あっという間に消えた“フルーツ施策”って!? メルカリ人事・石黒卓弥が明かす制度づくりの失敗と挑戦
教育改革実践家の藤原和博さんが、経営のプロフェッショナルをゲストに迎え、「働く力」について考えるtypeの動画コンテンツ「10年後、君に仕事はあるのか?」。
今回のテーマは「変化の時代の人事戦略」。
20代が転職したい会社として常に高い人気を誇る企業・株式会社メルカリ People Partners(人事担当)マネージャーの石黒卓弥さんをゲストに迎えた。
記事前半の本記事では、人事の立場から同社の成長をけん引した石黒さんに、過去実際に行ったメルカリ人事制度の失敗/成功例を教えてもらった。
メルカリに転職したのは「トップが赤ちゃんみたい」だったから!?
メルカリでは「人事部」のことを「people partners」って呼んでいるんですね。
はい。もともとは「HR(ヒューマンリソース)グループ」という言い方をしていたんですが、リソースと言うと「資産・資源」みたいでしょ?そうではなく「people」と呼ぶようになったのは、人にしっかり向き合っていきたいという意思表明。そして「partner」は、採用面接を受けてくれる候補者の方や、入社してくれたメンバーの、パートナーになっていけるようにという想いを込めています。
なるほど。思いやりを感じますね。
ありがとうございます、嬉しいです。
石黒さんはNTTドコモに新卒入社されていますが、最初に配属されたのはどこだったんですか?
最初は営業職を3年ほどやっていました。例えばJAXAさんに地震の時にでも繋がるような衛星電話を提案したりする、いわゆるソリューション営業ですね。
そこから人事を経て、新規事業の立ち上げを経験した?
そうです。『NOTTV』というスマートフォン向けの放送局を担当していました。なので今サイバーエージェントさんがやってらっしゃる『Ameba TV』は、1ユーザーとして非常に興味深く見ていますね!
なるほど。ドコモで11年勤めて、その後メルカリに2015年から入社しています。次のステップへ行きたかったんでしょうか?
次へ行きたいと積極的に思っていたわけではなかったんです。まぁいい機会があれば、くらいの感じで。でもある時、友人から「良かったら小泉(文明氏。メルカリ社長)と山田(進太郎氏。同社会長)に会ってみないか」と言われて。実際に会ったらこの2人のビジョンがすごく面白かったんです。ただこの一点に尽きますね。
トップの話が面白かったと。
はい。小泉はmixiの取締役を務めていましたし、山田も自分の会社をアメリカの企業に売却するような、経験豊富な経営者。なのに彼らは「もっと大きなことをやりたい」なんて、赤ちゃんがボールをもらった時みたいにうれしそうな顔をして言うんですよ。自分と同年代の人でこんな人がいるのかと。ああ、僕もこの人たちと働いてみたいなって思ったんです。
赤ちゃんの笑顔。“ワクワクの権化”ですね。石黒さんが入社した時のメルカリは社員数60人くらい?
そうです。4年の間で、今は1200人くらいになりました。
すごい成長スピードですよね。そういうところに参加すると、ものすごいチャンスがありそう。勢いのある会社の中にいると、より多くのバッターボックスに立てると思うんですけどどうですか?
そう思います。
試合にいっぱい出してくれないと、いくら練習しててもうまくならないと思うんですよ。やっぱり人って試合に実際に出て成長しますから。そういう意味ではものすごい良い出会いだったんですね。
はい。自分の直感を信じて決断してよかったです。
この間、小泉さんとお話した時に驚いたんだけど、今メルカリ内では月に300数十億円のユーザー同士のお金のやりとりがあるんですってね。もちろんメルカリ自身は10%のマージンしかとってないから売上で見るとその10%なわけですが、動いている商材・マーケットの大きさはものすごいですよね。
市場自体は数千億ですね。
そんな巨大市場を動かしているわけですが、今のメルカリって、一言で言うと何業だと言えるんでしょうか?
やっぱり「フリマアプリ」というのが一番分かりやすいですよね。会社のミッション自体は「新たな価値を生み出す 世界的なマーケットプレイスを創る」としています。私にとって価値がない物が、他の人には価値がある、といった考え方を大事にしています。
メルカリの人事制度はスピーディーに変わっていく
メルカリはまだまだ若い会社ですし、人事制度づくりでも新しいチャレンジをしていると思いますが、その中で失敗した施策もありますか?
ありますよ! 分かりやすい失敗例でいうと、「フルーツ施策」ですね。朝、会社がフルーツを提供したら社員はもっと早く来るかも、と思って始めました。
なるほど、分かりやすい。 私だったらすぐ行っちゃうと思いますけど……(笑)
(笑)。ちょうどメルカリがアメリカに支社をつくった時だったので、時差的にも早朝出勤の方が良かったんですよね。実際に施策を2週間くらいやってみて、非常に好評ではありました。でも「1回止めてみたらどうなる?」と思って試しに制度をなくしてみたら、別に誰も怒らなかった。「それなら特にやることもなかったな」って、そのままサラッと止めました(笑)
おもしろい、うまくいってたのにサッと引っ込めちゃったんですよね。他にも同じような事例ってあります?
そうですね、メルカリは施策をポンポン素早く決めていくんですよ。例えば4年くらい前に決まった有給休暇の制度。今のメルカリでは入社した時点で有給休暇が10日付与されますが、日本の法律によると入社後半年は有休を付与する義務はないんですね。
うんうん。
当時のメルカリも半年間は有給がなかったんですけど、とある社員が4月1日入社でその日に休んでしまって。その人にとっては4月の入学式みたいなものなのに、有給を使えず欠勤になるって、すごく悲しいじゃないですか。
だったら、「これってそもそも入社時点で有給付与すればいいんじゃない?」って話になり。そこからは各役員がメールベースで「いいんじゃない?」「いいね」「やろうか」って30分くらいで「入社時点での有給付与制度」が決まったんです。
めちゃくちゃ早い。
メルカリでは、誰かが何かを提案したら「やろう、GOGOGO、じゃあ進めといて!」みたいなすごいスピード感です。
決断が早いっていうのは素晴らしいですね。
メルカリのユニークな人事制度『merci box』
他に、ユニークな人事制度ってある?
そうですね、『merci box(メルシ―ボックス)』というものがあります。メルカリの「mer」に、フランス語でありがとうを意味する「メルシー」をかけて、メルカリの箱のマークのボックスにいろんな施策が詰め込まれるという意味でネーミングしました。
なるほど。
メルカリでは「Go Bold(大胆にやろう)」という行動理念を掲げているんですが、それを体現するためのさまざまな制度をメルシーボックスの中に詰め込んでいます。
例えば?
育児休暇のときの給料を会社がサポートする、子供が風邪を引いた時に病児保育の資金を支援する、認可保育園とそうではない保育園の差額を補填するなどですね。後は妊活の支援も行っています。こういう要素を「ダウンサイドリスク」って呼ぶんですが、「思いっきり働くためにちょっと不安なもの」であるダウンサイドは会社がしっかりサポートしていこうと。逆に言うと、家賃補助みたいな「アップサイド」はあまりないんです。
(※編集部注:アップサイドリスクは「利益が発生する可能性」、ダウンサイドリスクは「損失を被る可能性」があるという意味)
アップサイドというと?
例えば、通勤時間は長くてもいいから郊外に住んで家賃を抑えたい人、家賃は高いけど会社の近くに住んで通勤時間を短くしたい人。それは給料の中から自分で良い方を選んでくださいということです。
普通なら、会社の近くに住んでもらえれば利益も生まれやすいという「アップサイドリスク」をとって家賃補助を出す会社が多いですよね。
そうですね。でもメルカリでは、ダウンサイドである「育休で戻れないんじゃないか」とか、「子供が病気の時にでもプレゼンに出なきゃいけないんじゃないか」といった不安をちゃんとサポートすることが大事なんじゃないかと考えていて。やっぱりベンチャーへの転職って不安ですから、ご家族のために対応するところもあります。
妊活や保育園の問題など、なかなか保険ではカバーできない、だけど本当に思いっきり働くためにはそこがちょっと不安だよね、というところのサポート機能を自社のシステムとして持ってるわけですね。
>記事後半:メルカリ人事が採用面接で必ずする質問は? “一緒に働きたい人”の条件を聞いてみた【石黒卓弥×藤原和博】
本記事の動画はこちら
企画・撮影協力/(株)ビジネス・ブレークスルー
RELATED POSTSあわせて読みたい
「皆一緒」の環境で20代が失うもの――新卒も一人ひとりで給与が違う時代だ【サイボウズ・メルカリ人事対談】
「適職は、一目惚れのようには見つからない」メルカリ人事・石黒卓弥が提案する”好きかも”集めのススメ
Forbesが選んだ起業家・BASE鶴岡裕太が語る等身大のキャリア論「怒って何かが良くなるケースなんてほぼない」
日本人は給与制度のおかしさに気付いた方がいい。24歳の起業家・ペイミー後藤道輝が予想する【給与2.0】の世界