大学で数理経済学に強く惹かれたことがきっかけで、大学院で金融工学を修めたインタートレードの土屋明弘氏。当時から、金融工学分野における最新理論を応用したシステムやツールの開発を、自身の天職として意識していたという。

そこで500人規模の金融系SIベンダーに就職するが、仕事は当然ながらツール開発がメイン。周囲に金融工学に精通した人もおらず、「このままでは単なる“システム屋”になってしまう」と危機感を抱き始めた。そこで05年4月、証券業務に特化したシステム会社インタートレードへ転職する。

このとき土屋氏が重視したのは、技術力で戦うSEから、業務知識で勝負するエンジニアに転進できるかどうかだった。

「海外に目を向ければ安価で優秀なエンジニアがたくさんいる時代に、技術力だけで勝負しても生き残れない。そんな不安があったからこそ、『金融工学に詳しいエンジニア』として自分のスペシャリティを高めていきたいと思ったんです」

入社後は、最先端の金融工学であるクオンツ分析を用いた日本株のリスク分析ツール『インタートレード・日立製作所 Riskscope』の設計・開発、導入企業への運用サポートなど幅広い業務を担当している。クオンツ分析とは統計学を基本に、計量経済学の時系列解析などで編み出された数式を使ってリアルタイムでの投資リスクや株価パフォーマンス分析を行う手法。さまざまな知識が求められる特殊な分野だ。この業務を究めていくことが、他のSEとの差別化につながると信じている。

「将来の目標ですか? もっと知識とスキルを磨いて、35歳までには金融工学を用いた新しい分析手法を作り出したい」

最近は同社の関連会社にファンドマネジャーとして出向し、クオンツの視点から株式運用や投資の助言を行っている。それによって、証券知識はさらに深まった。スペシャリストとして夢を描ける職場を見つけた土屋氏に、もう迷いはない。





個人情報の流出防止やシンクライアント対応などで脚光を浴びるデバイス認証。その統合管理ソフトウエアとして、ネットワークインテグレーターであるネットマークスが開発・販売しているのが『SecureSuite XS』だ。このソフトの開発に昨年4月から携わっている鈴木康義氏は、同社へ入社する前、転職でちょっとした失敗を経験している。

前々職の勤め先だった業務請負会社で、大手メーカーでの指紋認証デバイスのソフト開発を担当していた鈴木氏。次第に業務請負の形態ではなく、腰を据えてセキュリティソフトの開発に携わりたいと思い始め、転職活動を開始した。その結果、あるセキュリティ関連会社に入社したが、面接で「すぐに新設される」といわれたソフト開発部門が一向に立ち上がらない。

「部門ができるかどうかは今後も未定ということで、結局、セキュリティシステムの販売コンサルティングを行うことに……。これはこれで前向きに考えて仕事に取り組んでいましたが、やはりソフト開発への未練は残っていましたね」

そんな鈴木氏に声をかけたのが、現在の上司。大手メーカーに出向していたときから付き合いのあった人である。鈴木氏にとっては“渡りに船”といった状況だったが、前回の失敗をもとにあらゆる面から転職のリスクを洗いなおした。

「もっとも気にしたのはやはり会社の方針。ネットマークスはインテグレーターなので、ソフト開発事業を将来どう展開していこうとしているのかが気になっていました。面接ではそこを重点的に質問し、今後はセキュリティの核部分として自社開発を重視していくという方針が確認できたので、転職を決意したんです」

この転職により、開発現場に復帰できた鈴木氏。前々職以上にプロマネ的な仕事も増え、視点がひとつ上がったことを実感しているという。「後進の教育も含め、開発の全体を見渡せる開発者になる」というのが新たな目標だ。



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