記事がバズったんです。30万PVくらいの反響があったかな。SNSでも毎日100件くらいのメッセージをいただくようになって。

で、思ったのは「コルセット、私が作った方がいいんじゃない?」ってこと。

当時の私が推していたコルセットは中国製の安物で、付け心地が悪かったんです。日本人の体形にも合っていないから、擦れるし、ニットを突き破ることもあって。

同じ悩みを抱えている人が多くいることも分かったから、それなら今のコルセットの問題を全部解決したものを私が作ればいい。ランジェリーに近い、日本製のコルセットを作ろう。

そう思って、29歳のときに200万円の貯金で始めたのがコルセットブランド『Enchanted Corset』です。

最初は個人でやろうと思っていたけど、起業している女友達から「会社にした方が税金安いよ」って聞いて会社にして。

そんな感じで、何の準備もせず、特に勉強もしないまま起業しました。

元鈴木さん

ただ、いざ日本製にこだわって作ってみたら下代(商品を仕入れる際の価格)がすっごい高いんですよ。結局200万円じゃ収まらなくて。

そこでアパレルのセレクトショップも同時に始めたんです。その利益でコルセットを作って、事業が軌道に乗ったらアパレルはクローズしてもいいかな、くらいのつもりで。

そんな時、Twitter(現X)で女性のポケットの問題が話題になったんです。

「男性向けジーンズには長財布が入るのに、女性向けのポケットは小さかったりフェイクだったりするのが困る」

そんな投稿を見て、「これだ!」と思いました。それなら私が大きいポケットが付いた服を作ればいいじゃんって。

そうして生まれたのが、600mlボトルが入る『マジカルポケット』です。こちらも大反響でしたね。

テキーラを売りまくり、顧客との向き合い方を学ぶ

そんな行き当たりばったりでスタートした会社ですけど、セールスの基本はグラビア時代にアルバイトをしていた『HOOTERS』というアメリカンレストランで学んだなと思います。

私、ショットを売りまくっていたテキーラガールだったんです。5〜6時間で20万円分くらい売ってたかな。

当時はテーブルごとに接客の担当が付いていたけど、私があまりにもショットを売るもんだから、自由に売り歩ける「ハンター」っていう新しいポジションまでできて(笑)

元鈴木さん

そうやってショットを死ぬほど売っていた頃の経験が今に生きていると思うのは、例えばお客さまとの向き合い方。

私は商品の詳細や価格など、後々トラブルとなり得ることについて必ず楽しくきっちり説明して、「分かった?」って毎回確認をしていました。相手をだまして売るようなことは絶対にしなかった。

そうしないと、あとでクレームになりかねないんですよ。そういう経験から、お客さまには誠実に向き合った方がいいっていうのは感覚で理解していましたね。

だから起業後も、お客さまには真摯に向き合うと決めていました。

私はお客さまとSNSでつながっている分、距離が近く、時にはクレームを直接いただくこともあります。そうした声に対し、絶対にごまかさず、誠実に対応してきました。

これまでPRにほとんどお金をかけていないけど、それでも成り立っているのはお客さまの声があってこそ。本当にありがたいです。

私がお客さまに向き合う大切さを学んだのはアルバイトからですし、人生に無駄なことなんてないって心底思いますね。

たとえ「やっちまった!」と思っても、その経験は絶対に後から生きてくる。その場にとどまって文句を言い続けるくらいなら、動いた方がいいですよ。

「どうとでもなれ!」理想を捨てたら楽しくなった

自分らしく生きるっていうのは、できることをやって生きることだと思います。

今の私はできないことを無理してやるのをやめて、できることを100%でやっている状態。だから自分らしく生きられてるかな。

私は発達障害なので、能力にでこぼこがあるんです。

例えば、 PRの仕方やどういう商品がお客さまから喜ばれるかは分かるけど、事務作業は一切できない。私が朝から夕方までかかる作業も、妹にお願いしたら30分で終わったことも。

お金はあるのに水道が止まる、なんてことも過去にはありました。一人暮らしをしていた時期は妹を雇って、光熱費の引き落としの手続きもやってもらいましたね(笑)

元鈴木さん

「最初に止まるのはガスで、水道は最後よ!」(元鈴木さん)

そんな感じで割り切って、できる人と効率良く一緒に事業をやっています。

私にとって、諦めるのは大事なこと。「こうあるべき」という高い理想を持ちすぎず、できることを地道にやっていくと、ちょっとずつできることが増えていく気がします。

特に、別の誰かになろうとしないのは大事だと思いますね。「今よりマシな自分になろう」はいいけど、「この人みたいになろう」と思わない方がいい

今振り返ると、「ああいう人になりたい」と理想を高く掲げていた頃は全然うまくいってなかったなと思います。

一方、そんな思いを捨てて、「どうとでもなれ!」ってインターネットで本当に思ってることを発信するようになったら、もう、すっごい楽しいですよ。

それまでは誰の気も害さないような発信をしていたからフォロワーは一気に減ったけど、そのほとんどがおじさん。

その後ガッと女性のフォロワーが増えて、ありのままの私を支持してくださる方がいるんだなっていう学びにもなりました。

元鈴木さん

「おじさんのフォロワーを集めるために散々耳障りの良いことを言っていたのに突然暴れ出して、おじさんたちにはとってもかわいそうなことをしたなと思います」(元鈴木さん)

この先も、私はなるべく長く、働けるうちは働きたいと思っています。

「次は山にこもって誰も来ないリサイクルショップをやりたい」って友達に話したことがあるんですけど、「いやいや、絶対事業始めたらスケールさせようとするでしょ」って言われて。

私は多動だからかのんびりするのは向かないし、コルセットや女性服のポケットの問題が解決したとしても、その時の不自由な何かに着目して、また別の何か世に役に立てることをやるんだと思います。

会社で事業をやる以上、社会に還元しないと意味がないと思っているんです。もちろんそれなりに利益を出さないと寝言だけど、もうけだけを考えるなら会社でやる必要はない。

だからなるべく人のためになろうとか、良い人間でいたい気持ちがあるんでしょうね。

時代によってこれからの私の考え方も変わっていくだろうから、この先どんな自分になるのか、自分でも楽しみ。今後も暴れ回ります!

>>コルセット&巨大ポケットの元鈴木さんが「女性の声を聞いて、ちゃんともうける」を大事にする理由

取材・文・編集/天野夏海 撮影/赤松洋太


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