キャリア Vol.675

25歳で最年少上場を果たした経営者・リブセンス村上太一が20代を振り返る「困難にぶつかったら、ジタバタするしかない」

“イイ20代の過ごし方”って何だ?
30代を迎えるとき、かっこよく、自分らしく働いていられるかどうかは、20代の過ごし方次第。だから聞いてみたい。つい憧れてしまう、イキイキと働く先輩たちに。「イイ20代の過ごし方って、何ですか?」

アルバイト情報サービス『マッハバイト(旧ジョブセンス)』や、中古マンションの市場価値をリアルタイムに査定するサービス『IESHIL(イエシル)』などを手掛けるリブセンス。創業社長の村上太一さんは、大学入学直後にビジネスプランコンテストで優勝し19歳で起業、史上最年少の25歳で自社を株式上場に導いた早熟の経営者として、世間の注目を集めてきた。

華やかなスポットライトを浴び20代を過ごした村上さんも、現在は32歳。当時のことを聞くと「僕はすっごく普通だし、何も特別なことはしていないんです」と笑うが、その謙虚な姿勢の裏側には村上さん流の「いい20代」の過ごし方があった。

村上太一さん

株式会社リブセンス
代表取締役社長 村上太一さん

1986年東京都生まれ。2005年4月早稲田大学政治経済学部入学。在学中に受講したベンチャー起業家養成基礎講座のビジネスプランコンテストで優勝し、大学入学の翌年2月にリブセンスを設立。同年4月から成果報酬型のアルバイト情報サイト「ジョブセンス」(現マッハバイト)の提供を始める。東証マザーズ(11年12月)、東証一部(12年10月)にいずれも史上最年少で上場を果たした

「悩む」は、想像以上にエネルギーを消耗する
それなら次の一手を考えた方がいい

僕は何ごとにも現実的に対応するタイプなので、悩んだり立ち止まったりすることがほとんどないんです。「悩む」ってものすごくエネルギーを消耗するので、想像以上に時間と体力が奪われます。

だから僕の20代はというと、悩まずに目の前のことに真面目に取り組んできたという感じです。創業した時も、最年少上場だとメディアに取り上げられた時も、「脇目も振らずに全力で仕事に取り組む」という自分のスタンスを変えることはありませんでした。

こうした考え方は、昔からなんですよ。僕の両親がそういう考えだったので。

例えば、僕が小学6年生で、当時頑張って取り組んでいた 中学受験に失敗した時のことです。普通の親なら、落ち込む子どもを前に慰めたり、励ましの言葉をかけたりしそうなものですが、うちの両親は違いました。

試験に落ちたことにがっかりしている僕に、淡々とした調子で「で、どうするの?」って聞くんです。それを聞いた僕は、「あ、そっか。次どうするかを考えなきゃ」って気持ちがパッと切り替わった。それ以来、ずっとそんな感じなので、やっぱり親子なんでしょうね(笑)。もともとそんな前向きな家族と一緒に過ごしていたこともあって、創業後も長らく悲壮感とは無縁でした。

リブセンス村上さん

でも創業後たった1度だけ、ちょっとした挫折感を味わったことがあります。アルバイト求人サービス『ジョブセンス』を始めた後、売上が思いのほか芳しくなかったんです。

初月の売上は、なんと1万円以下。そこから半年以上、社員に給料も払えない状態が続きました。ついにはその年の年末、知り合いの経営者を頼って事業売却を持ちかけるほど、僕の気持ちは追い詰められていました。

在学中に起業したこともあり、事業がうまくいかなくても僕には「学生に戻る」という道も用意されていて。このまま事業を継続するのか、学生に戻るのか、その選択にはかなり悩みました。

でも、年明けすぐに事業売却の話は撤回することになりました。というのも、当時の僕はほぼ寝ずに仕事をしていたんです。年末年始のタイミングで少し休んで眠ったら、頭が冴えてきて。冷静になったら「もう一度踏ん張ってみよう」ってファイティングポーズが取れるまでになっていました。ほんのわずかでしたが、睡眠を取って英気を養う時間が持てたことで、やる気が戻りました。

その時に、こういう「悩む」って行為は人間のパワーを奪い、判断力やクリエイティビティを削ぐものだって改めて気付きました。これ以降は意識的に悩むことをやめ、より一層、「次の行動は何か」に意識を向けるようになったんです。

「頑張っても1番になれない」経験があったから、がむしゃらに仕事ができた

そうはいっても、「村上さんは若くして一部上場企業の経営者になったんだし、悩まずとも、失敗や後悔することもあるのでは?」と聞かれることがあります。でもそれも全くないんですよ。

その時々にできる努力は全てやり尽くしているので、「あの時ああすればよかった」とは思わないんですよね。僕は一度これをやろうと決めたら、他のことを考えることが苦痛になってしまうたちなんです。なので20代の10年間は仕事一本で、少し休んでどこかに遊びに行きたいなあなんて、考えたことがなかった。それだけがむしゃらに仕事をしていました。

リブセンス村上さん

なんで僕がそこまで全力を出せたのかというと、それまでの人生で「勝ちたいところで勝ったことがない 」ことが大きかったと思います。高校時代の勉強はいつもクラスで3位くらいでした。頑張っても1番になれないという経験をしたことで、「自分よりすごい人なんていくらでもいるんだ」と思うようになったんです。

だからこそ起業できたことも上場したことも、運やタイミング、多くの人の助けがあってのものだから「この程度のことで驕っちゃダメだ」と。いつも「上には上がいるんだから、もっと頑張らなきゃ」と思いながら、仕事をしていました。

とはいえ、そんな僕の志向にはちょっとした弊害もありました。

何かを実現したいと思ったら、何度も何度も頭の中で達成の瞬間までのシミュレーションを繰り返しながら動き続けてしまうんです。だからいざ実現したときに、あまり心が動かない(笑)。本来なら達成感に包まれたり、感動を覚えたりするんでしょうけど。

株式上場したときもそうでした。会社が上場すると、経営陣が証券取引所で鐘を鳴らすセレモニーがあるのですが、僕はそれを1度も経験したことないのに、既視感があって。『何度もシュミレーションしたからか、この感覚初めてじゃないな』みたいな感じで、感極まることもなく鳴らしてしまいました。今思えば、せっかく周りも盛り上がっていたのにって、少し反省しています(笑)

仕事を一生懸命やるのはいいにしても、自分には加減が分からないところがあるなと。これは会社の組織をつくる立場である以上、気を付けなきゃいけないことだと、今なら思えます。

リブセンスも創業から10年以上たって、ある程度会社も大きくなってきたので、そろそろ僕個人の頑張りでなんとかなるレベルではなくなってきました。

ですからここ最近は「何ごとにもがむしゃらに突き進むアプローチ」を少し変えようと思うようになりました。自分1人の力でやれることには限界がありますから、僕が寝ずに全力で仕事をするよりも、メンバーと一緒に成果を追った方がいい。今の僕はその環境づくりに注力すべきだと思っています。その方がレバレッジが利かせられるし、良い結果も出やすいと考えられるようになりました。

スランプに陥っている20代へのヒントは『魔女の宅急便』にある

今振り返って、20代の頃にやっておけば良かったと思うことはもちろんあります。でもそれは「あえていえば」の話なので、「過去の自分に伝えたいことはない」というのが正直なところですね。自分のやりたいことを積み重ねて今の幸せな自分がいるので、あえて過去を変えたいとは思わないんです。

リブセンス村上さん

ただもし今、スランプに陥っている20代がいたら、宮崎駿さんのアニメ作品『魔女の宅急便』を観ることをおすすめします。僕が大好きな、すごく良いシーンがあるんです。

空を飛べなくなってしまった主人公のキキに、絵描きのウルスラがこんなことをいいます。「私もよく描けなくなるよ」と。

「そんなときはどうするの?」と聞き返すキキに、ウルスラは「そういうときはジタバタするしかない。描いて描いて描きまくる」と。もしそれでもダメなら「描くのを止めて、散歩したり景色を見たり、昼寝したりして何もしない。そのうち描きたくなるから」ってアドバイスをするんです。

このシーンを観たとき、本当にその通りだなと思いました。もし大変なことに出会ったら、もうジタバタあがいてみるしかないんです。それでダメならちょっと眠って休憩するのがいい。寝て頭がクリアになれば、また違った視点でものごとを見られるようになりますから。

以前、僕にある悩みを打ち明けてくれた新入社員がいたんですが、僕はウルスラと同じように「悩んでもいいから、とにかく行動を起こそう」とアドバイスをしたことを覚えています。ただ悩むだけでなく、少し格好悪くてもいいから動き続けたり、行動を変えたりした方が良い結果につながりやすいと伝えたかったんです。僕自身は悩むことはなかったですが、とにかく行動してきたからこそ成果を出すことができたと思っているので。

それに悩むということは、いつか同じ悩みを持った人に寄り添える存在になれるということ。だから悩みを持つこと自体は決して悪いことではなくて、大切なのはその経験が活きる瞬間がくることを信じて、とにかく行動を起こすことだと思っています。

リブセンス村上さん

僕の20代は、とにかく猛スピードで駆け抜けてきました。もちろん30代も走り続けるつもりですが、少し走り方は変えていきます。やっぱり僕には足りないこともたくさんあるから、最近はこれまで会わなかったような人と会って話したり、旅に出たりするようにして、知見を広げようとしているところです。

僕が20代の頃に思い描いていた30代は、もう少し大人っぽいイメージでした。今の自分を見るとやっぱりまだまだなって。だからこれからも常に「上には上がいる」と思って、努力し続けるつもりです。

取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/野村雄治 企画・編集/大室倫子


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