【マコなり社長】「自分に得のないことはやらない」実利主義な20代はあらゆる意味で大損する
未経験からプロのエンジニアを育成する短期集中プログラミング教室『TECH::EXPERT』。通常2年はかかると言われているエンジニア教育を10週間で行うこの画期的なサービスを仕掛けたのが、株式会社div代表の真子就有さんだ。
教養としてスキルアップのためのプログラミングを学べる『TECH::CAMP』に続けて、GWや夏休みなどを利用し1週間でプログラミングを学べる『TECH::CAMPイナズマ』などのサービスも次々とヒットさせ、2019年5月には、10.8億円の資金調達にも成功。仕事や人生に役立つ実践テクニックを配信しているYoutubeチャンネル『マコなりの社長室』はフォロワー7.7万人(2019年6月現在)も突破するなどビジネスパーソンからも人気が高い。
いまや飛ぶ鳥を落とす勢いで成長を続けているdivだが、真子さんは『TECH::CAMP』創業以前に、社員が全員退職、倒産危機など、大きな苦境を経験している。真子さんがどん底から這い上がるために踏み出した「初めの一歩」について、聞いてみた。
起業後、自社サービスが連続で失敗。
創業メンバーが去ったその晩に、新たな一歩を踏み出した
――真子さんは、大学時代にベンチャー企業の内定を断って、学生起業されたんですよね?
そうです。もともと起業したいと思っていて、ベンチャー企業でインターンをしていました。でも途中から「会社にいると、他人に評価されることだけ考えるようになってしまうのではないか」と思うようになって。ちょうどその頃、画家の岡本太郎さんの本を読んで感銘を受けたところだったので、思いきって学生起業に踏み切りました。
――岡本太郎さんの本?
岡本さんの描く絵は周りから‟落書き”だと言われていたのに、本人は「笑いたくば、笑え。お前たちの期待に応えるために描いているんじゃない」と批判を笑い飛ばしたんですよ。他人の評価より、自分が表現したいことに価値を置くその姿がかっこよくて、自分もそんな風に生きたいと思ったんです。
――起業するにあたって、 不安や迷いはなかったんでしょうか?
もちろん少しは「食っていけないんじゃないか」という恐怖もありましたが、創業メンバーは僕以外にも4人いたし、投資家の方にも「良い案があるなら、1000万円くらいは出してもいい」と言ってもらえて。結局、投資は受けなかったんですけど、その出来事に背中を押されて起業しました。学生時代にプログラミングを習得していたので、いざとなれば稼いでいけるとも思っていましたし。
――真子さんが最初に開発したWebサービスは、いきなり大ヒットしたと聞いています。
1つ目のサービスはリリース2日でTwitterに4万回シェアされて、瞬間風速的にバズったんです。でもそこからユーザー数は伸びず、長くは続かなかった。やがて資金が尽きて、会社を存続させるために、毎日2時間睡眠でレッドブルを飲みながらひたすら受託開発を請け負うようになりました(笑)
――すぐに窮地に立たされたと……。
ですね。その1年後に、「これでダメだったら後がない」くらいの気持ちでもう1つWebサービスをリリースしました。これもかなりバズって話題にはなったんですけど、バグが続いて3カ月で終了してしまったんです。
――資金もない中で、二度目の大失敗……。
この時に、創業メンバーを含めた社員全員が辞めてしまったんです。さすがに僕も落ち込んでしまって、夜の渋谷を何時間もぐるぐる歩き続けました(笑)。それでも、誰もいないオフィスに戻った時、『後は自分のやりたいことをやり切るだけだ』と思ったんです。自社開発のサービスは3年間で1円も売上げられなかったのに、なぜか清々しい気持ちで。そこからすぐに『TECH::CAMP』の草案を考えました。
――立ち直り、めっちゃ早いですね! 普通ならショックでしばらく動けないと思うんですが、なぜ真子さんはそんなにすぐ新しい挑戦に踏み切れたんですか?
失うものがなくなったからでしょうね。あとは何より、「人の心と結果は、自分じゃコントロールできないんだな」と悟ったから。それなら僕も岡本太郎さんのように、もっと自分の心に従うべきだと改めて気付かされたんです。僕自身が定義する「幸せ」は、自分がやりたいことができてるかどうかだって、再定義した感じですかね。
自分にとっての「幸せ」「成功」とは何か。明確化したら、道が拓けていった
――「自分がやりたいことをやるのが幸せだ」という考えは、失敗を経験したから?
いえ、実は前のサービスの時も、ゼロから『TECH::CAMP』を立ち上げた時も、僕自身はやりたいことをやっていたので、常に幸せMAX状態ではあったんですよ。世の中には結果を出すことが成功だと言う人も多いですけど、僕にとってはそうした観念そのものが邪魔だなって。僕は、自分の心に従うことに成功の尺度を置くことにしたので、今振り返ると自分では「失敗から再起した」という感覚はないですね。
――真子さんにとっては失敗ではなかった、と。
そう思っています。とはいえ、それまではなんだかんだ言って他人の思いを優先することで悩むことも多かったように思います。僕は学生時代からリーダー的なポジションをすることが多かったんですけど、良かれと思って仕切っても、反対する人や足を引っ張る人、参加してくれない人は必ずいました。昔から、そういう人たちを見ないふりはしてたけど、どこか強がっているような感じで。
でも、そうやって人に合せることで自分の想いを押し殺していたら、人生がつまらなくなるだけ。「自分が思う幸せのかたちを実現したい」と、より明確にすることができたというか。
――すぐにクローズしてしまった2つと、今も成長を続けている『TECH::CAMP』。この違いは何にあると思いますか?
事業をする上で大きな軸というか指針が生まれたことは大きかったと思います。あの時「幸せに生きること」を僕の人生の目的に再定義できたので、これからは同じように「幸せに生きる人」をもっと増やしたいと思って。誰かが幸せになるために、やりたいことを実現する手段として、プログラミングスキルを身に付けられるようになったらいいなと思って『TECH::CAMP』を立ち上げたんです。
――その軸が形成されたから、『TECH::CAMP』の事業はうまくいった?
そうですね。人の人生を変える機会をつくって自己肯定感の高い人を増やし、「全ての人が幸せになる世界をつくる」というビジョンがあったからこそ、このサービスを発想してグロースできたんだと思います。
――サービス開始から現在までの5年で社員数が180名を超え、最近10.8億円の資金調達もされましたよね。その間、ご自身の中で変化したことはありましたか?
自分自身の軸や価値観、進む方向性が、加速的に明確になっていったと感じます。社員が増えるたびに、なぜこの会社が存在するのか、何を目指していくのかという理念やビジョンを言語化して反芻(すう)していったからこそ、それがどんどん強固になってきました。
小さな行動の積み重ねが「大きな一歩」に変わっていく
――真子さんが臆せず次々とチャレンジを続けられるのはなぜですか?
嫌じゃないことにはとりあえず手を出してみる、と決めていたことは大きいと思います。
――「好きなことをやる」ではなく、「嫌じゃないことならやってみる」ということですか?
そうです。僕が学生時代からリーダーポジションにいたのも、大学時代にプログラミングを学んだのも、ただ嫌じゃなかったからやってみたってだけ。でもその結果、世界がめちゃくちゃ広がって、「じゃあ次は自分で何かサービスを作ってみよう」、「経営をしてみよう」とどんどんチャレンジできる人間になりました。
――「嫌じゃないことをやった経験」が今の真子さんをつくったと。
そうだと思います。例えば10代の頃って「誰かが決めたルールの中で点数を取ることが大事」という環境ですから、18歳までは僕もその価値観に染まりきっていました。けれど大学に入って、手を動かしてプログラミングをしてみたことで「ものごとの仕組みやルールは、自分で作れるものなんだ」と気付けた。そして次にサービスを作ってみたら、それを使うユーザーの行動や価値観も変化することに気付き、彼らの人生まで含めて考えることの面白さを知ったわけです。
――何かと理由をつけてなかなか行動にうつせない20’sでも、「とりあえず、嫌じゃないことをやる」くらいなら実践できそうです。
そうですね。最近、同年代や下の世代を見ていて思いますけど、最短距離で自分に合う仕事を探そうともがいている人ってすごく多いですよね。でもまずはその考えを一旦置いて、「自分が絶対にやりたくないこと以外は、とりあえず全部やってみる」を前提にした方がいいと思います。お洒落でもインスタ発信でも飲み会の開催でもいいから、やったことのない何かを経験することから始めればいいのにって。
――仕事じゃなくてもいいからとりあえず経験してみて、何か新しいことに気付くきっかけを探した方がいいと。
今の時代って、情報が多過ぎるし成功パターンも多種多様なので、逆に身動きが取れないような状態に陥りがちだと思うんですよ。でもそうやって立ち止まってるくらいなら、まずは嫌じゃないことから手を出していく。
自分が嫌じゃないことって、別にやらない理由もないじゃないですか。「自分に得になることしか興味が湧かない」とか「現状がゼロであっても、マイナスにならないことしかしたくない」と言う人も多いですが、遊びでも趣味でもいいし、仕事の中での役割でもいいから気軽な感じでやればいいと思うんですよ。そういう小さなことからきっかけはつくれるものだし、それを続けて自分の足腰を鍛えておけば、人生が変わるような大きなチャンスに巡り合ったときに大胆に行動を起こすことができるはずです。
取材・文/上野真理子 撮影/大室倫子、先方提供
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