キャリア Vol.795

「合理的=幸せ」とは限らない。シェアリングエコノミーの思想から探る、令和時代の“豊かさ”【高木新平・佐々木俊尚・津田佳明・石山アンジュ】

AIに仕事を奪われるだなんだと言われているけれど、そもそも人はなぜ働くのだろう。お金を稼ぐため? 誰かに喜んでもらうため? 社会をより良いものへと変えるため? 人それぞれ理由は違うだろうが、総じて「今より豊かになるため」に働いているとは言えるのではないか。

では、「豊かさ」とは何だろう。終身雇用・年功序列の仕組みは崩壊。世界に先んじて少子高齢化が進む日本。右肩上がりの経済成長とか「マイカーを買ってマイホームを買って……」といった、ひと昔前まで当たり前だった「豊かさ」はもはや当たり前のものではない。旧来型の「豊かさ」に代わる、令和の時代の新たな「豊かさ」について、真剣に考えるべき時が来ているのではないだろうか

去る11月11日に都内で開催された『SHARE SUMMIT 2019』。今回はその中からセッション「シェアという思想~令和時代を切り拓くスピリット~」を取り上げ、新たな「豊かさ」について考えるための一つの材料としたい。

登壇者は(写真右から)ANA『デジタル・デザイン・ラボ(DD-Lab)』チーフディレクターの津田佳明さん、VISIONING COMPANY『NEWPEACE』代表の高木新平さん、ジャーナリスト・評論家の佐々木俊尚さん。モデレーターはシェアリングエコノミー協会事務局長の石山アンジュさんが務めた

AirbnbやUber、Spotifyをはじめとするシェアリングエコノミーと呼ばれるサービスはすでに私たちの生活にいろいろなかたちで入り込んでいる。そのおかげで、それまでできなかったさまざまなことができるようになった。言い換えると、以前にはなかった「豊かさ」を享受しているということだ。

ところが、ありものを皆でシェアするということは、モノの売り買いの機会が減ることでもある。すると、従来の「豊かさ」の指標だったGDPは伸びていかないのも事実。要するに、そこには確かに従来とは違う「豊かさ」の兆しがある。

このセッションの企画者であり、当日モデレーターを務めた石山アンジュさんは、「シェアについて考えることは、新しい『豊かさ』とは何かを知る上で重要な足掛かりとなるはずです」と自身の思いを述べた。

平成とは「昭和的価値観を引きずった時代」

セッションの副題には「令和時代を切り拓くスピリット」とある。けれども、令和という新しい時代について考えるためには、それ以前の「平成」とは何だったのかを清算しておく必要がある。「平成とは何か」と問われた登壇者は口々に「昭和的価値観を引きずった時代」だったと振り返った。

佐々木俊尚

例えば宅急便の値段が上がったと聞くと、昭和脳の人はいまだに「庶民の家計を直撃する」などと言う。インフレが続いていた1900年代にあっては「値段の上昇を抑える」という処方箋は確かに正しかったけれども、デフレの時代を経た2010年代以降は違う。価格が上がらないとお金は回らない。つまり、インフレを誘導しなければならない時代になっているから、宅急便の値段が上がるのはむしろ良いことなんですよ。

古い神話は早く捨てて、新しいテクノロジーに適合したコモンセンスをもう一回つくらないといけない。それが令和の役割ではないか、と。

高木新平

平成は昭和を引きずった時代。1億総中流、皆一緒がいいという価値観でした。均質的な教育システムと終身雇用、国民皆保険に守られて、またそうした生き方のレールから外れられなかった時代とも言えますよね。

その発想を根本的に変えていきたいというのが令和のテーマ。けれども、日本が苦しいのは少子高齢化がどんどん進むこと。なぜなら人間はどうしても自分が経験した良い時代の記憶に引っ張られてしまう。だから高度成長期の快楽から抜け出せない人が多数を占めるというゲームが続くし、そこに限界があると思うんです。

しかし佐々木さんは、「少子高齢化が進むから豊かになれない」という発想自体が“昭和的”だと指摘する。なぜなら人類史全体で見れば、20世紀の人口が増え続けている状態の方が特異的だから。

今私たちが当たり前に受け入れている「豊かさ」の概念も「経済学」も、全て19世紀以降の成長の時代につくられたものである以上、「そうしたものをすべてひっくり返して、もう一回ゼロベースで考え直す必要がある」という。GDPという経済指標も然りだ。

津田佳明

企業にいるとGDPは大きな指標になっている。自分のいる航空業界は特にそう。かつてはGDPが2%伸びれば航空需要も4%伸びるという言い方がされていたけれど、そこを見ている以上は(事業的にも)そういう発想になってしまう。

そんな中にあって津田さんがチーフディレクターを務めるDD-Labはかなり特殊と言える。ドローンやアバターといった航空機にとらわれない“移動”ビジネスや、住み放題サービス『ADDress』と提携しての定額乗り放題にも挑戦するなど、新たなビジネスの可能性を模索している。

また、あのトヨタが「自動車をつくる会社」から「モビリティカンパニー」へのモデルチェンジを宣言したように「所有ではなく利用を前提としたサービスを」という企業の動きは他にも増えてきている。けれども、そうした時代に合った新しい「豊かさ」の指標や考え方は、まだ答えが見つかっていない。

小さなシェアと、小さなコミュニティーが豊かさのカギ

経済成長しない時代に私たちはどんな経済モデル・社会モデルを築き、その中でどんなライフスタイルを追求することが「豊かさ」につながるのか。今回のシェアリングエコノミーサミットで配られたパンフレットの巻末に『WIRED』日本版編集長の松島倫明さんが次のような文章を寄せている。

「Future Literacy」という言葉がある。未来についてのリテラシー、いわば未来を想像したり読み取ったり、あるいは受け入れたり拒否したりするその能力のことだ。未来を語ることは、人々に希望も絶望も与えることができるし、それによって歴史を動かし大衆を扇動することもできる。かつてニーチェは「過去が現在に影響を与えるのと同じように、未来が現在に影響を与える」と言ったけれど、その意味でFuture Literacyはいつの時代にも、人類の命運を決める最も重要な資質のひとつなのだ。

要するに、今をどう生きるかを考えるためには、未来についてしっかりとイメージできる必要があるということ。しかし、実際には未来をイメージするというのがまた難しい。

佐々木俊尚

1970年代の大阪万博のテーマは「人類の進歩と調和」でした。この、未来とは常に素晴らしいものであり、科学の進歩に従ってわれわれ自身もどんどん豊かになっていくというイメージが極めて20世紀的なんです。そうではない新しいフューチャーをイメージする必要があるのだけれど、まだないものを想像するのがいかに難しいかは、かつてのSF映画が描いた未来と現在を比べればよく分かります。例えば1982年の映画『ブレードランナー』の主人公は公衆電話のようなもので連絡を取っている。スマホやSNSのようなイメージがなかったのです。

もしかすると、本当に望ましい未来はSFで描かれてきたようなものではなくて、人類史上において特異だった人口ボーナス期=成長の時代よりももっと前、中世的な世界への回帰である可能性さえある。

高木新平

ほとんどの社会制度、価値観が戦後につくられていることを思えば、ヒントはそれ以前にあるのかもしれない。例えば、ぼくらはすぐに大きくすることを考えてしまうけれど、最近はもっと小さいまま留めておく必要があると感じています。シェアリングエコノミーだって元々はもっと手触り感のあるものだったのに、ビジネス化・巨大化するにつれて良さを失っていった。

一方でぼくは今小さな会員制・招待制のカレー屋さんをやっているんですが、そこでは皆が自主的に得意なものを披露したり食べ物を分けたりといった小さなシェアが起きています。小さいからこそ心理的安全性のあるコミュニティーとして機能しているのでしょう。そういうものをいくつもつくっていくことが大事ではないかと。

元々は家の貸し借りを通じた交流・触れ合いの側面が強かったAirbnbも、今ではたくさんの業者が入り込んでいて、単に安く便利に家を借りられるという機能的な側面が強くなってきているという指摘がある。とはいえ、プラットフォーマーとしてもデータを集約したりビジネスとして成長したりすることを考えれば、こうしたビジネスに特化したユーザーを締め出すことはできない。このジレンマを解決するには、やはり「豊かさ」を再定義して、人々の新たな共通認識にする必要がある。

津田佳明

GAFAのように巨大化していくほどデータが集まり、AIが機能して合理的・最適なものができる。けれども、人間にとっては合理的であることばかりが幸せではないですよね。むしろそうでないものが刺さるケースもかなりある。効率的に動きたいところはもちろんあるけれど、心の豊かさにつながるのは合理性とは逆の可能性だってあります。

良い人が損する時代は終わり。
「与える側の方がええやん」

世界幸福度ランキング1位のフィジーに住む人たちには「私有」という感覚がなく、車も土地も、家族でさえも共有する文化があるとされる。豊かさや幸せの定義は依然として曖昧だが、ここ日本でも「少なくとも“与える人が幸せ”な時代になっているのは間違いない」と佐々木さんは言う。

佐々木俊尚

1980年代には「良い人だが損をしている」と言われる人がたくさんいたけれど、今はSNSなどもあって「良い人」も「悪い人」も評判が即座に伝わる。結果「いい人である方が良い」という戦略が妥当になっている。

けれど、旧来的な「豊かさ」の価値観に支配されたままでは「与えた方が得である」という理屈は腹落ちしにくい。どうすればこうした感覚を人々の共通認識=コモンセンスにできるだろうか。「小さなコミュニティーにはその力がある」と高木さんは言う。

高木新平

カレー屋さんでは会員の中で一日店長を回しています。給料は発生しないんですが、キッチンの中に入って仕事をしてもらっているんです。なぜかというと、こうしたイベントもそうですけど、参加するより登壇する方が返ってくるものは大きいじゃないですか。それを体感してもらいたいと思っていて。

カウンターの外だと左右の人としかつながれないけれど、中だとたくさんの人とつながれる。与えているが、返ってくるものも大きいという経験になるんです。今スナックが注目されているのも同じ理由でしょう。こうしてステージの側に立つ経験を小さくたくさんつくれば、「与える側の方がええやん」となるかもしれない。

もちろんコミュニティーにも問題はある。例えばコミュニティーが小さくなればなるほど同調圧力が強くなって息苦しくなる。あるいは外から来ようとする人を拒もうとする。だから、小さなコミュニティーが小さなままに、けれどもそれで閉じることなく、どうやって大きな社会となめらかにつながっていけるかも考える必要がある。

移住を例にとると分かりやすい。都会で暮らすサラリーマンの中には田舎のゆったりとした暮らしに憧れる人も少なくないはず。でも、都会での今の生活を捨てて移住するのには相当な勇気がいる。また、憧れの対象になるような田舎のコミュニティーには排外的な空気がある場合もあるだろう。その点、『ADDress』は移住ではなく、多拠点居住を実現するためのプラットフォーム。「AかBか」と迫るのではなく「AもBも」を実現する。こうしたサービスやコミュニティーの設計も人々の意識を変える上では非常に重要だろう。

こうした経済指標やコミュニティー、サービスの設計は、私たち働く一人一人にできるものではないかもしれない。しかし、自分たちにとっての「豊かさ」とは何か、欲しい未来は何かを、誰かに与えられるのを待つのではなく、また目の前の仕事にだけかまけるのでもなく考え続けることは、とても大切なこと。セッションの終わりに改めて「令和を生き抜く上で必要なことは」と問われた津田さんは、次のように話した。

津田佳明

サラリーマン、会社、あるコミュニティーの枠を超えて。あるいは自分たちの住み慣れているコンフォートゾーンを飛び出して。時にはルールもうまく変えながら、強引にではなく、周りに賛同されながらもあらゆる制約を超えていく。一人一人が今のアタリマエを超えない限り、次の時代を生き抜くのは難しいのではないでしょうか。

取材・文/鈴木陸夫

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