元アイドルエンジニア・かなきゃんの“人生楽しんだもん勝ち”理論が新しい!
クラウド人事労務ソフトを提供するSmartHRでエンジニアとして働く五十嵐夏菜さん、通称かなきゃんさん(23歳)。彼女が未経験から始めたエンジニアの仕事についてつづったブログが話題を呼び、今や同社の看板エンジニアとして注目されている。
実は彼女、元々はアイドルと携帯電話の販売員として活躍していたという異色の経歴の持ち主だ。なぜかなきゃんさんは、子どもの頃からの夢だったアイドルを卒業し、全国No.1だったという販売員の仕事を辞め、全く畑違いのエンジニア領域に一歩を踏み出すことができたのだろうか?
アイドル、携帯販売員……
“やりたかったこと”を経験したら、自然と次のステージが見えてきた
――かなきゃんさんはエンジニアになる前、アイドルとして活躍していたんですよね?
はい。小さい頃から『モーニング娘。』さんが大好きで、高校生の時にはハロプロのオーディションにも挑戦したんですよ。当時は親にも反対されていましたけど、それでも夢を諦められずに動画を投稿したりダンス大会に出場したりと「アイドルになりたい!」という思いをPRしていました。そしたらハロプロのボイストレーナーの方から声を掛けてもらえて、アイドルとしてデビューすることが決まったんです。
――アイドル一本で生計を立てていた?
いえ、並行して携帯電話の販売員もしていました。これも昔からやってみたいと思っていた仕事の一つだったんです。携帯が好きだったので、店頭に立って人にオススメする仕事をしてみたいなあって思っていて。
それまで販売の仕事はしたことがありませんでしたが、接客が向いていたみたいでとても楽しく働いていました。そしたら全国3000人いる販売員の中から、売上成績1位を2年連続で達成することができたんです。ちょうどアイドルの夢も叶えられた、販売員としても実績を出せた。自然と次のステージを考えるようになりました。
――どちらもやり切った、という感じですか?
というよりも、やってみたかったことが経験できてよかったな、という感覚が強いですね。アイドルも実際にやってみると「ずっと続けられる仕事」という感じはしなかったし、趣味の要素も強かったので、「良い経験ができた」として留めました。なので辞めたことに関しては、今でも悔いはないんです。
――次のやりたいこと、がエンジニアだったのはなぜでしょう?
販売員だった頃に、スマホやタブレットで使えるサービスやアプリをお客さまの志向性に合わせて提案していたんです。そうしたらお客さまが「あなたに教えてもらったあのアプリのおかげで、生活がすごく楽しくなったのよ!」と報告しに来てくださって。そのうち自分自身で使う人が幸せになるようなサービスを作れたらもっとうれしい、じゃあ「作る側の人といったらエンジニアだな」と思うようになりました。
――デザイナーや企画者など他の職種も“作る側の人”ですよね。 なぜその中でもエンジニアを選ばれたのですか?
当時、作る仕事って言ったらデザイナーかエンジニアしか知らなかったんですよ。私は絵を描くのが苦手なので、デザイナーはないだろうと。残った選択肢が、エンジニアでした。アプリを触ることが好きだったので「意外と私にもできるかもしれない」と思っていて。
――エンジニアになろう、と思い立ってからはなぜSmartHRに?
販売員をしながら独学でエンジニアの勉強を始めて、Twitterで自分が学んだことを発信するようになったら、私をフォローしてくださるエンジニアの方が出てくるようになって。私もフォローを返して徐々にネットワークを広げていったら、ある日SmartHRのCEO・宮田のツイートが目に入りました。
SmartHR 社が面接時につかう資料をリニューアル中です。完成したら SlideShare で公開予定! pic.twitter.com/VWuKUWHwF0
— 宮田 昇始 (@miyasho88) May 15, 2018
ツイートを見て「エンジニア想いの良い会社。ここで働けたらいいな」と感じ、すぐに宮田にDMを送りました。するとわずか17分後に返信がきて、面談をしていただけることになったんです。その時SmartHRでは未経験者は募集していなかったのですが、熱意を伝え続けた結果、最終的にはインターンとして採用してもらえることになりました。
思った以上にできない自分。
開き直って「できることをとことん」やった
――実際にエンジニアになるって、不安はなかったんでしょうか? 向き不向きが問われそうな職種ですが……。
もちろん「向いてないかもしれない」という思いはありましたよ。専門で勉強してきた人たちがたくさんいる中で、私はド素人ですからね。未経験だけどインターンってことなら特別に、と採用してもらっていたので「会社の期待に添えなかったらどうしよう」と不安でした。
でも、以前やっていた販売の仕事も、未経験だったけどやってみたら結果が出せるようになったので。エンジニアだって諦めずに続ければ活躍できるようになるはずと思っていました。入社前は「私のポテンシャルを見せるぞー!」なんて、意気込んでいましたね。
――すごく前向きですね! 実際に入社してからは、いかがでしたか?
それが、全く歯が立たなくて! 勉強してきたつもりだったのに、いざ実務となると何から手をつけていいのかちんぷんかんぷんだし、一人で実装していけるようなスキルは一向に身に付かない。思い描いたような圧倒的成長が全然できなかったんですよ。それでも、販売員だった頃の成功体験を思い出しては「私はこんなはずじゃない」と焦っていましたね。
でもそんな時、上司が声を掛けてくれたんです。「エンジニアの成長は人ぞれぞれ。時間に比例するものでもないし、3年勉強して初めて芽が出る人だっていっぱいいる。自分だけの強みを育てながら、焦らず地道に力を付けていくべきだよ」と。
――良い上司に恵まれましたね。
そうなんです。そのアドバイスが本当に励みになりました。それからは変に格好つけたり背伸びしようと思わずに、「できないことはできない」とある意味割り切って、ゼロから勉強し直す気持ちになれたんです。
――割り切ってからは、どうしたんですか?
できないことがとにかく多かったので「逆に、私にできることって何だろう?」と自問自答を繰り返しました。そこからは、エンジニアの勉強と平行しつつ「これはできていないといけない」と思うことは、他の人よりも徹底的にやろうと決めたんです。
――できていないといけないこと、というと?
例えば1回教えてもらったことをメモするのは、技術のあるなしに関係なくできますよね。これは私の、できていないといけないことです。さらに私はそれを自分だけのメモで終わらせるのではなく、できるだけ社内に共有するようにしました。すると新人さんが入ってきた時に、私が保存したメモを見て学んでくれたりするんですよ。他人より劣っている分、できることにはプラスαを加えてバリューを出していかないと、と考えていました。
――技術以外でバリューを出し続けることを意識したと。
そうですね。あとは当社の開発者たちで運営している『SmartHR Tech Blog』を積極的に書きました。アイドル時代から情報発信には慣れていたので、これも私が「できていないといけないこと」の一つだなって思って。
結果的にTech Blogで私が書いた記事がバズって、それがきっかけで優秀な人材の採用につながったりしました。思わぬところで会社に貢献することができたと思うと、やはりすごく嬉しいです。
失敗すらコンテンツになる時代
楽しいと感じることに挑戦し続けたい
――かなきゃんさんは自分がやりたいことに対して、すぐに行動に移すことができる方ですよね。世間には「次の行動にうつせない」という人の方が多いと思いますが、いかがですか?
きっとそういう時って、失敗が怖いんですよね。でも、私は自分が情報発信をしているからこそ強く思うんですけど、今って「自分の生きてきたストーリーがコンテンツになる」時代じゃないですか。実際に、私が未経験でどうやってエンジニアになったのか、どんなことにつまづいて成長してきたのか、といった経験をTech Blogに書いたら、大きな反響をもらえました。
失敗しても挫折してもいいから挑戦して、「おもしろい人生」を歩んでいたら、支持してくれる人や興味を持ってくれる人はたくさんいる。逆に、挑戦しないで無難な人生を歩んでる方が怖いって思っちゃいます。
――挑戦すること自体に価値があると?
そうだと思います。私も駆け出しのエンジニアにも関わらず、こんなふうに取材をしていただけるのは、アイドルからエンジニアへチャレンジをしたからこそだと思いますし。
もしこの挑戦が失敗だったとしても、そこまでの経験全てが“私だけのコンテンツ”になるって思えるんですよね。
――ただ、ネットの世界だと中には嫌なことを言ってくる人もいるのでは?
そうですね、私も「アイドルからエンジニアになりました」とブログに書いたときに、好意的に受け取ってくれない方もいました。もちろん悲しい気持ちにはなりますよ。でも強制的にポジティブな気持ちに切り替えています。自分がメッセージを発信することで、嫌なことよりも得られるものの方が大きいと思うので。
――「おもしろい人生を送ったもん勝ち」ということですね。
そうですね。だから私自身もどうすれば自分が楽しいか、おもしろいと感じるかという軸でこれまで走ってきました。
ただ一方で、「仕事において、楽しいことと得意なことは違うよ」という先輩方も結構いますよね。そうやって切り離すべきなのかは正直、23歳の今の自分ではまだ分からないです。
もしかすると私も数年後には「楽しいことだけやってちゃダメだよ」とか言っているかもしれないけど(笑)、今の私は「楽しいことをやる」でいいと思っています。例えそれで失敗しても、この経験は必ずまた、どこかで生きるはずですから。
取材・文/キャベトンコ 撮影/大室倫子(編集部)
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