「顧客の社内稟議書まで作れるようになれ」~総務のプロに聞く、担当者が惚れる営業マンとは
日々、お客さまのもとへ足を運ぶ営業マン。その仕事の中で、自らが「営業を受ける」機会はほとんどないだろう。そのため、営業を受ける側の心理を日々「想像」で補いながら、試行錯誤している人が多いのではないだろうか。
「営業を受ける側の職種を経験したことがないのだから当然、相手がどう考えているのか分からなくて悩む営業マンは多いですよ」
そう語るのは、自身も営業マンの経験を持ちながら、実際に企業の総務部門で働いたことがあり、現在は日本で唯一の総務向け専門雑誌『月刊総務』の編集長として活躍している豊田健一氏。法人営業を受ける機会が多い総務のプロである彼に、「営業を受ける側の心理」から、どのような営業マンなら、担当者の心をつかむことができるのかを聞いた。
営業マンが売るのは、“モノ”ではなく“コト”。
そのために、まずは相手を知る
「印象に残る営業マン、というのは、やっぱり顧客である自分のことをよく知ってくれている人なんですよ」
大手から中小企業まで、幅広い総務業務を経験し、長年多くの営業を受けてきた豊田氏に、印象に残っている営業マンとのエピソードを聞いた。
「私がリクルートにいた20年くらい前の話にはなりますが、あるコピー機メーカーの営業マンは印象に残っていますね。当時はバブルだったので、会社でコピー機をガンガン使っていた時代。大手のコピー機メーカー3社くらいでシェアを争っていました。そのうち1社の営業マンは、会社の全てのフロアのコピー機の使われ方から、資料の印刷頻度まで調査してきたんです。本来ならば、私たち総務がやるべき仕事を全部、他社の営業マンである彼が勝手にやり、その調査をもとに課題を抽出し、提案してきました。気合いだとか人柄だけで営業してくるようなところが多い中で、“分かっている”営業マンがいるな、と感心しましたね」
もちろん、社内のセキュリティが万全ではない時代だったからこその手法であるので、今はこのような方法は通用しない。逆に、今の時代だからこそ、Webで調べればある程度のことは分かるだろう。どんな些細な情報でも構わないので拾い上げ、相手の現状と「何を解決したいのか」をとことん知る姿勢が大事なのだという。
「結局、総務担当者って“モノ”が足りないから欲しいわけではなくて、社員がどうすれば仕事をしやすくなるのだろうという“コト”を解決したいんですよ。だからまずは、そもそも自社の問題は何なのか、何を解決すべきなのかというのが、総務担当者が一番知りたいところ。私たちの現状や課題を知ったうえで、提案してくる営業マンって案外少ないですよ」
さらに豊田氏曰く、「担当者が、どのような意思決定プロセスを行っているのか」というのも「相手を知る」ことにおいて重要な情報なのだという。
「総務担当が営業を受けた後って、自分の決定だけでは購入を決められないことがほとんど。社内の人や上司を説得し、会社内の予算を確保して初めて、お金を調達することができます。そこを分かっていてフォローしてくれる人であれば、『うちのことを分かってくれているな』と思えるのでないでしょうか」
「総務が社内営業に打ち勝つ大義名分」を与えるのも営業の仕事
では、総務担当者の意思決定プロセスが分かった上で、営業マンはどのような提案をするのがいいのだろうか。どうしても商品のスペックや導入数などの数字で勝負したくなるものではあるが、それでは総務担当者を納得させられたとしても、総務担当者が社内営業に勝てないのだと豊田氏は言う。
「とにかく多くの事例を持っていくのをおススメします。それも、『何人規模のA社という企業が導入しています』というのではなくて、『導入会社がどういう課題で困っていて、何を解決しようとして、結果としてなぜこの商品を、この営業担当から買ったのか』という導入経緯や判断軸を提供してあげるんです。それがあれば、総務にとっては会社を説得する材料になりますから」
総務の仕事が「自社を説得させること」ならば、総務の担当者が欲しがっているのは、「社内営業に打ち勝つ大義名分」である。その課題・ニーズを解決するために、営業マンは「社内営業のパートナー」となるべきだ。多くの説得材料を手に入れるためには、自分から買ってくれたお客さまに「なぜ自分から買ってくれたのか」という理由を聞くのも良いと言う。
「理想を言えば『御社の稟議書を書きますよ』って言ってくれる営業マンなんて最高ですよね。総務担当者は、『なぜそもそも、この会社から買わなければならないのか』という明確な大義名分を欲しがっているんですから。逆に言うと、相手の社内の稟議書を書けるくらいの知識と実績、説得力がなければ売ることはできない、という意味ですよ」
本質的な「なぜ?」を繰り返し、「考え抜ける」営業マンが必要とされる
総務担当者は仕事内容が多岐にわたることが多い。また、規模の小さな会社であるほど、さまざまな仕事が境なく発生する部署なのである。その忙しさのせいで、顧客の「買いたい」という気持ちが後回しになってしまうこともある。そうならないために、顧客を育てて「買ってもらう」環境にする必要があるのだという。
「理想は、総務を育てて、『これを解決しなきゃいけないんだ』と意識を高めること。その上で、『その問題、うちなら解決できますよ』とアプローチする。今流行りつつある、インバウンド営業のような体制が構築できるといいですね」
そんな理想の姿を、いわゆる「普通の営業マン」が身に付けるには、日常から「考え抜くこと」を繰り返す姿勢が重要だと言う。
何かが足りないから売る、というのではなく、とにかく「そもそも何で売るのか」という本質まで遡って考えるように意識すると、自然と高い次元での議論ができるようになってくる。
「営業って、『課題と現実のギャップを埋める』仕事だと思うんです。現状の課題と、どうあるべきなのかという理想形を知る。それを解決する手段を提案するんです。考え抜く、っていうのは、結局、どこまで本質に遡れるか、ということ。『そもそもなぜ必要なのか? 何のためなのか?』という問いへの答えがまさに本質で、問題解決のためには、まずそこを把握する必要があるからです。組織や経営のところまで、とにかく遡って考え抜いていくクセをつけるのが、営業マンのスキル向上につながるのかもしれません」
今回、豊田氏には「総務担当への営業」という目線で話を聞いたが、「相手を知り、本質を考え抜く」という営業マンのスキルは、どの分野にも共通するものであろう。日々、意識して行動することで「担当者が惚れこむ営業マン」へと近づけるのかもしれない。
取材・文/大室倫子 撮影/佐藤健太(ともに編集部)
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