キャリア Vol.501

1粒1000円の超高額ミガキイチゴはなぜ売れるのか―ヒットの立役者は“農業経験&下積みゼロ”の異端児だった

下積み期間って本当に必要?
“スゲー男女”に学ぶ20代の鍛え方
「起業する前に、会社員経験を積んだ方がいい」。「大きな仕事をする前に、まずは現場に出て小さな仕事からコツコツと」――。何か事を成すためには「下積み」経験を持つことが大切だと言われている。しかし、世の中の働き方やビジネスの仕組みが大きく転換している今でも、そういった期間を過ごすことは大事なのだろうか? 各界で偉業を成し遂げてきた“スゲー男女”たちに、20代のうちに経験すべきことを聞いた

会社員経験のないまま大学在学中にシステム開発会社を起業、東日本大震災を機に未経験からイチゴ農家を始める。株式会社GRAの代表取締役CEO・岩佐大輝さんの経歴からは、下積みの匂いが全くしない。それでも同社が育てる『ミガキイチゴ』は一粒1000円の値が付き、現在はインドでのイチゴ生産にも取り組んでいる。大胆なキャリアを築く男は、20代の‟下積み“をどのように捉えているのか。

農業生産法人 株式会社GRA 代表取締役CEO 岩佐大輝さん

農業生産法人 株式会社GRA 代表取締役CEO 岩佐大輝さん

1977年、宮城県山元町生まれ。大学在学中に起業し、現在は日本およびインドで6つの法人のトップを務める。2011年の東日本大震災後に、大きな被害を受けた故郷山元町の復興を目的にGRAを設立。著書に『99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る』(ダイヤモンド社)、『甘酸っぱい経営』(ブックウォーカー)

「農業やるなら15年は経験を積め」なんて嘘だった。仕事の9割は自力で学べることだ

「下積みというと‟マッチョ系の言葉”というか、根性論の部分が大きいと感じます。私は、若手だからといってルーティンワークをさせられたり、会社の都合の良いツールになるという状況はあまり好きじゃないですね」

岩佐さんに下積みの必要性について尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「時間をかけないと成長しないような、経験値でしか買えない能力は必ずある。でも下積みが必要だといわれていることの中には、そうではないものもあります。例えば僕が農業を始めた時は『農業をやるなら15年は経験しろ』なんて言われましたが、きっちり勉強すれば1年で独立できました。経験しないと分からないことと、自力で学べることの切り分けができるかどうかだと思うんですよね」

“自力で学ぶ”の部分は、他人の知識を借りたっていい。だが安易に「教えてもらおう」と考えるのは不十分だという。教えを受ける前の勉強法にコツがある。

「下積みがいらない部分は、独学できる部分を全てカバーした上で、その道のプロに教えを受けるのが効率的です。10を知っているプロは、1~2しか知らない人には3くらいまでのことしか教えてくれません。例えば私の場合なら、いきなり『イチゴをつくりたいんですけど、どうすればいいですか?』と聞いても『それならまずはビニールハウスを組み立てなさい』としか教えてもらえなかったでしょう。

だから私は少なくとも世に出ているイチゴ関連の書籍は全部読みました。そうすると一気に6〜7くらいまでの知識は得られるんですよ。その結果、プロは全体像を理解している前提で9ぐらいまでのことを教えてくれる。『この地域はこの時期に、こんな風が吹く傾向があるから、こう管理した方がいい』といった、何十年かけて得た奥義みたいなものを伝授してくれるんです。そうすれば一気に9くらいまでの知識が増えます。そうして残りの1が、おそらく経験でしか培われない部分だと思います」

岩佐大輝

1粒1000円の値が付くこともある同社の『ミガキイチゴ』

キーワードは“マルチパラレル”。対極の軸を自分の中に複数つくること

一つの場所でコツコツと。そんなイメージが下積みにはある。しかし「毎日同じ会社に出勤しているだけでは成長しません」と岩佐さん。キーワードは“マルチパラレル”にあるという。

「パラレルキャリアがブームですが、会社とボランティアなどの2足のわらじだけでは不十分になってきたと感じます。都会と田舎を行ったり来たりする、効率性を重視している人はアートなどの非効率性に親しむ。そういう自分と対極の軸をいくつも持っておく“マルチパラレル”が大事です。

僕自身も、学生時代から東京でIT企業を経営していて、起業家でハイテクでした。それがローテクで地方、しかも全く未経験の農業にチャレンジした経験が、自分の成長を加速させたと感じています。会社内でのいわゆる下積み中の人でも、社外にはチャンスがたくさんある。そうして意識的に情報を拾いにいくことですね」

日々コミュニケーションを重視する営業マンであれば、あえて営業を体系的に学び始めるのもいい。都会でスーツを着ているなら、休日は田舎で泥だらけになってもいい。そうした対極の軸をいくつも探してみることが、成長や人生の豊かさに繋がっていくのだろう。

20代である程度の量をこなす必要はある。でも、それが全てではない。

理路整然と下積みについての考えを話す岩佐さんだが、自身の20代は「とにかくがむしゃらだった」という。

「コンピューターに没頭してソフトウェアを開発して、朝から朝まで仕事。とにかく働いていました。20代である程度仕事の量をこなす必要は必ずある。言葉にするのは難しいけど、経験値を増やすことでしか磨かれない“何か”があるんです」

だがその一方で、「それが必要な能力の全てではない」と明言する。

「経験値でしか磨かれないものなんて、多分少ないんですよ。そこがポイントです。経験がないと何もできないと思いこんでしまうと成長に時間がかかって、あっという間に歳取っちゃいます」

岩佐大輝

そして「活躍しているビジネスパーソンは、必ずどこかで成長曲線からジャンプしている」と考える。学生時代に起業をしたこと、数億円の資金を使って全く経験のない農業をスタートしたこと。どちらも岩佐さんにとっての“ジャンプ”だ。

「ステップバイステップの発想を止めて、『できない』と思うような挑戦をする。“脱ステップ論”です。これを習得できたらその次はこれをスタートしようなんて思っていたら、いつまでたっても遅々として進まないですから」

段階を踏むのが良いとされがちだが、「それこそ悪しき下積み思想」だと切り捨てる。

「私たちは小さい頃から足し算、引き算、掛け算、割り算の順に一歩一歩学ぶということに慣れきっていますが、社会に出たら‟学び方を考え直す“ことが不可欠。ステップバイステップの延長線上には、ほんの小さな積み上げしかないことに気付くべきです」

まずはテレアポができるようになったら、訪問のロープレをして……と段階を踏むことは多いが、果たしてその順番に意味はあるのか。疑ってみることから始めたい。

20代だからこそ、死にたくなるくらいの失恋をしよう

いわゆる下積みに対して否定的。そんな岩佐さんが考える20代ですべきことは「感性を鍛えること」だという。

「私は30代でMBAの大学に通いましたが、ビジネススキルやフレームワークは何歳になっても学べます。でもその世代ごと、あるいは時代ごとに身に付けておかなきゃいけない感性は、その時にしか得られない。そして20代に身に付けておくべき感性は、触れ幅が激しいほど磨かれると思います。仕事だけではなく、恋愛や趣味も同じ。思い切ってリスクを取って、没頭する。その分、失敗した時の挫折も大きいですが、それでもめげずに這い上がっていくことが自分の感性を磨きます」

岩佐大輝

20代の岩佐さんがのめり込んでいたのはサーフィン。どんなに忙しくとも波があれば朝3時に起きて海へ行く。それも「東京に住んでいる人の中で誰よりも多く海に入った自負がある」という頻度で。仕事はもちろん、プライベートでも徹底的に遊んできたが、中でも「恋愛は20代で100%やらなきゃダメ」だと言う。

「今は刺激を得られる遊びがいっぱいあるし、SNSで簡単に人と繋がれる。だから『恋愛はめんどくさい』ってなりがちです。でも恋愛で得られるジェットコースター的感情の起伏は、まさに一番感性を鍛えるもの。『もう死のうかな』って思うくらいの失恋をしたら、絶対にいい男・いい女になるでしょう。ものすごく落ち込むけど、最終的には『もっと自分を磨いてやる』と、必ずポジティブな方向に変換できます」

仕事もプライベートも情熱的に挑戦できるのは、20代の強みだ。

「20代は生きてさえいれば何とでもなる世代。しがらみもほとんどありません。うまくいかなければまた一から会社で働けばいいだけの話だし、ダメになってもそれは失敗じゃなくて挑戦だと言える年代です」

20代の営業マンに向けて、岩佐さんは「“マルチパラレル”と“脱ステップ論”を実践する中で、自分に合った鍛え方が見つかっていく」とアドバイスする。

世に言われる下積みを黙々とやるよりも、自らさまざまな場所を行き来し、時にリスクを取って振れ幅をつくる。そうしていれば自然と、成長曲線をジャンプする日が訪れそうだ。

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取材・文/天野夏海 撮影/大室倫子(編集部)


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