あえて“若手が少ない”会社に飛び込んだ28歳営業の戦略「自分が最年長になることに危機感があった」
今回本連載に登場するのは、埼玉を拠点に建築、自社物件の賃貸仲介、管理までを請け負う株式会社埼玉丸山工務所で営業職として働く神澤敏彦さんだ。
前職では28歳にして職場の最年長メンバーだった彼は、「このままだと自分よりも経験がある人が周りにいなくなってしまう」と危機感を覚えた。
30代に向けて、もっと知識と経験を身に付けて、キャリアアップしていきたいのに……。そんな不安を感じた神澤さんが「自分を成長させてくれる会社」に転職するためにどんな工夫をしたのか、話を聞いてみた。
20代半ばで店長になったからこそ感じた先々の不安
学生時代に情報系の学部を専攻した神澤さんは、姉の夫からの「宅建でも取ってみたら」という一言から、不動産や建築に興味を持つように。22歳で埼玉の大学を卒業した後は、大宮にある賃貸仲介会社に就職した。しかし賃貸仲介業は、予想以上の激務だったという。
「大宮を中心にいくつかの店舗を持つ仲介会社だったのですが、仕事がきつく、残業も多かった。だから同僚は半年〜1年くらいで辞めてしまうんです。3年続けばベテラン。5年勤めた僕は、28歳にしてかなりの古株になっていました」
同期は次々と辞め、周りは高校や大学を卒業したばかりの20歳前後の社員が中心になっていた。神澤さんは20代半ばにして店長になり、4人ほどのメンバーを率いる立場に。
「店長ともなると、会社や店舗にどれぐらいの予算や売上があって、その中から自分がどれくらい給料をもらえるのかも分かってしまいます。きっとこのままでは給料は上がらないし、自分よりもスキルや知識のある人はみんないなくなってしまう。これから先のキャリアが描けないという強い危機感がありました」
キャリアアップもしたいし、安定した環境でじっくり腰を据えて働きたい。そう考えた神澤さんは、28歳で転職することを決意した。
28歳でも「若手」とみられるのは、新鮮な感覚だった
転職を決断してからの神澤さんの行動は早かった。転職活動を始める前に、前職の賃貸仲介会社を退職したのだ。
「会社に勤めながらだと、あまりに忙しくて転職活動をする余裕がなかったんです。また『短期間で次を決めるぞ』と覚悟を決めるためにも、先に退職しておこうと。次に何をやるのかは特に決めていなかったのですが、埼玉にある自宅から自転車やバイクで通えるところがいいなと思っていました」
転職するにあたって使ったのは転職サイトと人脈だ。まずは転職サイトに登録して、安定性の高そうな企業に、業種は問わず10社近く応募した。それと並行して行ったのは、賃貸仲介営業で培ってきた人脈を使って求人を探すことだ。
「賃貸仲介の仕事をしていると、扱っている賃貸物件を持っている建設会社の方と仲良くなる機会があるんです。付き合いのあった建設会社の方々に『今求人は募集していますか?』と声を掛けていきました。すると『じゃあ、とりあえず面接においで』と話が早かった。選考は2週間くらいでとんとんと進みましたね」
建設会社の知り合いの話を聞く中で、土地や建物、建築などの知識を身に付けられる「建物の建設」と「自社物件の賃貸仲介」、その両方を行っている会社なら、前職の賃貸仲介の知識を生かしつつもキャリアアップが可能だと気付いた。そして面接に進んだうちの1社が、今勤めている埼玉丸山工務所だ。同社は自社で建物の建設から物件仲介、管理までワンストップで行っている。つまり、お客さまとの出会いからご相談、リサーチ・企画設計や請負契約、賃貸仲介、建物管理まで全てを提供できる環境なのだ。
「ここなら、これまで5年間蓄積してきた賃貸仲介の知識もそのまま生かせますし、土地活用や建築の知識も身に付きます。やっぱり『キャリアアップしたい』というのが条件だったので、自分がこれまでやってきたことを土台にして、新しい知識を増やせる会社の方がいいのではと判断しました」
昭和15年創業で約80年、埼玉では設立から32年の歴史がある同社。長崎出身の代表をはじめ、海外を含む全国さまざまな地域から集まった社員が活躍している実績と、さいたま市大宮エリアに根差した地域密着型の安定成長企業であることにも魅力を感じた。
さらに神澤さんの決め手となったのは「ベテラン層が多い」ということ。社内には一級建築士や一級施工管理技士の資格を持った社員も在籍していた。
「ベテラン社員から新しい知識や業務を学ぶことで、より深い専門性を身に付けたいと考えたんです。ベテランが多いということはつまり中高年層の多い会社だったので、自分のやる気と若さがアピールできました(笑)。28歳でも『若手』とみなしてもらえるのは、新鮮な感覚でしたね」
ベテランにかわいがられながら「若手」を再び経験できる楽しさ
神澤さんが現在担当しているのは、土地所有者のもとを訪問して、新しく建物を建てることを提案する建設営業の仕事。先輩や上司からは「こんな仕事もやってみたら?」と、新しい仕事にもどんどんチャレンジさせてもらっている。
1日に20~30件ほどのお客さまを訪問し、年間2棟ほど成約するのが目標。テレアポや過酷なノルマは存在せず、のびのびと成長を実感できているそうだ。
「実際に入社してみると、建築の経験はもちろん、相続や資金融資などの幅広い知識も学ぶことができました。建築現場では、仕事に厳しい現場監督とも話せます。彼らは無愛想に見えますが、仕事はプロフェッショナルですごくカッコよくって。これまで出会えなかった人たちと働けることが多くて楽しいですね」
社内は50~60代が多いというが、もともと兄弟の中でも“末っ子”の神澤さん。社内で存分にかわいがられているそう。実際、取材中にも「お、神澤、しっかり話してくれよ!」と通りがかった先輩社員から声を掛けられていた。
「『こういう建物を建てる時はこう提案するといい』とか、『この物件の図面を見てみろ』とか、皆さんいろいろと話しかけてくれます。仕事中の何気ない雑談からも学ぶことが多いですし、困ったことがあったらすぐ聞けるのがありがたいですね」
神澤さんの今後の目標は、まずは自分が担当する物件を完成させ、その後の仲介、そして満室にするところまでの一連の流れを経験すること。そして知識と経験を身に付け、上司や先輩が彼にしてくれたように、今度は自分が次世代を支えていきたいそうだ。
一般的には20代後半になると、先輩や上司から指導されることは少なくなるもの。でも、神澤さんのように「成長できる環境」を求めて、あえてベテランの多い環境に飛び込み、30代に入る前に「若手」を再度経験させてもらうのも、一つの成長戦略なのだ。
転職時期:社会人6年目(28歳)
転職活動期間:1カ月
応募企業数:求人サイトで10社程度、紹介で2社
内定:2社
転職活動でやってよかったこと:人との繋がりを大切にし、知っている会社に積極的に声をかけ、できるだけ早く面接をしてもらったこと
取材・文/石川 香苗子 撮影/高橋圭司
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