Twitterで保育業界の変革に挑んだ保育士・てぃ先生の20代奮闘記「石の上にも3年、なんて無視していい」
業界特有のしがらみ、長年の悪しき慣習、トップダウンで決まってしまう業務……。「より良い仕事をしたい」と思っても、自分一人ではどうにもできないような“理不尽な壁”にやる気を閉ざされた経験のある人はいるだろう。
そんな“理不尽な壁”を20代前半で痛感し、たった一人でぶち破ろうと奮闘した男がいる。保育士のてぃ先生だ。彼は“理不尽なことだらけ”な保育業界を変えようと情報発信を続け、現在Twitterのフォロワー数は47万人、今や保育業界の有識者として講演などに登壇する「カリスマ保育士」として、業界革命に奔走している。
子どもの頃から理不尽なことが大嫌いで、納得のいかないことにはとことん立ち向かってきた。現在、32歳。柔和な笑顔の向こうには、「文句を言うだけで終わらない」気骨あるビジネスパーソンがいた。てぃ先生の経験から、「理不尽な壁をぶち破り、本質的な仕事をするため」の20代の過ごし方を学んでみよう。
「パソコンよりも手書きが美徳」理不尽に溢れた“レガシーな職場”に愕然とした
僕は高校を卒業した後、保育士の専門学校に進学し、20歳で最初の保育園に就職しました。でも、そこに待っていたのは、必要のない非効率な仕事で溢れている職場。本当にびっくりしましたよ。行事で使う装飾は毎回保育士の手作りじゃなきゃダメ、園からのお便りや掲示物は絶対に手書きしなくてはいけない。そんなのパソコンで作ればいいじゃないですか。
子どものお名前シールまで保育士が1枚1枚手書きしなきゃいけないことに「おかしい」と思って、「テプラを使えば名前を書く作業がなくなりますよ、1台5000円くらいで買えるものもありますし、導入しませんか?」って園長先生や周りの先生に言ってみたんです。他にも「こうした方が効率がいいですよ、こんな便利なやり方がありますよ」っていろんな提案をしていました。
でも、皆「そうだよね」と共感して終わり。結局何一つ変わりませんでした。今思うと「他の園と違う魅力をつくれば、保育士が採用しやすくなりますよ」とか、園側へのメリットを伝えたら話が変わったかもしれないですが、当時はアプローチの仕方が分からず未熟だったんですよね。
結局、この職場では何も変わらないんだなと諦め、1年で辞めてしまいました。そして「次こそは、より良い職場環境で働くぞ」と意気込んで、何十カ所も職場見学し、約10の保育園の面接に行ったんです。
そうしてなんとか「良さげ」な保育園に転職したのですが、働き始めてみるとそこでも提案は半分も受け入れてはもらえませんでした。「親御さんがどう思うか分からない」、「そんなことしている保育園なんてない」とか言われて。そのときにやっと、そこで働く人たちや保育園自体が悪いんじゃなくて、「保育業界全体がレガシーなままなんだ!」と気付いたんです。
パソコンを使えば「そんな便利なものを導入するなんて楽をしすぎ」だとか「子どもには手書きの方が愛情が伝わるんだ」とか、“苦労は美徳”のような考えが業界全体に蔓延していたんですよね。僕からすると、保育士が手間をかけた結果疲れ果てて、そのしわ寄せが全部子どもたちにいってしまうなんて、本末転倒以外の何物でもないと思いました。
僕は理不尽なことが嫌だし、自分が損をするのも嫌です。だって、それじゃ誰も幸せになれません。子どもを幸せにしたいなら、まずはそこで働く自分自身が幸せにならないと。この業界で働く先生たちや保護者が幸せになって笑顔でいることが、子どもにとって一番良い環境を与えられるんじゃないかって、その時すごく思ったんです。
まずはこのレガシーな業界を変えて、保育士が働きやすい環境にすること。そして保護者も幸せになること。それが叶えば、最終的に子どもも幸せになる。そう考えた僕は、Twitterで子育てに関するポジティブなコンテンツや、保育の現場について発信することに決めました。当時勤めていた職場ではTwitterなんて言語道断という反応だったので、今の園に転職して、発信活動を始めたんです。僕が26歳になる頃でした。
「まずは保育士が幸せになるべきだ」
Twitter発信を始めたら、支持してくれる人が増えていった
Twitterで子どもの様子や子育てについて発信している現役保育士はほとんどいませんから、発信を始めてすぐにたくさんの方にフォローしていただけました。
ただ発信を続けていく上で、「保育士が幸せになるべきだ」という価値観がなかなか伝わらないことには驚きましたね。保育士は休憩なんてなくて当たり前、サービス残業して当たり前、仕事を持ち帰って当たり前。今ではだいぶそんな考えの人も少なくなってきましたが、6年前の当時は、そういう価値観が一般的だったんです。
でもそれって、何十年も前の仕事人間の考え方ですよね。今はもう、2010年代ですよ? 遅くまでだらだら残っている人の方が“ダメ社員”扱いされる時代。与えられた時間で仕事が終わらないのはタスク管理ができていないということだし、管理職が仕事量を管理できていない、ということです。
苦労は美徳じゃないし、非効率な作業があるなら見直していくのは当たり前。それを「子どもの教育のためなら、保育士はいくら非効率だろうと仕事をすべき」なんて言ってるのは時代遅れでしょう。
例えば保育室の壁に貼ってある飾りが、保育士が1時間かけて描いたクマちゃんのイラストだろうと、誰かが書いたフリー画像を使って5分で印刷したクマちゃんのプリントだろうと、どちらでも子どもの教育に影響はありません。むしろ、保育士がイラストを描くその1時間を使って、子どもたちと接したり、プログラムを考える時間に当てたりした方が、子どもにとって良い環境をつくってあげられるはず。
そうやって一つ一つ丁寧に、この現状を世間の人たちに発信していったら、絶対に反響があるはずだと思っていました。保育業界がおかしいと思ってくれる人はたくさんいるはずだし、それに共感して応援したいと思ってくれる保護者の方だって絶対にいる。
見事にその思惑は当たって、今ではおかげさまでTwitterで47万人にフォローしてもらえるようになりました。講演会や保育コンサルタントなど、従来の保育士の枠組みからはみ出るような仕事もさせていただけるようになったんです。
僕が20代の頃、ただ現場で愚痴って終わっていたら、今でも理不尽な状況にイライラしていたかもしれません。でも、自分が環境を良くするために行動したことで、こんな風に業界に声を挙げられるようになれるんだって、その反響にはとても驚いています。
「昔の自分が決めたこと」に固執する必要はない
保育業界に限らず、どの職場でも大なり小なり、理不尽なことはあると思います。頭の堅い経営陣がいるとか、現場のことを分かってない本部の人が好き勝手な施策を下ろしてくるとか。働いているとムカつくことって、いっぱいありますよね。
でもそれを周りに愚痴ったり、「何か意見して、変だと思われたらどうしよう」と遠慮したりするだけで何もしなければ、状況は一向に変わりません。僕の場合は「自分も子どもたちも幸せになるためにどうすればいいのか」という課題に向かって、20代の頃はがむしゃらに動いていました。不満があるときに、「まずはちゃんと課題に向き合って行動する」というのは大事なことだと思います。
その一方で、「この場所でどんなに頑張っても、変わらないんだ」と思ったときは、柔軟に戦う場所を変えてきました。「石の上にも三年」とかってよく言われますけど、自分の中の課題意識に対して全力でアプローチしたのに変わらない環境があるなら、今すぐ辞めたっていいんだと思います。
僕だって、最初の職場でうまくいかなかったけれど、そこに固執せず、野望を叶えるためのベストな環境を探して、3回目の転職でようやく今の職場に辿り着きました。業界全体を変えるために、Twitterを使って多くの人に呼び掛けることもできた。
本質的な課題意識さえ変わらなければ、時代や置かれた環境に合わせて「戦う場所」は変えたっていいはずです。「これを成し遂げるためには、この会社にいるのがベスト」と昔の自分が決めたからって、そこに固執する必要は全くありません。
20代って若くて視野が狭いから、他の選択肢に気付けずに「まずはここで頑張らないとだめだ」って思いがち。でも自分の中の課題に対して取るべき方法は決して「ここで頑張る」だけじゃない。もっと柔軟に考えてもいいんですよ。どうにもできずに愚痴っているくらいなら、本質的に課題と向きあえるような新しい場所を探す方が、ずっと幸せな未来が待っているはずです。
取材・文/石川 香苗子 撮影/大室倫子(編集部)
著作累計50万部突破の、てぃ先生のつぶやきを基にしたハートフルエピソード集。保育園で、てぃ先生が実際に遭遇したすてきな出来事を一冊にまとめた本。
思わず笑っちゃうようなこと、ただただ面白いこと、 感心すること、子どもの成長や感性にうるっとくること……保育士のまわりには、ハッピーな日常がある。「個性豊かな子どもたちとのエピソード」と 「子育てで使えるワンポイントテクニック」をまとめた一冊。
>>Amazonはこちら
RELATED POSTSあわせて読みたい
「うさんくさいことを避ける若者はチャンスを見逃してる」HIKAKIN所属・UUUM代表が“普通の総務”から話題の新興企業トップになるまで
「転職できない30代」にならないために、20代営業マンが絶対にやっておくべき3つのこと
【小橋賢児が壮絶な過去から学んだもの】「男は30歳から」なのに僕はその時どん底にいた。
1粒1000円の超高額ミガキイチゴはなぜ売れるのか―ヒットの立役者は“農業経験&下積みゼロ”の異端児だった
Instagramフォロワー数30万人超! 植野有砂が“遠慮がちな20代”に物申す「世の中を変えるのは私たち。もっとエネルギーを爆発させて」